第二十四話 一夏の冒険、終着点
レイさんを背負い自然と隣合わせの大通りを歩いて進んで行く。
砂利道、土道、坂道と比べれば舗装された平らな道がこんなにも歩き易いのかと感動を覚える。余計な衝撃がレイさんに響かないか心配することもない。
車とすれ違うたびにめぶき園の追撃じゃないかと身構えていたけれど何にも起きなかった。
そうして何時しか全く気にならなくなり普通に歩き続け、進むたび時間が経つたびに彼女も乗っていることに慣れてきたのか身体が密着してきている。
事が事なだけあって意識する余裕は無かったけどレイさんはスタイルの良いギャルなんだよなぁ。顔も綺麗系だし、時折密着するたびに背中に確かな感触が伝わってくるしこうして手で支えている太ももは贅肉感が無くみっちりしている。
流石に今はケガ人ということもあるから優先順位や使命感もあってなんとも思っていないが、状況変われば心が揺らいでいただろう。
「見えてきたっしょ!」
顔の横から腕が伸びてその先に視線を向けると、白い建物が自然と建物越しに見えてくる。あれがこの争奪戦を一区切りさせてくれる場所。
ここからでも見えるってことは大きさ的に総合病院クラス?
「あれが西種ヶ崎病院……! お母さんが入院しているところ──」
「あ~あ、お姫様気分もそろそろ終わりかぁ~」
言葉にしちゃいけないけど、こっちもこっちで限界は大分近くはなってきていた。慣れないことをした上に鍛え方が足りていなかった。
「お姫様気分なら前でだっこじゃないですか?」
「それで歩いたら恥ずかしさで死ぬし……!」
(多分俺の腕も持たないだろうな……)
そんな訳で、めぶき園の追撃に会うわずに無事に病院に到着。
早速八さんのお母さん探し、という訳には当然ならずまずはレイさんの治療が最優先──「こんなの平気だし!」っと本人は強く口にしたけれど。流石にここは病院──あからさまなケガ人をほっとけるような場所では無く、医者や看護婦さんに注意され連れられた。なによりここの診察券も持っていたようでそこそこスムーズに事が進んだ。
「ふぃ~……これで一安心だ」
「はい、本当に良かったです……あっ、ごめんなさい。安心したらちょっと力が抜けちゃいました」
八さんもいっぱいいっぱいだったのだろう。病院の床にペタリと尻餅を突いてしまっていた。俺も俺で倒れそうになるのをグッと堪えて彼女に背負わせていた俺の荷物を戻す。 そして、手を差し出して再び立ち上がらせる。
「本当に良く頑張ったな……」
素直に称賛の言葉が漏れる。折れずに諦めずにここまでやって来られた。本当に凄い子だ。
「わたしよりもお姉さん達の方がすごかったです。わたしもお姉さん達みたいな大人になれますか?」
「コツコツと色々積み重ねていけば俺以上になれるさ」
「じゃあ! あの銃口に弾を通すような技もわたしにできますか?」
キラキラして期待に満ちた目で見つめてくる。どう答えるべきか……こればっかりは無責任に「はい」とは言えない。頭痛でぶっ倒れる位の相当過酷な練習を重ねて何時の間にかできるようになった技術。教えたからってできるようになるわけじゃない。
「どうだろうな……あれは会得する為に大変過酷な修行を重ねたんだ。簡単に出来るとは言えない。それにノウハウも無い偶然の産物だからなぁ」
「なら、お兄さんがコーチになったら教えてくださいね。約束ですよ?」
「全く……そう言われたら何にも言えなくなるな」
コーチになればその子の能力を高めるだけじゃなく自分の技術や経験を伝えることも必要になる。八さんはあの必中技術を誰かに伝えられるようになれと言っている。
そうだよな、そうだ。もっと安全に確実に会得できるようにするのが進歩って奴だ。これは将来の宿題だな。
「さて、とりあえず、レイさんの治療が終わるまでまだ時間がかかるだろうしお母さんがどの部屋にいるのかだけでも確認しておかないか?」
「そうですね……でも、お姉さん達も紹介したいので行く時は一緒ですけど」
「達」──か。全く……照れることを言ってくれるものだ。
ここからはもう見守るだけ。めぶき園の人達だってこの中でやりあう気はないだろう。そう考えるとなんかドッと疲れが出てきたな……気が抜けてしまった。椅子に座ってのほほんとした瞬間に眠りに落ちてしまいそうだ。
緊張する。凄く緊張する。もうすぐお母さんに会える──この中のどこかにお母さんがいる!
ずっと先生達にダメって言われていたけど、全部振り切ってここまで来られた。お姉さんとお兄さんのおかげでここに来られた。
「すいません──!」
「はい、どのようなご用件でしょうか?」
「えと、え~と、その、面会です! 部屋がわからないんです、入院してるお母さん、じゃなくて。名前はその『鬼灯いろは』です──」
「はい、お待ちください」
言葉がしどろもどろになっちゃった。『鬼灯いろは』それがお母さんの名前──
そのはずなのに何だか噛み合わないような気持ち悪さがある……何か変だ──それになんだろう、確かにお母さんの名前を口にすることは滅多にないけど。こんな初めて言ったような感覚になるのかな?
緊張しすぎてるから頭の中が色々変になってる? 落ちつこう、息を吸って……吐いて……ダメだぁ、ドキドキは収まらない。
そろそろかな? ってチラリと見ると。にこやかにパソコンを操作していた看護婦さんの顔が申し訳なさそうになる。どういうこと?
「……申し訳ありません、そのような名前の入院患者さんはいませんね……」
「ええっ!? 本当ですか?」
「はい……」
頭の中が真っ白になってくる──「いない」?
どういうこと? 委員会の人はここにお母さんが入院していると教えてくれた。もしかしたら嘘──?
「一度離れよう。東雲さんに聞いてみたら何かわかるかもしれない」
「わ、わかりました」
不安でドキドキする。何かが違う? 間違ってる? 西種ヶ崎に他の病院は無いはず。別の場所に同名の病院がある? ううん、そんなはずはない。
答えはあの人達が知っている?
お兄さんは一度外に出てあの板型端末を使ってるけど。渋い顔をしながらすぐに戻ってきた。
「……ダメだ、まだ復旧されていない」
「そんな……ここまで来たのに」
どうしよう……八方塞がりってこういうことだ。委員会の人達が決着を付けるまでずっとここで待っている必要があるのかな?
そんな暗い気持ちになっていると──
「ちぃ~す戻って来たっしょ!」
「あっお姉さん! どうでした?」
「大きな異常は無し! 安静にしてれば傷目立たないぐらいすぐ治るって」
治療を終えたお姉さんが戻って来てくれた!
元気な声だけど足には綺麗に包帯が巻かれているし、腕には湿布とそれのカバー。他にも小さい傷は全部医療テープで覆われててちょっと痛々しい。
でも、無事でよかった……! お兄さんが運んでくれなかったらどうなっていたか……!
「それとUCIで保護していたの先生褒めてたよ。アレのおかげで酷くならなかったって」
「なら良かった」
照れてる。顔を背けてるけど声でわかっちゃう。
でもUCIってワープリだけに使うだけじゃないんだなぁ。橋から上げてもらった時も半透明の台が何時の間にかあって、あれで車を横転させたんだとわかった。ケガの悪化を防ぐための保護膜にも使った。
ちゃんと勉強してみるのもいいかも。
「はっちゃんなんか暗いけどどしたん? もっとテンションバリ上がって制御できない子犬みたいになってるかと思ってたんだけど」
「実は、お母さんが入院していないって言われてな」
もしもお母さんの部屋がわかっていたらお姉さんの言う通りに落ち着いていられなかったと思う。でも、今は反対の方向で落ち着いていられなくなった。
「それマッ!? ちなみにお母さんの名前は?」
「鬼灯いろはです」
「いろはさんね。こうなったら一部屋ずつ探すしかないっしょ! こういう病院にはネームプレートがあるんだし」
「いやいや、病院側はいろはさんを隠している訳じゃないんだし探したって見つからない──いや、そうじゃないな。いないはずはないはずだ」
お兄さんは途中でハッとした顔になって反対のことを言ってくれた。が気を利かせてくれたのはわかるけど、確かに検索をかけて見つからないのはやっぱり変。
何か原因があるはず。さっきも思ったけど何かが間違ってる。でも何だろう?
何かヒントが無いか病院の中を見まわしてみると、一人のおばあさんがこっちを見つめている。
誰だろう? 後ろに何かあるのかな?
と思って振り返ってみると──
グゥ~……と音が聞こえてきて。
「うぅ……ここまでわかりやすくなるなんて──! ウチのお腹限界近いし、良い案考えようにもここまでお腹がペコちゃんだとどうしようもないっしょ……」
「確かに動き回った上に昼食時は過ぎているからなぁ、ここには食堂もあるみたいだしそこで食べようか。エネルギーチャージは悪くない」
「よしけってー! はっちゃんは何食べたい?」
お腹が減ってると良くない考えの方がでてきやすいのは知ってる。それに意識しだしたらお腹の中が空っぽでグルグル言ってるのがわかる。お姉さんに続いてわたしのお腹も今にも大きく鳴りそう。
「えっと……カレーもいいけどラーメンみたいなのもいいですね。めぶき園だと滅多に食べられないのがあるといいです」
「いいねぇ、じゃあ行こう!」
お姉さんと手を繋いで食堂に向かおうとしたら。
こっちを見ていたおばあさんの目が見開いて、こっちにまっすぐ近づいてくる。え!? 何々なんで!?
さらにガシっと肩を掴まれて顔も近い──一体何!?
「もしかしたらと思った……やっぱり彩八華ちゃんだね……まさか会えるなんて思っても見なかったよ、神様の思し召しだ」
あやか……?
どういうこと? わたしは鬼灯八──違う名前、なのにおばあさんは感極まって目に涙を浮かべてる。何がどうなってるの!?
「あやかちゃん? 人違いっしょおばあちゃん、この子は八、はっちゃん」
「確かにお化粧しているし久々に顔を合わせるけどね、孫の顔を忘れたり見間違うことはしないさ! 目や声が確かに彩八華ちゃんだよ」
「別のお孫さんと間違えているのでは……?」
「いいや、間違いないね最初は私もそう思ったけどねいろはって名前が聞こえたんだよ。娘の名前がいろはだから余計に聞こえちゃってね」
あやか──アヤカ……何? この名前、心の中がじんわりするような感覚!? 頭が何か変だ──痛くはない、フワフワしてる。
「はっちゃん!?」
「はっきりさせた方がいいと思います──くわしく教えてください……わたしは本当にあやかって名前なんですか」
見ず知らずのおばあさんが言った名前──それにどこまでも惹かれる。お母さんに会いたい時と同じような気持ちがふつふつと溢れてくる。
嘘か本当かわからないけど、知らないといけない気がする。ここを逃したら一生後悔する、そんな気持ちがずっと感じられて、わたしの中にいる別の何かが押し上げてくれる。
だけど、じゃあ八は何? 『鬼灯八』は何?
「…………これから食事するんだってね。そこで話そうか」
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