第十七話 争奪戦開始!
「んっふっふっふ! お前達が勝てる理由は万に一つも無い。仮にあの合宿所がお前達の拠点だとしても人数は数名。こっちの職員は20名近く、全員が戦う力を持っている。なおかつその二人を捕え人質にするだけでも勝利。お前達には勝つビジョンが無い!」
「ハンデとして十分だろう。自分がこれでもかと有利だと示して負けたんじゃ形無しも良いところだ」
「これは余裕だとわからんか?」
「弱い連中を何人倒したって名誉には繋がらないんだけどな」
今にも爆発しそうなぐらい二人の感情が高まってるのが肌にヒリヒリ伝わってくる。
そんな空気の中──
「ちょっと待つっしょ!? オジさん達で盛り上がるのはダメダメ! はっちゃん無視してちゃダメでしょ!! ──はっちゃん、二人の話を聞いてどう思った? ここからどうしたいか教えて?」
お姉さんが思いっきり水を差してわたしに振ってきた──
何でわたし!? って驚くけど、確かにこの騒動はわたしが原因。それに、家出前とは状況が何もかも違い。もう、何も知らなかったわたしじゃない。世界の真実を知っている。
「八君、聡い君ならわかるはずだ。君は英雄の器を持っている。その役目を受け入れるべきだ。全てを無事に終えたいならこちらに来るべきだ」
「このまま奴らに従い続ければ君の意志は無くなる。いい加減な操り人形で終わってしまう」
場の空気が穏やかになってきて、わたしの言葉が全てを決める。そんな空気で満ちていた。
教官が言うようにわたしにはワープリの才能が凄いかもしれない。
でも、おじさんが言うみたいに先生達に従い続けたらただワープリをする人形になるかもしれない。
だから──
「わたし……気付いたんです! お兄さんの言葉で気付きました。わたしはワープリのことをちゃんと理解してなかった。楽しむなんて頭のどこにもなかった。良い成績を取ってお母さんを助けるため、わたしが生きるこしか頭にありませんでした。だから、もし委員会の人達が力を貸してくれて、わたしの知らないワープリができるようになるなら。証言します──!」
まっすぐ言い切れた──これがわたしの気持ちだ!
「そうか……八君……今まで世話してきためぶき園を裏切るということだね……残念だ──本当に残念でならないよっ!!」
「隠しごとしながら強要させてたのがなんたる言い草っしょ!?」
わなわなと震えて、さらにあの顔……! 教官が本気で怒った時に見せる鬼瓦フェイス!! 声が無駄に大きくなるって皆に不評の怒りモード!
「最後の慈悲を自ら振り払うとは! 東条さんの期待を裏切ったお前は失敗作としか言いようが無い! 改竄しやり直させてもらう──」
教官が物陰に飛び降りるとすぐに何か機械の起動音が鳴り響き。
塀の上に大きな機械の手が乗せられる、コンクリートの塀なのにベニヤ板に思えるぐらいの重圧だ。そして二階へ背が届きそうな鋼の人型機体が姿を現して、バキバキと塀を砕く音を入場音にしながら庭に入ってきた。
この鋼の巨体がなんなのかわたしは知っている。
むしろお姉さん以外が知ってて驚いてる。
「まさかこれって──パ、パワードスーツだと!? なんでそんなもんを所持してるんだよ!? 養護施設が持てる代物じゃないって」
「レイドボスの訓練用です! でも、UCI装備しか積んでいません! 確かえ~と……そう『拠点防衛兼暴徒鎮圧用パワードスーツ、アテナ』! 右腕の大型ガトリングガンと右腕の万能生成機に気をつけてください!」
いち早く驚き反応したお兄さんへ解説を添える。
パワードスーツはアニメで見るようなロボットな見た目をしてて、その見た目に相応しい能力をしてる。コックピットに座るんじゃなくて、機械の身体を着て人体を拡張する感じだった。
右腕のガトリングガンが言葉から伝わる想像通りの性能、問題は左腕──プラネタリウムにある丸い投影機の形をした万能生成機、護衛や救助の際は何でもUCIで作り頼もしい装置だけど──こんな風に敵として現れたら……何をしてくるかわからない怖さがある。
「説明ご苦労、八君──安心するといい火薬機器は積んでいない! あくまで訓練用と暴徒鎮圧用でしかない」
胸部ハッチが開くとそこから教官の顔だけが姿を現す。確か身体を動かすのと同じ感覚で操作できるえ~と、リアル……タイム、ボデイ・コネクト? だったかな? だからすっぽりと身体が収まる構造になってる。
とにかく、凄い人が乗ったらスーツの機能が大幅に上がるみたい。教官が乗ってるってことは……思ってる以上にまずいことになってる!
「そういうことならトイの弾でダウンさせられるんじゃないか? ワープリルール用に調整させられたなら──」
「甘い甘い! そんな弱点親切に用意して現れる訳なかろうっ! リミッターは解除済み! これにより壊れるまで止まらんし、威力制限は撤廃される! つまり、このガトリングは遠距離からプロボクサーのラッシュを放てるようなものだ!」
ガトリングガンの銃口がこちらに向けられ無骨な回転音と共に連射されて、すぐ近くの壁を削るような跡を作り、窓ガラスを砕いて……破壊の跡を圧倒的な力な差を見せ付けてきた。
まるで脅し。訓練で戦ったことがあるけど、あの時以上の恐ろしさ──お姉さんはビックリした顔だしわたしに触れている手から震えが伝わってくる。
「今のは警告だ、わかるだろう八君──? これが本当に最後だ! 家出はこれでお終い。君の為に動いてくれた人達が傷つくのは嫌だろう? 君の返事一つで助かる。もう逃げ切ることは不可能だ!」
「いいや! 逆に言えばこいつをどうにかしてしまえば勝ちは決まりだ。いいか三人共! この戦いは鬼灯八がめぶき園に捕まらないかにかかってる! 俺達委員会がこいつら全員を取り押さえればこっちの勝ち、逆にこっちは君達が捕まっても負けだ!」
「ウチ達も!?」
「人質にならないでくれってことですね!」
驚くお姉さんに、冷静に理解するお兄さん。
委員会の人達はわたし達を守ることが頭に入ってるけどめぶき園側はどうなっても構わないって意志で攻めてくるってこと? わたし一体どれだけ大変なところでお世話になってたって言うの!?
それに──
「できるんですか!? 先生達って二十人近くいますし、ワープリの元プロの人もいますよ!?」
どうして養護施設に元プロな先生がいるんだろうって疑問はあったけどようやくわかった。だからこそ「無理」って言葉が浮かんでくる。この人が強いのはわかるけど、あの改造車やこのパワードスーツをどうにかして逃げ続けるのは無理がある。
「大したことない──もっと危険な任務も何度かあった。何より、おまえさんを守るのは俺の役目じゃないのが助かる」
なぜ? ──って言葉よりもお姉さんの手に繋がっていることですぐにわかった。おじさんがこっちに視線を向けてきて答え合わせみたいに小さく笑った。
「とにかくはっちゃんの争奪戦で防衛戦ってことでいいんだよね!?」
「ああ、そうだ。君達に任せる──」
「全く……正義のWWP委員会がそんな判断をしていいのか? 勝手に巻き込んでケガしたら責任問題になるぞ。そこのギャルさん、痛い目会いたくなかったら離れなさい──」
でも、お姉さんはその場を離れようとせずにわたしの手を強く握ってくれた。震えは伝わってこない。
「ウチはさ目立ちたいからギャルやってんじゃないの。自分の心から溢れるオシャレ魂を素直に自分らしく着飾るためにギャルやってんの。ここで妹分を見捨てたらオシャレじゃない。ウチのギャル魂が腐る! そんな洒落っ気の無いもんに負ける訳ないっしょ!」
流石はお姉さん! こういう時でもイケてるから無敵で最強なんだね!
「だったらぁ……その言葉を後悔しろ! 戦争開始と──うぉっ!?」
腕を突き出して何かをしようとした瞬間にわかりやすく体勢を崩した。何かに驚いて胸部を両腕で守る体勢。パワードスーツでその動きをすると逆に情けなさが大きく見える。
これはトイの射撃音が聞こえたからお兄さんの仕業だとはすぐにわかった。
容赦なく正確に開いたハッチの教官に向かって撃ったんだ──教官も当たるイメージが出てきたからのけ反った。当たり前に狙えるのって本当に凄い……!
「悪いがその合図はこっちで決めさせてもらう」
「いい隙を作ってくれたな!」
おじさんが腰に付いていた筒を一本取り出して教官の足下に投げると白い煙が大量に噴出した──この煙は、さっきのバイクと同じ!? もしかしたらと思ってはいたけどさっきの人はおじさんだったんだ。
次はお兄さんに向かって板状の何かを放り投げて、お兄さんはそれを両手でキャッチ。
「青年! これを持ってろ! 通信器具だ! 俺の仲間から連絡が来るし頼りにしてやってくれ。後は急いでこっから離れるんだ!」
「わかりました──けど、あなたはどうするんです!?」
「俺はこのデカイのを相手にする。お前達はひたすら時間を稼いでくれ!」
「オジは勝てるん!?」
塀に足をかけて廃屋から脱出する直前──
お姉さんの疑問に対して。
「勝つのが仕事だ」
たった一言、自信に満ちた横顔で見送られた。
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