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第十三話 本気の追撃、君はウチを継ぐ者

「本当にこっちでいいのか?」

「へーきへーき、この水路が行き着く先は決まってるの。誰にも見つからずショートカットできるっしょ!」

「それならいい。にしても水路なんて進むの生まれて初めてだな……もっとかびた様な湿気った匂いがするかと思ったらそんなでもないな」

「ずっと枯れてたからね、小さい頃はこの水路で鬼ごっこしておじさんに雷落とされたなぁ」

「確かに身長が低かったら遠慮なく走り回れそうだ」


 どことなく楽しそうな顔をしてるお兄さんとお姉さん。童心に帰るってこういうことなのかな?

 でも、足音が響いて反響する。一人二人増えても気付けなさそうでちょっと怖い。

 さんさんと輝きで満たされている空間が闇の中から見える。心が自然と引き締まってくる。普通だったら安心するみたいな気持ちが出てくるはずだけど、ここにいたほうが見つからないこともわかってる。光に出たら先生達と本気の追いかけっこが始まるから。


「うおっ……まぶしっ──」


 目がシパシパするぅ……!

 手で目元を影にして周囲を見渡すと──

 枯れた水路の先は河川敷に繋がってた。この水路は町に大雨が襲ってきた時の排水路なんだ。段差もあって川の水がここに流れることも無い造りになってる。


「さてと、西種(にしたね)に向かうにはあの橋を渡るのが必須! それは多分向こうも承知の上! だよねはっちゃん?」

「はい、東種(ひがしたね)方面にも人を集めてるとは思うんですけど……正直読めません。増援のこともありますから誰がどれだけ待機しているかもわからないです」


 わたしだったら他へと繋がる要所要所に一人は置いとく。

 特にあの橋には絶対配置する。広くて遮蔽物は何も無いからこそちゃんと確認できた方がいいから。


「あの橋以外には向こう側へ行く手段はないのか?」

「あることにはあるけど、もっと奥だし山を登ることにもなるっしょ」

「なるほどな……手っ取り速いのはここを泳いて渡ることだけど水質は大分きれいだけ流れもあるし距離があるな……」

「そんなに泳げないです!」

「ウチもムリムリかたつむり!」

「流石に冗談だ、泳いでる途中を見られるのもそれはそれで危険だからな」


 流石に冗談だったみたいで安堵した後はとにかく一度橋を見ることに決めた。ここで不安を口にし続けて警戒しても実際に先生がいるのかわからないんだからまずは確認。

 橋に到着して柱の影からそっと様子をうかがうと。一台の車が橋の真ん中の路肩にポツンと止まってた。

 橋の周りに人はいないし車も通っていない。たった一台だけがそこにある。なのに、嫌な予感がビシビシと伝わってくる。

 そこだけ別の存在がいるような違和感がある。お兄さんもお姉さんもそれを感じ取ってくれて厳しい視線を送ってる。


「ワナの匂いがプンプンするっしょ。ウチ達が近づいたらあの車が爆発して橋の真ん中を落すねきっと」

「そしたら後ろから急に職員達が出現ってか? 似たような可能性もあるだろうけど、もしもあのバンがただの空車だったらチャンスを逃すことになるな」

「橋さえわたることができたら先生達の包囲も少なくなるはずです。それにいざとなったら──」

「なるほど……その戦法はなにより意表が突けるっしょ!」

「賛成だ」


 もう、何かが確定事項な気持ちで動きはじめる。

 というわけで作戦開始!

 無事に通れるか確率は二分の一、これはチャレンジ。車とは距離がある反対車線側から歩いて──うわ、悪い予感が当たる気がする。

 ウィィイイイイイン──と車の屋根が開き始めた。


「まさか堂々と通り抜けようとするとは思わなかったぞ!」

「ヤバ! 一気に行くよ!」


 待ってましたといわんばかりの顔してる!

 ここで回れ右したら相手の思う壺! 一気に駆け抜けるのが正解! なにより車の正面がこっち側にあった、横を抜けたらUターンかバックしないとわたし達を追いかけられない。

 ──ってことはわかってるけど、わたしがどうしても足を引っ張る。二人共大人だけあって普通に速い、足の長さが違う。それにお兄さんは意図的にしんがりを務めてくれながら走ってくれてる。


「おい! 止まらんかっ!! ──全く、優秀すぎるのも困り者だな。だが! 圧倒的な力の前にひれ伏すがいい!」

「──なっ!? 伏せろ!!」

「え!?」


 お兄さんの鬼気迫る声にわたし達が振り向くと。バックしながら迫ってくる車の屋根から無骨な機関銃が姿を現していて。先生が両手でそれを掴んでこっちに銃口を向けていた──


「これが児童擁護施設の力だぁあああっ!!!」


 何が起きるのかすぐに理解できて頭の奥がヒヤリとした。すぐにお姉さんの手を掴んでしゃがむように誘導する。その直後──

 連射音が鳴り響くと同時にわたし達の進む先に大量に着弾! まるで滝に落ちる水飛沫のような荒々しい音が耳に襲ってくる。

 足を止めてしゃがんでなかったら直撃してた!


「ヤバスギっしょめぶき園!? こんなんやっていいの!?」

「まさか──UCI兵器かあれ!? どれだけ違法改造したっていうんだよ!?」

「もう逃げられんぞ! 死にはせんが死ぬほど痛いぞ! この無限連射を前に耐え切りながら突破する根性があるかなぁ!?」


 二人が声を荒げるぐらいに驚く。

 わたしは驚くよりも思い出してたあの機関銃に見覚えがあった──そうだ! 訓練場で使うレイドボスの装備。だけど訓練で戦った時よりも威力が跳ね上がってる──! 当たったら擦り傷切り傷ですまないケガになる。

 まさかわたしを捕まえるためだけに何でここまでの用意しているの!?

 ゆっくりと銃の向きが変えられると銃口がお姉さんに向けられて──驚いてるのかすぐに立てなさそう──なら!


「やめてください!」

「おいおい……もうそこまでの仲になっているのか……!」

「はっちゃん!?」

「これなら撃てないはずです──!」


 わたしは両手を広げてお姉さんの前に立って盾になる。

 わたしが目的なら酷いことできないはず!

 お姉さんにケガさせる訳にはいかない!

 

「確かに大事な児童を俺達は撃てない。だが──しばらくやんちゃさせないためにも折檻は必要だろう? これはオシオキの連射だぁっ!!」

「っ──!?」


 撃たれないと思って甘く見てた。あの顔は撃つ、迷いなんて無い──暑さだけじゃない汗が頬を流れてく。身体が震える。訓練の時はスーツで守られるから当たってもケガは無い。でも今当たったら──?

 わたしの身体が強くを引っ張られる。お姉さんの顔が目の前に来て銃口に背中が向けていた。「えっ?」どうして? 心臓の音が聞こえてくるぐらい強く抱きしめられて、お姉さんの激しいドキドキが伝わってくる──。


「流石にそれは越えちゃいけないラインだろ──」

「ぐぼぁっ!?」


 頭が真っ白になりそうな時。一射の音が聞こえて先生が叫び声を上げた。さらに両手を離して真後ろに倒れてく。

 何での答えはすぐ隣。お兄さんは落ち着いた佇まいでスレイプニルを先生に向けてた。使ったのはわかったけどどこを撃ったんだろう? こんな綺麗に倒れさせることって可能なの?


「今の内に急いで立て! 引き返すしかない!」

「わかった! お姉さん立って!」

「りょ! っしょ」


 お姉さんはもう動けるみたいで元気良く先頭を走ってくれる。もう大丈夫そうで安心。

 でも問題はあの改造車──めぶき園にあんなのあったなんて知らなかった。見た限り射撃手と運転手の二人で動かしてるみたい。だから射撃手を倒しても車は動く、どんなことをしてでも進行を防ごうと車を喚き唸らせてくる。

 お兄さんの言う通り横を抜けるのはもう無理だ、この荒い運転だとひかれてもおかしくない! みてるだけで怖いもん、

 こうなってくるとお姉さんが言っていたもう一つのルートに進むしか……


「くっそ、あの目立たない男め……綺麗に脳天打ち抜いてきやがった……ビビって手離しちまった。血ぃ出てないよな──おぉ~痛っ」

「すぐに追います?」

「当然だ! あの男は蜂の巣にして拘束だ!」


 正面がこっちに向けられると威嚇みたいな荒々しい車のエンジン音が鳴り響いてくる。今にも爆発しそうな音だ。

 そして、動き出した!

 稼いだ距離をすぐに埋める勢いで迫ってくる。この勢い、本気で轢くつもり──!?

 橋を左に曲がって人の少ない山の方へと走る──だけどこのまま直線を走ったら追いつかれる! お姉さんもそれをわかっててジグザグに進んでくれてる!

 流石に狭い道が多いからアクセルを踏み切れないみたいで曲がる度に距離が開いてく。頭に血が上ってるのかアクセルとブレーキを極端に踏んで動いてるみたいだ。


「このままだと建物より畑が多いとこ出て姿隠せる場所ないっしょお!?」

「さっきみたいに水路はダメなのか?」

「駅から離れると少ないの~!」


 弱気なお姉さんの言葉通り、周囲を見ても隠れられそうな場所が全然見当たらない。家と家同士もどんどん離れてく。


「あの勢いだと畑とか田んぼに突っ込んでショートカットしてくるんじゃないか?」

「稲穂に突っ込むほどバカじゃないはずっしょ! もしやったら村八分でめぶき園に米の供給ストップするはずっしょ!」


 ここから分けてもらってたんだ!?

 それよりも、お姉さん達も息が切れ始めてきたしこのままじゃ体力もなくなって追いつかれちゃう。どうにかしないと……! 信号も少ないし渋滞もない、そもそも車がぜんっぜん通ってないから時間を稼げるなにかがない!

 このままじゃ……なんて思っていると正面から真っ黒いバイクがこっちに向かってくる。この田舎では珍しいぐらい綺麗なバイク。そのままわたし達の横を通り過ぎてすれ違うと、道路のど真ん中で止まった──


「うおっ!? なんで正面で止まるんだ!?」

「道交法守んなきゃ迷惑かかるだろうがっ!! 一車線は譲り合い精神が大事なんだぞ!」


 プップー! てクラクションの音が鳴り響く。

 端に寄って進めばぶつかることなくすれ違えたのに? バイクの人はどうしてそんなことを? でも、今なら一気に距離を取れる。お姉さん達もわかったのかペースが上がった。


「さっさとどきな──ん?」

「何か取り出して……まさか!? ──爆弾っ!?」


 ボンと異音がして思わず振り返ると、さっきバイクの居た場所が白煙で包まれてる──火事? 爆発? だけど火は見えない。一体何で!?


「何かわかんないけどこれってチャンスじゃん! それなら──あそこの家に入るっしょ!」

「えっ!? あの野性味溢れてる家ですか!?」

「あそこは今空き家になってて誰もいないの。庭に入って隠れるっしょ」

「一度姿を隠すのは賛成だ!」


 という訳でモワモワと濃い煙が未だ立ち上っている間に、木々が雑に伸びて周囲も草木で覆われた一軒家に侵入することになりました。住む人が誰もいなくなって長いのか窓はひび割れくすみ壁の色には苔色が混じってて人が住まなくなった家の未来がここにあるようでした。


「はぁ~疲れたぁ……もう汗でメイクがグチャグチャっしょ……ギャルパワーで走り続けるのも限界ぃ~このままじゃ清楚になっちゃうぅ~」

「ふぃ~……あのバイクの人って何者だったんだ。俺達を助けてくれたような動きだったけど……警察とかならもっとちゃんとした制服だろうしあんな白煙筒みたいなの使わないはずだし」

「あっ──あの車、バックで引き返して行くっしょ。ウチらのこと完璧に見失ってる!」


 お姉さん達は庭にあった岩を椅子にして休憩してくれてる。

 木陰に入ってようやく少し落ち着くことができた……けど、状況は良くない気がする。

 まさか先生達あそこまでの行動に出るなんて思ってもなかった。訓練でだって危険行為は全くしなかったのに。

 あの機関銃でも十分危険なのに訓練場には他にも色々危険すぎて使えない物もあったはず。

 もしかしたら次はあんなので攻撃される? まだ想像でしかないけど……ダメだ足が崩れる──


「あっ!? はっちゃん大丈夫? 熱中症になってない水分補給しとかないとヤバめだよ」

「身体はだいじょうぶです……でも、まさか……こんなことになるなんて思ってもいませんでした……」

「まぁ~流石にこんな映画みたいなのはウチも予想してなかったかなぁ? 次アクション映画見ても半端なアクションだったら退屈しそう」

「気楽なもんだな、まぁ……こんな経験滅多なことじゃ得られないだろうがな」


 嘘だよ……靴も服も汚れてるし汗も沢山かいている。命に関わるかもしれないことにも巻き込まれた! わたしを心配する言葉もどうして出せるの? こんなのほほんとした空気でいられる訳がないって!

 先生達の熱量もおかしくなってる。家出してるわたしを捕まえられるなら何がどうなっても構わない動きになってる。 

 わたしが進もうとする限り使われる武器も強くなるかもしれない。

 想像付かないような何かが起きたら……後悔するだけじゃすまないと思う──だからわたしの家出はここで止めるべきなんだ。


「わたし……めぶき園に戻りますね──」

「ゲホッ!? いきなり何を言うっしょ?」

「これ以上は家出の思い出で収まらない気がするんです……まだ笑い済みそうな今なら引き返せるはずです。お姉さん達にケガさせてしまうぐらいなら──んむ!?」


 わたしの口にお姉さんが怒った顔で人差し指が押し付けられて言葉が出せなくなる。だけど、すぐににっこり笑って── 


「そんなの口にしたらダメだよはっちゃん。最初に立てた目的を達成できなきゃ笑い話にも思い出にも出来ないよ。逆に達成できればどんな過程もハッピーエンドの過程になるっしょ!」

「こういう言い方はなんだが、一夏の大冒険って感じで子供心が爆発しているのも事実だ。俺は勝手に楽しんでるだけだから気にしないでくれ」

「でも、お姉さんがケガするのはもっと嫌です……! 辛いんです……沢山親切してもらったのに、わたしは何も返すことができないです。大事なことばかり受け取って怖いんです……!」


 お姉さん達の気持ちは本当に嬉しいけど……嬉しいが大きくなるほど怖くなってて。無力な自分じゃどうすることもできないのも辛くて、もっと無敵で最強で襲ってくる先生達を退く力があったらこんな思いをしなかったのに。

 今にも涙が零れそうで、前をちゃんと見ることができなくて俯くしかなかった、そんなわたしの両肩にそっと手が乗せられて、そこが温かく感じる。


「迷える子を導くのがウチのギャル道、本来ならオシャレで悩む子だけに使うんだけど、ウチの才覚が並外れすぎてるからこんなことにも応用できちゃうんだよね」

「お姉さん……」

「ウチは返して欲しくて親切してるんじゃないっしょ。受け継いで広めて欲しくてやってんの! イケギャルスピリットはこうやって続いてきたんだから! だから……次代を作るのははっちゃんだよ! ウチじゃない、困ってる誰かを助けてあげるっしょ!」


 お姉さんのまっすぐな瞳がわたしの心の奥底まで見ているようで、真剣だけど優しい言葉は伝わってくる。頭で理解するよりも心で理解していくみたいだった。


「いいんですか……? こんな無茶な状況に付き合ってくれるんですか?」

「これはきっと試練なんだよ! これを越えたら想像つかないような成長をするって! だから、行こうはっちゃん──そしてなるんだよギャルに」

「……はい! なります、お姉さんみたいなギャルに……!」

「ウチを越える位の根性は見せてよね?」

「はい──!」


 行こう、会いに行こう!

 ありがとうもごめんなさいも全部が終わったらまとめて返そう! 今は諦めずに前に進もう! 


「……そういう話の流れでいいのか?」

「そういう話の流れっしょ!!」

本作を読んでいただきありがとうございます!

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