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第十一話 ギャルなわたしで正面突破!

 廃墟の中、服が赤黒く染まり倒れた仲間達。

 生きるか死ぬかの戦い、何度も何人も見知った顔を撃ち抜いて来た。倒れて動けなくなった仲間達を振りきって前へ前へと走り続けた。

 最後まで生き残らなければ優秀の証明にならない。

 地面の中から手が伸びてきてわたしの足を掴んで引きずり込もうとしてる。一番にさせないように沈めこもうと……。

 ……あっこれ夢だ──

 そう意識したら簡単に足がすっぽ抜けた。わたしの夢なんだからわたしにふりかかることなら何でもできる。

 久しぶりに意識的に夢を見てる気がする。無重力を漂う感覚で上を見るとナナちゃんが空中に浮きながら戦ってる。

 やっぱりワープリ漬けの毎日だからかワープリな風景が宙に浮かんでる沢山のテレビ画面に映ってる。先生達は夢でも──


「命中率9割以上を維持しろ!」「集中力が足りてない!」「タイムが落ちてる! 気合を入れろ!」「そこで止まるな、反撃されたらどうする!」「ダウン状態になる僅かな時間で撃ち抜く相手もいる。最後まで油断するな」「持久力! 瞬発力! 柔軟性!」「踏み込む際は誘い込まれていないか常に考えろ!」


 普段と変わらない厳しいことばっかり口にしてる。

 直接言われたことや、間接的に聞こえた言葉があちらこちらから響いて来る。

 なんて考えていると──大きな揺れと共にタコみたいなふにゃふにゃした曖昧な巨大兵器が現れて茶色い綿みたいな塊と一緒に大量に近づいて来る。

 坂道をズルズルと引きずるように迫ってきて──


「オッス、おはよ~! 随分ぐっすりと眠ってたねぇ、朝ごはんできてるよ!」

「おはようございます……」


 朝の日差しと共に聞き慣れない声で起こされた。最後の夢は何度も見てる気がするんだよね。

 時計を見ると7時を過ぎてて、めぶき園だったら完全に寝坊。思った以上に疲れが溜まってたのか

 お姉さんと布団を並べて寝ただけで変わるのかな?

 めぶき園では相部屋のナナちゃんが一緒だったから寂しさとかは無かったのに。

 悩んでも仕方ない。

 お姉さん家ならではのめぶき園で食べた事のない洋風朝ご飯、トーストにスクランブルエッグにハムとトマトとチーズを乗せてマヨネーズを追い打ちしたカラフルな朝食だった。

 噛む度に口の中がワクワク彩る不思議な感覚、お姉さんが言うには「ハーモニー」みたい。そんな美味しい食事を終えると──


「ではこれより正面突破作戦を始める!」

「えっ!? 正面突破ってどういうことですか?」

「おっ、その顔は不可能だって嘆いているねぇ! でも、だいじょ~ぶ! ウチの黄金の頭脳とお手手によってこれからはっちゃんにはよりキューティストに変装させちゃうから」


 最上級!?

 それは置いといて、正面突破なんてできるのかな?

 言葉の意味からして目指すはすぐ近くの種ヶ崎駅、考えるまでもなく多分もう先生達が何人か来て見張ってると思う。顔を見られた時点で気付かれそう。

 ううん、絶対気付く。子供の数だってそんなにいないんだから注意深く見るはずだもん。


「それじゃあ昨晩のショーでサイズがピッタだったのからコーディネートしていこっか」

「本当にいいんですか……?」

「箪笥の肥やしになるぐらいになら誰かに使ってもらった方がこの子達も喜ぶと思うからねぇ。それに靴も大事にし過ぎて一度も履くことなく入らなくなったものだしね」

「でも。わたしじゃないもっとちゃんとした人にあげた方が……」


 昨日のファッションショーは本当に楽しかった。自分が自分じゃなくなったみたいな気持ちになれた。もう一人の自分、なりたかった自分、諦めていた自分、色々な自分が顔を出してきた。

 だけど、あの気持ちで満たされたらわたしがどこまでも欲深くてワガママになりそうでちょっと怖くもあった。だから何にでも手を伸ばしたらいけない。他の皆もしたいことだと思うのにわたしだけがもらっちゃいけないことだと思うから。 


「ノンノンノン、ちびっ子がいらぬ遠慮はするものではないでござる。多分これはきっと縁か何か。袖すり合うのも他生の縁だね。まぁサイズが合わなかったら意味無いし足を通してから考えよ~」


 お姉さんが取り出して見せてくれたのはキラキラしてお菓子みたいな色合いをしているスニーカー。怖いぐらいに魅力的に映ってる。箱に入って長い間使われていなかったのはわかるけど大事に保管されてたのも伝わってくる。

 こんな新品……履いていいわけがない──この後きっと沢山歩き回って動き回る、すぐに汚れちゃう。オシャレ用で運動用じゃないはず。

 でも、履いてみたい気持ちに嘘もつけない。こんなにカワイイ靴、施設じゃ見る事もできなかったもん。

 大丈夫、足を入れるだけ終わるから。きっとブカブカかキツキツ。わたしには相応しくない、シンデレラは別にいる──


「──おっ! どうやらこの子はキミを選んだみたいだね!」


 でも、残酷だった。まるでわたしに履かれるのを待ってたみたいにピッタリはまってしまった──心の中が申し訳なさと嬉しさで混乱してる。


「足下OK! 続いては上下、よし! 折角だからギャルシスターズファッション行っちゃうっしょ!」

「め、目立ち過ぎると逆にバレやすいんじゃ」

「へーきへーき、目立ってるってことは逆に言えば一回判断ミスさせたらもう見ないってことだから、まさに攻めの変装!」

「確かに? ……確かになのかな?」


 印象に残らない地味な格好だったら何度も見られる可能性もある……派手なら「あぁ見た見た」なな感じで抜けられる。

 なによりギャル系ファッション、めぶき園じゃ絶対にできないというか許されないカラフルでキラキラなファッション。

 お姉さんの着せ替え人形になった気分で服がどんどん変えられて。

 フリルの付いたオフショルダー、綺麗なプリーツが入ったスカパン、ルーズソックスは……暑そうだから止めてもらった。


「な、何だかお腹周りが出てるんですけど、丈が合ってないんじゃ……?」

「へーきへーき、そういうファッションだって。今は夏だからむしろ放熱出来てお得!」

「ウチみたいにドリルポニテにするにはツヤはともかくちょっと長さがたりないかな? シンメトリーよりアシンメトリー感のがオシャンティな気がするからサイドにしとこう」


 訓練中は髪が乱れないように結ぶことはあるけど、もっと簡単にただ後ろで纏めただけ。お姉さんはクシを通しながら丁寧に髪を纏めてくれて左側にしっぽができあがった。サイドテールだ!


「トドメにお化粧じゃんね。派手なメイクは変装にはなると思うけど目立ちすぎるだけ、逆に気付かれちゃうかもだから、きゃわいい素体を活かしてナチュラルに攻めよっか!」


 お姉さんがわたしの顔を塗り始める。

 丁寧で速い……私の顔に筆が走る度にツヤやキラキラが増えていく唇や目元が自分じゃなくなってくように感じる──これがわたし……?

 わたしだけどわたしじゃない──ちょっと大人になったわたし? もっとこうだったらいいのになってところがもっとこうなってる!


「これでよし! やっぱ元がいいだけあってキューティストになったった。恐竜の骨を綺麗に発掘する研究員の気分になっちゃったよ!」

「恐竜──!?」

「そっ、眠ってた世紀の大発見を世に晒すんだよ! この可愛さはビッグバン!」

「そんな風に言われると恥ずかしいですよ!」

「いいねぇ、恥じらいもかわいさのスパイスだね。でも、正面突破の為にはウチはイケギャルってマインドで攻めないと。ほらウェ~イ!」


 手の平を見せるピースをこっちに向けてくる。もしかしてこれが古より伝わりしギャルピース!?


「う、うぇ~い……!」

初心(ウブ)くていいねぇ! これでよし!」


 は、はずかしいっ……!

 でもギャルにならないと突破できないならギャルになるしかない!

 それでお母さんに会いに行く!

 お母さんがこの姿を見たらビックリするかもしれない。でも、その姿を想像したらちょっと楽しくなってきた。

 なんて言ってくれるのかなぁ? 一目でわたしとわからないかも? それともすぐに気付いてくれるのかな?


「──あ、そうだ。着てきた服ってどうしましょう?」

「ここに置いとけばいいよ。無事に終わったら届けるなりすればいいだけだし。はっちゃんに繋がる証拠はできるだけ置いとかないとね」

「わかりました」


 出発前の最後の整理整頓。ここを出たらゴールまで走りきれるかめぶき園にもどされるかのどちらかだけ。丁寧にやらないと──鞄もカワイイのに交換してもらった。UCIの玩具ランプも出番が無さそうだから置いとこう。めぶき園由来の物は水筒とお財布だけ。それも鞄の中だから見られることは無い。大丈夫──!


「じゃあ出発進行~!」

「はい……!」


 家を出ると晴天ギラギラの太陽が迎えてくれる。これからの道を示しているかのような明るさ。生まれ変わったわたしを祝福してくれてるみたい。

 生まれて初めて外に出る気持ちってきっとこういうことだと思う。楽しくて嬉しくて、でもちょっとの不安。皆の目にわたしはどんな風に映っているんだろう?

 お姉さんの手がわたしの手を握ってくれた。


「顔上げて胸張って──ギャルのスピリットは威風堂々、イケてる自分は無敵で最強! 今のはっちゃんは最高にカワイイ!」

「イケてる自分は無敵で最強……!」


 お姉さんの笑顔は眩しくてまるで太陽が二つになったみたいだった。

 言われた通り胸を張って歩く。冷静に考えればここはすれ違う人は少ない田舎の町だった。

 それでも物珍しさから視線を集めてる──だけじゃなかった。

 いいなって気持ちが視線から伝わってくる。お姉さんのセンスは凄いんだと改めてわかった。

 駅が視界に入る、あの中に入って電車に乗れたら後はもう大丈夫! 

 だけど、そう都合良くはいかないみたい──見覚えのある二人が視界の端と端から現れて目的地のど真ん中で合流して足を止めた瞬間。お姉さんの手を強く手を握った。


「どしたん?」

「園の人達です──」

「はぇ~……ゆ~しゅ~。はっちゃんの動き読んでる感じだね」


 落ちつこう……今の私は無敵で最強! 鬼灯八だけどギャル属性の鬼灯八だからきっとバレない。どうどうと歩いていたら気付かれない。


「いたか……?」

「いえ……園長の予想通り西か東に向かったのではないでしょうか?」

「しかし、見つかっていないという報告しか来ない。各公園も調べたらしいが見つかっていないようだ。俺達はここの見張りに力を入れよう」

「始発から使っていないのは確認済みですからね」


 距離が近くなるたびに心臓のドキドキが強くなる。

 まっすぐと何食わぬ顔で横を通り過ぎる。あの二人をただの風景の一部として見れていればいいし見られてればいい!

 お姉さんに手を引かれてなかったら足が止まってそうなぐらいガチガチに緊張してる。


「ん?」


 一人の視線が私に突き刺さる。思わずドキリと心臓が跳ねる。

 でもそれだけ、手を伸ばして捕まえようとはしてこない。ただ見られてるだけ。バレてない!

 もう一人も──


「ちょっとキミ──」

「ん? もしかしてウチのこと? あっ、もしかしてナンパ? でもゴメンネ~ウチ達行くところあるから!」

「すまないね、少しで済むよ。その子はキミの妹さんかい?」

「そんなところ~カワイイっしょ? おにーさんとじゃ年の差ありすぎてアプローチはダメだかんね」

「……失礼、探してる子に似ていたもので」


 こ、怖かったぁ……! 声を出したらすぐにバレそうだったから静かにするしかなかった。

 お姉さんの堂々とした振る舞いに先生達もタジタジだった。めぶき園にギャルはまずこないもんね。相性有利ってことだったのかな?

 とにかく警戒も正面突破できて駅が作る影の中に、なんとか入れたぁ……! ここからなもう、顔は見られないからほっと大きく溜息を吐ける。

本作を読んでいただきありがとうございます!

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