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第一話 子供兵士育成計画

この作品は『War Pretend ~白華学園銃撃譚~』の過去のお話

読んでなくても特に問題ありません。ただ、気になったらどうぞ

https://ncode.syosetu.com/n8035iu/

 『ワープリ』、正式名称『War Pretend』、大昔行われていたサバゲーをUCIと組み合わせて誕生したシューティングスポーツゲーム。

 プロ制度も導入されており、ワープリで生活をしている者も多い。老人から子供まで楽しめ、身長体格が全てではないゲーム性が敷居を広くしているのもある。大柄と小柄な子供達が仲良くプレイしている企業CMが有名だ『誰とでも繋がれる、身体の差は関係無い』見たいな謳い文句を誰もが知っている。

 そんなワープリを公正な立場で審査、管理し健全な育成及び発展に貢献する団体WWP委員会──世界ワープリテンド委員会。

 今日も今日とて仕事に奔走するはWWP委員会日本支部監査員、加藤竜(かとうりゅう)。それが俺。

 委員会に入会して13年程度、毎日のように奔走して目を光らせる日々が続いていた。過度な盛り上がりを見せるワープリは勝敗が金に繋がることもあり八百長が行われることも珍しくない。それをしょっ引くのも役目。他にも非公式非合法の賭け試合、危険な改造トイの製作及び販売、ワープリ関連の違法を取り締まるのも仕事だ。時には命の危機に瀕する戦いもあって辟易する。

 その点、公式大会の運営や警備が楽で丁度良い。有望な若者達が情熱と夢を持ってぶつかり合う姿は何時見ても心が躍るというものだ。

 だが、そんな願いは叶わず今日は特別厄介な事件に着手することになる。


「まるであの日みたいだな……」


 季節は夏、真昼の熱をたっぷり蓄えたコンクリートが熱を常に吐き出し空気を歪ませる。

 クーラーの効いた車の中じゃ別世界の出来事もいいところ。外に出たら分で汗をかきそうな黒くて厚いスーツもこの中じゃ丁度良い。

 とてもじゃないが今はできそうにない、あの空間を子供の頃は無邪気に走り回っていたのだから不思議なものだ。なにより今と同じような景色をあの日見た。そんな子供時代を思い出すに相応しい田舎の景色。


「ほんっとうに田舎ですよねぇ……こんなに田んぼや畑、森があるなんて田舎のお祖母ちゃん家以来ですよ加藤先輩。でも、こんな田舎で本当に行われているんでしょうかね? 子供兵士計画──」

「まだ可能性の段階だがな──」


 自然溢れてマイナスイオンに満ちてそうな田舎に来たのには訳がある。

 一般人にとっては普通のスポーツゲームに過ぎないが一部の人間にとってはそうではない。


「それに田舎だからこそだ、人の数が都会と比べたら単純に少ない、全員抱き込んでしまえばリスクは無くなる」

「それでも可能とは思えないんですけど……宗教的な洗脳が行われてたりするんですかね? そもそも子供兵士計画自体ワープリで勝つ為に幼い頃から徹底的に鍛える計画ですよね?」

「そうだ──端的に言えばそうだが、バカバカしい。お前も知っての通りU-18世界大会は国家のワガママを通す戦争だ。勝てば国は豊かに負ければ貧困に近づく。選抜された者達は当然知らない」


 U-18世界大会、18歳以下の子供達のワープリ世界大会。

 国の未来は若者達に託されていると言っても過言じゃない。選抜されたメンバーには何も知らされていないが、ワープリは素晴らしいゲームだと国中がそういう流れを作っている。

 腕を上げることが将来に繋がる。プロ制度により金を稼ぐこともできる。U-18の本質を知らない大人達を流れに乗せた。強くなることは素晴らしいことだという地盤が出来上がっている。


「でも……日本にとっては止める理由はないんじゃないですか? 確かに子供が犠牲になる部分はあるかもしれないですけど、所詮はスポーツ──Warの名が付いてますけど実際に人を殺すこともありません。大人になってもプロとして活動して稼ぐことができるなら結果として万々歳な気がするんですけど……」


 ごもっともな事を言いながら運転してくれているのは今回の任務の相方日吉和樹(ひよしかずき)。見事な七三分けが特徴で目立たない奴だが荒事にも強ければ記憶力も良い。

 ただまぁ経験不足も否めない。


「確かにな、小学中学時代に徹底的に鍛え上げてU-18で優勝まで行き、その成果をみやげにプロ入りまで果たせば喜ばれることはあっても恨まれることはないだろうな」

「ですよね? そこまで上手く行くかはさておき、今の世の中ワープリが上手くて困ることはないですもんね」

「だがな、世の中はそう上手くできてはいないんだ。必ずどこかで歪みが生じる。何か一つに集中させ勝利以外に価値が無い教育は教える側も気付けない大きな矛盾を与えることになる」

「ムジュン? 先輩としてはほんの少し先までは良いけど取返しの付かない何かが起きる可能性があるから止めるんですね?」

「ああ、既に兆候は出ている──」


 不安と焦りを同席させた車は走っていく。

 この時点で単純に終わるわけが無いのはわかっていた。二転三転何悶着もあるとわかっていた。しかし、世の中は俺の想像を簡単に超えて行ってしまうらしい。



 児童養護施設『めぶき園』──

 山間に存在するこの施設は色々な理由で孤独になった子供達を保護し、新たな出会いを結ぶ場でもある。元防衛省の幹部が運営するここは評判も良く外から見ても、評判に見合った清潔さを維持していると言えるだろう。

 さらにここは小学校の役割があり施設の子と町の子が一緒に勉強している。

 とても子供兵士を育成しているような施設とは結びつかない。施設が機能し始めて約二十年近く、今日まで隠し通せたのは見事と言えるだろう。


「遠いところからよくお越しくださいました」


 室温設定26度な程々の冷却が効いた部屋、長の根城にしては狭い部屋。

 節制か貧困か。贅沢はできていないようだ。ただ、冷蔵庫でキンキンに冷えた麦茶がガラスのコップで出されるのは至高の一杯だと言える。熱い玉露よりも心が躍るというものだ。

 めぶき園の園長『東条昭雄(とうじょうあきお)』、白髪の目立つ初老の男、腰は曲がっておらず鍛えているであろう肉体がスーツ越しに伝わってくる。

 流石は元防衛省幹部、審議官。衰え知らずとはこういうことだろう。何の因果かその立場を手放して養護施設の園長をやっているかは不明だったが、この疑念が事実であれば全てが綺麗に飲み込める。

 この方との交渉は俺一人でやる必要がある。和樹には施設でやることがある。ここで簡単に解決するようなことはありえない。二の矢、三の矢を仕込む必要があるのだから。


「無駄話は嫌いなんで単刀直入に言います。ここで子供兵士を育成しているでは?」

「……? ……こども、へいし?? どういう意味でしょうか? 言葉の意味はわかりますがこのご時勢にそんなことをしても無意味なのでは?」


 言葉自体に呆気にとられた表情。

 ここを突いても意味は無い。


「俺達はWWP委員会、貴方は元防衛省。あることを知れる立場にあった。俺達がここに来る理由も合わせれば子供兵士の意味、育成されている理由がわかるはずです」

「アレですね。確かに存じています。なるほど、つまりは委員会は私が子供達を大会で勝つ為にワープリを強いていると言う訳ですね?」


 知らぬ存ぜぬの立場ではない。

 俺達の懸念を理解し言葉にする。だが、揺らぎは感じられない冷静そのもの。


「委員会の方針としてワープリは健全なスポーツであるべき──大人の策謀や打算が混じることがあってはならない。特にU-18ではそうだ世界中でこれが守られている。だからこそ成り立っている。大人の余計な干渉が混じらず子供達にとって黄金卿、最高の舞台として今も輝き続けられている。子供兵士計画が続けばいずれ戦争犯罪へと繋がる」


 どの国でも裏では行っている可能性は否定しきれない。だからといって認めて


「……何を根拠に決め付けているかはわかりませんが。防衛省に勤めていた私が戦争犯罪? 中々面白いことをおっしゃる。このご時世戦争は不可能、自国に対しての反乱テロしか成立しないような世の中、それも不可能レベル。WPSが施行されたのもこういうことが繋がっているでしょう。戦争は無くなっても災害被害は隕石前と比べて増加傾向にあります。震災孤児を救うだけではありません、親が子に対しての虐待、誰かが手を伸ばさなければ未来は無い! このめぶき園は若き芽を育てるために存在しています。利益の為に子供達に大人の都合を押し付ける為に存在してはいない!」


 理解が及ばぬまま孤独に陥り、心の不安や恐怖を吐露することもできず絶望の淵に立たされる子供。そんな子達を救うのが東条昭雄の役目である。

 与えたモノが大きくて多ければ、絶望に瀕した絵は大きく塗り替えられる。


「……貴方の行動は正しい、貴方の行いが子供にとってどれだけ救いになるかもわかっているつもりですよ。だからこそ、子供達の中には恩義を返そうと従順な子も現れる。そんな子達に対して持ちかけたのでしょう」

「……このままでは平行線を辿るだけですよ。ここに来たということは何かしらの証拠があるのでは? 私も忙しい身、園の子達を新しい親へと結ぶのはただ座っているだけではできないことなので」

「いいでしょう。根拠は二つ、まず一つ──貴方の所の施設ではUCIの消費量が格段に多いことが分かっています。職員の方々の中には上級構築士を持つ者はいない、多量に使うことができないはずなのに」

「うちではワープリを授業の一環として行っていますからそれが原因でしょう」


 コレを突いても意味が無い。ワープリで鍛えられる能力は多い、集中力、判断力、注意力。授業の一環として行われていても不思議じゃない。

 だが、明確な数字として異常値が出ているからこそここに来た。


「UCIで作り上げた1㎥の密度50%の正立方体の単位が100me(メテラム)。これはワープリ選手のバッテリーが満タンと同等です。殆どの選手は使い切って戦うので単純に考えれば一試合で1000me、フィールドの生成によっては追加で10000me利用することもあるでしょう。ですがこの施設で毎日使われている量は1000000me相当、非常に多い。クラブチームが朝から晩までずっと利用し続けて到達できるかできないか。普通ではありえない数値です」

「UCIは本当に万能な資源ですからね、児童養護施設はどうしても物資不足に陥りやすいのですよ。子供達の椅子やテーブル、ベッドはたまた玩具までUCIで賄うことが多いのです。さらに夜に光源として使うこともあるのでその分使用量が多いのでしょう。ここには大型生成炉がありますし、UCIを利用することにお金がかかることはありませんから」

「なるほど……筋は通っていますね」


 現実として可能。UCIの普及により家具メーカーが大打撃を受けたと言ってもいい。

 こだわらない人はネットでダウンロードした家具のデータをUCIで生成し利用している。傷つき汚れたところで問題ない雑に扱っても問題ない。ただクッション性が皆無な事を除けば十分に利用できるのだから。国の支援が不十分な施設ではUCI製を利用していることは不思議ではない。

 UCIの生成には隕石を模倣(コピー)した触媒と空気、決まった形に生成するための電気。UCI利用にお金は殆どかからない。

 メーターで知ることができてもこれを見て使用量としてお金が引かれることは無い。生成炉自体は個人の所有物なのだから。

 だとしても、毎日この量を安定して利用しているのは厳しい。

 しかし、予め用意しておいたであろう備えが伝わってくる。このまま重箱の隅を突くような真似をしても水掛け論にしかならないだろう。


「でももう一つの根拠を──ここ数年、中学世代の子供達で一際立つ腕前の選手が現れてきました。その子達について調べてみれば彼達が在籍していたのがめぶき園だと判明しました」

「それは何とも喜ばしいことですね。教育の一環として行っていたワープリが糧となり才能を芽吹かせたのはなによりです」


 喜ばしいと言っておきながら冷静だな──

 口に運ぶ麦茶も穏やか喜々とした歪みは一切無い。

 内心子供達が勝って当然だと思っていたのだろう、指摘が入ることも想定通りと言ったところだろう。ただ揺さぶるだけなら戦績が酷い嘘を伝えれば良かったか?

 だが重要なのは正しい情報をぶつけること。嘘の動きを見るには真実が試金石となる。


「……俺は仕事柄多くの選手を見てきました。プロを目指す子、趣味として楽しむ子。上手な子も未熟な子も沢山。殆どの子は情熱を秘めた目を持っていました。ですが。めぶき園の子達の目はどこか冷めておりプレイも無駄が無く機械的で作業的、感情が無い印象を受けました。俺はそんな目をした子を知っている。勝ち負けが存在理由に関わるような戦いをしなければあんな目はできないことを」


 目の色が少し変わる、鋭さが宿る。

 これ自体に何の証拠能力は無い。ただお宅の子が他の子に比べて強いですが何だかちょっと。といちゃもんを付けて伝えてるようなもの。

 余程子供達に自信が愛着があるのか──


「しかしそれは物事を極めれば自然と無駄が無くなることに起因するでしょう。強さ故にそんな印象を与えてしまうのもまた当然。昨今、あまりにも実力差があり過ぎて絶望しトイを置いた子もいるようじゃないですか? 嫉妬した子のセリフがまさにそうですよ」


 気に障ったのか口調が少し強い。しかしブレは無い。

 その話は俺も知っている。才能のある両親から生まれた子、スパルタとも言えるワープリ教育によって同年代で敵はいないとまで言われ、一対九で全滅まで叩き込んだ実力を持ち同じクラブチームの子は明確な差に心が折れたらしい。動画で確認したが10歳程度の子なのに比較すべき相手はU-18級の選手。

 ある意味では子供兵士計画に似ているがその子の周りで誰もWPSを知ることはできない、完全な白。恐ろしいことに計画の魔の手にかかった選手よりも圧倒的に強い。

 特異点と言っても良いレベルの選手が生まれている。

 探り合い、緊張が満ちる中──胸ポケットに仕込んだ通信機が微弱に振動し試合終了のゴングとなった。

 加えてめぶき園のチャイムも「キーンコーンカーンコーン」と鳴り響く。


「……失礼、先入観が過ぎましたね。今回のところはこれで引かせてもらいます。残念ながら証拠不十分と言ったところですからね」

「ただでさえデリケートな子が多いのですから妙な色眼鏡で見ないで欲しいものですがね」

「心得ております。ですが──二つの根拠が貴方と話して三つに増えましたよ」

「…………ほう?」

「どうやら貴方は自分の行動に覚悟を持っている。鍛え抜かれた刀のように揺るがない強靭さと鋭さが。だからこそ自分がやっていることを理解し隠し通そうとする意志が伝わってきます。荒唐無稽で言いがかりなことならもっと感情的になって反論してもおかしくないのに」

「長たる者はどんな時でも冷静でなければなりません。慌てふためけば国民の命を失いかねない席に座っていたのですからこの程度のこと何も揺さぶりになりません」

「なるほど、前職の経験ですか覚えておきますよ──では、失礼します」


 流石は幹部にまで上り詰めた男、簡単には崩すことができそうにないな。半端な武器をいくらそろえたところで意味は無いだろう。

 攻め方を考える必要がある。有無を言わせない絶対的な証拠か証言──子供兵士をを引き込むことができれば完璧な証拠になるだろうが、誰かもわからなければ辛くて逃げ出したい子供がいる報告も無い。相当丁寧に躾けられているということだろう。


本作を読んでいただきありがとうございます!

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