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52 初めてのお出掛けはデートではない

 

 ――ティアナが羽ペン魔道具を提案してから半年。

 多くの試作品を作り、失敗を重ねながら遂に納得のいく魔塔のロゴマーク付き魔道具第一号が出来上がった。


 魔塔の敷地内には羽ペン魔道具の量産が出来る様に大きな工房が建てられている。

 羽ペンの量産の責任者は見習い魔法師アンリだ。


 アンリは出来上がった羽ペンを一度に大量に増やせる魔道具を作った。


 そしてここからは先輩魔法師達の出番だ。


 ティアナが考案した魔法師のロゴに魔力を込めて悪用されない様にするのだ。

 悪用しようとする人間への制裁魔法はテリーが考えた。


「ふふふ……。羽ペンの数だけお仕置きの内容も違うんだ。こうすれば魔道具を盗んだり悪用しようとする奴らは対策が打ち辛いだろうね」


 魔力を込める魔法師達の指導はオリビエとセルジオが買って出たのだが……。


「テリー、あんたねぇ……。制裁魔法の種類が多過ぎ! 魔法師達の負担も考えなさいよ!」


 あの魔法対決からオリビエはティアナに対しては、文句を言いながらも協力してくれている。


「それに何なの? 偽物を作るとロバの耳になるだの、あ、こっちの魔法は鼻が伸びる魔法?」


 呆れて溜息をついているオリビエに、テリーは得意そうに胸を張った。



「悪い事をした奴は外見ですぐに分かる様にしないとね。二度と外を歩けない様な罰がお似合いでしょ?」



 小悪魔の様に不敵に笑うテリーにバートは思わず苦笑した。

 テリーは見た目は女の子みたいに可愛い顔をしているけれど、悪人には全く容赦しない性格だ。

 魔法師が貴族から依頼されて作る拷問の薬も一番生き生きとした顔をして作っている。


 この性格は、魔力が高い事を不気味に思った両親に捨てられた過去が影響しているのかもしれない……そう思ったバートはテリーに質問した事がある。


 自分を捨てた両親を恨んでいないのかと……。


 奴隷商人に金貨3枚で売られたバートはテリーの事をいつも気に掛けていた。


 しかしテリーはキョトンとした顔でバートを見つめるとフリフリと首を振ったのだ。


「バートさんと僕とでは少し事情が違うかもしれません。両親の顔すら覚えていない赤ん坊の頃からこの魔塔で暮らしてるんですよ? 恨むも何も……。この僕の家は初めから魔塔で、家族は貴方達しかいませんから」


 バートはその言葉に思わず胸に込み上げるものを抑えきれず、テリーを抱き締めてドン引きされた。


 そんな事があり、テリーの小悪魔的な性格は恨みではなく、魔塔で暮らした環境によるもの、又は生まれつきなのだとバートは理解している。


「ねぇねぇ! バートさんはしゃっくりが止まらなくなる魔法と、くしゃみが止まらなくなる魔法、げっぷが止まらなくなる魔法の中ではどれが一番辛い?」


 嬉しそうに質問する可愛い弟の様な存在のテリーに、バートはわざと泣きそうな顔をしてブルブル震えた。


「ええっ? やだ! どれも地獄じゃん! そんなの全部嫌だよぉ~」


「あははっ! バートさんは相変わらず情けないなぁ。でも制裁としてはあんまり辛くないかもね。しゃっくりしながら鼻水も止まらない魔法にしようっと」


 小悪魔なテリーの考案した制裁魔法は100種類にもなった。


 ***


「ティアナ……いよいよ市井で羽ペン魔道具を売ってみたいと思う。先ずは民の反応を見たいんだが……。何処がいいかな」


 羽ペン魔道具作りが一段落したルカスは、夕食後にティアナに質問した。


 貴族から依頼された魔道具作りと羽ペンの魔道具の制作で忙しかったルカスだが、ティアナとの食事の時間だけは必ず取る様にしている。

 一緒に食事をすると、ティアナがとても嬉しそうな顔をするからだ。


「そうですね……。初めて披露するのなら、なるべく口コミ……いえ、噂の的になる様な場が良いですよね。例えば大勢の民が集まるお祭りとか」


 食後にルカスが最近嵌っているアップルティーを出しながら、ティアナが呟く。


 林檎の甘い香りを楽しみながら、ルカスは紅茶を一口飲むと大きく頷いた。


「――なるほど。流石はティアナだ。間もなく建国祭がある。王都や、下町で一週間程続く賑やかな祭りだ。露店も沢山出るから、そこで売ってみるのはどうかな」


「わあっ! いいですね。お祭りで民の反応を見ましょう」


 瞳を輝かせるティアナにルカスは優しく微笑む。


「そういえば、結婚してからまだ一度も二人で出掛けていないな。よし。露店は魔法師達に任せて俺達は祭りに参加しながら民の反応を見る事にするか」


(えっ……。これってもしかして……ルカス様と私の初めてのデート?)


 ティアナはドキドキして顔が真っ赤になった。


 建国祭の夜、お洒落をして色々なお店を覗いたり、美味しい食べ物を2人で食べたり。

 恋人同士の様な事をして?


 あれこれと妄想しながら、着ていく服を考えていたティアナだったが、ルカスはそんな様子に全く気付かなかった。


「そうだな……。折角の祭りだから……いつもの大人の姿じゃ楽しめないよな。俺も変装するから、ティアナは逆に本来の子供の姿になって楽しむといいよ」


「――えっ……」


 ルカスの言葉に一瞬言葉を失ったティアナは、無理に笑顔を作った。


「そ……そうですね。嬉しい……です」


 どうやら、デートだと思い込んでいたのは自分だけだったのだと、ティアナは心の中でがっかりしたが、そもそも恋愛対象に見られていないのだと改めて思い知り胸がズキリと痛む。



(しっかりしなさい、ティアナ。私は大人の心を持っていてもルカス様には子供にしか見えないのよ)


 嬉しそうに建国祭の計画を立てているルカスを見つめながら、ティアナは今感じていた胸の痛みをそっと押し隠した。



 

 ***



 ティモール王国の建国祭は約500年程前に、当時の国王が魔力を授かった日を記念して毎年賑やかに催されている。


 祭りの期間は、王都も下町もお祭り一色となるのだ。


 羽ペン魔道具は、下町の祭りの露店で売り出す事になり、ルカスとティアナは偵察、テリーとバート、は露店の販売、オリビエとセルジオは露店の護衛をする事になった。


「ねぇ、僕も変装した方がいいかなぁ。子供が売る魔道具なんて馬鹿にされるんじゃない?」


 テリーが口を尖らせて抗議する。


「そんな事ないって! その為に大人のバート様もいるんだからさぁ」


 テリーのフワフワしたイチゴブロンドの髪をぐりぐり撫でまわしながら、バートはやたらと張り切っていた。


 下町の祭りは可愛い女の子が沢山露店を見て回るのだ。

 気取った貴族令嬢とは違い、平民の少女達は素直で愛らしい。


「ムフフ~! もしかしたら、この僕ちゃんにも可愛い恋人が出来るかもね!」


 テリーはそんなバートを白い目で見つめた。


 ――こいつ……。羽ペンが何本売れるのかとか、全く考えていないな?


「バートさん、下町に来たからって浮かれ過ぎですよ? 少しはどうしたら沢山売れるのは考えて下さいよ」


 テリーに咎められたバートはシュンとなった。


「まぁ、それはそうだけど。王都のプライドの高い貴族達と違ってさ、黙っていても安くて便利なら買ってくれるでしょ? あ、そういえば王城から建国祭の舞踏会の招待状とドレスが届いていたけど、ルカスとティアナちゃんは出席しないのかな?」


 一週間前、王城から舞踏会の招待状が届いていた事をバートは思い出した。


 テリーはクスクス笑いながら首を振った。


「バートさんは知らないの? ティアナは舞踏会の招待状が届いた事も知らないんだ。ルカスが招待状とドレスと花束を秒で燃やしたから。確か、趣味の悪い金糸の刺繡入りの真っ赤なドレスだったよ? ルビーのイヤリングとネックレスもあったな。宝石は転移魔法ですぐに送り返したみたいだけど」


 バートは飛び上がった。


「えっ? 何それ。キモっ! 人妻に自分の髪色と瞳の色を連想させるドレスと宝石を贈るなんて。怖いな」


 テリーは、王城からプレゼントが届いた時のルカスの姿を目撃していた。


 ルカスは今にも殺しそうな冷徹な瞳でプレゼントと招待状を睨みつけると、パチンと指を鳴らしていきなり燃やしたのだ。


 ドレスと花束は一瞬で激しい炎に包まれ、爆発した。

 炭と化したドレスの残骸を目にしたテリーは、ルカスの怒りがどれ程だったのか、瞬時に悟った。


 その時、ルカスはニヤリと笑うとテリーに釘を刺したのだ。


「ティアナには知らせるなよ? 嫌な思いをするのは俺だけで沢山だから」



 ――この事があったので、ルカスは王都の祭りにも王城の舞踏会にも参加しない事にしたのだった。



 ***



 その頃下町の噴水広場には、旅商人に変装したルカスと可愛らしいブルーのギンガムチェックのワンピースを着た子供の姿のティアナが現れた。


 デートではなく羽ペンの評判を調査する事にがっかりしていたティアナだったが、変装をしたルカスを見ると思わず目が釘付けになった。


(ルカス様……凄く素敵!)


 ルカスはいつもの長い黒髪を1つに結わえていて眼鏡を掛けている。

 長い魔法師のローブを着ていないラフな姿のルカスはいつもよりも少し大人びていた。


「今日はティアナとの初めての祭りだから、好きなもの何でも買ってやるぞ!」


 そんなルカスと手を繋ぎながら、ティアナは胸が高鳴り子供の姿だったが祭りを堪能する事にした。


「ルカス様! 可愛らしい縫いぐるみのお店が! あっ、あちらのお店には綿あめも売っています!」


 珍しい露店に嬉しそうに瞳を輝かせているティアナを見つめ、ルカスは先週贈られた王太子レイブンからの招待状とプレゼントを思い出していた。


(あの花束とドレス……。そしてあのクソ野郎と同じ瞳の色の宝石……。あれをもしもティアナが身に着けていたら……。想像しただけで吐き気がする……)


 ティアナを大人の女性と勘違いをしてこの様な事をしているのだと頭では理解していても、ルカスは許せないでいた。


 そして、自分も時折ティアナの事を子供として見ていない事に戸惑ってもいた。


 だからこそ、二人で出掛ける祭りには、本来の姿で参加する様に言ったのだ。


(俺は、あのレイブンとは違う。ティアナはまだ子供だ。いつかは本当の伴侶になるとしても……まだ……今は……)


 ティアナの小さな手をギュッと握る。



「ティアナ……絶対に手……離すなよ? 迷子になったら大変だからな」



読んで頂き有難うございました(^^♪

いよいよ羽ペン魔道具を売る事になりましたが、果たして?

次回をお楽しみに(⋈◍>◡<◍)。✧♡



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1.「スノーホワイト〜断罪された極悪王妃は溺愛されて真実を知る」をピッコマで連載中です。 こちらも是非ご一読下さい(◍•ᴗ•◍)✧*。
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