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51 王家は魔法師の商売を許さない

 

「殿下! 魔塔の連中が何か商売を始めようとしている様です。密偵からの報告ですと、どうやら新しい魔道具を開発したらしく……」


 ラキアスが黒騎士団からの報告書を持って執務室に駆け込んで来たのは、ティアナ達の羽ペン魔道具が完成して間も無くの事だった。


「フン。あの研究しか能が無い連中に何が出来るというのだ。奴らが王族や貴族から依頼されている魔道具作りは商売にはならない。魔道具1つの研究費だけで依頼品の報酬と同じ……いや、成功するまでの研究費を考えればほぼ赤字だ。あまりにも金が掛かるせいで魔道具を購入する者は殆どいないだろ。借りているだけだ」


 魔塔に依頼される魔道具は購入すると高額なので、王族貴族達は期限付きで借りているだけなのだ。

 依頼費を支払った王族貴族達はその魔道具を10年使用する事が出来る。


 期限が近付くと、もっと便利な魔道具を依頼し、研究好きな魔法師達はまた新しい魔道具を研究して、依頼主に貸し出しする。


 プライドが高い貴族達は他人が10年も使用した魔道具は借りたりしない。


 こうして使い古しの魔道具は返却されれば魔法師が引き取り、自分達で使う道しか残されていないのだ。


「魔法師達は研究費の捻出に相当苦しんでいる様だな。あの馬鹿共には金を増やす方法等思い付かない筈だ。商売? そんなもの……こちらが妨害しなくても成功するとは思えない」


「し、しかし……もしも商売が成功したりすれば……」


 ギリッと唇を噛み締め、レイブンは苦々しい顔になる。


「あり得ない! 突然金儲けを始めたのはルカスが妻にいい顔をしたい為だ。ティアナの様な美しい令嬢を娶ったルカス……。彼女は貧しい魔塔の生活に苦しんでいるのだろう。早くも後悔しているに違いない。ラキアス、彼女に美しい花束と宝石のプレゼントを用意しろ」

「殿下! 魔塔の大魔法師ルカスの妻に手を出すのは流石に……その……」


 魔法師の妻に手を出す事は禁じられている。


 その相手が王族だったとしても。


 これまでも、魔法師の妻を王族貴族が狙って恐ろしい目に遭った事件が歴史の中でいくつもあった。


 そして、その様な目に遭った者は王族であっても蔑みの目を向けられるのだ。


「ラキアスは心配し過ぎだ。私は何も知らずに騙されて嫁がされてしまった貴族令嬢にお見舞いの気持ちと救済としての援助をしているだけなのだから」


 ティアナの美しいアイスブルーの瞳が失望で曇り、悲しみに打ちひしがれている……。


 そんな想像をしただけでレイブンの胸は痛み、彼女を救い出す事が出来る王子は自分だけなのだと改めて思い知る。


「花束は彼女の美しい顔に似合う深紅の薔薇を。そして……宝石の他にドレスもいいな。ルカスの様な野良犬は、美しいティアナにドレスをプレゼントする事すら思い付かない筈だ。可哀想な令嬢を救済するのは王族として当然の行為だろう」


 レイブンは早速ティアナの為に高価なドレスを作らせ、自分と同じ瞳の色を連想させる、ルビーのネックレスとイヤリングも用意させた。


「殿下! 流石にこれはやり過ぎでは? 自分の瞳と同じ色の宝石を贈る意味をお考え下さい!」


 真っ青な顔になったラキアスの忠告も今のレイブンの耳には届かない。

 自分の髪色を纏った金糸の刺繍が施されたドレス、自分と同じ色の宝石を身に着けたティアナの喜びに満ちた表情を想像するだけでレイブンの心は踊り、すぐにでもティアナを攫いたい衝動に駆られる。


「ラキアス、私は必ずルカスからティアナを救い出してみせる。妖精についての情報はまだ、何も分からないままなのか!」


 これといって新しい情報が何も無いラキアスに焦りの色が現われた。


(まずい……。職務の多忙さで忘れていた……。何か言わなければ……)


「どうした? まさか……まだ何の糸口も見つけられないのか?」


 ラキアスはゴクリと唾を飲み込むとタラリ、と背中に冷たい汗が流れ落ちる。


「あ……あの……。ティアナ・ウェズリー令嬢ですが……。幼い頃よりその美しさは人の目を釘付けにしていた様でして。幼い頃からご令嬢の事を周りの人間は『妖精姫』と呼んでいたそうです……


 只の幼少の頃の話をしても誤魔化せないだろう……。

 そう思い、瞳をぎゅっと瞑るラキアスの手をレイブンが力強く握りしめた。


「凄いぞ! やはり、ティアナこそが王家に相応しい女性だ。もしかしたら、ティアナは妖精の血を引き継いでいる可能性だってある! ラキアス、すぐにウェズリー家の家系図を運んで来い! もしも妖精の血が少しでもあれば、ティアナは我々王族の子を産んで貰う事になるだろう」


 ラキアスは溜息をついた。


 いくら何でも無茶な願いだ。

 子供の頃からの呼び名に『妖精姫』という言葉があるからと、恋をした女性の家系図を調べるとは。


 しかし、王太子の命令なのだ。

 従う道以外は無い。


「ははっ。承知致しました。すぐに手配致します」


 そう応えたラキアスは急ぎ執務室を出て行った。



 ***


 レイブンは、ラキアスが出て行くと執務机の引き出しをそっと開け、妖精についての書物を取り出した。


『王家の魔力の起源は妖精の魔力である』


 この一文を読んだレイブンは確信したのだ。


 王家の魔力が妖精からのギフトだというのなら妖精を探す……又は妖精の血を受け継ぐ人間でもいい。


 もしも魔力が無くても、その者が王家の人間との間に子を儲ければきっとその子は高い魔力を持つ筈なのだ。


 そして……妖精の魔力を持った子の魔力を自分が取り込む事に成功すれば……!


「そうなれば……我ら王家が必ずあの魔法師達を滅ぼし唯一無二の魔力持ちとなるだろう」


 レイブンは妖精に関する書物を再び読み返す。


『全ての魔力を取り込まれた妖精の命は消えるだろう』


 レイブンは、ティアナと自分の間に子が出来た時の事を想像してみた。

 自分とティアナとの間に子が出来ればどれ程美しい子が生まれるだろうか。

 恐らくその子の命が無くなれば、ティアナは悲しむだろう。


 それでも……!


「もしも私がこの国……いや……大陸で唯一無二の高い魔力を持つ王となれば命を犠牲にした自分の子供を誇らしく思う事だろう。子供は何人でもその後作ればいい」



 ――レイブンには不確かだが予感がしていた。

 ティアナこそが自分の運命を変える事が出来る妖精姫なのだと。


「ティアナ……。お前が本当に妖精姫ならば……どんな事をしてでも手に入れて見せる!」


 どうすれば、ティアナを奪う事が出来るか。

 レイブンは先程聞いた密偵からの報告を思い出すとニヤリ、と笑った。


 ティアナとルカスを離縁させる方法……。


 それは簡単な事じゃないか!


「誰か! 魔塔の奴らが商売の為に作っている魔道具を調べて来い! その魔道具の偽物を作るのだ!」


 王家は微弱だが多少は魔力はある。

 どんな魔道具を創っているのかは知らないが……。


 魔法師たちが売る魔道具の中に偽物の欠陥品を紛れ込ませる事が出来れば、恐らく誰も買わなくなるだろう。


 そうなれば、魔塔の暮らしは今よりももっと貧しくなる筈だ。


「ティアナは貴族令嬢だ。魔塔の不便な暮らしがこれから益々辛いものになれば、自分から離縁したいと言うだろう。フフフ……ハハハハハハハ!」


読んで頂きありがとうございます(^^♪

卑劣な王子レイブンの悪巧みにルカス達は?

次回お楽しみに(⋈◍>◡<◍)。✧♡


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1.「スノーホワイト〜断罪された極悪王妃は溺愛されて真実を知る」をピッコマで連載中です。 こちらも是非ご一読下さい(◍•ᴗ•◍)✧*。
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