49 魔法師は商売には向いていない
――オリビエとの魔法勝負から数日後、ティアナが発案した魔法の羽ペンの試作品が出来上がった。
ルカスの研究室にはティアナ、ルカス、バート、テリーが集まり、今出来上がったばかりの魔道具の羽ペンをじっと見つめている。
一見すると普通の羽ペンと比べても、重さも形も変わりが無い様に見えた。
いや……。
一見しなくても、何処からどう見ても区別がつかない。
「どうだ? ティアナ、凄いだろう。その辺にある羽ペンとそっくりだぞ?」
ルカスが自慢げにティアナに試作品を見せた。
ティアナはルカスから羽ペンを受け取ると、引き出しから紙を取り出す。
紙に魔法の羽ペンで文字を書いてみると、インクを使わなくても文字がスラスラと書けた。
「う~ん……。確かに凄いのですが、見た目が他の羽ペンとそっくりなので区別出来ませんね……」
「えっ……? そっくりなら皆喜ぶんじゃないのか? 面白いじゃないか」
ティアナは頭を抱えた。
(そうだった……。魔法師達がそもそも魔法の研究をするのは面白いから……。商売になるかどうかなんて関係ないんだったわ……)
これまで魔法師達が作っていたのは、主に王族や貴族達から細かい要望がある依頼品だった。
自分達で商売をする目的で作る事は初めてなのだから仕方がない。
頭を抱えているティアナにテリーが羽ペンを繁々と見つめ、小首を傾げる。
「うん。凄く面白い。魔法の羽ペンだなんて全く分からないですね。これを使った人達の反応を早く見たいな。ティアナは面白くないの?」
「えっ? ええっと……その……」
ティアナが返答に困っていると、変な前髪がまだそのままのバートがお腹を抱えて笑い出した。
「アハハハハ! 面白くない訳ないでしょ? 沢山の羽ペンがある中で、いつ魔法の羽ペンが当たるのか、毎日ドキドキしちゃう! スリル満点だよねぇ? 特に急いでいる時なんかさぁ、傑作だよ! もう想像しただけでおかしくて涙出そうだ!」
バートがゲラゲラ笑いながら涙を流す中、ティアナだけは深刻な顔をしていた。
――ティアナには前世で同じ経験があるので笑えない。
物凄く急いでいる時に限ってペンケースの中に入っているボールペンのインクが無くなっていたり、劣化して書けない時のストレスと苛立ち……。
「それは……皆さんは困った事が起きても、何でも魔法で簡単に解決出来るから……。でも、魔法が使えない普通の民は、困った事があると笑い事では済まされないんですよ!」
多くの民は魔力が無いから不便な生活をしている。
遠い場所に転移魔法で瞬時に移動出来る魔法師にはたった1分の時間を無駄に使ってしまったストレスなんて理解出来ないのだろう。
その無駄に使った1分の積み重ねが増える程に焦りや苛立ちは増していくのだ。
「ふぅ~ん……。確かに魔法が使えないなら、面白くはないかもですね……。ティアナは魔法が使えない不便さを分かっている。何かいいアイディアはある?」
テリーの質問に、ティアナが考え込んだ。
魔法師が面白いと感じられて、魔道具を使う民が普通の羽ペンと区別出来る様にするには、どうしたら良いのか。
前世日本人だった記憶の中に何かヒントは……。
あっ……。
「あの……。ペン先にマークを付けるのはどうでしょう。この魔道具は書く頻度が高ければ、1年で魔力は無くなって、ペン先を交換します。だから、ペン先に魔法師が認めたマークを付けるのです。もしも偽物のマークを偽造したらその人が酷い目に遭う様にするとか」
――このティアナの発言に、魔法師ルカス達の目の色が変わる。
「――ふふふ。面白いな。魔法師が認めたマーク……。そして真似した人間を懲らしめる魔法……」
「何それ! 絶対面白いよ! 俺達魔法師の魔道具を利用する人間がギャフンと言うマークを開発しよう! 偽物のマークを作った人間の指先に羽が生える魔法なんかどう?」
「あ、折角なら暗闇で光るマークがいいな。夜に羽ペン探せるよ? 魔力の無い人間は真似出来ないだろ」
ウキウキし始めた魔法師達は明らかに瞳の輝きが違う。
魔法の研究の為に研究費を捻出する目的で始めた羽ペンの魔道具は、単純作業でつまらないけれど、自分達が作った魔道具の証しとして唯一無二のマークを考案する事は楽しそうだ。
「マークの図案は……ティアナに任せる。発案者だからな」
ルカスの言葉にティアナはドキリ、とする。
「私が……? でも魔法師の皆さんは素敵なデザインを期待するんじゃ……」
責任重大な任務にティアナは戸惑い、テリーに助けを求めた。
「テリー様も、私みたいな女の子が考えたデザインは嫌ですよね?」
テリーはティアナが持参した南瓜クッキーをモグモグ食べながら、首を振る。
「へ? ティアナのデザインでいいじゃん。何でもいいよ? それよりこの南瓜クッキー美味しいねぇ」
テリー達魔法師にとってはマークのデザインなんか何でも良いのだ。
それよりもどんな魔法を込めたら良いかが重要なのだ。
「まぁまぁ。ティアナちゃんは難しく考えなくてもいいと思うよ? ほら、今俺達が食べてるクッキーの南瓜のマークにしても良いから」
バートは、南瓜の形をした南瓜クッキーが大変気に入ったらしく、いつの間にか一人で10枚は食べている。
「――駄目だ。南瓜の形をしたマークを見ると、バートの顔を思い出す気がする」
氷の様に冷たいルカスの声に、バートは唇を尖らせるとティアナの後ろに隠れた。
「ちぇっ。ルカスは本当に心が狭いなぁ。ティアナちゃん、可哀想~!」
バートがルカスをからかうのはいつもの事だ。
見慣れた光景なのでテリーは平気だったが、ティアナはこっそりと小声でテリーに質問する。
「あの……。バート様の方がルカス様よりも魔塔歴は長いのですよね?」
テリーはヘラヘラと笑いながらルカスをからかうバートと、魔塔歴はバートの方が上なのに常に威張っているルカスを見ながらフリフリと首を振った。
「バートさんは先輩としての自覚が無いから。ルカスはバートさんよりも魔塔歴は下だけど同い年って事もあって子供の頃から仲が良いんだよね」
(なるほど……。ルカス様は威張っているのではなくて、親友には素顔を見せる事が出来るのね)
ティアナが納得していると、改めてルカスがティアナに訊ねた。
「ティアナはどんなマークを考えてる? まさか、南瓜のマークじゃないだろ?」
確かに南瓜のマークも可愛いと思っていたティアナは、羽ペンをじっと見つめた。
「――そうですね。可愛くて憶えやすくて、目立つマーク……。そして魔法師の皆さんが誇りに思えるマーク……。あっ! こんなマークはいかがでしょうか」
ティアナは羽ペンの魔道具で、紙に絵を描いた。
一同がティアナが描いたマークに注目する。
「これは……」
「うん。いいねぇ」
「ティアナ、これにしよう!」
羽ペン魔道具のマークが決定した。
読んで頂き、ありがとうございました(^^♪
ティアナが考え出した羽ペンのマークはどんなデザインだったのでしょうか。
次回お楽しみに(⋈◍>◡<◍)。✧♡




