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41 魔法師は契約書を破れない

 

「ルカス様? 契約書……とは?」


 魔法師になる事の条件に契約書が必要だなんて知らなかった。

 魔塔の契約書……。

 アンリ様はもう頼る場所が無い。

 もしも、この魔塔に居られなくなってしまったら……。


 私が不安そうな顔をしていたのだろう。

 ルカス様が私を膝の上に乗せて説明して下さった。


「ティアナは俺の伴侶としてこの魔塔で暮らす事になったから必要無いけど、魔法師として暮らして行くのならば契約書が必要になる。魔法を教えるという事は、俺達の敵に回った時に厄介になるからな」


 あ……。


 テリー様と同じ事を言っている。


「アンリを信じていない訳じゃない。そこは誤解しないで欲しい。王家は今でこそ魔力の高い者が生まれていないけれど、だからこそ俺達魔法師を買収する可能性もある。特にアンリは魔道具を作る天才だ。この能力は不幸中の幸いにもアンリが星占い師リリア令嬢として生きてきたからこそ、王家には知られていない。でもこの力を悪用されたら? 強欲な王家の事だ。自分達にとって好都合な魔道具を作らせるだろう」


 アンリ様が作る魔道具は便利なものから危険を伴うものもある。


 例えば……。


「人の魔力を奪って自分のものにする……とか?」


 びくり、とアンリ様の肩が揺れる。


「その顔からすると……。出来るのか……」


 ルカス様が驚いた顔をする。


「理論上は出来る。莫大な資金があれば……」


 そう。


 魔塔は王家みたいに潤沢な資金は無い。

 けれど王家なら……。


 そんな夢の様な魔道具が手に入るならば莫大な資金を出すだろう。


 実際に私もルカス様もその魔道具のせいで命を失った。


「その魔道具があればティアナの魔力暴走の時に使えるな。俺がいない時が一番危険だから……」


 ルカス様の言葉にギョッとする。


「――っ駄目です! そんな危険でお金の掛かる魔道具! ルカス様? 怒りますよ?」


 私の剣幕に驚いてルカス様が苦笑する。


「――そうだな。悪い……。ティアナの魔力が暴走してる時、凄く辛そうだったから」


「もうっ! 私の魔力が暴走した時にはルカス様が守って下さるのですから必要ありません! この話はおしまいですよ?」


「――ごめん。だからもうそんなふくれた顔はやめろ」


 プリプリ怒る私にルカス様はオロオロしている。


 そんな私達のやり取りをテリー様が白い目で見ている。


「あのさ……。今は契約書の事を話そうよ。それにルカスはいつまでティアナを膝の上に乗せてるのさ。子供の姿なら可愛いけど、子供の僕が見てもこれは目に毒っていうか……」


 ああっ! 


 確かに……。


 私達の部屋にいる時は子供の姿だからルカス様はこういう事を平気でするんだけど、今は大人の姿だった……!


「きゃあっ!『クリスタ』元の姿にして」


 慌てて『クリスタ』に命じると私は本来の子供の姿に戻った。


「これは……すごく興味深い魔道具だね。意志を持つ魔道具か……面白い」


 アンリ様がガラスの靴の『クリスタ』に興味を示した。


「ガラスの靴だけでは不便だろう。私がもっと便利な魔道具を作って……」


 言いかけたアンリ様が口を噤んだ。

 不思議に思ってルカス様を見上げると、もの凄い殺気が金色の瞳に宿っていて驚く。


「あ~の~さ~! いい加減にしろよ? ルカスはその殺気を引っ込めろ。アンリは無駄にルカスを挑発するな! ティアナが困ってるだろ?」


 テリー様の言葉にルカス様は殺気を消した。


「――そうだな。契約書が先だった。この契約書に目を通して納得したならこの羽ペンでサインするだけだ」


 雑なルカス様の説明にアンリ様は嫌な顔を見せずに真剣に契約書を読んでいる。


「――なるほど……。魔塔で魔法を修得した魔法師は契約書にサインさせられると、魔塔から逃げた場合、その身体は消滅する……って事だね?」


 ええっ?

 そ、そんな恐ろしい事が?


「正確には爆発する。体内のマナと契約書にサインした羽ペンの魔力が連動する。魔塔から逃げ出して王家の犬になればその時点でドカン! 爆発する。お前をこの魔塔に誘ったのはこの俺だ。今ならまだ間に合うぞ? どうする?」


「私の命はティアナに救われた。だからこの魔力もティアナの為に喜んで使いたい。私はティアナの永遠の騎士として仕える覚悟だから」


 アンリ様はそう呟くと、迷う事無く一気に羽ペンで契約書にサインをした。


「はぁ。流石は元公爵令息だな。言う事が何でも気取っている。ムカつく野郎だけど、その覚悟は半端ない。大抵はこの契約書を読んだ途端3日は悩む奴が多いんだ。その点は安心した。お前はキザ野郎だけど信用出来る人間だ。ただ、妻に対してだけは気に入らねぇ」


 ルカス様は契約書に手を翳す。


 すると契約書はボウッと青白い炎と共に燃え尽きて消えた。


「はい。契約終了。アンリ、服を脱いでみろ。ティアナは見なくていい」


 膝に私を乗せたまま、ルカス様は大きな手で私の瞳を覆った。


「驚いたな……これが契約の印……」


「ふぅん……星の形ね。お前らしい。流石は元星占い師」


 ルカス様の細く長い指の隙間から覗くと、アンリ様の左胸……心臓の近くに星の形をした痣が現れた。


「普段は自分でこの痣を消しておけ。マナと連動している契約の印は今後誰にも教えるな」


「それは何故かな?」


「この仕組みを知っているのは魔塔の人間だけじゃない。古くは王家の古代語で記された古書にも魔塔の決まりが記されている。まぁ……。奴らは無能で、古代語に興味を持たないけど、頭の切れる奴が王家側にいれば古書に注目するかもな」


 私は急に不安になってルカス様を見つめた。


「あの……その古書にはどの様な事が?」


「――分かりやすく言うと、魔法師が王家の犬になりそうな服従させる為の手段とかだな。その中にはこの魔法師の契約の事も当然記されている。魔法師は契約すると、心臓にそれぞれ色々な形の痣が浮かび上がるんだけど、全員違った形をしているんだ。魔法師のマナの形とも言われている。だから、マナの形を利用して契約書事態を解除する魔道具を開発されたり、羽ペンと同じ作用のする魔道具を使われて魔法師の命を狙う事も出来るかもしれない」


「そんな恐ろしい事が?」


 私が真っ青な顔で震えると、ルカス様が私の頭を撫でた。


「そんな事には絶対にならないから安心しろ。今の無能な王家側につくお人好しはいない」


 ルカス様の言葉にアンリ様が氷の様な冷徹な瞳を向ける。


「お気楽だな。この私の様に行き場を失った魔力持ちが現れる可能性を考えた事は?」


「フン。だから、魔力持ちを必ずこちらの人間にするのは当然の事だ」


 ルカス様の言葉に何故か胸がズキリ、と痛んだ。


 テリー様がポカリ、とルカス様の頭を拳骨で殴った。


「――っ! テリー、お前な……」


 頭を押さえてルカス様がテリー様を睨みつける。


「ティアナの前でよくもそんな無神経な事言えるよね。お前のそのデリカシーの無い態度……。そんなんだから、ティアナが不安になるんだよ。まぁ、この契約結婚が終わればお前は確実にティアナに愛想つかされるね!」


 ルカス様の顔色がみるみる悪くなっていく。


「――本当か? 俺……また知らない間にお前を傷つけたのか? テリー、俺達は部屋に戻るから、こいつの世話を頼む。魔塔の中を案内してやれ!」


 ゴゴゴ……という地響きと共に魔法陣が現れて、私達は一瞬で部屋に戻った。


「テリー様お一人でアンリ様のご案大丈夫でしょうか? 私もお手伝いしようと思っていたのですが……」


「――あっぶね……。いや……奴が先に卵サンドを食ったのは許せねぇ……。ゴホン、ティアナ、テリーは俺よりも魔塔歴は長いから、新参者はテリーが適任者だ。ああ見えて面倒見がいいしな」


 確かに。


 テリー様は本当に親切でそして可愛らしい。


「そうですね! でもお弁当やお菓子は差し入れしても良いですよね?」


「それは……俺が食った後なら……許……す……」


「え? 今なんて?」


 あまりにも小さな声だったのでよく聞こえない。


「だから! おれが先! くそ……かっこ悪……」


 真っ赤になって下を向くルカス様が急に可愛らしく感じてしまう。


 これってもしかして、私を独占したいのかな? 


 まさかね……。


 でも、幼い頃にお母様を亡くされたルカス様は家族の愛情に飢えているのかもしれない。

 契約結婚だけど、私はルカス様の家族なんだ。


 嬉しい……。


「――ルカス様が一番大事に決まってます。だから、私のお弁当を一番先に召し上がるのもルカス様ですよ?」


 私の言葉にルカス様の金色の瞳が大きく見開かれる。


「――そっか……。そうだよな? 俺はテリー曰くデリカシーってやつが無い男だから、知らないうちにお前を傷つけるかもしれない。けど、傷ついたらその傷が塞がる前に言ってくれ。その傷を治すのは絶対に俺だけ。他の野郎が……そんな事したら許せねぇ」


「ルカス様……。大丈夫ですよ? ルカス様はいつだってこんなに私に優しくして下さるじゃないですか!」


 ルカス様がじっと私を見つめるので恥ずかしくて思わず目を逸らしてしまった。


「――本当に? さっき、テリーがお前を傷つけてるって……」


「あ……それは……。一瞬、私の暴走する魔力は王家からは、喉から手が出るほど欲しい力で……魔塔が私をこちら側にするのは当然かな……って」


 言葉に出すと、思わず胸が痛くなる。


「――ごめん。俺はそんな打算……微塵もない! ティアナは俺の唯一の家族で、大事な人だ。これからだってずっと……」


 ルカス様の泣きそうな顔を見て、何故だか私は胸が一杯になってルカス様の頬を両手で包み込んだ。


「はい。わたしはずっとルカス様の家族です!」


 嬉しくて……すごく嬉しくてにっこりと微笑む。


 ルカス様は、頬に置かれた私の小さな両手をギュッと握りしめると嬉しそうに言った。


「ありがとう! ティアナは俺の唯一の家族だから、俺のマナの形も見てくれ! あのキザ野郎の胸の痣、こっそり覗いてただろ?」


「なっ……! ルカス様?」


 恥ずかしい……。


 はしたないと思われた?


 これ……私が男性の裸の胸を覗き見していたと思われている?



「だ……大丈夫……ですからっ!」


 真っ赤な顔で暴れる私の目の前で、真顔になった王国一の美丈夫がはらり、と着ているシャツを脱ぎ始めた。


ここまで読んで頂きありがとうございました(^^♪

もしも面白いと感じて下さったら是非続きを読んで頂きたいので、ブックマークお願い致します!

★を頂けたら大変嬉しいです(*^^*)

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1.「スノーホワイト〜断罪された極悪王妃は溺愛されて真実を知る」をピッコマで連載中です。 こちらも是非ご一読下さい(◍•ᴗ•◍)✧*。
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