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36 大魔法師の結婚式は秘密ではない

 

「嘘……! 大聖堂がこんなにも可愛らしくなるなんて……」


 昨夜の大騒動に疲れて眠ってしまったティアナが翌朝目覚めると、結婚式が行われる大聖堂の大広間は、大量の美しい花とリボンとバルーンで飾られていた。


「ウフフ……。この飾りはルカス様が中心になって考えて下さったのよ。ティアナが喜びそうだからって!」


 フレデリカがニコニコとティアナの頭を撫でる。


「だ、大丈夫でしょうか……。神聖な大聖堂がこんなに華やかだなんて……」


「先程、ルカス様が大司教様からお赦しを頂いたのよ? 大魔法師様は特別なのですって」

 ローズがにっこりと微笑む。


「でも、少し子供っぽく見えますわ! この大量のバルーン……何処から持って来たのかしら。あ、因みにこのバルーンはルカス様とアンリ様が魔道具を使って割れない様にしてありますのよ?」


 アンジェリカは鋭い爪でつんつんと、バルーンを突いている。


「凄い……。数字の形のバルーンやお花や動物の形のバルーンもありますね」


 ティアナが感心して、子犬の形のバルーンをそっと触った。


「この色々な形のバルーンは私の魔道具で作った……。ティアナが喜ぶかと思って」


 ゴホン……、と美しい顔を赤らめ咳払いをしながらアンリが説明する。

 アンリは一夜明けて、どこからか男物の服を調達してきた様だ。

 目立たない様に平民の姿をしている。



(まさか異世界でバルーンアートが見られて、しかもそれが自分の結婚式だなんて……)


 ティアナが瞳を輝かせて飾りつけを眺めていると、突然背後から逞しい腕に抱き上げられた。

「キャッ! ル……ルカス様っ……恥ずかしいから下ろして下さいっ!」


顔を真っ赤にしながら、ティアナはルカスの胸の中で暴れる。


 ムッとした顔のルカスはティアナを抱き抱えたままスタスタと庭園に向かう。


「俺の魔道具も凄いんだぞ? あいつが作ったやつよりも地味だけど」


 ボソリと呟くルカスを見て、ティアナは固まった。


(え……? まさか……拗ねてらっしゃるの? あの偉大な大魔法師様が……?)


 抱き抱えられた体勢で、ティアナはルカスの耳が真っ赤になっているのを見て思わず吹き出してしまった。


「フフッ、ルカス様ったら……! まさか、アンリ様に対抗しているのですか? 偉大な大魔法師様なのに?」


 クスクスと笑っていると、ルカスは庭園のガゼボにティアナを降ろした。


「ティアナの中で俺が一番優れた魔法師だって思ってくれているならそれでいい」


 ――庭園のガゼボは昨夜の兵士達の悪行を全く想像させない変貌を遂げていた。


 木の柱に雨やどりが出来る程度の簡素なガゼボは、いつの間にか真っ白な大理石の柱が美しい立派な建造物に変わっていた。


 可愛らしい白いベンチにはフワフワのクッションが置かれていて、白いテーブルの上には、美味しそうなケーキやお菓子が置かれている。


「朝食がまだだったろう……。座って?」


「ええっ? これ……まさかルカス様が?」


 驚くティアナにルカスはニヤリと笑うと並んでベンチに腰かけた。


「俺は料理を作る事は出来ないけど、王都で一番美味いケーキを再現出来る魔道具はある。この皿の形をした魔道具は、食材を置くと指定した食べ物に変化するんだ。元々この皿にはイチゴとパンを載せたんだが……」


 ルカスは皿の上でキラキラ輝くイチゴタルトを指差した。


「皿に載った食材に自分の食べた記憶を思い浮かべれば、ただのパンがこうなる」


 そう言うと、フォークで刺したタルトをティアナの口に運んだ。


「んんっ! おいひいです!」


(王都で一番人気の『シモーネ』のイチゴタルトと同じ味がする。凄く美味しい!)


 あまりの美味しさに顔が緩みっぱなしのティアナをルカスは極上の微笑みで見つめた。

「ティアナ……口元にクリームが付いてるぞ?」


「――え?」


 ティアナの口元に付いたクリームを長い指でそっと掬い上げると、そのままペロリとルカスは舐めてしまった。


「うん。甘いな……」


「……⁉」


 その表情のあまりの色香にティアナは真っ赤な顔で口をパクパクさせた。


「ん? もっと食べたい?」


「もっ……もう……お腹一杯ですっ!」


 心臓が爆発しそうになりながら、ティアナは首を振った。


(ルカス様は子供にお菓子を食べさせている感覚かもしれないけど……恥ずかしすぎる……っ!)


「ティアナは午後からウェディングドレスを着るのだろう。コルセットとかで締め付けられると食べられなくなるから、今のうちだぞ?」


 ――ルカスはその後、真っ赤なトマトの様な顔になったティアナにケーキや焼き菓子を沢山食べさせる事に成功した。



 ***


 丁度その頃、ティモール王国の王城では、ルカスの結婚式が中止になったという知らせを待ち望んでいたレイブンの耳に、とんでもない事件の報告が舞い降りて来た。


「た……大変です! レイブン殿下! 星占い師のリリア様が昨夜兵士達に襲われ、湖に身を投げたと報告が……!」


 王城の近衛騎士からの報告にレイブンが驚く。


「何っ! それは本当か?」


 レイブンの脳裏に、冷静沈着でスラリと背の高い美しい従妹の姿が浮かんだ。


(くそっ……まだまだ使い道のある女だったのに……)


 ギリッと唇を噛み締める。


「あぁ……それは大変だ。湖の捜索命令を出した方がいいですね。大聖堂の近くの湖はこの王国でも1番水深が深いから……」


 心配そうな声を出すラキアスの顔をレイブンがじっと見つめた。

「へぇ……。まだ何も聞かされていないのに、よく大聖堂の近くの湖だって分かったな……」


 ビクッとラキアスの身体が揺れる。


「え……それは……っ。き、昨日リリア様が大聖堂に泊まるって私に話していたから……」


「公爵令嬢のリリアが何故大聖堂に?」


 尚も追及するレイブンにラキアスの瞳はせわしなく泳いでいる。

「は……ハハッ、やだな……それは勿論……ルカス達が怪しい動きをしないか見張るためだよ……」


(ラキアスめ……最近私に黙って行動する事が増えたな……)


 チッと舌打ちをすると、レイブンは王国で一番大きな湖である『ビクトール湖』に兵士たちを向かわせた。


「ラキアス、ルカス達の動きに変化はあったか?」


 ラキアスはレイブンが再び自分1人を頼りにしている事に満足を覚えた。

「は……はい! 転移魔法の動きもありませんし、今王都で外を歩く者はいません」


「魔塔から転移魔法を感知した報告もない。ウェズリー家も動きがないとなれば……。ティアナの婚姻は来年まで延期だ! ラキアス、王都の宝石商を呼べ! みすぼらしいルカスが逆立ちしても買う事が出来ない大きくて美しい宝石を買うぞ」


 レイブンがニヤリと笑った。

「今夜昇る赤い月はルカスの敗北を現す、赤い血の様な月となるだろう」



 ***


「ティアナ様、本当にお美しいです!」


 鏡の魔道具『シリウス』を使って大聖堂に集まったウェズリー家の使用人たちは、ウェディングドレスに身を包んだ私に感動していた。


 お母様が残したウェディングドレスは妖精だったお祖父様がお祖母様に贈ったものだ。

 こんなに美しい生地は今まで見た事がない。


「そして……これがルカス様のプレゼントされたベールですね? この世にこんなに美しいベールがあるなんて」


 ――まるで夜空の星を全て散りばめたみたいな星屑の様なダイヤが長く美しいベールに無数に輝いている。

 この世に1つしかないベールはルカス様から先程プレゼントされた。


「ティアナのウェディングドレスに似合う様に頑張ったぞ」


 そう言って胸を張ったルカス様は、私の妖精のウェディングドレスに似合うベールを手作りする事を思い付いたらしい。

 150mもある長いレースのベールには美しい金糸の薔薇の花も刺繍されている。


 何故こんなにも長いベールになったかというと……。


「ウェディングドレスのベールには邪悪なものから守るって意味があるらしいから、つい気合が入ったんだよな」


 頭を掻きながら笑うルカス様の顔を見ていると、こちらも笑顔になってしまう。


 長い長いベールはお義姉様たちだけで裾を持つのは大変だったので、ウェズリー家の使用人たちにも手伝って貰う事になったのだ。


「ティアナ様の結婚式をお手伝いできるだなんて……。本当に嬉しい限りです」


 使用人たちは涙を浮かべて喜んでいる。


「ティアナ、そろそろ時間ですよ。準備は出来た?」


 ローズが支度部屋の扉をノックした。


「はい。お義母様、準備万端です!」



 ***


「あ~ぁ! ティアナちゃんのウェディングドレス姿……見たかったなぁ……。結局ルカス達は今日結婚出来なかったのかなぁ」


 魔塔の研究室で、どんなに食べても体重が変わらない薬を研究していたバートはボソリと呟いた。


「悔しいけど、難しいんじゃないかなぁ。2人とも、昨日から部屋に籠りっきりで姿を見せないし。転移魔法を使えば王室に知らされる魔法が掛けられているからね」


 テリーも魔法書を読みながら呟いた。


 ――ティモール王国は今でこそ魔力の少ない王族しか生まれないのだが、古代ティモール王国の王族は皆高い魔力を持っていた。


 当時、古代ティモール王国は魔法師と対立関係だったので、互いに魔道具を開発していたのだ。


 王家には沢山の古代魔道具があったのだが、残念ながら今の微弱な魔力の王族では扱える魔道具は限られている。


 そんな魔道具の中で唯一、魔力が無い人間でも扱う事が出来るのが、転移魔法を使った魔法師が王都に入り込んだ事を感知出来る魔道具だ。


 当時敵対関係だった古代ティモール王国は魔法師が王都に侵入する事を禁じていたのだ。


 この魔道具は現代の様に魔法師の協力がないと機能しない王国では、不要の存在として宝物庫に仕舞われていたのだが、ルカスの結婚を阻止したいレイブンが外出禁止令を出して、再び使われる事になったのだ。


「でもさ……。あのルカスだよ? 絶対にやると思わない?」

 テリーがニッと笑った。


「俺は別にルカスの結婚には興味ないのよ。ティアナちゃんのウェディングドレス姿が見たいの!」


 ブチッ……と音を立ててバートが握り締めていたジャコウネコの尻尾が千切れる音がする。


 途端にバートはジャコウネコに噛みつかれた。


「ひぎゃぁ! い……痛い……っ!」


 テリーが慌ててジャコウネコを落ち着かせる。


「大人しいジャコウネコに嚙み付かれるとか、ほんと……馬鹿なの?」


「う……うるさい! ネコって名前が付いてるくせに、全然ネコじゃないし」


 テリーがクスクス笑う。

「猫科じゃないんだから猫ではないんじゃない? そういえば、セルジオも今日一度も姿を見せないね」


「……」


 バートは昨夜、いけ好かない大きな鳥が魔塔から飛び立ったのを見ていた。


(そういえば……人間じゃないものは転移魔法の感知魔道具が作動しないって聞いた様な……まさか……)



 タラり……と冷や汗が背中に流れる。


(まぁ……ルカスもそこまで馬鹿じゃないから……結婚式をしたとしてもひっそり、静かに気付かれない様に……やってくれるよね?)


 ――何となく嫌な予感がしたバートは喉がカラカラになるのを感じた。


 コップに入った水をゴクゴクと飲み始めたバートは次の瞬間、飲んでいた水を盛大に吐き出した。


『私、ルカス・ブロアは……病める時も健やかなる時もティアナ・ウェズリーを永遠に愛し慈しみ、敬う事を誓う』


 ――突然大音量でルカスの声が部屋中に響き渡ったのだ。


「なっ……何だ? 何が起きた? ル……ルカス――っ⁉」


読んで頂きありがとうございました(^^♪


もしも面白いと感じて頂けたら次話への励みになります。


次話もお読み頂きたいので、宜しければブックマークを宜しくお願い致します(^^)


★★★★を頂けたら更に大変嬉しいです(*^^*)

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1.「スノーホワイト〜断罪された極悪王妃は溺愛されて真実を知る」をピッコマで連載中です。 こちらも是非ご一読下さい(◍•ᴗ•◍)✧*。
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