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34 星占い師の真実を誰も知らない

 

 ――星占い師リリア令嬢の悲劇は回帰前、王国中の涙を誘った。

 私はこの悲劇を監禁されていた地下牢で聞かされた。

 貴族令嬢たちを震撼させた星占い師の自殺は赤い月が昇る前夜、魔物に操られた兵士達に純潔を奪われた令嬢が湖に身を投げるという痛ましいものだったのだ。


 この噂はたちまち大国中で話題となったが、私は牢にいたので情報が少し遅れて入って来た。

 当時、王太子からの度重なる求婚を断り続けた私は地下牢に監禁されていたのだ。



 ある日、地下牢の番人が得意気に囚人達に話しているのを聞き、とても恐ろしくなった事を憶えている。



 ところがその後、サフィール公爵家のある重大な秘密を王太子から知らされたのだ。

 その秘密というのが……。



 ――今、私の目の前でベッドに腰かけ俯いているリリア様は、公爵家の秘密を打ち明けようとしていた。



 ***



 一同が見守る中、リリア様の美しく艶のある長い黒髪が彼女の膝の上に落ちると、キラキラ光る美しい白金の短い髪が現れた。


「ど……どういう事ですの? リリア様はまさか……おっ……男……!」


 アンジェリカお義姉様が口を押えてリリア様をじっと見つめている。


「あらまぁ……驚きましたわ! では、貴女はリリア様ではなく……」


 普段あまり感情を表に出さないフレデリカお義姉様も、目を丸くしていた。


「驚かせてすみません……。私はリリアの双子の弟でアンリと申します。長い年月、私は姉のリリアの振りをして星占い師として王家を欺いていたのです」


 アンリ様は唇を噛み締め、震えていた。


「星占い師が男だったいう事実は父上と母上、そして私の侍女だけが知っています。先程、兵士達に襲われて私が男だと知られていたら、父上は間違いなく私を死んだ人間として処分し、盛大な葬儀を行っていたでしょう」


 ――知っている。


 回帰前、星占い師の自殺は多くの人々を悲しませ、盛大な葬儀が行われた。

 当時、深い湖に身を投げたせいでリリア様の遺体は見つからなかった事になっている。


「――とても……辛い想いをしてきたのですね? なんて気の毒な」


 お義母様が涙を溜めてアンリ様の手を握りしめた。


「もしも宜しければ……。聞いて頂けますか? 我がサフィール公爵家の秘密を」


 ――アンリ様が語ったのは、とても気の毒な少年の人生だった。



 ***



 ――サフィール公爵家は王国の星占い師が唯一生まれる名高い家門で、黒髪に紫色の瞳の美しい姫が唯一生まれる事でその権威を欲しいままにしてきた。


 何故なら黒髪に紫色の瞳の姫だけが、王国で唯一星を読む力が授けられると言い伝えられていたからだ。


 どの家門も躍起になって黒髪の女性を探し婚姻するも、髪色は同じでも瞳の色が紫の女の子は生まれず、紫色の瞳の女性を探し婚姻しても黒髪の女の子は生まれなかった。


 今から17年前の冬、公爵家に待望の子が誕生した。

 黒髪に美しい紫色の瞳の女の子と、白金の髪に紫色の瞳をした男の子。


 ――生まれて来たのは双子の赤ちゃんだったのだ。


 屋敷中が歓喜に湧く中、乳母によって隣の部屋へ隔離されたのが双子の弟アンリだった。


「御覧なさい、あの薄気味悪い髪色! リリア様の双子の弟なのに、ご夫妻のどなたにも似ていないわ!」

 使用人たちが陰でコソコソ囁いた。


 双子として生まれてきたのに髪色と性別のせいで、弟は父からも母からも一度も抱いて貰えなかった。


 その一方で星占い師の女の子の誕生にサフィール公爵は喜び、片時も離さなかった。

 リリアと名付けられた令嬢は5歳になるとその能力を開花させ、星を読み始めたという。


 ――思えばその頃がサフィール公爵家の一番幸福な時だったのかもしれない。


 リリアとアンリの7歳の誕生日。

 その日公爵家では盛大な誕生会が開かれていたが、その宴にはアンリの姿は無かった。


『アンリ、今日はアンリにプレゼントがあるの!』


 部屋に独りぼっちでいる弟の為に双子の姉は長い黒髪のウィッグをアンリに被せた。


『今日はアンリの誕生日でもあるから、私の代わりにご馳走を食べて来て?』


 姉リリアの優しさにアンリは喜んでリリアと衣装を交換した。

 ウィッグを被ったアンリはリリアに生き写しだったのだ。


 この日の過ちを、アンリは何度も後悔している。


 華やかな誕生会にアンリが酔いしれているその頃、7歳のリリアは部屋の寒さに耐えられなくなり、暖炉に火を付けようとして誤って火がカーテンに燃え移ってしまったのだ。

 小さな部屋はたちまち火の海となり、リリアは死んだ。


 父も母も狂った様に泣き叫び、入れ替わっていたアンリを激しく罵った。


 そして……。

 サフィール公爵家では令息アンリの葬儀が行われた。

 生前あれ程冷遇されていたアンリの葬儀では父と母が憔悴しきっていた。


 リリアと瓜二つの少年はこの日を境にこの世を去ったのだ。


 その日からアンリはリリアとして生きていた。



 ――偽りの星占い師として。



 ***


「な……なんて酷い……」


 ワナワナとアンジェリカお義姉様は震え、フレデリカお義姉様とお義母様は涙を流している。


「あの……これからアンリ様はどうされるのですか?」


 私の質問に、アンリ様の紫色の瞳が揺れた。


「幸い兵士たちに私の正体は暴かれなかったけれど……。男たちに襲われたと噂が広まれば私の立場はどうなるか……」


 令嬢が夜会で男とバルコニーに二人だけで密会していたという噂が出ただけで傷物扱いをするのが貴族の世界だ。



「そんな……アンリ様は何も悪くないのに」


「今回の事件を企んだのはレイブン殿下の側近ラキアスです。恐らく自分よりもレイブンが私と一緒にいるのが気に食わないのでしょう。星占い師は懐妊すると能力がなくなるというから。狡猾で残酷な男です」


 ラキアス? 

 レイブンの側近でいつも卑屈な顔をしていたあの男が?

 彼の目的がリリア様の失脚ならば、計画は概ね成功したようなものだ。


 未遂に終わっても、令嬢が襲われそうになった事実に変わりない。


「なんて卑怯な男なの?」


 私たちが悔しそうな顔をしていると、ルカス様がキョトンとした顔をしてアンリ様を見つめた。


「何を言ってるのか分からんな……。良かったじゃないか! もうリリアの代わりをしなくてもよくなる。お前が望むなら俺が自由にしてやる」


 私は、あっ……と声を上げた。


「そうです! よく考えたらこれはチャンスですね! リリア様は今晩兵士たちに襲われた……。そしてリリア様は絶望してこの世から姿を消す……」


 アンジェリカお義姉様がポカンと口を開けている。

「ええ? つまり……偽装自殺を?」


 ルカス様がニヤリと笑う。


「湖のほとりに靴と手紙でも置いておけばいい。これ以上、親に食い物にされる事はない」


 ――――回帰前、リリア令嬢の葬儀の後暫くしてレイブンが一人の青年を地下牢に連れて来た。


 白金の髪、紫色の瞳をした美しいアンリ様だ。



 あの時は、偽の葬儀を終えたサフィール公爵が息子であるアンリ様を王太子に売ったのだ。


 回帰前、レイブンは得意気に死んだ姉の身代わりとしてアンリ様が星占い師の仕事をしてきた事、そしてその姉は死んだ事になったからアンリ様は居場所を失くした事を教えた。


(リリア様の身代わりとして生きてきたのに、あの時はレイブンに仕えていたアンリ様……。今世では自由に生きて欲しい)


 私はルカス様にそっと耳打ちをする。

「ルカス様、アンリ様は偽の星占い師なのにずっと星読みの力がありました。もしかしたら凄い才能が秘められてるかもしれません」


 ――そうなのだ。

 アンリ様は星占い師ではないけれど、実は高い魔力と魔道具を作る天才だった。


 特に魔道具作りだけなら恐らく、ルカス様よりも上かもしれないのだ。


 彼は回帰前、他人の魔力を暴走させる魔道具を発明してしまう。

 公爵家から追い出されたあの頃のアンリ様は心を失くした冷酷な青年だったわ。


 この方を救う事が出来れば今世であの王太子に魔力を奪われる危険も回避出来そう。



 ルカス様がアンリ様の頭に手を置いた。


「――ふむ……。確かに高い魔力を感じるな。よし! アンリ、お前俺達と魔塔で暮らすのは嫌か? 魔塔は素晴らしいぞ? 自分の力を思う存分使えるし、自由だ!」


 アンリ様が驚き目を見開く。


「私が……魔塔に?」


「選ぶのはお前だ。公爵家を捨てるならな。魔塔では貴族ではなくなる。只のアンリになるから……嫌なら……」

 慌ててアンリ様が立ち上がった。

「――っ嫌なんかじゃない! 私を……連れて行ってくれ!」



 良かった……。

 レイブンに利用されて、冷酷な人間になる筈だったアンリ様……。

 きっと魔塔では、ご自分の才能を活かす事が出来るわ!


「さてと! 俺は今からお前の偽装自殺の証拠を作る。ドレスと靴を」


 ルカス様はアンリ様が来ていたドレスと靴を受け取ると、懐から笛を取り出す。

 ルカス様が笛を吹いて暫くすると、窓をコツコツと叩く音が聞こえた。


「思ったよりも速かったな」


 ルカス様が窓を開け放つと、巨大な大鷲が窓辺から飛び込んで来た。


 一同が驚き声を失う中、ルカス様がニヤリと笑って大鷲に話しかける。

「セルジオ……悪いけどこのドレスと靴、ここから一番近い湖に持って行ってリリアが自殺した様に細工してきてくれ」


 ええっ?


 せ、セルジオ様なの?


 思わず大鷲のフワフワの羽をそっと触ると、大鷲の足元から魔法陣が現れて、本当にセルジオ様に姿を変えた。


「やぁ! 人使いが荒いなぁ。明日は君達の結婚式だっていうのにこの騒動は何なの? 庭園の地割れに兵士たちが転がっていたから記憶を改ざんして外に放り込んでおいたよ。フフフ~? 褒めて欲しいなぁ!」


 ――セルジオ様のお得意の魔法は変身魔法と、記憶操作。


 これまで魔塔で何か問題が発生すると、セルジオ様が呼ばれるらしい。


「へぇ……。星占い師リリア嬢の正体は美青年だったんだね。どおりですらっと背が高い訳だね」


 セルジオ様が興味深そうにアンリ様を見つめる。


「あ、良かったらこのローブあげる!」


 セルジオ様はご自分が来ていた魔法師の黒いローブをアンリ様に着せた。


「では、人使いの荒いルカス! 明日の結婚式、派手にやってね!」


 そう言い残すと、自分の足に荷物を縛り魔法陣を描く。


 私たちが見守る中、大鷲に変身したセルジオ様は羽を広げると大空に飛んでいってしまった。


「あいつがいると、本当に助かるよ。さて、では俺達は明日の結婚式の準備をしよう」


 ルカス様がパチンと私にウインクをした。


 あ……。

 そうだった!

 明日は私とルカス様の……!


 どうしよう……。

 急に結婚式、という言葉で心臓が跳ね上がってしまった。


 私……契約結婚だけど本当にルカス様の花嫁になるの……?


 ドクンドクン……と胸が高鳴った。


読んで頂きありがとうございました(^^♪


もしも面白いと感じて頂けたら次話への励みになります。

次話もお読み頂きたいので、宜しければブックマークを宜しくお願い致します(^^)


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1.「スノーホワイト〜断罪された極悪王妃は溺愛されて真実を知る」をピッコマで連載中です。 こちらも是非ご一読下さい(◍•ᴗ•◍)✧*。
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