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11 婚約式は簡単なものじゃない

 

 お義母様のお許しも頂いたので、これで晴れて私とルカス様との婚約は決まった様なものなのだけど。


 魔法師の結婚は、一般の人達とは違ってかなり特殊らしい。


 第一に、年の差や年齢制限は無い。

 第二に、性別の垣根も無い。

 第三に、身分の壁も無い。

 第四に、双方の合意が無ければ成立しない。


 そして第五……互いの絆が浅いと判断された場合、魔塔に住む魔法師全員の承認が必要。


 この魔塔の法律があるので、魔塔に住む魔法師たちは、自由に婚姻出来るのだ。


 この制度を王家が許しているのは、王家は魔塔に依頼する案件が山積みだからだ。

 王家の魔力で補えない事を、魔塔に住む魔法師達がさも王家の力で成し遂げたかのようにしている。


 確か王家の舞踏会での夜の庭園のライトアップなんかもそう……。

 舞踏会でダンスを踊った気の合う貴族達が夜の庭園でお酒を飲んだり語り合ったりするのだとか。


 王家は灯りを灯すだけの簡単な魔道具さえも自分達の力だけでは無理な事を、民には知られたくないのだ。


(この辺の事情は貴族の間では有名な話よね……)


 そんな事情で魔道具をほぼ魔塔に頼る王家としては、魔塔の機嫌を損ねたくなかったらしい。

 この魔塔の法律のお陰で、魔法師達は結婚に対してはかなり自由な考えを持っている人が多いそうなんだけど。


 婚約式がこんな大袈裟なものになるなんて!



 ***



「お義姉様、これは少しやり過ぎでは?」


 ――男爵家の娘の婚約式。


 本来であれば男爵家が王都で一番大きな大聖堂を貸し切りに出来る筈はない。

 いくら、男爵家の経営が良くてもこの大聖堂を1日貸し切りにするなんて!


「まぁ……何を言うのかと思えば……。この王国の大魔法師であるルカス様の婚約式ですわよ? しかも、お相手はウェズリー家の妖精姫のティアナ。こんなおめでたい事なのに、まさかその辺の小さな教会で簡単に婚約式をするつもりだったの?」


 ここティモール王国では、貴族の婚約式は教会の神官様の面前で行う。

 本番の結婚式でも教会で行うのだけれど、婚約式をすませないと神殿では婚姻が認められないのだ。


 本番の婚姻の時にもお金が掛かるのだから、ここは節約して簡素な式にすれば良いのに。


「何だ? ティアナはここの支払いを気にしているのか? 無論、タダだぞ?」


 ええぇぇぇーーー!


「あらまぁ。そんな、お口をポカンと開けたお顔も愛らしいわ! ルカス様はこの大聖堂でも魔道具の依頼がありますの?」


 な、なるほど。

 この大聖堂で婚姻すると神の奇跡を見る事が出来る、だの不思議なオーラの光で病気が治った、とかいう噂を聞いた事が……。


 つい、前世日本人の血が騒いでしまう。

 これって霊感商法、っぽいんじゃ?


 私の心の声が聞えてしまったのか、ルカス様がポンと私の頭を叩く。


「こらこら。いくら俺でも神聖力を操る力は無いぞ? 無料で大聖堂の窓から綺麗な日が差す様に窓に魔力を注いだり、昔の宗教画を修復したりとかだ」


 なるほど。

 魔法師は普段は報酬を貰わないと依頼を受けない。

 でも、ルカス様はずっと依頼料無しで働いていたのね?


「まぁ……この大聖堂は、俺の母親が昔世話になった場所だからな……」


 そういえば、前に聞いた事がある。

 ルカス様のお母様はこの大聖堂に赤ん坊の時、捨てられていた孤児だったとか。


「母さんが小さい時に世話になっていた所だから……自分が結婚するならここって決めてたんだ。まぁ、まさか本当にこの俺が結婚するとは思わなかったけど」


 本日の婚約式には、魔法師達が全員この大聖堂に集まる事になっている。

 ウェズリー家は家族だけ。

 親族は呼ばない。

 もしも、誰かの口からこの結婚話が王城に漏れてしまったら大変だから。



「フレデリカお姉様、お母様が到着しましたわ……まあっ! ティアナったら、本当に可愛らしいですわっ!」


 本日の私のドレスは婚約式なので、白ではない。


 私の瞳の色と同じ、アイスブルーのドレスで、ルカス様の瞳と同じ色の金糸で刺繍された蝶の模様と、私の髪色と同じ銀色の糸で薔薇模様の刺繍が縫い付けられている。

 それはそれはもう本当に……豪華なドレスだ。



 アンジェリカお義姉様が王都で一番人気の高い『マダム・ルル―』で作らせた特注品。

 ルカス様の装いも、同じくマダム・ルル―がデザインした。


 先日、我が家に採寸に訪れたマダム・ルル―はルカス様の美貌にすっかり魅了されて、この婚約式の衣装は、マダム・ルル―の傑作品として今後は非売品で店に展示するのだと大騒ぎをしていたわ。



 お陰で私達は、大金を払わないと中々手に入らない素晴らしい衣装をタダで着せて貰っている。


 ルカス様をチラリと見る。


 うっ……眩しい。

 ただでさえ物凄い美丈夫なのに何? この破壊力は!


 深い蒼みがかった長い黒髪を今日は銀色の髪紐で結わえているルカス様は、金色に輝く瞳で私をじっと見つめる。



「……俺は普段こんな堅苦しい恰好はしないから、どうも慣れないな。でも、ティアナは可愛いよ。確かに妖精みたいだな!」


 ああっ……ずるい。

 笑った顔が輝いている!


 この美丈夫の隣に並んだら、私なんか霞んでしまうわ!


 私のドレスと揃いのアイスブルーの上着には、銀色の刺繍が施されていて、ただでさえ

 キラキラ輝くお顔が更に華やいでいる。


 マントは私の髪色に合わせて美しい銀の色に輝いている。


「そういえば……婚約式には、魔法師が全員参加するとか仰っていましたわね? もしかして、あの方々なのでは?」


 アンジェリカお義姉様が窓の外を指差す。

 大聖堂の庭園に次々と転移魔法を使って高名な魔法師たちが集まっている。


 す……凄い……。

 私……ルカス様の婚約者として堂々としていられる?

 そして……ルカス様と同じ魔法師様達から本当に認めて貰えるのかしら……。



 私はゴクリと唾を飲むと覚悟を決めた。


「ルカス様……この婚約式にお一人でも反対の札を入れた方がいたら、私達は結婚出来ないのですよね?」

「まぁ…指輪がちゃんと光れば魔法師達は反対出来ないんだが……。万が一、指輪が光らなかった場合にも備えた事だし? 大丈夫だよ」



 魔塔の法律で、婚約式の時に結婚の約束をする2人に魔法師達から指輪が贈られる。

 その指輪の交換式の時にどちらか一方に少しでも迷いがある場合は指輪が光らないそうだ。


 そして絆が深い者同士がこの儀式をすると指輪は光を放ち、魔法師達から認められる。


 この時光が弱く、絆は浅いと判断した魔法師が1人でもいた場合は祭壇に予め置いてある銀の札が赤くなるそうだ。


 つまり、私達の絆の光が弱い場合は魔法師達の判断に任されるという事。

 その時に、例えば婚約者がまだ子供だという事を理由に反対意見が出ない様にガラスの靴を履いて見た目を変える、というのが私達の作戦だ。


 一応年齢は18歳という事にした。

 お義姉様達よりも年上の設定がどうも気恥ずかしいのだけど。


 私はまだデビュタント前だったから、私を知る人は使用人以外ほとんどいない。

 亡くなったお父様がデビュタントまでは、私の存在を公にはしたがらなかったから。


 ルカス様が懐からガラスの靴を出す。


「では、お姫様足を出して?」


 ルカス様が跪く。


 あ……。


 この場面……。

 この台詞……。


 舞踏会に行きたくて泣いていた、過去の私がルカス様にガラスの靴を履かせて貰った時と同じだ……。


 違っているのはあの舞踏会に行く時に履いたガラスの靴は自分の欲求を満足する為のもの。

 そして今この婚約式に履くガラスの靴は、未来の私と家族を守る為のもの。



 私はルカス様を見つめてコクリと頷くとガラスの靴に足を入れた。



 ***



「あのルカスが婚約とは……おかしなもんでも食ったんじゃないか?」


 大聖堂の扉の前では大勢の魔法士達が、扉が開くのを今か今かと待ち焦がれていたのだが、子供の頃からルカスと一緒に魔塔で育った同い年のバートにはこの状況が未だに信じられなかった。


 ブツブツと独り言を言いながら、ヨレヨレの魔法師の服の匂いを嗅いでいるバートは徹夜明けだったらしく、緑色の瞳が充血していて赤茶色の髪は何日も風呂に入っていないせいで、ゴワゴワになっている。


「昨日も魔道具の実験が終わらなかっただろ? 俺……変な匂いしてないかな……」


「バートさんは、何でいつも着替えを用意しないのですか! 大体出かける間際に実験とか……あり得ませんね!」


 バートに食って掛かる眼鏡をかけたテリーは今年13歳になる少年の魔法師だ。


 フワフワのイチゴブロンドの髪色をした色白の少年で、マシュマロの様なほっぺをしている。

 眼鏡の奥で輝く瑠璃色のキラキラしたボタンの様な瞳が人形の様に愛らしい。


 バートの服の匂いを嗅いだテリーは顔をしかめた。

「わっ、本当に少し匂いますね……仕方がない。じっとしていて下さいっ」


 テリーが呪文を唱えると、身体から魔力が溢れて緑色の淡い光が放出される。


 やがて、テリーのイチゴブロンドの髪は逆立ち緑の光はテリーの髪色を緑色に変える。

 すると、温かいお湯で出来た丸い球体が出現してそのままバートの身体を包み込んでいった。


「ガボガボ……おいっ! 顔! 顔は球体から出せよ! ガボッ」


 バートが溺れるとマズいので、テリーはパチンと指を鳴らしてバートの顔の部分だけ球体から出る様にしてあげた。


(本当はその汚くなった顔も洗いたいんだけど……)


 テリーは生まれた時に魔塔に捨てられていた男の子で、両親の顔も知らない。

 生まれつき魔力があったので、魔法師達に育てられた彼がルカスに初めて出会ったのはテリーが4歳、ルカスは10歳だった。


(それまでは自分の事、天才だなんて自惚れていたんだよね。本物の天才に出会うまでは)


 テリーはフワフワな緑色に変化した巻き毛を指でクルクルと弄りながら、天才魔法師ルカスの心を射止めた令嬢の顔を早く見たくてたまらくなった。


「おおい……そろそろ出してくれよ……ガボボ……」


(喋ると球体の中の石鹸が口の中に入るのに)


 テリーが呆れてパチンと指を鳴らすと、球体が消えてテリーの髪も元のイチゴブロンドに戻る。

 びしょ濡れのバートがぐったりしていた。


「よっしゃ! 流石テリー! 石鹸のいい匂いしかしないぞ! ところで乾かすのも……」



(こいつ……本当に年上なのか? 魔塔歴だってこいつの方が上なのに!)



 4歳の時から魔塔で働いているバートはテリーに白い目で見られていても、全く気にしない。


「テリーちゃん! お願いしますよ!」


 テリーは溜息をつくと無詠唱で魔法陣を描き、風の魔法をバートの服に発動させた。

 瞬く間に、バートの服は乾いていった。


「おおっ! テリーちゃんありがとう~!」


 バートがテリーの頭をワシャワシャ撫でていたその時、大聖堂の扉が静かに開いた。


「おお。やっとルカスの嫁さんの顔が明らかに!」


 魔法師達が大聖堂の中に入るとそこには婚約式の為に正装した恐ろしく美丈夫なルカスとその婚約者、ティアナ・ウェズリーの姿があった。


「う……わ……っ! おいおい……これは……」


 驚き口を開けたままのバートとテリー。



 ――この日天才魔法師ルカスに対して、初めて嫉妬という感情が芽生えた瞬間だった。



読んで頂きありがとうございました(^^♪ もしも面白いと感じて頂けたら次話への励みになります。 次話もお読み頂きたいので、宜しければブックマークを宜しくお願い致します(^^) ★★★★を頂けたら更に大変嬉しいです(*^^*)

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1.「スノーホワイト〜断罪された極悪王妃は溺愛されて真実を知る」をピッコマで連載中です。 こちらも是非ご一読下さい(◍•ᴗ•◍)✧*。
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