表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤高の勇者のプロデュース  作者: 湯切りライス
1章 帰還した元勇者と落ちこぼれのお嬢様
9/19

第6話 SFではなくファンタジー

昨日は更新できず申し訳ないです。

昨日更新できなかった分を含めて、本日は2話更新予定です。

こちらは2話目。

 さて、ここまでのやりとりでひとまず、今いる日本が何やらファンタジーに染まっていることは理解できた。


 疑問点は多く、聞かねばならない事、そして調べねばならない事も多い。

 しかし、浮かんだ疑問を一つ一つ丁寧に質問しては一向に話が進まないため、一旦疑問は飲み下すことにする。


「それで?私としては、そろそろ貴方の名前を聞かせて欲しいのだけど」


 さて、目の前のお嬢様は俺の自己紹介をご所望だが。問題はどこまで言うかだ。


ーー特に、異世界の勇者の経歴辺り。


 ファンタジーなんて創作の中にしかない俺のよく知る現代日本であれば、そんなことを宣った日には、親切な人であれば頭の病院を紹介してくれる事請け合いだ。


 しかし、この()()並行世界の日本は、何の前説明もなく≪回復術≫やら異能や≪英霊召喚≫なんて言葉が飛び出してくるわけで。

 つまり、あちらの世界と同程度には、"超常"が日常レベルに馴染んでいると推測できる。


「ああ、自己紹介な」


 ならば、こちらもある程度は明かした方が、都合が良さそうだ。

 孤立無援の現状において、諸々から考えれば目の前のお嬢様は少なくとも敵対的ではないと言っていいだろうし、俺に求められているのものは十中八九"戦力"だろう。


「俺の名前はカイト・タカ…いや、違うな。俺の名前は、高宮 怪斗(たかみや かいと)だ。見ての通り日本人。そして」


 仮に信じられなくても、万が一敵対したとしても、どうにでもなりそうだ。


「ちょっと前まで【勇者】やってた"怪物"だ。よろしくな」


 そう言って思いっきりサムズアップしたら、めちゃくちゃ怪訝な目で見られた。


ーーー


「気を取り直して。高宮 怪斗ね。怪斗って呼んでもいいかしら?」


「もちろんだ。こちらはお嬢様と呼んだ方が良いか?」


「固いわね。あなたは賀茂家に仕えてる訳でもないんだから、雛菊でいいわよ」


「OKお嬢様」


「…」


 ぎろり、と睨まれた。なるほど、やはり気の強そうな女だ。


「ふーん…高宮 怪斗。高宮 怪斗。私の記憶にはないわね。ヒルメは知ってる?」


 お嬢様ーーもとい雛菊は、顎に手を当てながら、何やら記憶を掘り起こす様子でヒルメに問いかけた。


「いえ、お嬢様。私の記憶する限りでは、高宮 怪斗という名前に該当する歴史上の偉人及び武将、剣豪等は存在しないかと」


「そうよねぇ。それで、ちょっと前まで【勇者】をやっていたと。【勇者】なんて"異名"を持つ異能士居たかしら?」


「いえ。そちらも登録はなかったかと」


 話の文脈から推測するに、彼女達はどうもこの日本の歴史上で俺の記録が無いかと考えているようだ。

 英霊と呼ぶからには、何か過去に偉業を成し遂げた人物である筈。それも、恐らく武力に長けた人物だろう。それ故に、俺はカードとして1つ、【勇者】を切った。

 【勇者】を名乗っておけば、ひとまずは俺の持つ戦闘力の言い訳くらいにはなるだろうという見込みがあったからだ。


 まぁ、残念ながら俺が【勇者】やってたのは異世界。いくら調べたところで日本、いや地球上に記録は一切存在しない。

 

 俺が現時点で切るカードは【勇者】まで。 

 この日本において異世界がどういった扱いをされるのかが不明瞭な上、目の前の彼女たちとの付き合いも浅い以上、そこまで現時点で明かすつもりはなかった。


「俺からもいくつか聞きたいんだが、良いか賀茂嬢」


「雛菊で良いって言ってるでしょ」


「とてもじゃないが畏れ多くてな。遠慮させてもらうよ」


 経験上、貴族と思しき家の令嬢のファーストネームを迂闊に呼ぶのは危険だ。

 何せ貴族令嬢ってのは、招待されたお茶会に出席するだけで婚約したことになっていたり、密室で二人きりになるだけで子供が出来ちまう不思議な生き物だからな。

 警戒し過ぎるくらいでちょうどいい。


「まあいいわ。それで、質問は?」


「まず、その異能ってのは何だ?」


 俺の質問に、雛菊は心底意外そうな表情を浮かべた。


「知らないの?」


「残念ながら、聞いたことが無いな」


 おそらく、あちらの世界でいうところの魔法に該当する物ではないかと予想しているが。


「おかしいわね…≪英霊召喚≫で召喚された英霊にはその辺りの必要な知識がインストールされるはずなんだけど」


 ああ、異世界に召喚された時は自動であちらの言語がインストールされてたな。

 ≪英霊召喚≫にも似たような機能が実装されているらしいが、俺の知識にそのようなものがインストールされた形跡はない。


 今回は未実装らしい。バグか?


「なら、歴史の話にもなるけど、簡単に説明するわね」


 雛菊が言うには、1999年7月1日、のちに"運命の日(アンゴルモア)"と呼ばれるその日、巨大隕石が南極大陸に突如落下し、それ以降原因は不明だが世界にマナが満ちた。

 その日から世界では、マナをエネルギーとして活動し人間を好んで襲う"怪異"と、それに対抗するように人間には"異能"が発生するようになった。

 以降、100年以上もの間、日本では賀茂家を始めとする異能五公が中心となって、人類を守るため怪異と戦い続けている、と。


 なるほど?


「なぁ、賀茂嬢。つかぬことを聞くが」


「なに?」


 アルカディア王も、どうやら嘘は言っていなかったらしい。


「…いま、西暦何年だ?」


 俺が異世界に召喚されたのは、西暦1999年の3月だ。で、向こうには約3年滞在した。普通に考えれば、いまは西暦2002年前後のはずだ。


「西暦?2120年だけど」


 俺はてっきり"並行世界パラレルワールド"の日本にでも飛ばされたもんかと推測してたんだが、どうやら違ったらしい。


「…はは、まじかよ」 


 俺が戻ってきたのは、元の世界は元の世界でも、100年以上も未来。


(普通未来にタイムスリップするなら、科学がめちゃくちゃ発達したSFものじゃねーの?)


 どうやら、現実の100年後の地球は、SFではなくファンタジーを選んだようだ。

毎日1話更新予定。

ブックマーク、評価いただけると、とても嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ