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色彩のエクリプス  作者: いちこ
3.各地を巡る旅と魔人の謎
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第45話 闘技大会

カルディア歴336年7月。

帝都に到着したノエル達。冒険者ギルドへ赴いた際にアリアが発見した帝都で定期的に開催されている『闘技大会』。


前回の旅とは違い時間的に余裕がある一行は、この闘技大会へ参加する事になった。

 ノエル達は帝都で一泊した後、闘技大会が開かれる闘技場へ向かった。この大会は希望者であれば誰でもエントリー可能で、2日間の予選を経て本戦トーナメントへ進む権利が得られる。トーナメントはさらに2日間にわたって開催され、武技や魔法を駆使する総合戦闘の場となる。


 午前中にエントリーを完了させるため、彼らは早めに出発し会場へと向かった。


「ノエル君は出るとして…私たちはどうしようか?」

「私は近距離戦闘があるのはちょっと…」

「私は出ようかしら。自分の力を試したいわ」


 エレナは参加するつもりだが、ソフィアは近接戦闘があるこの大会向きではないと不参加。アリアは不満顔だったが、レオンとアリアは他国の騎士としての立場上、参加ができない。


「じゃあ、お兄ちゃんと私がエントリーだね!」

「エレナも出るか。自分の力量を量るいい機会だろう」


 二人はエントリーを済ませ、ルールを確認しながら予選までの時間を待った。円形の闘技場には逃げ場がなく、降参を申し出るか、失神または戦闘不能になるまで戦いが続く。




 初戦はエレナだ。相手はこの国でも名の知れた冒険者であり武芸者でもある。恩恵は火のみ、その恩恵の少なさからハルバードを使った戦技に重きを置いている者だ。その戦術は炎魔法を罠として使い、ハルバードの攻撃と罠を駆使して隙を作り止めをさすのが基本スタイルだ。


 だが、エレナはこの相手を『ウィンドアクセル』のみを使い流麗な動きで相手の攻撃を躱し懐へ入ると体術で相手の腹に風魔法『エアブロウ』を放つ。その魔力に気を練り込まれた一撃に怯んだ相手の一瞬の隙に、エストックを喉元に突き立て圧倒して見せた。




 続いてノエルの初戦の相手は、魔法も使える武闘家で風と地の属性持ちである。エレナのように『ウィンドアクセル』を使った高速戦闘を試みる。対してノエルは己の体術を試すべく刀は使わず相対する。


 相手の初撃である右の前蹴りに対してこれを前進しながら躱し、相手の顔面と右手をそれぞれ掴み自らの蹴り脚を引くと、そのまま相手の軸足を払い地面に叩き伏せたその顔面へ拳の寸止めで決着をつけた。




 その後も順調に予選の相手を下していくノエルとエレナ。だが2日目の予選、決勝まであと少しという所でエレナは強敵と出会う。この闘技大会の前年度チャンプである『ドレイク・ヒューズ』と当たってしまったのだ。


「かような可憐な娘と当たるとはな。だがこの場では手加減はせんぞ」

「前年のチャンプですね。胸をお借りします」


 ドレイクはその幅広の大剣を、切っ先をエレナに向けて構える。対してエレナは右手のエストックを前に突き出し構えた。その緊張感は会場中に伝わり静寂が包む。


「ウィンドアクセル」


 ドレイクは戦闘開始と同時に自身に加速魔法を掛ける。


「ウィンドアクセル…ファイアボール!」


 対してエレナは自己加速の魔法を行使し加速し距離を詰めた後、攻撃魔法であるファイアボールを自身の加速に使う。ウィンドアクセルの速度に爆風の後押しを受けたエレナの速度は凄まじい。常人であればそれで終わりと思われる物だ。


 しかしドレイクは純粋な反射速度でこれに対応する。エレナの攻撃を読み大剣の幅の広さを利用した防御の後にエレナに反撃をする為の構えを取る。エストックの切っ先がドレイクの大剣に触れる寸前、エレナは左手に待機させていた魔法『エアバースト』で瞬時に上空へと飛んだ。


 眼前で上空へと飛んだエレナはドレイクにとっては消えたように見えたであろう。エレナは上空でエストックの一撃を見舞う前に『ファイアボール』を直撃させた。これに怯んだドレイクの背中を取ったエレナは、そのまま下降しながらエストックの一撃を見舞う。


 だがドレイクはこれを読んでいた。ファイアボールの衝撃に怯みダメージを受けながらも敢えてその衝撃を利用して身体を前進させ、エストックの一撃を躱すと身体を捻り回転力を乗せた大剣の一撃をエレナに向かって振るう。


 エレナこの一撃をかろうじてエストックで防ぐも武器ごと吹き飛ばされてしまう。そして倒れ込んだエレナに向けドレイクの剣が切っ先が捉えた。


「ま、参りました…」

「娘よ、素晴らしい立ち回りだったぞ。お主はもっと強い魔法を使えるのだろう?命を断たない様に加減されていなかったら俺が負けていたかもしれぬ」

「それは買い被りです、チャンプ。本当に良い経験をさせて頂きました」


 結果、エレナは本戦出場を間近に敗退する事となった。




「エレナ、運が悪かったな。相手があれほどの武人とは」

「エドワードを思い出したわ。あの人、強い」


「気を練り込んだファイアボールが撃っていれば勝てたかもしれないな…ともあれ強者であれば楽しみだ」

「お兄ちゃん、本当に楽しそう」


 エレナはどこかスッキリしていた。自身の力を出し切ってなお負けたのだ、それはまだ自分の伸びしろを予感させるものである。魔法と武技と操気術の高度な融合、それがエレナが目指すべきスタイルなのだ。


「雪辱は俺が果たそう。見ててくれ」

「うん!お兄ちゃんなら勝てるって思ってる」




 本戦トーナメントでもノエルは本気を出せるような相手に恵まれず、スタンダードな剣と盾を使う相手からポールウェポンを使う相手…その全てが魔法を高度に駆使するも、その全てを素手で叩き伏せていった。


 そして決勝戦、湧く会場の中心でドレイクと対峙するノエル。ノエルはドレイクから感じる気の強さからこれまでとは違うと感じ取り、その二刀を抜いた。その姿にますます湧く会場。


「妹が世話になったな。予選であんたと戦った四色持ちのエストック使いだ」

「ほう、あの娘の兄か。これまでで一番手応えがあったが、巡り会わせが悪かったな」


「あんたは強い。あとはお互いの武で語り合おうじゃないか」

「恩恵もなくよくぞここまで来たものよ。その武技、堪能させてもらおう」




 観客席から見ていたソフィアはそんなやり取りを見てコウテツの事を思い出していた。正しくはコウテツと出会ったノエルの顔を思い出していたのだ。


「ノエル、またあの顔してる…」

「あの顔?」

「うん、あれは強い人と会った時の顔。楽しそうな顔よ」


 エレナの問いにソフィアは答えた。しかしこの距離ではレオンとアリア、エレナでさえも見ただけでは判別がつかないようだ。


「楽しそう…ね」

「全くそう見えんな」


 試合開始の銅鑼が鳴る。その瞬間、ドレイクは『ウィンドアクセル』を使用し詰め寄る。ノエルはこの動きに対して自然体に構えた二刀に気を流す。人剣一体となったノエルは二刀の声を聞きながら相手の出方を伺う。この半年の修練の成果だ。


「ドライブ!」


 大剣を振るうものには定石の剣速を上げるドライブの行使、その加速により剣速を増した一撃をバックステップで躱したが、ドレイクはさらなる追撃を試みる。踏み込みつつ身体を回転させ、さらなる一撃を放つ。


「オーバードライブ!」


 それはドライブの上位魔法であり更に強い加速を剣に付与し、回転力と推進力を得た強力な一撃がノエルに襲い掛かる。しかしその剣はまたもや空を切る。ノエルの操気術による魔力の起こりと攻撃の起こりの感知、この二つが成し得る回避術である。




 そんな攻防の中、ノエルは剣に気を流して刀と語り合っていた。ドレイクは強い、その力はエドワードと並ぶかそれ以上だ。しかし、ノエルはただ避け続けているわけではない。


 二刀とより繋がりが増した今、以前感じたより繊細な気の流れの強弱をもう一度感じ取れるかを試していた。強者との戦いであればそれも可能ではないかと思っていたのだが、そう簡単にはいかないようだ。




(この男は一体…何もかもが見透かされ、まるで攻撃が当たる気がしない)


 ドレイクは虚をつくフェイントを交えた剣技も、魔法で強化された攻撃も一切通用しない事に焦っていた。そして剣だけでは敵わぬと確信したドレイクは切り札を使う事を決意した。それはドレイクにとっては隠し玉であり、これを使う事は武人として屈辱とさえ感じているものだ。


 一旦距離を取り、再度加速し低く踏み込むと回転切りを見舞うと共に『オーバードライブ』を使用した大剣の切り上げを見舞う。加速が十分に達したと同時に左手を放し奥の手を準備する。切り上げの一撃をあっさりと躱すノエルの動きを読み、バックステップをしながら奥の手である爆炎魔法を放つ。


「インフェルノ!」


 その瞬間、ドレイクは信じられないものを見た。自身の魔法がノエルの刀によって散らされたのだ。右手の大剣は頭上、これを振り下ろせばまだ勝負の行方は分からない。


 ドレイクは下がった位置から大きく踏み込み、大剣を諸手に構え上段から大剣を振り下ろす。ノエルはそれを知った上で左手の小太刀でこれを受けるだけでなく横に弾き剣の軌道をあっさりと変えると、太刀の切っ先をドレイクの喉元に寸止め、その瞬間に勝負は決した。


「見事な武技だ。完全に負けを認めよう、ノエルとやら」

「あんたはアルティスディアの将、エドワードに勝る武人だ」


「かのエドワード・トリステインを知っているのか?」

「ああ、俺が倒した」


 ドレイクは心から笑った。帝国にその名を轟かせたエドワードに勝ったというこの男に、自分が勝てなかったのも納得がいく。これほど清々しい敗北は久しぶりだった。


 両者は固い握手を交わし、大盛況の中で闘技大会は幕を閉じた。ちなみにこの闘技大会はシーズン制である。ノエルは今回のみ出場したが、この男はこの先も参加し続け、チャンプであり続けると感じた。




 今大会の優勝者として、ノエルは金貨5枚の破格の賞金を受け取った。これは、この試合が帝国主催の公式賭博であり、その賭け金で賄われているためだ。


「ノエル君はやっぱり強いな」

「なんかノエル君に勝てる人間なんて想像つかないわ…」


「お兄ちゃん、やっぱり凄いね!」

「おめでとう、ノエル。でもコウテツって魔人に比べたら余裕がありそうだったね」


 レオン、アリア、エレナ、ソフィアがそれぞれ祝福と感想を述べる。ソフィアの言う通りコウテツに勝る武人には久しく会っていない。そしてアルティスディアの王都で戦ったあの感覚を再現しようと試みたが、あの感覚はまだ完全に再現が出来ていない。


 さらなる高みが見えた()()()()を再現すべく、さらなる強者との戦いを望みながらもノエルは戦いを続けていくつもりだ。そう心に刻みながらも、歓声を浴びながらも会場を後にし、宿へと戻っていった。

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