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色彩のエクリプス  作者: いちこ
3.各地を巡る旅と魔人の謎
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第43話 ノエル達の特訓

カルディア歴336年1月。

エレナを冒険者仲間として加えたノエルとソフィアは、エレナのさらなる実力を引き出すべく特訓を施す事にした。それはノエルの操気法をエレナに伝授する事を意味する。


ギルドの練兵場では目立つため、適当な魔獣討伐依頼を受けては外で訓練を繰り返す日々が始まった。

 ノエルはエレナの力をより高めるべく、彼女にも操気法を伝授する事にした。そう簡単に会得できるものではないが、ソフィアのように殺気を感じ取ったり、ある程度魔法に込められればそれだけでも効果が見込める為である。


 ギルドで適当な魔物討伐の依頼を受けては外で実践的な訓練を行う日々。始めはノエルの気を感じ取り、万物の本質的な力である気に触れる事から始める。


「エレナ、これから俺はお前に殺気を当てる。これをまず体に覚え込ませるんだ」

「うん!お願いします!」


 エレナは神経を集中してノエルの気を感じ取ろうと身構える。その様子を見たノエルは太刀『天斬』を抜き、殺気を込めた一振りを寸止めするように放った。しかしエレナはこれを見て全く動かない。


「殺気が感じ取れなかったか?」

「ううん、絶対に寸止めするって分かってたから動かなかっただけ」


「なるほど…では少し方法を変えるか。エレナ、エストックを構えろ。さっきを感じた攻撃にだけ反応して見せるんだ」

「分かったわ」


 エストックを構え再度向き合う二人。万が一の場合にソフィアが側で見ており、例え致命傷になるような傷を負ったとしてもソフィアが治療する算段だ。


 ノエルは何度か刀を振るった後、鋭い突きをエレナの腹部に繰り出す。エレナは殺気を瞬時に察知し、後ろに下がりながら刀の切っ先をエストックで上から叩き、そのまま刀身を絡ませるように横に弾いてみせた。


「やるじゃないか」

「お兄ちゃんの殺気だけなら嫌というほど体で覚えてるもの」


 なるほど、皮肉にもあの再会時の体験が殺気には敏感になる切っ掛けを与えていたようだった。


「伊達にこれまで鍛えてきてはいないな。これなら次のステップに進めても良さそうだ」

「本当!やった!次は何するの?」


「次は自分の中にある気を感じ取り、それを練る練習だ。これはソフィアと一緒にやろう」

「うん、私もまだまだ慣れてないから一緒に頑張ろう!エレナさん!」

「うん!早く追い付かないと」


 この訓練は魔法を使える者にとっては最初は簡単のようなのだ。魔法を行使する直前のエネルギー、それが気である。この瞬間を感じ取りさえすれば、ある程度は魔法自体に気を込める事が出来るのである。




「魔法を使う直前のエネルギー…」

「そう、そうやって集中して…」


 これに関してはノエルよりもソフィアの方が教えるのが適任だと判断したノエルは、自らの鍛錬に集中する。先日のアルティスディア戦での感覚を思い出し、それを我が物とする為の訓練だ。


 あの時のノエルには相手の気の強弱と、どう動けば最も効率よく敵達を斬り伏せ進むことが出来るのかがハッキリと見えていた。だがそれはあの極限の状態で導かれたようなものであり、再現をしようとしても出来なかったのだ。


 二刀を構え、まず気を流し込む。そして刀に集中をし、己と刀との対話をしながら剣を振るう。時折、刀からの反応が強く感じられる事があった。それが恐らく良い太刀筋なのであろうと考えたノエルは、それをより多く感じ取れるように剣を振るい続ける。




 この訓練がおよそ3か月ほど進んだころ、ノエルとエレナに進展が見られた。まずノエルは安定して刀の声に応えることが出来、集中した際に刀と自分の境界線が消えるほどの人剣一体と言える状態まで達する事が出来るようになっていた。


 そしてエレナは操気術の応用たる魔法に気を練り込むことに成功していた。その練度は低くただ気を流し込む事しかまだ出来ないが、これまでの魔法とは違うものへと変貌していた。


「ノエル!エレナさん凄いよ、もう気を流し込む事を覚えちゃった!」

「ソフィアさんが魔法に関するコツを教えてくれたからだよ。まだ剣や他の事には応用できないわ」


 しばらくソフィアに任せきりだったが、元々資質のある軍人だったエレナだ。この成長は彼女のこれまでの努力の賜物であろう。


「じゃあエレナ。俺に向かって通常の魔法と気を練った魔法、それぞれ撃ってみろ」

「お兄ちゃんに?わかったわ」


 ある程度の距離を開けて互いに相対する。エレナはまずこれまで通り『ファイアボール』の魔法を放つ。ノエルはこのファイアボールを剣であっさりと散らし、気を込めて撃つように促す。


 エレナは自らの体内に流れる気の力が魔力に変換されるのを感じ取りながら、これに魔力とは違う純粋な気の力を練り込み『ファイアボール』を放つ。再度ノエルはこれを剣で散らすが、その切っ先は一瞬だが止まったように見えた。




「エレナ、まずは気を織り込む事には成功している。魔法の威力も上がっているぞ」

「本当!?」


「ああ。よく短期間でここまで習得できたな。まずは魔法と気配察知、この二つを磨いていき、その感覚を覚えた後は体術や剣技にも応用することが出来るはずだ。それには時間が掛かるだろうがお前ならきっと会得できるだろう」

「うん!頑張るよ!」


「ソフィアもありがとうな。ソフィアが教えてなければこうも早く会得できるものではなかっただろう」

「ううん。私も勉強になったよ。魔法に気を練り込む量の調節も何となくコツが掴めてきたもん」


 2人とも魔法を通じて操気術を学んでいる。このパーティならそうそう遅れは取るまい。




 そしてこの訓練は実に半年に及び王都周辺の各地で行われた。ノエルはより二刀を巧みに扱うようになり、『天命断』こそ呼び出せないものの確実に『天斬』と『命断』の力をより強く感じる事が出来るようになっていた。


 ソフィアは操気術の練度を高め、魔法に込める事でその効果範囲や威力を変える事に成功している。魔法に特化した操気術の扱い方を掴みつつあった。


 エレナは気を感じ取る訓練を行いつつ魔法にも気を練り込む練習を行う中で、本来は体術の打撃に気を乗せる事で実現する操気術の技を、風魔法『エアブロウ』として再現する事に成功した。


 既存の魔法にも気を乗せる事で魔法自体を防いでも体内へ気を流しダメージを与える効果も期待できるように練度を上げる事が目標だ。




「俺達の練度もだいぶ高くなってきたな。そろそろ東側へと旅立つことを考えても良いだろう」

「じゃあママとしばらく会えなくなるから、ママのお店で壮行会しよう!」

「私もそうしたいです。あのお店の料理、美味しいですものね」




 王都のイザベラの食堂に赴く前にギルドに今日の依頼の報告に行こうと立ち寄ると、ノエルは自身のプレートが琥珀色に変化している事に気が付いた。


鍛錬のためとはいえ依頼をこなす毎日、更には赤等級になってからも数々の死線を潜り抜けてきた成果であろう。


「ノエル!等級が上がってる!」

「ああ。赤から随分と長かったな」

「じゃあ昇級祝いも兼ねてママの店に行こう!」


 こうして王都の最後の依頼をこなした一行は、イザベラの食堂でこれからの報告と今後の予定などを済ませ、次なる旅の準備をするのであった。

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