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色彩のエクリプス  作者: いちこ
3.各地を巡る旅と魔人の謎
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第41話 ノエルたちへの恩賞

カルディア歴336年1月1日。

旧アルティスディアの王都は『平和都市ゼナリアス』と名を変えられ、王城にて戦勝記念パーティが開かれていた。ノエルとソフィアもこれに参加する事となり、慣れないながらもフリガイア皇帝との会話などをこなす。


そしてエレナとアリアのサポートもあり、お互いの想いを確認し合った。それもまたエレナ達にバッチリ見られており、気まずさと気恥ずかしさの混じった気まずい時間を過ごし続けていた。


戦勝記念パーティが続く中、宴はいよいよフィナーレへと向かう。

 祝勝記念パーティも終わりが迎える中、三ヵ国の代表者が前に出る。ノエルとソフィアは慣れないパーティと先ほどのソフィアとのやり取りを覗かれていた事で気まずさを感じており、ようやくこのパーティのフィナーレも迎えると安堵した。しかしそうは問屋が卸さない。


「皆の者、本日はまことにめでたい日である。我らウェスティア、セリアディス、フリガイアの三国は、この『平和都市ゼナリアス』を共同で管理することとなる。この都市を世界の平和の象徴として映し出すことが、我々の今後の大望である」


 ウェスティア王が威厳のある声で布告する。平和の象徴、この言葉に拍手が巻き起こる。そしてフリガイア皇帝が場を静め、これに続く。


「このめでたき日を迎えられた事、私も嬉しく思う。我がフリガイア帝国は独立を宣言して以降、アルティスディアの脅威に常にさらされていた。今日この日をもってそれが終わったのだ!」


 その力強い宣言に歓声が湧いた。会場の皆が笑顔の笑顔を見渡した後、セリアディス王は一歩前に出て場を静め布告した。


「このめでたき日を迎えたのはここに居る者、そして全ての兵が奮起して戦ってくれた結果である事は理解している。褒章は皆に授けるとして、特別にこの場で皆に紹介し褒章を与えたい者が居る」


 セリアディス王はこちらを見て言葉を続ける。


「我が国の誇りたる騎士レオンとその従者たち、そして勇敢なる冒険者ノエル殿とソフィア殿。前に出てきてくれ。」


 セリアディス王がノエル達一行を前に出るように促した。


「ハッ!」


 レオン、アリア、エレナは王の宣言に従い前へ出ると、ノエルとソフィアを振り返り共に前に出るように促した。


「レオン?」

「私たちもですか!?」


 突然の事に驚きながら急いで共に前に出るノエルとソフィア。




「さて騎士レオンよ。此度の活躍、誠に見事である。そなた達が奮闘した結果、最良の結果を得ることが出来た。そなた達は我が国の誇りである」

「有難きお言葉、感謝いたします。陛下」


「ノエル殿、ソフィア殿。貴殿らの活躍は特筆すべきものであったと聞いている。国に仕える者でないそなた達の大きな活躍が無ければ、この結果はなかったであろう。そこで、それに相応しい恩賞を与えたい。これはこの場に居る者の総意と考えてくれて構わない」


「ありがとうございます。陛下」

「あ、ありがたき幸せ、感謝いたします。陛下」




「うむ、ではノエル殿。まずはそなたの望みを何なりと申すがよい」


 ノエルには地位や名誉などの欲は一切ない。求めるのはこれからも冒険者として旅をつづける事である。ならば必要な者は何か、そう考えてから一つの結論を出す。


「ありがとうございます、陛下。それでは私には防具を作る為の素材を頂けないでしょうか?」

「素材とは…貴殿が望むなら地位も名誉も名工が鍛えた防具も与えるが、ただ素材を欲するというのか?」


 セリアディス王は意外な言葉に驚いているようだ。しかしノエルは礼を欠かさない様に注意をしながら言葉を紡ぐ。


「はい。私達冒険者にとっては防具は命を守る大切なものです。私にとって冒険を続ける為に最も望むものです。また私にとって防具の造りも重要です。自分の為の防具を作る為に素材、許されるのであればミスリルインゴットを頂ければこれ以上の恩賞はございません」


「なるほど、そなたはこれからも冒険者として生きいるつもりなのだな」


「はい。私はこれからも各国を周り見識を広げ、ゆくゆくは安住の地を定めソフィアと共に静かに暮らすつもりです。しかしそれも命があって叶う事。私の望みはそれのみです」

「ノ…ノエル!」


 ノエルは思わずソフィアとの関係に言及してしまった事に気恥ずかしさを覚えるも、嘘偽りない言葉である為、平静を装った。事前に散々アリアたちにからかわれていたのは怪我の功名だ。


「ふむ、そういう事であったか。我らとしては今後も力になってもらいたいところであるが、そなたの生き方を縛る事は出来ないだろうな」

「これまで通り国家からの依頼もお受けします。その際には全力で依頼の達成に力を注ぐと約束しましょう」


 王はノエルの意見を汲み納得してくれたようだ。深く頷いた後、ソフィアにも同様に語りかける。




「それは助かる。して、ソフィア殿は何を望まれる?」


 ソフィアもまたノエルと同様に地位や名誉には興味が無い。セリアディスにノエルと暮らす家をとも考えたが、ノエルの意思に反する。ならば同じように身を守り生き抜くための装備が欲しいと感じた。


「私は…私も防具に関する素材を所望させて頂きます。私は後衛の援護役です。体力が少ないため軽い素材の物で強靭な素材などあれば、ぜひそれを恩賞として頂きたく思います」


「ならば魔力を織り込んだ繊維を用意しよう。加えて防御に役立つ付与も施せる裁縫師も紹介しよう」

「ありがとうございます!」




「レオン、アリアの両名は騎士と騎士見習いの身分にある。そなたらにも特別に恩賞を与えるが、その身分も考慮する必要がある故、褒章については後日としよう」


「陛下、過分なほどのお褒めの言葉、深く感謝いたします」

「陛下、過分なお言葉、心より感謝申し上げます」




「さてエレナよ、お主は何か望みはあるか?」


「陛下、私はご存じの通りアルティスディアで生まれ育ち、兵士となりました。一時はこの国とも敵対関係にありました。今、私を兵として取り立てて頂けている事に改めて深い感謝を申し上げます」


「よい、その件については我々が決めた事だ。そなたが気にする事ではない」


 会場がどよめく。セリアディスではエレナの出自や経歴を知るものは多かったが、同盟関係にあるウェスティアとフリガイア帝国はこの事実を知らないからだ。それを感じ取ったエレナはウェスティア王とフリガイア皇帝に向け自らの過去を告白する。




「ウェスティア王陛下、フリガイア皇帝陛下。私はかつてアルティスディアの王立魔法学校に通っておりました。以前の私はアルティスディアの民その者で恩恵に胡坐をかいておりました。しかし自分を見つめ直す切っ掛けを兄とソフィアさんから貰い、己を律し高める為に学校を退学し、軍に志願しました。そして戦場で再び兄と相見え虜囚となりましたが、セリアディス王の寛大なお心遣いにより、こうしてセリアディスの兵として取り立てて頂いている身分にございます」


「なんと…兄に追い付かんとした結果、兄妹が戦場で相まみえるとは残酷な運命もあったものだ」


 会場からはそんな声も漏れ聞こえる。




「ではそなたはかつての生まれ故郷を亡ぼす作戦に参加したと…」

「その通りでございます、ウェスティア王陛下。私は過去の己を顧み、恩恵と血筋に縋るアルティスディアを離れられた事は僥倖だったと確信しております。作戦に参加する事に迷いはありませんでした」


 ウェスティア王もフリガイア皇帝もエレナの過去を知って驚き、セリアディス王の英断に内心では驚嘆した。最も、これを強く推したのは軍人事部の副官であるギリアムなのだが、その責を負うのは王であるのだから間違いではないだろう。


 エレナは自分の過去が会場の皆に伝わった事を確認し、一度心を落ち着かせようと深呼吸をしてから言葉を続ける。




「その上で不躾ながら私の望みを申し上げます。恐れながら私はこれから兄と共に冒険者として生きる自由を望みます」


「ほう、地位や名誉や財産などでなく、ただ自由が望むか。それほどに自由を重んじるのか?」


  ウェスティア王、フリガイア皇帝も含め、会場は一様にしてその言葉に驚きざわついた。このような絶好の機会にただ自由を求める、如何に敵国に居た兵士だとしても幾らでも選択肢はあるだろうに、エレナはただ自由の身を求めたのだ。セリアディス王もまたその言葉の真意に興味を抱いたようだ。


 エレナは自分の想いを正直に告白する。




「ただ自由になりたいという事ではございません、陛下。私はアルティスディア軍に所属した際、ただ兄と対等に話をする為に己を磨く事しか考えておりませんでした。しかし今の私は人としての高潔な姿…弱者を助け人を導く力強い存在を目指ております。ゆくゆくは恩恵に慢心する事のない真の強さを示し人を導く為、私は自由と苦難を望みます」


 ノエルはソフィアのこの言葉を聞き、その目指す所と困難な道を想像した。それはノエルだけでなくこの会場に居る者達も多かれ少なかれ感じ取っているだろう。その信念と決意の強さを感じさせるエレナの姿は、過去のエレナからは考えられないほど清廉で高潔なものだった。


 それは皆が一様にして思った事であろう。先ほどのざわつきとは打って変わって会場は静まり返っている。皆がセリアディス王の答えを待っていた。


「人としての高みを目指すか…興味深い!そなたの求める道の行く末、私もまた見てみたい物だ。よかろう、そなたに自由を与えよう。その道を進み、いずれ我らにもその名を轟かせて見せよ」


 セリアディス王は会場の反応を見てそういったわけではない。本心からこのエレナという人物に対して信を置けると判断したのだ。それは多くの策謀が蠢く王族社会で磨かれた人を見る目がそう告げていたのだ。


 エレナは王の言葉を聞き態度と言葉で深く感謝を示す。


「ご理解いただき感謝いたします、陛下。今後とも私はこの身を世界の為に捧げる所存です」

「世界の為と…よい!実によいぞ、エレナ・アッシュフォードよ!冒険者として是非その力を振るってくれたまえよ」

「ハッ!陛下のご配慮と機会を与えて頂いた事で、私は真に自分が望む姿を見出す事が出来ました。必ずやご期待に沿える者となるとここに誓います!」


 静寂に包まれた会場に拍手と歓声が巻き起こる。皆が理解したのだ、ノエルとソフィア、そしてエレナの意志の強さとレオンとアリアという忠誠心の強い騎士達だからこそ、困難な任務を乗り越えられたのだと。




 こうして戦勝記念パーティは和やかに幕を閉じた。そしてこの後また、冒険者としての日常が戻ってくるのであった。

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