第40話 戦勝記念パーティーと結ばれた絆
カルディア歴336年1月。
アルティスディアの滅亡によって歴史の転換点となる年の幕開けが到来する。
三ヵ国同盟による共同管理を行う旧王都はこの世界の名前を取って『ゼナリアス』という名に変えられ、現在はセリアディス王国、ウェスティア王国、フリガイア帝国で共同管理を行う都市になっている。
しかし、ゆくゆくはこの世界の国全ての国家の代表者を集めた自由都市として今後の世界平和の為の中心都市としたいという考えで纏まっていた。
そして今日1月1日は新都市ゼナリアス誕生として大きな祭りが催されておりかつての王都は賑わっている。旧王城もまた各国要人が集まりパーティを開いていた。
そして案の定、ノエルとソフィアはこの場所に呼び出されてしまったのだった。
つい先日、死闘を繰り広げたこの城で今は皆が笑い合い、料理を手に酒を酌み交わしている。今回の戦争ではウェスティア王国軍の挟撃作戦が最も敵軍にダメージを与え、これを機にセリアディス王国軍とフリガイア帝国軍に援軍を派遣できた事が大勢を決したと聞く。
ならば結局ノエル達の出番は必要なかったのではないかとも思われたが、あのまま王族を放置していれば潜伏し、また血族を祭り上げたレジスタンスが活発化するだろう。よって、王族の捕縛と処刑は最優先事項とされていた。
この最大の功労者としてレオンが率いた特殊任務にあたった5人、ノエルとソフィア、アリアとエレナが高い評価を受けこのパーティーに参加する事になった。事前にレオンから言われていた物の、やはりこういった畏まった場は得意ではない。単純に場慣れの問題もあるのだろうが、ノエルは元々あまり人を頼らないし信頼もしないタイプなのだ。
ノエルにとっては今まさにこの場はある種の戦場だった。皆が側にいるお陰で何とか平静を保っていられるが、正直、隙を見て逃げ出したい気分だ。いっそソフィアに『ファントムヴェール』でもかけてもらおうかと思う程である。
「貴殿らが王を討ち取ったという特殊部隊かね?」
「これは皇帝陛下。こちらから挨拶に行くべきところを、ご挨拶が遅れ申し訳ありません。おっしゃる通り私たちが潜入任務にあたった部隊でございます」
「貴殿がリーダーかな?」
「はい。私はセリアディス王国が騎士、レオン・マーシュにございます」
「お初にお目にかかります、皇帝陛下。騎士レオンに仕える見習いのアリア・キンスリーにございます」
「お目に掛れて光栄です、皇帝陛下。私はセリアディス王国軍所属、エレナ・アッシュフォードでございます」
「初めまして。俺…いえ、私は冒険者として今回の任務にあたりました。ノエル・カイウスです」
「初めまして、皇帝陛下。私はノエルと共に旅をするパートナーのソフィア・レイムです」
ノエルとソフィアは何とか返答する事が出来た。
「そなた達が今回活躍したという冒険者か!凄まじい活躍だったと聞いている。そちらのノエル殿は武勇に優れあの王国の切り札であるエドワード・トリステインを討ち取ったばかりか、そのまま近衛を全滅させ、王を捕らえたというではないか!貴殿のような武人、我が国でもそうは居ないぞ」
「そんな…私はただ戦場を掛けたまでです。それに仲間のサポートが無ければ私はこうしてこの場に立っていなかったと思います」
「謙虚な男なのだな、貴殿は。そちらの美しい女性もその魔法と戦術眼で全体を率いたと聞いている。こうして見ると若く奇麗な娘としか見えないが、そなたもまた類稀なる逸材であろう。全体を見渡し適切な判断をする、これは容易な事ではないのだからな。我が国の宮廷魔導士として欲しいくらいだ」
「そんな!勿体ないお言葉、感謝いたします。皇帝陛下」
「貴殿らのような冒険者が我が国でも活躍してくれると嬉しく思う。暇があれば我が国にも参られよ」
「有難いお言葉、感謝します。皇帝陛下」
フリガイア帝国の現皇帝である、『アーネスト・フリガイア』に突然声を掛けられどうにかその場を凌いだ二人。そして想定以上の活躍として伝えられている事を知ったノエルは軽くレオンを睨む。
「いや…つい報告に力が入ってしまってね。だが、あながち間違いでもないだろう?」
「だいぶ脚色されているように思えるが?」
「いやー、脚色はしてないよ?ノエル君の事を思うなら、ちょっと控えるべきとは思うけどねぇ」
レオンは目をそらしながら答えるが、アリアはレオンの報告内容自体は間違ってないという。
「私もあんなに褒められるなんて思わなかったです…」
「私たちの魔法まで把握して指示出してたじゃない。霧を使った攪乱と時間稼ぎ、それとあの大規模魔法の流れはソフィアの活躍なくして実現できなかったわ」
エレナまでソフィアを褒め称える。耳まで真っ赤にしてソフィアは悶絶していた。
その後も各国要人が現れては同じような事を言われ、その度に同じように緊張しながらも答える二人。エレナもだがレオンとアリアの対応は流石である。
そして要人たちは一様にして褒めるものの恩恵の有る無しに対しては無頓着に見えた。決して触れない様にしているわけではなく、本当に気にしていない様子なのだ。こんな事は3年前には考えられなかった。
あの日、雪山から出て人目を忍ぶ様に生きて来た自分が、フードで顔を隠す必要もなく過ごせている。そう考えると、この3年間は随分と多くの事を経験したように思う。
「ノエル?」
「うん?ああ、なんだか現実感が無くてな…こんな事になるなんて3年前には考えもしなかった」
「そうだね。私もノエルに会ってからこんなに世界が美しく感じるようになるなんて思わなかった」
「そうだな…」
エレナは気付いた。この二人の空気が今、確実に変化しているという事に。それはアリアも同様のようだ。二人は顔を見合わせて頷くと、ノエルとソフィアを二人きりにしようと促す。
「ノエル君もソフィアちゃんも、随分と慣れない場で疲れちゃったんじゃない?」
「そうそう、ベランダとかなら人も来ないだろうし、二人で夜風に当たってきたら?」
「流石エレナ!ナイスアイディアだよ!さぁさぁここは私達に任せて休んできなって!」
こちらの返答も聞かずグイグイと押されてベランダへと向かわされてしまう二人。外に出ると確かに夜風が気持ち良かった。
「風、気持ちいいね」
「ああ。街も活気があるようだ」
「私達、まだこれからも旅を続けるよね」
「もちろんそのつもりだ。ソフィアは嫌なのか?」
「そんな事ないよ!ずっとノエルと一緒に…」
ソフィアはそこまで言うと俯いてしまった。ずっと一緒に、というのはひょっとしてそういう事なのだろうか。流石のノエルでもこの状況にこの言葉、それが意味する事を理解した。
「ソフィア」
「え、あ、はい!」
「俺は…恋愛感情というものが良く解らない。だがお前の事が多分好きなんだと思っている」
「え?ノエル…」
「俺はお前と2人で暮らせる場所をずっと探しているつもりだった。それはつまり…そういう事なんだと思う」
「私と2人で…ずっと一緒に?」
「ああ。『お前と一緒に』だ」
その言葉を聞いたソフィアの目から涙が溢れ出す。
「私はずっとずっと一緒に居たいって思ってたよ!」
「そうか。なら俺の側に居てくれ。お前と共に生きていきたい」
「はい!」
そう元気に返事をしたソフィアがノエルの胸に飛び込む。ノエルはその温かさがとても愛しく思えて自然と抱きしめていた。そんな様子を3人の影が窓から覗いているとも知らずに。
しばらくお互いの温もりを確かめ合った後、二人は皆の元に戻っていく。何やらエレナは涙をこらえているような顔をしているし、アリアはすごく満足げだ。一体何があったのだろうか。
「ソフィアさん…おめでとう!」
「私はノエル君はやる時はやる男だと思ってたよ…」
「何を…っ!お前たち…まさか覗いていたのか!?」
二人はにっこり笑うと親指を立てて肯定した。途端にソフィアの顔が真っ赤に染まる。ノエルもまた自身の顔が赤く染まっているであろうと熱を感じた。
「言っておくが、俺は止めたぞ。だが力が足りなかった…すまん」
そういうレオンもまた少し目に涙を貯めている。こいつもまた共犯に違いないとノエルは確信した。気がそう告げているのだ。
「ソフィア。俺は今、人生最大の窮地を迎えていると思う」
「私もだよノエル…」
仲間たちの援護のような裏切りのような気恥ずかしい視線を受けながら、これまでよりさらに気まずい時間を過ごす二人であった。




