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色彩のエクリプス  作者: いちこ
1.色彩だけが全ての世界で
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第3話 ダンジョンへの挑戦

カルディア歴332年。

リバーベールで冒険者生活を始めたノエル・カイウスは最低ランクの灰等級の仕事をこなしていた。ギルド職員に自分が封印したダンジョンの情報を伝えその調査報告を聞く中で、ボスが少なく見積もっても青等級以上でないと無理だと言われていると知る。


そんな時にリバーベールの西方、歩いて2日ほどの場所にダンジョンが出現したとの報を受ける。ダンジョンの挑戦は完全自己責任で等級の条件なし、見返りも大きい。

ノエルはこのダンジョンに挑戦する為に西へと向かう。

 ノエルはリバーベール西方へと目指し徒歩で移動していた。彼にとって世間は信用が出来ないものであり、独りで生きると決めた彼には移動手段は徒歩しかない。もっとも、現れたダンジョンは平原の辺りだ。移動手段と言っても使えるのは馬くらいな物だろうが、あいにく冒険者家業を始めたばかりの彼には金銭的余裕はなかった。


 地道に歩く事2日、目的地に到着したノエルは既に挑戦者で賑わうダンジョンを目の当たりにした。それは塔のようである。ダンジョンとは実に様々な形があるとは知識では知っていたが、この目で見てそれを始めて実感した。


 入り口では中に入ってケガをした者だろうか?何人かがテントの中で倒れており治療を受けていた。これから挑戦しようとする者も今まで入って逃げ帰って来た者から情報を得ようとしている。出て来たも者は出て来た者で情報を金にしようと交渉をしているようだ。それはそうだろう。命を賭けて得た情報だ。ただでくれてやる義理はない。


 そんな連中を横目にノエルはダンジョンへと入ろうとした。不意に後ろから声を掛けられる。


「おいおい、(あん)ちゃん、おまえさん独りで行こうってかい?度胸は良いがそいつぁ無謀だぜ。若い内から命を無駄にするもんじゃねぇ。家族だって…」

「大丈夫、俺には家族はいないから」


 そうフードを取って髪と目を見せたノエルに声をかけてきた冒険者は言葉を失った。


(あん)ちゃんあんた…いや、すまねぇ」

「謝る事はない、この世界じゃ常識だ。それに不自由もしていない」

「そのなんだ、無事に帰ってこいよ」

「ありがとう」


 冒険者のそんな言葉を背中に受けノエルはダンジョンへと入っていく。冒険者には『彩無し(いろなし)』と侮蔑する者は居ないのか?それともさっきの人が良い人だっただけか?いや、どちらでもない。ただの同情だろう、そうノエルは思考を切り替える。




 この塔のダンジョンは内部が意外と複雑な造りになっていた。上に上がるにつれて細くなるわけでもなくただただ円錐状の塔で幅はかなり広い。下手な村程度はありそうだった。


 こんなものが人の生存圏のすぐ近くに現れたら、あるいは村の中に現れたらその村はどうなるんだろう?そんな疑問が浮かぶほどだ。


 そしてこのダンジョン、どうやらあちらこちらからトラップが飛んで来る仕組みになっているらしい。矢や槍や刃が天井、壁、床、ありとあらゆる場所から侵入者の命を奪わんと待ち構えていた。


 それらを起動させては避け、防ぎ、進んでいく。殺気はないもののトラップ発動の予兆として必ず周囲に穴や隙間があり、そしてそれらを起動させる音がするのだ。


 そのトラップがスイッチ式なのか何なのか良く解らないまま進む事が出来る者はそういないだろう。ノエルの『操気術』による空間の気を読む力がそれを実現可能としていた。妙なのは刃はともかく飛んできた矢も槍も全てが虚空に消えるのだ。これがこのダンジョンの主の能力の一旦かもしれない。


 そしてそれは恐らく正解であった。自分が通り過ぎた後方の気配のなかった場所から、突如として犬型の魔物が襲い掛かって来たのである。咄嗟にこれに反応したノエルは身を低くして空中から現れた魔物の下をくぐり、魔物がこちらを振り向くところを真っ二つに太刀で切り裂いた。


「なるほど、トラップと空間から突如現れる魔物の二重の守りか。面白い」


 ノエルはどこか楽しんでいた。師からの今際の際に託された遺言である「我が武の神髄を後世に残せ」という言葉を実践し、それがこんなにも役に立っている事が嬉しくも楽しくもあったのだ。彼は期待通り師の教えとその志を継いでいるようだ。




 1階はそれほど変化なく進み2階に到達すると、そこには多くの魔物が待ち受けていた。しかしここでもトラップの可能性は捨てきれない。最大限の注意を払いつつ魔物の群れに対処する、相手はまたもや犬型、いや狼なのだろうか?群れでは統率の取れた動きを見せる。


 雪山で修行していた時、狼の群れともやり合った事がある。ノエルとて無駄な殺生はしたくなかったが相手も生き死にを賭けているのだ、躊躇は死を意味した。そんな環境で培われた経験もまたダンジョンでは活きる。




 そして案の定、ここでもトラップは飛んできた。今度は先ほどの逆で何もない空間から突如として気の穴のような物が発生し、そこから矢や槍が飛んで来るのだ。


 ノエルは太刀(天斬)小太刀(命断)を構え虚空にも注意を払いながら戦い続けた。魔物が少なくなった所でふと思い立ち虚空に生じる気の穴を斬ってみと、なにやら小さく悲鳴のようなものが聴こえたが、それがこのダンジョンのボスなのか僕なのかは不明だ。


 ともかく、この残りの魔物を蹴散らさねば先には進めない。そう判断し、残りも油断なく仕留めていく。




 3階に辿り着くと、またもや広間だ。しかし今度の相手はそう簡単には通してくれそうにない。ノエルの前に立ちふさがるのは3体のオーガだ。


 身長は2.5mくらいだろうか、師匠に教えてもらった通りかなり大きい。そしてその手にはそれぞれ棍棒が握られている。円形の広間の向こう側、階段の前に奴らは陣取ってこちらを見ている。ノエルが歩き出すとオーガが笑った気がした。


 なるほど、このダンジョンは前と比較して確かに複雑で面倒な仕組みを持っているが、その本質はさほど賢くもない不意打ちという訳だ。ノエルは天小太刀(命断)を抜いたまま歩き近寄る。


 オーガは威嚇するような素振りを見せるが一歩も動かない。そしてある程度距離が近づき、オーガが2~3歩走れば届く様な間合いに入った時、虚空に複数の気の穴が生まれた。それはノエルの前後左右に生じた。


 その瞬間、ノエルはオーガに向かって走り出し前の気の穴を斬り、すぐに身体を横にずらした。オーガはノエルの行動を見て真正面から叩き伏せようとでも思っていたのだろう。ノエルの後方から飛び出してきた槍に腿を刺されてしまう。


 しかし、怯みはしたものの間合いに入ったノエルをその手に持った棍棒で叩き潰そうと振り下ろしてくる。大した根性だ、と内心思いつつもそれを避け一体目の首を落とした。


 その直後、仲間の事など全く考えていないかのように残りのオーガがノエルに襲い掛かる。首を切ったオーガの身体を蹴り一旦距離を取る。その空中にも気の穴が出来るのを感じたノエルは、自分の進行方向に影響する穴だけを狙って斬り、これを凌いだ。


 着地したノエルは残りのオーガが空振りした棍棒を握りしめ憎々し気にこちらを見ているように思えた。その棍棒は先ほどの死体に当たったのだろう、血に染まっていた。


 この状況で最も有利な立ち回りはオーガとの接近戦、そう判断したノエルは即座に距離を詰めオーガの棍棒を躱しその腹を、脚を、腕を切り刻む。


 その間も隙あらば狙ってくる気の穴からの奇襲を極力自分に当たらない様に立ち回り、必要あらば斬っていった。そうしている間に残りのオーガたちは見るも無残な姿となり、動きも鈍っていた。


 仕留める時こそ単調にならず慎重に動け、この師の言葉を反芻しながら二体のオーガの命を絶つ。そしてその上の階へと昇っていくノエル。


 4階はまた複雑な通路になっていた。狭い空間に罠、そして空中にも罠と魔獣の襲撃の可能性が高く、今度は通路で度々オーガと出くわす。難易度は上がっているが全く捻りが無い、とノエルはこのダンジョンの主に呆れていた。




 このダンジョンのボスにとって、ノエルという存在は最も相性が悪い相手だった。自慢の仕掛けも相手を弄ぶように仕掛けた空間攻撃も尽く弾き返され、配下のモンスターが次々と屠られていく。その様を感じ取りながら、着々と彼にとっての天敵が近づいていた。そしてその姿が眼前に現れる。




 このダンジョンのボスは小さい漆黒の体に翼と尻尾、そして赤い目に黒い瞳を持った悪魔だった。レッサーデーモンだろうか?気の流れを読んでもさほどの脅威に見えない。レッサーデーモンは腰に下げたポーチから次々と投擲武器や槍を虚空に放る。それはノエルの頭上と前方に振って来た。


 どうやらこの相手はやはり知能は高くないようだ。横に動けばあっさりと躱せるその攻撃手段の単調さにさっさと終わらせよう、そう決めたノエルは相手に向かって走り始める。


 左右にステップをしながら距離を詰めるノエルが徐々に近づいて来るその時、レッサーデーモンはポーチから槍を取り出し直接攻撃に出ようとした。これで意表を突いたつもりなのだろう。その跳ねられた首はしてやったりといった顔のまま地面に落ち、塵と化していった。


 この小物がボスじゃない可能性も充分に考えられると警戒を続けるノエルだったが、気配はなく戦利品のポーチがその場に落ちていた。それを拾い上げ、ダンジョンを後にする。


 なぜダンジョンが生まれるのか、彼らの目的が何なのか、そして彼らはどうして瞳の色が自分と一緒なのか、そんな事を考えながら外へと向かうノエルだった。




 帰る途中、このダンジョンに挑戦しようと入って来ていた者たちと遭遇し、ボスは倒したと告げると皆一様にガッカリした様子で帰っていった。なるほど、ダンジョンの攻略は早い者勝ちという訳だ。


 外に出ると元気な冒険者たちはすでにほぼ撤収しており、ギルドの職員と救護班がその場に残っているのみだった。先ほど声を掛けてきた冒険者がまた声を掛けてきた。


「おい(あん)ちゃん、やるじゃねぇか!自暴自棄になって入っていったのかと思いきや、まさか攻略して帰ってくるなんてなぁ」

「自殺するくらいなら冒険者になんてなってない」

「そりゃそうだ!ともかくお疲れさん!」


 そう言ってその冒険者はノエルの肩をポンと叩いて去っていった。心配して残っていたのだろうか?それとも慎重派の冒険者なのだろうか。恐らく後者だろう、そう考えギルド職員にダンジョンのボス討伐による封印が完了したと報告し、ノエルはリバーベールへと帰る。




 2日後、街に戻り冒険者ギルドに顔を出すとまずプレートの提示を求められた。そこで気付いたのだが、たった一回のダンジョン攻略でその色は一段上の緑に変化していた。


 そしてプレートの内容を読み取る魔道具に翳し、今回の報酬額が決まる。面倒だが大した相手でもなかったし報酬は期待できないだろうと考えていたノエルだったが、その予想はいい意味で裏切られた。


 なんと今回のダンジョン踏破の報酬は小金貨5枚と評価が出たのだ。ダンジョンの脅威性はボス出なくその中から出てくる魔物によるらしい。これを放置していた場合、次第に魔物が増えオーガや狼型の魔獣が近隣を襲う恐れがあった。この被害を未然に防いだことが高く評価された理由だった。


 そして嬉しい誤算がもう一つ。それはあのレッサーデーモンが持っていたポーチだ。それはマジックポーチという希少なアイテムで、ある一定量のアイテムをその中に仕舞っておけるらしい。これがあれば旅も楽になる。ノエルはこの一件でダンジョンにすっかり魅入られてしまった。




 そしてリバーベールで過ごす事2年弱、彼はその間にリバーベール近郊に発生した全てのダンジョンを踏破。今回の件を含む計6つのダンジョンを単独攻略した彩無し(いろなし)として「黒の踏破者」と呼ばれるようになった。それは近隣のギルドまで噂が届くほどだった。

おまけ

第2話で使おうと思っていたDALL-E3作のノエル、パリコレバージョンです。

彩無しである事をマントとフードで隠しつつも、鍛えた腹筋で筋肉をアピールする。そんな隠したいけど見せたいという繊細な心を表現した彩無しの最新トレンドとなっております(。-`ω´-)ンー

挿絵(By みてみん)


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