第34話 三ヵ国同盟締結
カルディア歴335年11月。
ノエル達一行は数日前にウェスティア王都に辿り着いた。レオン達3人は王城へ出向き王へ謁見し同盟に関する書状を渡す。
王の計らいで豪華な宿を用意してもらった一行は旅の疲れを癒しながらもウェスティアの返答を待つ。
ウェスティア王国。ウェスティア大陸から名前を取った大国であり、過去アルティスディアの支配下にあった国である。セリアディスの使者としてレオン達と共にこのウェスティアに渡り、順調に旅を続けて無事王都に辿り着いてから4日目、同盟に対する回答を受ける為、レオン達は再び王城へと脚を運ぶ。
同盟は成立し、より具体的な話し合いを行う為に遠距離でのやり取りを迅速に行う魔道具を貸与された使者が3人同行し、セリアディスへ帰国する事になった。一同はアルティスディアが動きを見せる前にこの包囲網を構築するべく、ウェストセーブルアズルから海路でセリアディスへと帰還する。
その旅路はおよそ2週間に及んだが、大きな嵐などのトラブルに合う事などもなく、無事にセリアディス西方のシーネットレットという海岸沿いの小さな町に到着した。ここまではウェスティア海軍の船で来ていた為、漁村に近いシーネットレットには船を寄せられない。海上で小舟に乗り換え上陸し王都へと急ぐ。
王都に着くなりレオンは使者3人を案内し国王へと報告をしに行くが、エレナはともかくなぜかアリアまでノエル達と一緒に残っていた。
「色々と周って来たけど、やっぱり祖国が一番落ち着くわね!」
「アリアはレオンと一緒に行かなくて良かったのか?」
「あー、いいのいいの。そういうのはレオンに任せておけばねー」
アリアはすっかりリラックスしているようだ。そんな時にふとエレナが口を開く。
「…お兄ちゃん達はこれからどうするの?」
「俺達は冒険者だ。依頼があればこなすしダンジョンがあれば封印に向かう。だが、アルティスディアの脅威に関しては俺も見過ごせないと考えている。レオンとも話したが、もしこれからまたこのパーティでアルティスディアに対して何か作戦を行うような依頼があれば、その時は一緒だな」
「…そっか。ありがとう!」
エレナの顔は明るい。ノエルの返答が嬉しかったのだろう。ノエルはアリアとエレナ二人に向け自分達の今後について語る。
「しばらくは王都の冒険者ギルドで活動をするつもりだ。何かあったらギルドか宿の方まで連絡をくれ」
「オッケー!すぐに呼び出すから覚悟して待っててね!」
「アリアさん、ちゃんと依頼で呼び出してくださいね?」
「ソフィアちゃんはしっかり者だなー、ノエル君は幸せ者だね!」
「ああ、頼りになる」
アリアの茶化しが通じていないノエルは否定せず答えるが、ノエル以外の3人にはしっかり意味は伝わっている。そしてアリアとエレナが哀れんだ目でソフィアを見つめていた。
「あはは…こういう人なんです」
「ソフィアさん、何かあったら相談に乗るから!」
「あ、ありがとうエレナさん」
「私も真面目に協力するよ…」
流石のアリアもこの件については真面目に協力を申し出てきた。
「あはは…ありがとうございます」
そんな3人のやり取りを見てもノエルは何のことだかさっぱり分かっていない様子だ。だがエレナもアリアも理解している。この男には時間を掛けてやらないとダメなのだと。今はまだその時ではないのだ。
「では俺達はギルドに向かうか。依頼達成の報告もあるしな。二人ともまたな」
「うん!アリアさん、エレナさん、また会える日を楽しみにしてますね!」
「色々と助かったよ!二人ともありがとう!」
「お兄ちゃんもソフィアさんも、またね!」
こうして長かった護衛依頼も無事完了した。同盟自体も良い結果に落ち着きそうであり、ノエル達にとっても実りの多い旅となったこの依頼は、今後ノエルとソフィアにとってかけがえのない物として記憶に残る冒険となっただろう。
「ようこそ!セリアディス冒険者ギル…あれ?ノエルさん達じゃないですか!お久しぶりです」
「ああ、久しぶりだな。先ほど国からの護衛依頼を達成した。確認を頼む」
「かしこまりました。今回は長期に渡る依頼を受けて頂き感謝しています。プレートと書状をお預かりしてもよろしいですか?」
「ああ。頼む」
ノエルはレオンに渡されていた依頼達成に関する書状とソフィアの分の冒険者プレートを受け取り受け付け嬢に渡した。
「はい、確認が出来ました。では今回の報酬がこちらになります。でもノエルさん、依頼中にまでダンジョンに行ったんですか?」
「ああ、丁度情報があってな。赤等級と青等級、その他が灰等級というのも不自然だろう?」
「そういう理屈でみんなを説得してダンジョンに連れて行ったんですよ…」
ソフィアはまたもや呆れ顔だ。受け付け嬢も流石に呆れているようだった。
「ノエルさんは本当にダンジョンがお好きなんですね。その若さでこの数は驚異的な封印数ですよ」
「そうなのか?もっと上が居ても良いと思うが」
「どこの国にもそんな冒険者はいません。私達としては頼りがいがあって嬉しいですが、ソフィアさんの為にもあまり無茶をしないでくださいね」
「そうだな、確かにソフィアには苦労を掛けている。気を付けるとしよう」
「本当かなぁ…」
ソフィアはノエルを訝しげに見る。ノエルはこれでも一応は気を掛けているつもりなのだが。
ウェスティアとの同盟関係を築くための使者を招いた数日前、フリガイア帝国との同盟も順調に進んでいたようで既に使者が到着していた。これにより三ヵ国で対アルティスディア包囲網を構築し、この脅威からの防衛・排除に協力する事に合意が取れたことになる。
同盟の詳細についての細かい調整などが続くと同時に、同盟国三ヵ国では着々と戦争の準備が進められていった。事前に内通者は特定できており、これを逆手にとって誤情報を掴ませ虚をつく作戦が軍本部で建てられている。
公には戦争は12月の末頃に開始され、一般の兵たちにもそう伝えられている。だがこれは誤情報であり、実際の侵攻開始時期は12月初頭。すでに同盟各国の要人にも同様の作戦は伝わっており、その準備が水面化で進められていた。
内通者がこれを掴み、知らせた事をトリガーに内通者を捕らえ情報漏洩を阻止。速やかに各国の軍を展開し三ヵ国の総力を持ってアルティスディアを包囲し占領下に置く算段だ。
そしてこの作戦の中で最も危険視されている人物こそがあのエドワード・トリステイン子爵だ。エレナの情報によればアルティスディア軍でもかなりの強者という。特殊部隊の大隊長を務めるのもその実力を買われての事だろう。
爵位さえ高ければ、軍の最高指揮官にさえ任命される程の実力と実績を誇る人物、それがエドワード・トリステインだ。そしてこれに対抗して見せた人物としてノエルの名前が挙がったのはあの一件があれば必然であった。
ノエルもそれを予感しているのであろう。あの男の剣技と魔法の技術は高く対抗できる戦力は限られる。おまけにその周囲には精鋭が揃っているとなれば、傭兵として依頼があり再戦する事は容易に想像できた。
そしてその予測は当たり、秘密裏にノエルに依頼が届く。その依頼を持ってきた人物はエレナだった。
「お兄ちゃん、久しぶり」
「エレナか、久しぶりだな」
今、兄妹はギルドではなく王都のノエルが宿泊する宿の一室で対面している。あれ以来、二人きりで会ってもやはりギクシャクするような事もなく自然と話が出来るようになったとノエルは感じていた。
「しかしわざわざこんな所まで足を運ばなくても呼び出せば出向いたものを、一体どうしたんだ?」
「私が会いたくて来たのよ。それくらい良いでしょ?」
その言葉とは裏腹にエレナは一枚の書面を机の上に置く。それには冒頭に「秘密裏の依頼。口には出さない事」と書かれていた。
「確かに、お前が会いたくて訪ねてくるというだけなら呼び出すのは不自然だな。アリアならやりそうなことだが」
「ふふふ、アリアならやりかねないわね」
そんな兄妹の自然の会話を取り繕いながらも依頼の内容に目を通す。この時ノエルは初めて軍の作戦の詳細を知る。エレナは今回のこの依頼に関連する人物であったため、一般兵でありながら作戦の真の目的を知らされていた。
「レオン達は元気か?アリアは…元気がない所が想像できんな」
「元気よ。今は忙しいけど、暇を見ては修練に付き合ってもらってる。アリアは想像通りよ」
どこに目があるか分からない以上、兄妹としての自然な会話を続けながらも、依頼内容を確認していくノエル。それは以前のパーティでRTUを壊滅まで追い込み、最終的に逃亡すると思われる王族の確保を行うというものであった。
「アリアの元気さはどこから来るんだか…。エレナがどれだけ成長したかも気になるな」
「修練だけでは限界を感じているわ。やっぱり実戦に勝る経験は無いって思う。あの旅は本当に有意義だと改めて感じているもの」
そう言葉を交わしながらノエルは依頼受諾のサインをした。これは冒険者として受けるものだが事前にギルドには申請がされていない。報酬などは直接王都から出るのであろう。
「暇があったら練兵場に来てくれても良いのよ?お兄ちゃんとの訓練は実りが多いもの」
「そうだな…考えておこう。その場合はどのように王城に出向けばいいんだ?」
それは作戦遂行にあたり合流する為の手筈の確認だ。エレナは練兵場という言葉を言う際に依頼の詳細が掛かれた紙を指さしてサインを送っていた。
「そうね。『エレナから指導を受けたいと申し出があった』と言ってくれればいいわ」
「分かった。都合がいい時期などはあるか?」
「私すら今は忙しい中で訓練もあまり時間が取れないから…11月末くらいに来てくれると嬉しいな」
「よし、そのようにソフィアとも話し合っておこう」
「うん、宜しく!元気な顔が見れてよかった。また来るね」
「ああ。いつでも訪ねてこい」
ノエルのその言葉はこの隠れたやり取りの為なのか、それとも本心なのか分からないが、エレナはポーカーフェイスを保ちながらも心の中は嬉しさで溢れていた。たとえそれがどんな意味だとしても、そんな言葉を聞ける日がこんなにも早く訪れるとは思わなかったからだ。
ノエルの元を後にしたエレナ。そしてそんなエレナの姿を見送りながら、あの男との再戦と自分に課せられた使命の重さと、それに対する心躍るものを感じているノエル。時は過ぎ、遂に決戦を間近に控える。




