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色彩のエクリプス  作者: いちこ
2.対アルティスディア同盟締結
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第30話 5人のダンジョン攻略

カルディア歴10月。

ナイアドリアのムーンライトベイへと船で渡ったノエル達5人。無用な混乱を避ける為、冒険者として行動をする為にセリアディス本国でレオン達は冒険者登録をしていた。冒険者は新しい土地に来たらまず冒険者ギルドに顔を出す。


偽装の為にギルドに寄ったはずだが、ノエルはダンジョンの情報を発見し攻略を提案。5人中灰等級が3人というのは不自然というやや強引な主張でダンジョンへと挑む事を了承させ、ナイアドリアで発生したダンジョンへと挑もうとしていた。


地下へと下るダンジョンの中でノエル達を待ち受けるダンジョンと魔人はどういうものなのか。ノエル達は覚悟を決めて地下への階段を下って行く。

 洞窟の形をした入り口から進むと整えられた階段があり、階段を下りきったその先はどうやら迷路型のダンジョンのように思えた。この手のダンジョンは傾向として虚を突いてくるものが多い。


「今回は迷路型のダンジョンか。罠なども考慮すると俺が先頭を取った方がいいだろう。ソフィアは俺の後ろを、その背後を3人で守ってくれないか?」

「経験の多いノエルに任せよう。ではソフィア君の背後はエレナ、俺とアリアが殿を務める」

「オッケー、それでいきましょう!」


 陣形を組み迷宮内を探索する5人。先に入っていった者たちが居る事を考えると魔獣などの発生はしばらく後と考えられたが、その予想は裏切られた。彼らの目の前には狼人の3人組が立ちふさがる。


「先に入ったパーティか?もう封印が済んだのだろうか?」


 ノエルの問いかけに応えず、武器を構える狼人たち。ダンジョンで争うのがこのナイアドリアでは当たり前なのかとレオンは戸惑うが、ノエルは彼らから発する気が通常の悪意や殺意ではない事に気が付いた。


「ソフィア、頼んだ」

「はい!グリマーアロー!」


 ソフィアの射撃魔法を喰らった狼人たちはまるで幻のように姿を消した。ソフィアもノエルと同じように気の流れをある程度感知できるほどには操気法の習熟度を上げている。その意図を正確にくみ取り幻影である事を看破していた。


「何々?一体どういう事?」

「あれは幻影だ。もしかするとこのダンジョンに入った亜人たちはこれに苦労をしているのかもしれない。だとしたらボスはかなり性格が捻じ曲がっているな」

「それも相手の『気』を読んだのか?」

「ええ。私にもわかるくらいでした」

(神の恩恵とは異なる人の力の根源、気の力…)


 アリアとレオンが操気法の便利さに感心している中、エレナはその力を持つ兄に改めて興味を抱いていた。恩恵の与えられた自分と与えられなかった兄。だが人はその努力で恩恵の差を埋める事すら可能なのだ。兄はそれを証明している、その生き様がエレナをここまで変えたと言っても過言ではない。


「どうしたエレナ?先に進むぞ」

「あ、うん!」


 つい親し気に返事をしてしまったと思ったエレナだったが、ノエルはさして気にも留めていない様子だ。その内、兄とも少し距離を縮められるのだろうか?そんな余計な思考が過ぎるのを振り払い、エレナは兄の背中を追う。




 しばらくは幻影達が立ちふさがり、その度に念のために声を掛けるノエル。ソフィアに負担を掛けるといざという時に魔法が使えなくなる事も考え、先頭はノエルとエレナ、その後ろにソフィアとアリア、殿にレオンと陣形を変え、幻影はノエルとエレナで対処をする事にした。


 幾度となく幻影と遭遇する中で気の質が異なる者達と出会い、こちらの問いかけにようやく反応する者達が現れた。


「お前たちはダンジョンに挑んだ冒険者か?」

「ああ!そうだ、このダンジョンは性質が悪い。ここに居ないはずの同胞の幻影が出てきやがる」


「それはさぞかしやり辛いだろう。今の所は人間の幻影が出ていない分、俺達にはまだ躊躇する相手は出てきていないが、そちらには精神的に辛いな」

「例え幻影と分かっていてもな、同胞を斬るというのはな…俺たちは引き上げる。まだ奥を目指している奴らもいるが、もうたくさんだ!」


 虎人2人に豹人と狐人で構成されたパーティだったが、彼らの精神的消耗は激しいと見えた。狐人は特に術に秀でていると聞くが、幻影を看破するのも彼の役目だったのだろう。一段と消耗しているように見える。


「報酬は貰う事になるがこのダンジョンは俺達に任せてくれ。お前たちの分まで悪趣味な魔人を切り刻んでここに来た事を後悔させてやるさ」

「情けない話だが…頼む」


「待ってくれ。一応情報を貰ったんだ、これは情報量として受け取ってくれ」

「お、おお。助かるぜ」


 ノエルは一人当たり銀貨1枚として彼らに渡すと、情報量を受け取った彼らは地上を目指して去っていった。幾度となく分岐の有る迷路型のダンジョン、アリアにマッピングを任せたが意外にもこういう事は得意なようで、キチンとマップを作成してくれていた。ある程度探索したノエルは一旦立ち止まるとマップを見てある程度の推測を立てる。


「この構成…恐らく先に進む道も幻影で隠されている可能性が高いな」

「えー!本当に性格悪いわね、ここの魔人」

「まだそうと決まったわけじゃないが…よし、当たりをつけて進んでみよう」




 ノエルはそう言うとマップで記録されていない場所でこのダンジョンの中心点に近い部分を目指し始める。そしてその予測は当たっており、一見ただの通路に見えた横の壁にかすかな空気の流れを感じた。


「ここだな」


 ノエルがその壁に小太刀(命断)を突き立てると、壁をスルリと抜ける。左右に振って幅を確認し、気を流しその壁を斬り割くと下に降りる階段が現れる。さらに階下へと進む一行。


 地下2階では幻影にスケルトンが紛れており、先ほどと違い実際の攻撃を伴った物へと変化していた。亜人にとってはただでさえ見知った顔な上に倒すと骨が転がる、これはかなり堪えるだろう。スケルトンを斬り払いながらマッピングを進め、さらに階下へと進む。


 地下3階には大きな扉がどっしりと構えて居り、その前で3組のパーティーが休んでいた。ここまで辿り着くだけで相当な精神的ダメージを負っているのだろう。難易度の割に疲弊しているように見受けられる。


「先に入った冒険者達だな。魔人はこの先だと思うが、行かないのか?」

「なんとかここまでに進んできたがかなり消耗していてな。休んで挑むか検討していた所だ。皆ここまで辿り着く事は出来たみたいだが、どうにもやり辛い。ここまでの経験からすると魔人も相当厄介だろう」


「だろうな。俺たちは人種が違うせいか同胞を斬る事なく進めたのは運が良かったが、お前たちには酷なダンジョンだろう。ここのルールではダンジョンに挑むには順番待ちと言われていたが、魔人に挑む際も同様か?」

「いや、それは別だ。挑むなら先に挑んで構わん」

「では悪いがそうさせてもらおう」


 ノエルは亜人の冒険者達より先に扉を開け、魔人の待つ部屋へと入る。そこは美しく輝く鏡のような壁面で整った形の長方形の大きな部屋だった。そしてミスリル製の軽装備の鎧とエストックを持った人型の魔人が奥で待ち構えていた。やはりその結膜は赤く、黒目に黒髪。だが今回の魔人は角はなかった。コウテツやイズナとは別種の魔人だろうか?


「人間?なるほど、お前たちなら確かに消耗は少なく辿り着けるという事ね。でも、ここではそうはいかない!」


 魔人は手に持った水晶を掲げるとノエル達の間に無数のスケルトンを召喚した。その姿は人間の幻影を纏い、その中には見知った顔すら居る。あの水晶で挑戦者たちの出会って来た人物でも再現しているのだろうか?


「ふふ…お前たちは私を見つけることが出来るかしら?」


 そう言った魔人の姿もまた幻となって消え、その場には人間の姿をしたスケルトンで埋め尽くされる。


「何よこれ…本っ当に性格悪い魔人!」


 アリアは怒り心頭といった様子だが、その顔は今まで見た能天気な物ではなく怒りと焦りに支配されているように見える。見知った顔が多いのだろう。


「ソフィア!雑魚を散らすのは任せる、俺は魔人をやる」

「うん、いくよ!フレアインパクト!」


 敢えてタイミングを教えたのは、ノエルの視界を潰さない様に光源を直視させないための配慮だ。そしてこういった光源を強く発する魔法は皆に事前に伝えてある。レオン達は咄嗟に目を閉じこれを防ぐ。


 ソフィアはフレアインパクトを前方に大きく展開させ一気に敵の幻影ごとスケルトンを消し飛ばした。軽く気を流すだけでも幻影が消える事を事前に確認できていた事は僥倖である。ソフィアの操気術はまだまだ未熟だが、それはあくまで気を流し込む量や質の問題だ。単純に混ぜるだけならソフィアにとってはそう難しくなかった。


 その間にもノエルはスケルトン達の只中に突撃し、手にした太刀(天斬)小太刀(命断)で次々と幻影ごとスケルトンを斬り払っていく。その中には確かに見知った者もいたが気の流れが違うと告げている。気を感じ取る事もノエルの取っては知覚の一つである為、斬る事に一切の躊躇いはない。


「ノエル君、今()()()()()()()()()()()()()()よね…」

「アリア!集中してください!」


 その行動に若干引いているアリアにエレナは檄を飛ばす。そう、幻影の中には仲間の姿さえあった。だがノエルにそれは通用しない。ソフィアは長射程でやや範囲の広げた『ライトニングブレイズ』でノエルの左右に迫るスケルトン達を薙ぎ払いサポートをする。エレナ達3人はそのソフィアの護衛に徹していた。




「どんなに幻影に紛れようと、お前の位置はお見通しだ!」


 ノエルは魔人の前のスケルトン達を横薙ぎに切り払い、返す刀で虚空に隠れた魔人を攻撃する。これを手にしたエストックで防ぐ魔人は忌々し気に吐き捨てる。


「貴様、仲間の幻影まで躊躇なく切り捨てるとは冷酷極まりないな!」

「陰険な魔人に言われてもな。俺は真贋を見極めて斬っているだけだ」

「クソ!恩恵を無いものが私を手こずらせるとはな!」


 魔人と切り結ぶノエルは相手の剣の力量がさして高くない事を感じ取り、隙を見て蹴りを見舞い片手に持っていた水晶を叩き切ると、その効果が切れたスケルトンたちの幻影は解けた。これでエレナ達も心置きなく戦えるだろう。


「おのれ!」

「悪いがお前では役不足だ」


 魔人のエストックの攻撃を見切りながらタイミングを計り太刀(天斬)で容易く弾き飛ばすと、ノエルは小太刀(命断)を手放しその首を左手で掴み、足払いで後方に転倒させそのまま床へ叩きつけ首をへし折った。魔人の装備品が豪華だった為、血で汚れたり傷をつける事を避けたのである。そんな余裕があるほどノエルと魔人の力量差は歴然だった。


 魔人がその命を散らした瞬間、スケルトン達は糸が切れた人形のようにその場に崩れ去る。そして魔人もまた塵と化し虚空へと消える。




「魔人から回収できたアイテムは中々有用だな。ソフィア、こいつのミスリルチェインを服の中に着こんでおけ。これなら軽いし動きも阻害しないだろう」

「ミスリル製のチェインメイルなら私でも使えそうですね」


「エレナ、お前はショートソードを使うのは何か拘りがあるのか?こいつのミスリル製のエストックなら重量的にもそれほど扱い辛くはないだろう?」

「え?私がもらっても良いの?」


 そこへアリアが文句を垂れる。


「あー!それズルい、なんだかんだ妹が可愛いんだノエル君は!さっきも私の幻影を容赦なく斬ってたもんね!」


 アリアは回収した装備品の分配か、幻影を斬った事がお気に召さないようだ。


「アリア、あれが偽物である事は分かっていた。短い間でも共に旅をしてきた仲だ、本物と偽物の違い位わかるさ」

「へー。それ、どういう意味で?」

「気の流れで判る。アリアの気の質は理解している」


 その返答は悪手だ、そう心の中でエレナは兄の返答に呆れた。そこは幻影より本物が美しいなどの甘い言葉でないとアリアの性格ではヘソを曲げるに決まっていると分からないのだろうか?


「気ねぇ…それでもちょっとは戸惑っていいんじゃないかな!」

「アリア、ノエル君は俺達とは違う感覚を持っているんだ。理解しろ」

「ぶー。あ!じゃあそのミスリルの防具くれたら許してあげる!」


 レオンが諭すも不貞腐れたままのアリアは防具を要求する。女性型の魔人の装備だ、エレナはまだ一兵士に過ぎないだろうしここはアリアに渡すのが妥当だろう。


「ああ、構わない。アリアにはピッタリだろうしな」

「さっすがノエル君、話が分かるねぇ!」


 どうやら機嫌は直ったようだ。能力は高く頼りにはなるのだが、アリアの奔放な性格はノエルがこれまで会って来た人間たちとは異なるものだ。ノエルも戸惑う事がしばしばだ。




 魔人討伐により封印の完了をしたと外の冒険者達に告げると、悔やみながらもどんな様子だったかと聞かれた。そこでもまたアリアはノエルの行動に文句を言っていたが、それを聞いた亜人たちはノエルを見て若干引いているように見えた。ただ、如何に余力を残していたとはいえ同条件でボスを攻略したのだ。文句は出ないだろう。


 一行は外まで無事に脱出し、ダンジョンを監督しているギルド職員に封印成功の報告をすると馬でムーンライトベイまで戻っていった。


 ノエルは今回のダンジョンで皆の装備品が整った事に満足していたが、ダンジョンの質としては低い物で報酬は少な目、小金貨2枚だった。現れる敵がせいぜいスケルトン程度なのだ。これは妥当だろう。


 そしてノエルの読み通りレオン・アリア・エレナの冒険者プレートの色は一度の攻略で緑へと昇給。これで路銀も補充し装備も整い、不審な点もない。安心して旅を続けられる手筈が整った。




 一行はムーンライトベイで一泊した後、ウェスティアを目指す為にウェイブリーフを目指す事になる。

DALL-E3作、魔人討伐のあとにノエルに抗議するアリアのイメージです。背景は妥協しました(´・ω・`)


「あー!それズルい、なんだかんだ妹が可愛いんだノエル君は!さっきも私の幻影を容赦なく斬ってたもんね!」

挿絵(By みてみん)

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