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色彩のエクリプス  作者: いちこ
1.色彩だけが全ての世界で
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第24話 王都への召集

カルディア歴335年8月。

マーメイドコープでのダンジョンで生じた謎。それを抱えたままノエル達はマーメイドコープで活動を続けていた。発生したダンジョンを瞬く間に封じたノエル達はギルドでも一目置かれている存在となっていた。


一方エレナは秘密裏に母をアルティスディアからセリアディスへと呼び寄せる様に計らってうようにセリアディス軍部に訴えていた。


エレナの母、イザベラはアルティスディアから商人に偽装したセリアディスの兵士たちによって無事セリアディス王都へと迎えられる。これによりエレナは後顧の憂いなくセリアディス軍へ所属する事する事が出来る事となった。

 セリアディスの軍人事部の長官マリオン・グレイブス。合理的な考え方を持っており軍の編成に対して国に貢献する為に冷静かつ冷徹な判断を行う人物だ。その副官のギリアム・クレストは前向きで少々楽観的、情に厚いところもある。


 この二人は互いに信頼しており、評価される者たちにはギリアムが緩衝材となる事でこの国の軍の人事は上手く回っていた。だがエレナの入隊に関してはマリオンは慎重な考えを持っていおり、ギリアムは逆にエレナを高く評価していた。エレナを強く推進したのはギリアムだった。


 ギリアムの評価の高さは彼女の恩恵によるものではない。その恩恵を活かすべく向上心を持ち努力を惜しまない。そしてその方向は野心ではなく『精神的な強さ』を求めている事を評価していた。マリオンもそれは理解してはいる。


「エレナ・アッシュフォード、あれは思ったより良い人材でしたね」

「まだ信頼に足る実績が無いな。引き続き監視役と組ませ様子見だ」


「あの二人なら上手くやるでしょう。万が一があっても大丈夫ですよ」

「相変わらずの楽観主義だが、お前の勘は良く当たるからな。期待して見守るとしよう」



 そのエレナは練兵場で二人の監視役と組んで訓練を行っている。訓練の相手はアルティスディアの兵たちよりも高レベルの相手だ。これまで培ってきた技術・魔法を駆使してもなお一本も取れない差を感じていた。


「エレナ、あんたの技術は確かに高い。その若さでよくやれてる方だけど…まだまだ甘いわね」


 彼女は監視役としてエレナと組んでいる騎士見習いのアリア・キンスリー、22歳の女性。風と地の2属性持ちで長剣と盾を使うスタンダードな戦闘スタイルだ。だがそれだけに直接戦闘能力を磨き、魔法の練度を高め、あらゆる状況に対応できる実力を身に着けている。


「アリア、5歳も下の者だ。お前が勝つのは当然として、もっとアドバイスなり何なりあるだろうが」


 レオン・マーシュ、25歳の男性で実力派の騎士だ。火と水の2属性持ちでありその、槍を使った戦闘技術だけでも相当な実力を持ち魔法の練度も極めて高い。


「はぁ、はぁ。スクワイア・アリア!もう一本お願いします!」

「エレナ、いっつも言ってるけど私とレオンにはそういう堅苦しいのはなし!」


「ごめんなさい、アリア」

「分かればよろしい。さぁやるよ!」


 この二人は軍組織においてはエレナの上官に当たる。通常は敬称を付けるべきなのだ。しかし、セリアディスの血統主義の否定という文化と、エレナと親しく接する事でより彼女の内面を知るようにマリオンから言い渡されていた。もっとも、この二人に関しては元々そういう性格なのだが。


 エレナも二人に追い付きたいという兄以外の目標が出来た事でこれまで以上に訓練にも励むようになっている。王都の冒険者達で手に負えないダンジョンが発生した際、この二人に付いてダンジョンへ初めて赴いたが全く役に立つことが出来ずただその背中を追い続けるしかなかった。


 その際に現れたダンジョンはゴブリン種が多数おり罠も多かった。それをあらゆる手段で突破していった。そしてボスの魔人は人間と似た見た目であり大剣と大盾に全身鎧を身に纏ったものだったが、これも攻撃をアリアが巧みに逸らし魔法で翻弄、その隙を尽く突くレオンのコンビネーションは魔人を圧倒した。


 強さの質は違うというものの兄に近い強さを持つ二人。そんな相手と訓練が出来る日々に喜びさえ覚えている。母の心配をする必要も、父の存在を考える必要もない。この環境はエレナにとって理想的だ。




「エレナ、お前には冒険者の兄がいるんだったな。ちょっと調べさせてもらったが…あれは本当か?」

「今はノエルと名乗っているようですが、3歳の時に別れた実の兄です」


「ギルドの記録を見たが19歳でダンジョン踏破数は現在9つ。しかもその内の7つのダンジョンは単独かつ初見で踏破し封印している。本当だとしたら化け物だぞ、お前の兄は」

「そ、そんなに攻略してるんですか!?」


 エレナは兄について調べた事はない。その実力は身をもって知っているからだ。だがその実績がそこまで高いとは思っていなかった。


「今はコンビで活動しているらしいが、そのコンビ『エクリプス』でもダンジョンを攻略したらしいぞ。つい数か月前にも出来たばかりのダンジョンを一番乗りして即封印ときたもんだ」

「ソフィアさんですね。彼女も高い実力を持っていると思います。私が致命傷を負ったあと、周りの友人の傷も含めてただ一度の回復魔法で全てを癒したんです」

「へぇ、その二人は確かに軍が興味を持つわけだわ」


 アリアが口を挟む際につい口を滑らせてしまう。


「アリアさん、それ本当ですか?」

「結局断られたみたいだけどね。冒険者…というよりダンジョンが好きみたいよ。それで付いた二つ名が『黒の踏破者』。もう一人は『白光の聖女』とも呼ばれているらしいわ」

「黒と白、攻撃と回復、相反する二人の特性を日食になぞらえてエクリプスか。上手い事を言ったもんだ」


 わずか一年程、それほど時間も経っていないのにソフィアもまた評価を受けている。自分も成長したつもりでいたが、その背中は未だ遠いように思える。


「エレナ、お前は未だ自由を与えられていないが俺はお前の兄に興味があってな。ちょっと会ってみたいんだ。お前も来るか?」

「私も興味あるなぁ、その二人」


「私と会ってくれるか…ちょっと不安です。あまり好かれていないと思うので」

「一度は殺し合った仲だったか?」


 エレナは黙ってうなずく。かつての醜い自分を思い出す。


「実はな、ある任務で協力を仰ぐ為に彼らは今、王都のギルドに呼ばれているんだ」

「王都に兄がいるんですか!?」

「お?食いつき良いねぇ」


 アリアが茶々を入れるが構わずレオンは続ける。


「で、どうする?俺たちは会いに行くつもりなんだが」


 逡巡の後、エレナは力強く答えた。


「…行きたいです!」




 そのノエルとソフィアは王都のギルドから召集を受け、受け付け嬢に依頼の内容を聞いていた。


「今回は国からの依頼で護衛任務です。対象はこの国の使節団…と言っても護衛対象は騎士と騎士見習いなんですけどね。戦力に不安があってお力添えを頂きたいのです。もちろん報酬は弾みますよ!」

「護衛任務か。暫くダンジョンに行けないな」

「いいじゃない。私はダンジョンばっかりじゃなくて人の役に立つ依頼も受けたいな」


 ノエルが不服そうに言うもソフィアは乗り気のようだ。


「この後にその護衛対象ともお話する時間も取ってますので、まずはお話を聞いて頂けますか?」

「まぁ聞くだけなら聞いても良いが、受けるとは確約しないぞ」

「取り合えず聞くだけ聞こうよ」


 こうしてギルドの一部屋に案内され、護衛対象の者たちが到着をするのを待つ二人。そこに現れた人物の中に見知った顔がある事にノエルもソフィアも驚いた。




「君たちがパーティ『エクリプス』の二人だね。私はレオン・マーシュ、この国の騎士だ」

「私はアリア・キンスリー。私は騎士見習いだけどこれでもそれなりの実力のつもりよ。もう一人は紹介する必要もないよね」


 そのもう一人がエレナだ。


「初めまして。レオン・マーシュ様、アリア・キンスリー様。そして久しぶりだな、エレナ」

「お兄ちゃん…」

()()()()()()エレナ、あんたお兄ちゃんなんて言うキャラじゃないでしょう!」


 アリアはエレナの反応が面白かったのか大笑いをしている。


「あ、えっと…」


 エレナもまた兄妹というものに慣れていない。本人に対してはついそう呼ぶことが普通だと思っていたが、笑われて普通じゃない事に気づき恥ずかしがっているようだ。


「アリア、お前って奴はもう少し自重しろ」

「ごめんなさい、レオン。でも今までのエレナとあまりにイメージが違い過ぎて…ぶっ!」


 笑いを堪えるアリアを見て、軍人のくせに妙な連中だとノエルは少し呆れていた。




「それで、俺達への護衛依頼とは具体的にどのような物ですか?」

「ああ、まずその話をしよう。我々はウェスティアに同盟の話を持ち掛ける為の使節団として赴く予定でね、その戦力が足りないんだ。フリガイア帝国に対しても使節団が送らるんだがそちらの方は戦力の心配はない」


「護衛というより戦力補強ですか」

「そうだな。俺達でもダンジョン踏破できる程度には腕に自信があるんだが、君たちが加わってくれるなら力強い」

「有名らしいもんね、君たち!」

「有名なのは()()()だけですよ」


 ソフィアがちょっと親し気に兄の名を呼び嬉しそうに答えるのを見てエレナは少し驚いた。そしてまたもや()が働いたが、同じ轍を踏むほど彼女は馬鹿ではない。


「いやいや、あなたも相当な魔法の使い手って聞いてるよ?死にかけのこの子を一瞬で癒しちゃったんでしょ?それに防衛戦出の活躍も兵士たちの間で噂になってるわよ」


 どうやらアリアは言葉を選ぶという事を知らないらしい。ノエルはそう評価した。


「二人の実力は私が保証します。特におに…兄には二人も勝てないかもしれませんよ。魔法が全く効きませんから」

「魔法が効かない?」


 その言葉にレオンもアリアも興味を持つ。その反応を見てすかさずノエルは訂正した。


「効かないわけじゃないですよ。対処方法を知っているだけです」

「興味深いね、それ」

「今は依頼の話をしましょうよ」


 ノエルは強さの証明をするつもりも操気法の事を伝えるつもりもないという意思を込めて返答した。操気法の事はソフィア以外には伝えてない。師の大切な教えは伝える相手は選びたいのだ。


「そうだな。それで同行してくれるかな?」

「提案があるのですが…途中でダンジョンが現れたら挑んでも良いですか?」

「ノエル、それは我儘がすぎるよ…」


 慣れているとは思っているがここまで執着をみせるとは、とソフィアは呆れる。


「それは困るな。今回の任務はアルティスディアに対抗するものだ、時間が惜しい」

「アルティスディアに対抗?同盟を組む事で対抗になると?」


 その言葉を受け、やや間をおいてからレオンは真剣な表情で語り始める。


「ま、ここまで来たら話すか…国の方針としてはアルティスディアは我が国に対して無視できない存在に変わりない。だが、その野心が未だ消えていないという事が前回の攻防戦で明らかになった。我が国や他国が内戦や内乱などの隙を見せる事があれば、あの国はまた侵略を始めるだろう。ならば連合を組み、その前にアルティスディアを亡ぼす」


 ノエルとソフィアはその内容に驚愕した。このような話をただの冒険者である自分たちに話すとは思ってもいなかったからだ。


 アルティスディアを亡ぼす、それはノエルにとっては魅力的な話だった。聞く限りでは彩無しにとって一番危険な国がアルティスディアだ。その他の国は比較的寛容であり、アルティスディアの存在が無ければ国家間の移動も楽になる。セリアディスは暮らしやすいがその他の国にも興味があるのも事実だ。


「ノエル、この依頼受けようよ。私はこの国が亡くなるような事が起きて欲しくない」


 ノエルは悩む。それはこのエレナとも旅路を共にするという事だ。ノエルには未だ蟠りが残っている、それは簡単に取り除けるものではない。ただ今のエレナであればあるいは、とも考える。




「あの!私と兄の二人で話をさせてもらえませんか?」


 エレナの突然の発言にその場の全員が驚く。だがその意味を理解した皆は席を外す事にした。

騎士レオン・マーシュのイメージです。

挿絵(By みてみん)


騎士見習いのアリア・キンスリーのイメージです。

挿絵(By みてみん)

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