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色彩のエクリプス  作者: いちこ
1.色彩だけが全ての世界で
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第18話 ダンジョンの醍醐味

カルディア歴334年8月。

ダンジョンの攻略を果たしたノエルとソフィア。ソフィアにとってダンジョンでの経験は神や恩恵という物を考えさせるものとなった。一方ノエルは戦利品である紐が付いた袋と壺のような物が気になっており、ギルドへの報告の後、これの鑑定を行える店を探そうと暢気に考えていた。

 ノエル達はダンジョンと坑道から出た後、封印に成功した事を告げにギルドへと向かっていた。入り口に居たギルド職員には伝えており、現在内部の状況確認に向かっている。運が良ければダンジョンからも何か鉱石が出るかもしれないと鉱夫たちも期待しているようだ。


 ギルドに到着し、ノエルは受け付け嬢にダンジョン踏破の報告をする。

「ダンジョンの封印をしてきた。確認を頼む」

「あのダンジョン出来たばかりじゃないですか!もう最深部まで行って魔人を倒したんですか?」


「ああ。プレートで確認してくれ」

「はい、お預かりします」


 ノエルとソフィア、二人分のプレートを確認する受け付け嬢。魔道具で確かにダンジョン攻略の実績を確認すると驚いていた。


「疑っていたわけではないですが、驚きました」

「ノエルさんはダンジョン7つを単独踏破していますから!」

「独りでですか!?それは凄いですね」


 なぜか得意げにソフィアが言う。ノエルはそんなソフィアに釘を刺す。


「ソフィア、余計な事を言うな。ともかく報酬を頼む」

「分かりました。今回の報酬は金貨1枚ですね、どうぞ!」


「そんなにか?確かにボスは手強かったが」

「中に居たのはコボルドですよね?鉱山都市でコボルドが溢れ出す事は死活問題ですから」


「確かにそうだったな。多い分には文句はない。有難く受け取っておこう」

「早期解決にご協力、ありがとうございました」


 予想外の収入だがこれがダンジョンの魅力の一つだ。当面は金銭的に余裕が出た。その金額にソフィアも驚いているようだ。


「ノエルさん…私、金貨なんて初めて見ました」

「これがダンジョンだ。こんなものを知ってしまったら挑みたくもなるだろう?」


「た、確かに報酬は魅力的ですが危険ですよ」

「それを乗り越えてこその冒険者だ」

「ノエルさんは強いとは思ってましたが、その理由がまた一つ分かりました…」


 そういうソフィアの顔はどことなく呆れているようにも見えた。


「さて、このアイテムを鑑定できる場所を探すか」

「ギルドではわからないですかね?」

「そうだな、聞いてみよう」


 受け付け嬢に聞くと、そういった魔道具を専門的に扱う店が近くにあるらしい。場所を聞き足を運ぶことにした。


「すまない。魔道具の鑑定を頼みたいのだが」

「いらっしゃい。どんな魔道具かな?」


「この壺のようなものと袋なんだが…」

「どれどれ、ちょっとお借りしますよ」


 魔道具屋の店員は二つを受け取るとルーペのような物を取り出し隅々まで見ていく。


「そのルーペも魔道具なのか?」

「ああ。これはね、魔道具の機能を調べたりする時に魔力の流れや解読が難しい文字を読めるようにする便利な魔道具なのさ」

「へぇ。そんな物もあるんだな」


 興味津々という感じでその様子を見ているノエル。ソフィアは店内を物珍し気に見て回っていた。


「こいつは面白い。まずこっちの壺って言ってたもの、こいつは『瓢箪(ひょうたん)』ってやつだね。アンティルカイアの古い工芸品にも同じ形のものがあるんだ。肝心の魔道具としての機能は、なんと水が湧いて出てくる代物だよ」

「なに!?そんな貴重な物なのか?」


「そうだね。次にこっちの袋。これは『巾着』ってものだね。同じくアンティルカイアでよく使われていたもので、巾着の形をしたマジックポーチと言ったら分かりやすいだろうね。容量もそれなりの量が入るよ」


 それを聞いたノエルの顔は珍しく歓喜の表情だ。


「聞いたかソフィア!マジックポーチがもう一つ手に入ったぞ!」

「それは嬉しい誤算ですね!それ、私が使っても良いですか?」


「もちろんだ!お前専用に使ってくれ」

「ありがとうございます!」


 ソフィアもマジックポーチが手に入ったとなれば旅がもっと楽になる。


「しかもそいつには何か色々と入ってるようだよ。中身を一度出して確かめておくといい」

「ありがとう。お代はいくらだ?」


「一つ銀貨1枚頂きたいね」

「分かった。助かるよ」


「こちらこそ、毎度あり!また何か知りたい物があったらいつでも持ってきてくれよ」

「ああ、その時は頼む」


 水源の心配がなく旅が出来るようになり、持ち運べる物量も増えた。ノエルはコウテツの顔を思い浮かべ、遺品を大切にすると心に誓った。そしてそのまま先日の鍛冶屋へと足を運ぶ。コウテツの防具と金棒を見てもらうためだ。


「親父さん、また来たぞ。今日は別件で見てもらいたいものがあってな、出来れば買い取って欲しいんだがそういう事も可能か?」

「お前さんか、いらっしゃい。ああ、良い物だったら買い取らせてもらうぜ。見せてくれ」

「これなんだが…」


 そう言ってマジックポーチから金棒と鎧一式を取り出した。


「こいつはまた珍しい物を持ってきたもんだ。だが鎧の方は破損しているな」

「ダンジョンボスとやり合ったからな。その時に斬ったところだ」


「つい最近鉱山に出来たダンジョンか?もう踏破したのかよ」

「ああ、俺はダンジョンに目が無いんでな」

「変わった奴だなぁ…どれ、こいつがどんなもんか見せてもらうぜ」


 そう言って店主は鎧と金棒を観察し始めた。


「これはどちらも普通の素材で出来たもんだな。特別な効果などは特にない」

「そうなのか…持ってても無駄になるだけだしな…買い取るとしたら幾らだ?」


「そうさなぁ…こっちの鉄の棍棒が小銀貨8枚、鎧は破損しているから値段は付けられねぇがその他を合わせて小銀貨3枚って所かな」

「それで構わない。買い取ってくれ」

「毎度!ダンジョンのボスの装備だと良いもんが手に入る事が多いんだが、外れで残念だったな」


「いや、これ以外に小物が二つあってな、水の湧く瓢箪ってものと巾着ってマジックポーチがあるんだよ。そっちが今回の目玉だったようだな」

「本当か?それは十分すぎるほどの拾いもんじゃねぇか!」

「ああ、これだからダンジョンはやめられないんだ」


 笑い合うノエルと店主にソフィアはまたも呆れ顔だ。そんなソフィアに気付かずご機嫌で鍛冶屋を出るノエル。不意にソフィアが疑問に思った事を口にする。


「ところでノエルさん。そのひょうたん?ってものから水が出るって事ですが、飲めるんですか?」

「そういえば飲める水とは言ってなかったな…ソフィア、腹を壊した時に効く魔法ってあるか?」

「そんな便利な物はありませんよ」


 ソフィアの視線はやや冷たい。この後のノエルの行動が予測できているからである。


「覚悟して飲んでみるしかないか」

「またそうやって危ない事しようとする!ダメですよ?」


「じゃあどうやって試せばいいんだ?覚悟を決めるしかないだろう」

「確かにそうですが…分かりました。せめて宿に着いてからにしてくださいね」

「わかったわかった」


 どうやらソフィアは諦めてくれたようだ。その後、宿に戻って寝る前に飲んでみたが、これと言って体調を崩す事が無く安全な水である事が確認できた。




 それを伝えた時のソフィアの顔は心底呆れた顔をしていた事は言うまでもないだろう。

呆れ顔のソフィアのイメージをDALL-E3に描いてもらいました。

ノエルがやや非常識な行動を取る度にこういう顔をするまで仲が深まっているという事ですね。

挿絵(By みてみん)

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