第16話 ソフィアのダンジョン初体験
カルディア歴334年6月後半。
シルバーピークタウンへと到着したノエルとソフィア。暫くはここを拠点としてセリアディスについての情報を仕入れる事にした。ギルドで依頼をこなしながらここでの生活を始める事になる。
ギルドに寄る前にノエルはソフィアを伴って先日の武具屋に顔を出す。愛刀の調査結果を聞きに来たのだ。
「親父さん、武器の事は何かわかったか?」
「おう、お前さんか。ああ、こいつは想像以上だったぜ。これは間違いなく魔刀だ。この刀身、仕組みは分からんが自動修復する。つまり2年使って刃毀れもないってのはそういうこった」
「そんな便利な代物だったのか」
「ああ、だがそれだけじゃない。他にもコイツは何か力がある、だがそれが分からねぇ」
店主は悔しそうにそう言うと経緯を話してくれた。
「俺達が使うような文字と違う文字が刻まれていてな、解読が出来ねぇんだよ。色々と試してはみたがどんな効果も表れねぇ。こんな物は始めて見たぜ」
「俺は斬れるなら何でもいいがな。刃毀れの心配がないと分かっただけでも上々だ。礼を言う」
「鍛冶師としてはその謎を明らかにしたいところだがな、礼を言われる程の仕事は出来てねぇさ」
「いや、十分だ。ありがとう」
「また何か面白い物があったら見せてくれや!」
「ああ。その時はよろしく頼む」
店を出た二人はそのままギルドへと向かい、この地での活動を始める。国が変わっても冒険者としての勝手は変わらない。イーストセーブルアズルの時と同じように実績を積み続ける。
―――――――― 1か月後、カルディア歴334年8月 ――――――――
この街に来て1か月と少しが過ぎ順調に依頼をこなしていく最中、ノエルが待っていた情報が手に入る。そう、ダンジョンだ。この街の坑道の一画に突如ダンジョンの入り口が現れ、その為に採掘作業が出来なくなっているらしい。
「久しぶりにダンジョンに巡り合えたな。ソフィア、行くぞ」
「遂にダンジョンに挑戦ですね…緊張します」
「大丈夫だ。俺から付かず離れずの位置で戦うように注意していれば問題ない」
「わかりました、行きましょう!」
ノエル達は坑道へと赴き、冒険者プレートを見せ内部に入る。まだ出来たばかりだからか魔物特有の気配はない。そのままダンジョンの入り口とされる場所へ向かい、中へと入っていった。
ダンジョン内部に入ると、そこはノエルが最初に訪れたダンジョンと雰囲気が似ていた。魔物は主にコボルドという狼人間のような魔物だ。こいつらは鉱石を劣化させる。鉱夫にとっての天敵のような存在で、外に出たらこの街の被害は物理的なものだけに止まらないだろう。
「一匹たりとも逃すな!魔物たちを掃討して最奥部を目指す!」
「はい!ルクスバースト!」
駆けだしたノエルの背面から閃光が放たれる。怯んだコボルド達を次々と切り伏せ、その場にいた魔物は掃討した。
「デセブティブベール」
ソフィアは念のため自分の身体の位置をここにズレた場所に映し出す魔法を使っておいた。ノエルの刀には『ルミナストーチ』という明かりを照らす魔法が付与されている。これで暗い洞窟状のダンジョンでも視野が確保できているのだ。
「グリマーアロー!」
威力はそれほど高くないが、鎧などを纏わない魔物であれば十分なダメージが期待できる熱線を放つ魔法での支援攻撃をし、前衛のノエルを援護しながら前進を続けていた。このダンジョンは雰囲気こそ最初に入ったダンジョンに似ているが曲がりくねっておりいくつかの分岐もあった。
ただ、罠などの仕掛けはなく構造が単純である事は共通している。こういうダンジョンのボスは強さに自信がある傾向が強い。そして分岐を4つほど調査し終わり、最奥部へと辿り着いたノエル達。その扉を開くと洞窟内の開けた場所に出た。そこには既視感を覚える様な魔人の姿があった。
「ほう、こうまで早く辿り着くとはな。む?そなたは恩恵を受けていない人間か」
「前にも似たようなダンジョンで似たような事を言われたな。俺は恩恵のない彩無しだ」
「その武のみでここまで辿り着いたか、あるいは後ろの女が強いのか…いずれにしてもここで我らが会ったのならやる事は一つ」
「ああ、お前を倒してこのダンジョンは封印させてもらうぞ」
互いに構えるノエルと魔人。魔人の風貌もまるで最初のダンジョンと同じ種族のように見える。角と結膜が赤いという点以外は人間とさして変わらないのだ。その魔人がノエルの刀を見て驚いている。
「その刀…まさか天斬と命断か?」
「知っているのか?お前と似た魔人から貰ったものだ」
「なるほど、あ奴に打った刀と再び相見えようとはな。それは某が鍛え上げし魔刀。お主がその力を全て引き出せるか試させてもらうぞ」
これは刀が呼び寄せた運命なのか、その作り手と相対する事になるとは思わなかった。そして魔人から発せられる猛者の気に心が躍るノエルはこの魔人と心ゆくまで斬り合う事を望んだ。
「望むところだ。ソフィア、手出しはするな。これは武の道を進みし者同士の戦い。回復なども許さん。俺が死んだときは来た道を戻って逃げろ」
「ノエルさん!」
抗議の声を上げようとしたソフィア。だがノエルの顔はこれまで見てきたものと違い、緊張の中にいるにもかかわらずどこか笑っているように見える。その不思議な状況にソフィアは言葉を続く言葉が出ない。
「ほう、貴様もやはり武人か。話が早くて助かる。わが友イズナの仇である者よ、名乗るがいい」
「俺はノエル・カイウスだ」
「某はコウテツ。もはや言葉は不要、ただ武で語り合おうぞ。参る!」
コウテツと名乗った魔人は大きな金棒を持ち上げる。あれはまともに受けたら危険だ。久しくなかった命のやり取り。ノエルは死と隣り合わせのこの瞬間を何処か楽しみにしていた。




