第14話 セリアディスへ
カルディア歴334年6月。
イーストセーブルアズルでの生活の中で、ノエルはソフィアが冒険者として成長していると判断し本来の目的である他国へ移動する事を検討する。
そんな時にソフィアの強い希望でセリアディスへと行き先が決まり、二人は行商の護衛依頼を受ける事となった。目的地はセリアディスのシルバーピークタウンだ。
ノエル達は今、アルティスディアの王都南方にあるグリーンデールという宿場町へと向かっている。セリアディスのシルバーピークタウンに店を構える商人が仕入れを終えて帰国する旅路の護衛を引き受けたのだ。
護衛依頼は本来4~5人のパーティに依頼する事が多いが、ここ3か月での活動実績もあって二人の評価も高く依頼の受諾に成功した。
冒険者ギルドは各国にあり、それぞれは独立しているが同じプレート認識用の魔道具を使っている。これはかつてアルティスディアがこの大陸を含む4つの大陸を征服した事による名残だ。良い部分はそのまま残して各国で独自のルールなどを決め運用していると聞く。
旅の道中は中々に快適でノエルは商人と共に馬車の御者席で周囲を警戒しつつ、ソフィアはほろが付いている荷台に座り移動をしている。馬での移動でも良かったのだがこの人数なら必要ないと判断した。
昼は特段問題なく、夜になるとたまに魔物と遭遇する事もあるくらいで大した問題にはならなかった。むしろソフィアにとってはいい経験になっているだろう。
「しかしあんた達を雇えてよかったよ。特にそっちのお嬢ちゃん、回復魔法のお陰で馬もいつもより元気だし俺も万が一の傷に心配しなくて済む」
「ソフィアは優秀な魔法使いだからな。特に回復系はそこらではお目に掛れない程の腕前だ。俺も最初はビックリしたくらいさ」
「あんたも相当な腕前じゃないか。魔物に会うずっと前から気付いて警戒が出来るお陰でかなり気が楽になったよ」
「まだ目的地についてないんだ。これからも変わらず護衛はするが、油断はしないでくれよ」
「ああ、分かってるさ。ただ頼りにしてるって言いたいんだよ」
「そうか。任せてくれ、必ず無事に辿り着くように護衛するさ」
商人は二人が気に入ったようだ。周囲の悪意や敵意に敏感で戦闘力も高いノエルと、回復に攻撃にと万能で移動の要の馬まで守れるソフィア。これほど心強い人材は依頼料も高くなる。今回は成功報酬として小金貨1枚で契約をした。
小金貨1枚は銀貨10枚に相当する。そしてその銀貨1枚でかなり良い宿に泊まることが出来る。購入できるもので言えば質の高い武器や魔法の効果があるアイテムなど貴重なものが買えるのだ。人数が多くレベルの高い冒険者なら小金貨5枚前後でと言われてもおかしくない。
商人にとって金は何より大事なものだ。自らの命を守るものであり武器でもある生命線、それを安く済ませた上で高い効果を得られたのだ、上機嫌なのも納得である。
程なくしてグリーンデールに着いた一行は宿を取り十分な休息を取る。ここから先は1日以上かけてさらに南下し、国境の砦の『イーストガードフォート』を目指す事になる。そこまでは休息をとる事はもう出来ない。
グリーンデールはまだセリアディスが独立する前から存在する古い宿場町だ。王都からも馬車で1日半、早馬であれば6時間程度の距離だ。イーストガードフォートには王都よりやや距離がある程度になる。
この街で食料など旅の物資を調達し、また馬車の旅が続く。そして2日ほどかけてイーストガードフォートへと辿り着く。
本来であればもっと宿場町があっても良いと思う所だが、今存在する村はなぜか魔物が出にくく比較的安全な場所を選んでいる。逆にそれ以外の場所は魔物の危険に常に怯えなければならない。よほどの物好きでなければそんな所には住まないだろう。
イーストガードフォートに着くと、検問があり身分などをチェックされる。これに関しては商人が通行許可証を持っており、事前に持ち込みが出来ないようなものがあるかも含め確認をしておいたので特に問題なく通過する事が出来た。
砦に隣接する様に宿泊施設もあるのでさらにそこで一泊、翌日に目的地であるシルバーピークタウンへと着いた。
「お二人さん、護衛ありがとうよ!今回はいい品も仕入れられたし帰りは楽でよかったぜ。もし良かったらまたこっちのギルドに依頼を出すだろうからその時は宜しくな!」
「俺たちはこれからこの国の王都やマーメイドコープなどいくつかの街に行ってみるつもりだ。機会があったらまた依頼を受けよう」
「あんた達にとってもこの国は過ごしやすいと思うぜ。アルティスディアは彩持ち貴族が幅を利かせやがるからなぁ」
「全くだ」
笑いあった後に報酬の小金貨1枚を受け取り、シルバーピークタウンを周ってみる事にした。ここのギルドにも顔を出しておかなければならない。
鉱山都市だけあってか、活気があり武具屋なども目に付くところだ。そういえばノエルはこの武器の手入れはしっかり行っているつもりだが、2年以上の付き合いの中で一度も鍛冶師に見せた事が無い。ミスリル製で通常の武器よりも頑丈なのは分かるが、そろそろメンテナンスも考えた方が良いだろう。
「ソフィア、冒険者ギルドの前にちょっと武具屋に寄ってもいいか?武器の状態を確認しておきたい」
「分かりました、行きましょう!」
この頃になるとソフィアは随分と元気になっていた。これが本来の彼女の性格なのかもしれない。
「邪魔するぞ。武器の状態を確認して欲しいのだが、今は大丈夫か?」
「構わんよ。どれ、見せてみな」
「この剣二本なんだ、頼む」
そういってノエルは太刀と小太刀を店主に渡す。
「こいつは刀ってやつだな。アンティルカイアで使われる武器だ。珍しい得物を使うんだな」
「これはダンジョンボスが持っていた物を奪ったんだ。アンティルカイアには行った事はない」
「なるほどね、ミスリル製とは良い拾いもんだ」
そう言いながら店主は刀身をチェックしていく。そしてその状態を見て驚いているようだ。よほど酷いのだろうか?
「なぁお客さん、この刀って使ってるのか?」
「もちろん、これで2年は戦い続けているが一回も専門家に見せた事が無くてな。大事にはしているが…」
「まるで刃毀れもない、まるで新品みたいな状態だぞ。それにこの根元の文字、何か魔法の言葉でも刻んであるのか?」
「良く解らないがこいつを持っていた魔人は長い方をタチで『天斬』、短い方をコダチと言っていて『命断』、一対で『天命断』という名前だと言ってたな」
「一対でも名前がある…なぁこの刀、ひょっとして魔剣…いや、魔刀と言うべきか。何か魔法が付与されているんじゃないのか?」
あの魔人は死に際に最後の力を振り絞って刀を託したのだ、例え知りたくとも聞き出す余裕もなかっただろう。
「あいにくそういう事には疎くてな。あんたなら何かわかるか?」
「刀については多少興味があって知識もある。作るには無理だが分解しても良いなら調べる事は出来る」
「なるほど。もし何か分かる事があったら知っておきたい。頼めるか」
「わかった。小銀貨5枚と言いたいところだが俺もこいつには興味津々でな。小銀貨3枚にまけておくぜ」
「それは助かる。じゃあよろしく頼む。何日かかる?」
「明日には調べておくさ。こんなもの見せられたら徹夜してでも見てみたいのが鍛冶屋ってもんよ!」
「それで徹夜して店を開け忘れない様にしてくれ」
「はっはっ!そりゃそうだ!」
ノエルの冗談で笑い合った後、料金を支払い武具屋を後にする。暫くは予備のロングソードでも使うかと取り出しておく事も忘れない。
「ようこそ、シルバーピークタウン冒険者ギルドへ!」
「俺たちはアルティスディアからセリアディスに渡って来たばかりなんだ。向こうで冒険者として登録はしてある」
「ではこちらでもそのプレートを確認させてもらいますね」
ノエルとソフィアはそれぞれのプレートを渡し、受け付け嬢が魔道具で情報を読み取っている。
「お二人とも確認が取れました。ご協力ありがとうございます」
「アルティスディアと何か違うルールはあるか?」
「基本的には変わりません」
「ダンジョンについても同様か?」
「ええ。等級関係なく挑んで頂く事は可能ですよ。ノエルさんはダンジョンの踏破数が6つもあるんですね。余程の実力者とお見受けします。当ギルドでも活躍して頂ければ幸いです」
受け付け嬢は笑顔で言う。どこのギルドも言う事が同じなのは職業的にそうなるという事なのだろうか?とノエルは考える。
「今日は街中を散策して宿を取るとするか」
「しばらくここで活動をしますか?」
「そうだな…ソフィアはマーメイドコープに興味があるんだよな」
「はい!行ってみたいです!でも今すぐでなくても大丈夫です、この街でこの国の状況とかも知っておきたいでしょう?」
「ソフィアもだいぶ冒険者らしい思考になってきたな」
「師匠が優秀ですから!」
「そういう恥ずかしい事を面と向かって言うな…」
「なんでですか?」
「いや、いい。行くぞ」
ソフィアの純真さは時にノエルを困らせる。ツッコむだけ無駄なのだ、と分かっていてもこういうやり取りがもはや定番化していた。




