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色彩のエクリプス  作者: いちこ
1.色彩だけが全ての世界で
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第11幕 冒険者ソフィア

時はカルディア歴334年3月。

イーストセーブルアズで冒険者登録を済ませたソフィア。彼女はノエルと一緒にパーティーを組む。そんな彼女はノエルから見ると、まだ冒険者という仕事をよく理解していないように思えた。


そこでノエルはそこそこの難易度の依頼を受ける事でこの世界の厳しさと残酷さを理解させようと奮闘する事となる。

 ノエルはソフィアが冒険者として慣れるまでイーストセーブルアズで活動をする事にした。パーティーとしての連携もそうだが、このままの彼女では早死にするとしか思えないのだ。ここは先輩として冒険者の生き方を教えなければと考えた結果である。しかし先に確認しておかねばならない事があった。


「ソフィア、君の恩恵についてなんだが詳しく聞いても良いか?」

「はい。光の属性で治療魔法は得意です」


「それは目の当たりにしてよく知っている。あの力は確かに凄いがそれ以外に使える魔法はないのか?」

「暗い所を照らす『ルミナストーチ』とか、眩しい光を放つ『ルクスバースト』、あとは…自分と少し違う所に姿を映す『デセプティブヴェール』ですね」

「攻撃系はないのか?」


「デセプティブヴェールは攻撃にも応用できると思いますけど、直接攻撃は本で読んだことないです」

「ただでさえ希少な属性だ、資料も少ないか…身を守るためにも攻撃手段は必要だ。念のためにダガーかショートソードくらいは持っておいた方がいいな」


「私が武器を扱えるでしょうか?」

「扱えるように鍛錬するんだ。それも教えてやるから」

「はい!」


 教えた所でこの子に人が殺せるだろうか?無理な気がする。だがそんな事では困るのだ。慣れさせるしかない。ノエルはギルドへと向かう途中にソフィアにあった武器を選び、ダガーを買い与えた。ショートソードでは些か重すぎる様なのだ。




「さて、何か目ぼしい依頼でもないか…」


 ギルドに到着し、以来を探すノエルとソフィアに先日の受け付けの女性が話しかけてくる。


「ノエルさん、ちょっとよろしいでしょうか?」

「なんだ?」


「ちょっとご相談したい事がありまして…ここではお話がし辛いので2階の個室でお話させて頂けませんか?」

「ああ。構わない」


 受け付けの後をついて2階の個室へと通された。小さな部屋で密談などに使われるようだ。


「ご相談というのはちょっと厄介な事件の調査をお願いしたいのです」

「それはまた突然だな、どんな内容だ?」


「ここ最近の話なのですが、冒険者や市民の間に出回っている薬の中に偽造品が紛れているようでして、その出所を探って頂きたいのです。恐らく危険な仕事になると思うのですが、ノエルさんなら腕も確かですしこの街でまだ顔も知られていないので適任と考えての事です」


 ノエルはその依頼内容に少し躊躇い、正直に答える。


「俺はダンジョンかモンスター討伐がメインだったから、そういう世俗的な事には疎いぞ」

「ある程度の情報は仕入れてあります。ただ組織のアジトまでは掴めてなくて、アジトの所在の調査、もしくはこれの摘発に協力を頂けないでしょうか?」


「仮にアジトを見付けて乗り込んだとして、構成員を全て生かすのは無理だ。幹部を除いて殺しても問題ない、幹部も五体満足は保証しない、この条件なら可能だが」

「結構物騒な考え方なんですね、でもそれで構いません。私達としては組織の摘発が目的ですから、その際に発生した傷害や殺傷についてはギルドが依頼したものとして処理いたします」


 受け付けの女性はノエルの言葉に苦笑いしながらもそう答える。


「分かった。では今わかっている情報を教えてくれ」

「ありがとうございます。まず被害が出ている区域ですが、街の港に近い商店で扱われている物に偽造品が紛れ込んでいる確率が非常に高いと分かっています」


「港に近い商店に出入りしている卸業者が怪しいと?」

「それも考えていますが、卸業者も把握していない可能性があります」


「随分と面倒そうだな」

「ですので私たちも手を焼いているのです。商業ギルドと連携していますが全く尻尾が掴めないのが現状です」


 ノエルは少し考えた後、受け付け嬢に尋ねる。


「実際に偽造品を掴まされた被害者が利用した店を幾つか教えてもらえるか?」

「もちろんです、まずは商店から当たるおつもりですか?」


「そうだな。そこに出入りしている者を観察したりしていれば何か掴めるかもしれん」

「なるほど…それも良いかもしれません。宜しくお願いします」


「分かった。それと別件で少し聞きたいんだが、光魔法について詳しく書かれた魔術書などはないだろうか?連れは魔力が高いのは良いのだがまだ種類がそんなに使えなくてな。もしくはある程度のイメージと魔法名を教えてもらえると助かるのだが」

「ギルドの資料や保管品の中にそういったものがあるか探しておきますね」


「ああ、頼む。貴重な物であればそれが報酬でも構わない」

「分かりました。ではよろしくお願いしますね」


 部屋を出てまずは港の方へと向かう事にしたノエルとソフィアは、受け付けの女性から聞いた商店を周りそれとなく訪ねてみる事にした。




「ここ最近、この辺りの商店で買った解毒薬に偽造品が紛れてるって噂だが…これは本物か?」

「お客さん…俺達も責任をもって仕入れているんだ。自分の目で見て本物かどうかはキチンと判断しているさ」


「だが実際にこの店で買った物が偽造品を掴まされたと嘆いていた者がいたぞ」

「なんだって?それは本当か!?」


「ああ、間違いない。本人と話したからな」

「俺の目利きが甘かったか…クソ!なぁお客さん、もしまたその人にあったら店主が詫びてたって伝えてくれないか?このままじゃ商売あがったりだ」


「そうだろうな。分かった、伝えておく。しかしあんたは目利きに自信があるようだが、どこで仕入れているんだ?」

「ここから近いウェスティアからの輸入品を扱っている業者だよ。アルティスディアで作るものより品質が良い。効果は複数の症状に効き目があるんだ。だからウェスティア産の薬が重宝されているってのに」


 そんな物がある事を知り、こういう依頼を受けるのも見分を広げるのには良いかもしれないと思いつつ、ノエルは店主とのやり取りを続ける。


「そういうものなのか。俺も注意しないとな」

「商業ギルドも冒険者ギルドも何をやっているんだか…」


「組織は動きが遅いからな、問題が解決するまで商売は大変だろう。偽造品の可能性がない物はあるか?」

「ああ、それなら別の業者が扱ってるものなら問題ないはずだ。こっちは国産だからな」

「じゃあその麻痺の解毒薬を貰おう」

「毎度!」


「苦労しているようだが頑張れよ」

「おう、ありがとうよ!」


 特に必要とは思わなかったが念のため参考品として安全と言われたものを買っておく。それから4件、同じようにして聞いて回り安全と言われたものを買ってを繰り返しまずは業者の特定をした。やはり皆一様にある輸入業者から仕入れたものが怪しいと言う。


「さて、これらは安全と言われたが…実際安全なのかどうかが疑問だな」

「どうするんですか?」

「これは全部麻痺に対する解毒剤だ。だからこうする」


 そう言ってノエルは刃に塗るための麻痺毒性のある物を少し舐め、症状が少し出てからすぐに薬を飲む。


「ノエルさん!それは無茶が過ぎます!」

「ほかに確かめようがないだろう?大丈夫だ、さっきも言った通りこの毒は麻痺毒。死にはしない」

「そういう問題ではないですよ…」


 ソフィアの抗議の最中も同じように繰り返し全てが安全だと確認したノエル。


「大丈夫だ、心配するな」

「心配します!薬の方に問題があったらどうするんですか?」


「そうだな、それは考えてなかった。でもその時はソフィアが癒してくれるだろ?」

「それはそうですが…ノエルさんが苦しむところを見るのは嫌です」


 心配そうに見つめてくるソフィアを見て思わず頭を撫でてしまった。すぐに手を引っ込めるノエル。


「俺に限らず誰かが苦しんでいるところに遭遇する事なんてしょっちゅうあるんだ。慣れておかないとな」

「はい…」


「俺だって無実の人が苦しむさまを見て楽しむような下衆ではない。してやれる事があるならする。ソフィアはそれが人よりも得意だろう?ならまず慣れろ。そして可能な限り手を尽くしてやる事だ」

「わかりました、頑張ってみます」


 いきなり慣れろと言われても無理があるのはわかっているが、ソフィアが強くあるためには必要な通過儀礼だ。本人が言う通り頑張ってもらうしかない。


「さて、これで完全に証明とまではいかないが…やはり怪しいのはその輸入業者が絡んでいる販売ルートか」

「輸入業者自体が組織の一部という事ですか?」


「それも考えられるが、輸入業者さえ出し抜かれて偽物を掴まされている可能性もある」

「ではウェスティアに本拠地がある場合もあるって事ですか。それはかなり大事になりますね」


「最悪そうなるだろうが、まずはその輸入業者の動きを探ってみるか。ところでソフィア、君が使える魔法の中に姿を違う場所に映す魔法があるって言っていたよな?」

「デセプティブヴェールですね」


「それの応用で姿を消す事は出来ないか?」

「姿を消す…ちょっとイメージしてみます。魔法名とかもあるとより成功しやすいです」


 その言葉に一瞬逡巡する。そして彼の頭に閃いた名を口に出す。


「そうだな『ファントムヴェール』なんてどうだ?」

「ファントムヴェールですね。掛けてみて良いですか?」

「ああ、試してみてくれ」


 ソフィアは目を瞑り頭の中で魔法イメージを固め始めた。気の流れで魔力が込められていくのが分かるが、その魔力の集まり方が通常の魔法と異なり不安定だ。その様子をしばらく見ている内に次第に流れが安定してくる。


「ファントムヴェール!」

「うわ!いきなりだな…ってこれ、手が透けて見える!」

「成功しました!新しい魔法が出来ました!でも全く見えないようにはならないですね」


 透明というよりは周りの景色にやや溶け込んだ半透明という方が近い印象だ。


「魔法ってこんなに簡単に作れるものなのか?」

「わかりません。でも私は本で読んだら大体できますよ?」

「そんなものなのか」


 はしゃいでいるソフィアと驚くノエルだが、実際に新しい魔法を作るというのはこんなに簡単ではない。仮に魔法書を読んだとしても簡単に再現できる物でもないのだ。これはソフィアの資質の高さによって実現できる事なのだが、周りと比較した事が無いソフィアも魔法が使えないノエルも、それを理解する日はきっと来ないだろう。


「よくやったぞソフィア!これで面白いことが出来そうだ」

「ノエルさん、何をするつもりですか?」


「ソフィア、今度は君が聞き込みをするんだ。俺がこの状態で護衛する。確信に近づけば近づくほどそういった者たちを消そうとするだろうからな。要は囮作戦だ」

「じゃあ聞き込み中もずっとこの魔法を使ってないといけないですね」


「そうなるが、ところでこれはいつ解けるんだ?」

「え?わかりません」


「まさか一生このままじゃないだろうな!?」

「それはないと思います!ちょっと解除もイメージし直します!」




 姿が薄らとしか映っていないノエルと姿を戻す魔法を一生懸命イメージするソフィア。傍から見たらさぞおかしな光景なのだろうと、ノエルはただ魔法の成功を祈りながら待ち続けるのであった。

DALL-E3でカメレオンなノエルを作りたかったのですが、完全に実力不足で作成できませんでした。

脳内で保管して頂ければ幸いです。

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