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ファンタジーシリーズ

はるか☆マジック


 六角形の折り箱を、作ってもらい、教えてもらった。

 はるかちゃんは、事故で死んでしまった。

 自転車で空を、飛んだんだ。

 猫が空に向かって飛んでいくのを、見た事がある。

 鳥ではないのに、ぴょーん、っと。

 はるかちゃんは猫なの? 鳥なの? 私だったら、何かなぁ……。


“ない”ものが、あらわれる。

“ある”ものが、なくなる。人ならば、神かくし。

 それって、ふしぎ。



 私はユメ、この春、中学三年生。将来の夢が決まらなくて、悩んでいる。

 五月に一回目の進路相談会があって、お母さんも来て、志望校とか、決めていかないといけなくなる……って聞いた。

 私の夢って……何だろう。

 どうやったら、決められるの?

 学校からの帰り道で、大きな川沿いになるけれど春になったら咲く桜の木が並ぶ。

 よくお年寄りが途中の腰掛けで座っていたり、犬の散歩で、ウォーキングで、ランニングで誰かが通っていたり。

 道路が離れた向こう側、自転車は危ないからそこは通らない様にって先生が言っていたわ。

 今日は体育の時間に足や腰を痛めてしまって、自転車に乗るのがきついからって押して帰る事にした。

 いつもならこんな長い道、パーッと走って帰っちゃうのに。

 まあいいや、桜ももう散って地面はピンクの絨毯みたいになっている。風で飛んで花弁は、どこかへ。

 とぼとぼと押して歩いていると、目の先にベンチで休んでいる、おじいちゃんが居た。

 こんにちは、と挨拶すると、ニッコリと笑って手を挙げた。

 何だろう、と思って右手を見ると、途端に空っぽのはずの手の中からお花が咲いた。

 うわあ、何これ、手品!? と私が目をパチパチさせて興奮したら、おじいちゃんは今度はもう片方の左手から、バサッと黄色の花束を繰り出した。

 素敵! こんな近くで手品って初めて見た!

 本物は違うんだね、本当に不思議。動画でしか、見た事がなかったよ。

 ねえねえ、どうやってしたの? 教えて教えておじいちゃん。

 私があんまりねだるからか、おじいちゃんは笑っていたけれど、仕方なさそうにタネを教えてくれた。

 なあんだ、そうだったのか。

 私にも、できるかな? できるとも。

 おじいちゃんは言った。

 君は夢を探すけど、僕はね、夢を与えるんだよ。

 繋がろうか、一緒に。


 家に帰ってから、一人で教えてもらったマジックをしてみた。

 ここで上手くできても、誰かに見せる時に失敗せずにできるかどうかなんて、分からない。

 練習しなくちゃ……。


 夜に動画で検索して、すごいマジックをするマジシャンをいっぱい観た。

 コインが消えたり結んだ紐が解けたりなんていう初歩的なものから、切った胴体が繋がっていたりビルが消えたり犬が人面犬になってしまったりと、面白おかしくて一晩明かしてしまった。 

 おかげで学校に遅刻しそうになって先生に注意されてしまうし。

 反省、と思って言いながらもまた今晩になって動画を探す……。

 私もしてみたくなって、図書室で本を探して読んで、練習してみた。

 簡単なカードのマジックだったけれど、練習したんだから大丈夫って自分に言い聞かせて、誰かに見てもらいたくなった。

 はるかちゃん、クラスメイト。小学生からお互い知っていて、家も近くで、よく遊んでいた。お母さん同士が親友で、っていうのもある。

 でもクラスが一緒になったのは、今年が初めて。すごく嬉しかったし、登下校も一緒にする事が多かった。

「ほらあの日の帰り。はるかは委員会でいなかったけど、道でマジックのおじいさんに会ったって言ってたじゃん?」

「あー、あの日。言ってたね。アンタ興奮してて何言ってるのかサッパリ分からんかった。で、それからどうなったの?」

 私はあれから一所懸命にマジックを練習した事と、誰かに見せたくてウズウズしているんだと告げると、しょーがないなぁ見せてごらんとはるかちゃんは言ってくれた。

 今、私たちが居る場所は家から近い公園のベンチなんだけれど、ブランコや滑り台で遊んでいる子どもがいる。犬を連れて通る人も。

 私を見ているのははるかちゃんだけ。ようし……。

 トランプの束を用意していて、はるかちゃんにはその中から一枚だけカードを抜き取り、その数字とマークを私には見せずに覚えていてもらいます。

 はるかちゃんの持つカードをこの束の中へ。入れたら、適当に束をきってもらいます。

 そうしたら私が、この束の中から一枚を取り出し、はるかちゃんが覚えてたカードを当ててみせます。

 上手くできたら美味しいものを奢ってね、えー、まあいいよ成功したらね。

 結果は、見事に? 外れてしまった。誤魔化せない失敗。

 すごーく疲れてしまった……ガッカリだった。

「また見せてね」

 フワッと、毛先を巻いた髪が、とってもチャーミングだった。

 はるかちゃんは、可愛いな、器用だから、何でもできた。

 将来は女優になりたい! って言ってたから、なれるよ、って言った。

 キラキラと輝いている様で、小学校の卒業式では代表として選ばれて送辞を、前年の六送会では劇をして主役をしていたっけ。

 行動力があって、近寄りがたいって遠くから見ていたけれど、春の遠足でたまたま一人で居た私を見かけて誘ってくれて、皆でお弁当を食べた。

 本当、誰よりも輝いていた、だから、誰もそうなるなんて信じられず、信じたくなかった。

 はるかちゃんが、逝ってしまうなんて。

 空を飛んでしまった、もう戻ってはこない、決まりを破ったからなの?

 信じたくないよ……。


 それから、三日後に、走りたくなって走っていたら、川沿いの道に見た事があるおじいちゃんが居た。

 あれれ、何処かでお会いしませんでしたっけ? と首を傾げるも、思い出せない。

 近くまで寄ると、振り向きざまにそのおじいちゃんが、手からパッとタンポポの花を繰り出した。私の前でそれは、可愛らしく咲いていた。

 瞬間、稲妻でも体を通過した様に、衝撃的に頭が働いた。「あなたは!」私の驚いた声が空に響く。

 タン・ポン・ポン。鼓の音みたいだからタンポポっていうんだよ、とおじいちゃんは笑った。

 えー、そうなのー? って私も笑った。楽しいおじいちゃん、また会えるかな? 私の王子様。

 ははは、会えるとも、もちろん、これからも。

 君が笑ってくれるなら、何度でも。タネを持って、しかけておくさ。


 ある日、妹が折り紙を持ってきて、箱を作りたいと言い出した。

 昔に作って遊んだ覚えがあって、思い出そうとしたけれど、途中で忘れてしまっていて、進まない。

 自力では、できないのかなぁ……。

 動画で探したけれど、折り方は分からなかった。探し物が見つけられない。

 明日もやってみて、分からなかったなら、諦めよう……。


 進路相談会、三回目。まだ決まらない私の将来。

 近くの高校、普通の高校、成績で落ちる心配の無さそうな高校。

 それでいいのかな、私は。

 私は止まっているのに、周りが進んでいく。

 皆、止まってしまえばいいのに……勝手だな。


 はるかちゃんに誘われて、映画を観に行った。バレーボールの青春映画だ、流行っているアニメの。

 ボールを落としたら負けのスポーツ、すごいな、楽しいな。

 私のマジックも失敗したら負け、勝ちたいよ……勝つとは?

 私は誰と、戦っているのだろう?


 最近できたっていうレトロ風喫茶店にも行ってきた。そこで偶然にも、コーヒーを飲みながら新聞を読んでいるおじいちゃんが居た。

 レトロ風、だから昭和の様で、昭和ではない。こんなに綺麗な昭和でもなかったよ、偽物だね、二度と返ってはこないんだ。

 我々には心地よかった失われたあの場所、空間。そうは語るけれど、嬉しそうに『ホットケーキ』を食べていた、おじいちゃん。

 明日も来るのかな? おじいちゃん。

 今日はマジックをしてくれなかった、もう無いのかな?


 進路相談会、四回目。まだ決まらない進路、志望校。私だけが決まってないし、クラスの皆は決まっている。

 私は何処へ行くの? 何処へ向かうの?

 先生も、お母さんも困っている、私の為に、私のせいで。

 そんな顔をしないで、溜息をつかないで。

 辛いよ……。


“ない”ものが、あらわれる。

“ある”ものが、なくなる。

 ふしぎだね。


 海へ行った。私の家族と、はるかちゃんの家族と。

 楽しかった。昼は泳いで、夜はバーベキュー。何でも揃っているから、楽だった。

 お腹いっぱい食べたら、眠くなった、でもお喋りしていたらなかなか寝られず、気づいたらいつの間にか朝になっていた。


 九月になって、もう何度目か忘れた進路相談会だったけれど、何も状況は変わっていない。でも私は、分かっていた。

 なりたいものなんか、無いんだ。無いものを求めても、無いんだ。

 だったらやめよう、無いものねだりなんかしたって、仕方ない。

 おじいちゃんは、何処へ行ったんだろう? ふしぎなふしぎな、おじいちゃん。

 もう、あのワクワクしたマジックは、見られないのかな?

 そう思うと、寂しいな……。

「会えるとも、もちろん、これからも。

 君が笑ってくれるなら、何度でも」



 2025年、女子お笑いR-1グランプリ優勝は、エントリーナンバー5「浅井ユメ」さんです!

 おめでとうございます!

 審査員のスケロクさんは以下の様に語った。

 いやぁ、見事な漫談だった。時々見せてくれるマジックは素晴らしかった。

 ちなみにあの六角箱に入っていた「アレ」は、何処へ消えたのかね? ポケットかね?

 ユメは、その審査員のおじいさんの胸ポケットを無言で指さした。

 何と、ポケットの中にはユメの欲しかった「アレ」が入っていた。

 おじいさんは驚いた。そうか、君はやっと手に入れたんだね、見えない「アレ」を。

 パンドラの箱には最後に「希望」が残って入っていたっけね。  

 君はここに来る決心をした。

 だから君は僕と会えたんだ、これは何と素晴らしい……!


 さあ行こうこれからよ。

 自転車で空を飛ぼうか?

 僕らには羽が無い。


 夢がある。



《END》




 ご読了ありがとうございました。


 勇気が湧いてくる瞬間て、ふしぎですね。

 どこから来るのか?

 食べ物かな、うん。まんぷくしあわせ。


『小説家になろう Thanks 20th』企画参加作品です。

 後書きは、ブログにて。

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