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水野忠短編集

海を渡ってきた侍 ~とある日系野球選手の物語~【短編完結】

作者: 水野忠

注:英語は翻訳を使用しています。不自然な部分があったらご容赦ください。

  作者、英語苦手です。。。


「Hey boy. Wanna play catch ball?」

(キミ、キャッチボールしないか?)


 そう声をかけてきたのは、日本からはるばる日米高校野球のために渡米してきた日本代表の青年2人だった。日本人は肌の色が明るいと思っていたが、その青年たちは日に焼けていて精悍な顔つきをしていた。しかし、少年に声をかけてきたその笑顔は、少年の警戒心を解くには十分なものだった。


 少年はまだ小学生だったが、リトルリーグに所属していた。少年はアメリカ人の父と日本人の母を持つハーフだ。母方の祖父は大の野球好きで、頼んでもいないのに日本製のグローブやらバットやらを送ってくれていた。少年が野球を好きになっていったのも当然のことだったかもしれない。


 祖父の手引きで、この少年の家で何人かの代表選手がホームステイをすることになったのだ。しかし、母が日本人だからといっても、生まれも育ちもアメリカの少年にとって、初めて聞く日本人同士の日本語は難しいものだった。母は日本語で談笑しているが、そのほとんどの内容はわからなかった。青年たちも英語はほとんどできないようだ。


 時折、自分を見て話をしていたので、わが子も野球をやっていることを話してくれていたのだろう。ホームステイが始まって3日目、預かった青年たちが精いっぱいの覚えたての英語で話しかけてきてくれたのだ。


 少年は目を輝かせてうなずいた。幸い、少年の家はキャッチボールをするにはあまりあるほどの大きな庭がある。ここでよく兄と野球の練習をしていた。


「What's your position?」

(キミのポジションは?)


 背が大きく肩幅も広い大きな青年に聞かれた少年は、少し考えた後に恥ずかしそうに答えた。


「I'm an alternate. I really want to pitch. but I don't have good control...」

(僕、補欠なんだ。本当はピッチャーをやりたいんだけど、コントロール悪いから。。。)


 2人の青年のうち、細身の青年は多少英語ができるようだ。少年の言葉を聞いてにっこりほほ笑むと、


「Just right. I'm an alternate too. On this team.」

(そりゃぁいい。オレも補欠なんだ。このチームではね。)


 そう言ってボールを放ってきた。いつも使っている少年用のボールよりも、少しだけ大きな気がした。細身の青年は距離を取ると、しゃがみ込んでグローブを構えた、大きな青年がその後ろで手を挙げて合図する。


 少年は何度かボールの感触を確かめると、振りかぶって思い切りグローブめがけて投げた。つもりだった。


「damn it!」

(しまった!)


 少年の放ったボールは、構えたグローブのはるか上を通り過ぎ、後ろに構えた大きな青年がジャンプしてやっとキャッチするほど外れた。


「OK! One more time.」

(OK、もう一回いこう。)


 それから何度も投げたが、なかなかストライクが入らなかった。それでも、青年たちはそれたボールをしっかりキャッチし、もう一回投げろと放り返してきた。


 少年は何度も何度もグローブめがけて放り込んだ。時折ストライクが入ることもあったが、やはりなかなか決まることはなかった。少し落胆していると、


「Try swinging your arms wider, okay?」

(もっと、腕を大きく振ってごらん?)


 そうやって、少しの言葉と身振り手振りで指導を受けるうちに、少年の投げる球は思うよりもストライクが入るようになった。


「Wow! I'm getting strikes now.」

(すごいや! ストライクが入るようになった。)


 笑顔になった少年に、細身の青年が駆け寄って頭をポンとたたいた。グローブを外すと、手のひらが真っ赤だった。


「Your ball is very fast. And it's powerful enough. You should have confidence.」

(君の球はすごく早いよ。そして、威力も十分だ。自信を持ったらいい。)

「Thank you, brothers.」

(ありがとう、お兄さんたち。)


 その日、少年は家に帰ると、2人を称えながら、自分のコントロールが良くなったことや、投球が褒められたことを何度も話した。両親はわが子のうれしそうな笑顔を喜んだ。


 そして、日米高校野球が始まると、少年は母にねだって毎試合を観戦に行った。


「Hey. You're an American and you're cheering for the Japanese?」

(よぉ。お前はアメリカ人なのに、日本人の応援をするのか?)

「If we support the Japanese, they can't beat us Americans anyway, can they?」

(日本人なんか応援したって、どうせ俺たちアメリカ人に勝てるはずないだろ?)


 友達にはそういってからかわれたが、少年にとってそんなことはどうでもよかった。


「We'll win. They are stronger than everyone thinks.」

(勝つよ。彼らはみんなが思うより強いんだ。)


 そういって見せたが、友達は笑ってアメリカ席へ移動していった。少年は悔しそうな顔をしたが、首を振ると、母と一緒に日本応援席へ向かった。


 結果は、少年が思った以上だった。日本の高校球児たちは、打って走って守って投げて、身体つきでは数段劣っているように見えるはずなのに、とってもパワフルに勝ち切った。日本が3回勝ち、アメリカは1回だけ勝った。1回は引き分けだった。


 毎試合球場に来ては、大きな声で全力で応援する少年に、日本代表の青年たちはすっかり彼を気に入り、大会が終わるころにはチームのみんなと仲良くなった。ホームステイしている青年たちだけでなく、日本代表の選手たちみんなが、少年やその友人たちも交えて野球をしてくれた。大会が進むにつれて、少年の周りには友人が増えていったのだ。


「You were right. They were strong. I'm sorry for being weird.」

(君の言ったとおりだった。彼らは強かった。変なこと言ってごめんよ。)

「Don't worry about it.」

(気にするなよ。)


 少年の快い言葉に、友人たちは笑顔になって集まってきたのだ。



 楽しい時間はあっという間に過ぎるものだ。今日はお別れの日、日本代表選手たちが帰国する日だ。少年は、最後まで笑顔で見送ろうと思っていたが、別れが悲しくてとうとう泣き出してしまった。


 その姿を見て、ホームステイをしていた青年2人が歩み寄って頭を撫でてくれた。そして、差し出されたプレゼントに、少年は泣きながら破顔した。


「thank you!」


 そのボールには、


「You're part of the team.」

(君もチームの仲間だ。)


 と書かれていた。少年は嬉しそうにうなずくと、2人とお別れのハグをした。搭乗口へ彼らを見送ると、少年はデッキに駆け上がり、青年たちの乗った飛行機が雲間に消えるまでずっと見送り続けた。


「Mother. I will play baseball with the Japanese someday.」

(かあさん。僕、いつか日本のみんなと野球をするよ。)


 そういった少年の顔は、少しだけ大人になったような感じがした。



 そして時は流れ、少年は立派な青年になっていた。あの日に受け取ったボールは、試合の時にはお守りとしていつも持ち歩いている。


 彼は日本代表の青年たちが帰国した後、兄とともに厳しく自分を鍛えていった。苦しいこともあった。怪我に泣いたこともあった。しかし、着実に力をつけ、とうとうアメリカ野球界の最高峰、メジャーリーグの選手になったのだった。投手ではなく外野手として。


 球が速く威力がある。あの日の青年の言葉に、彼はますます肩を鍛え、足腰を強化した。その広く確実な守備は、彼をトッププレイヤーに押し上げたのだ。外野から返球される弾丸のような球は、何度も相手ランナーを刺し、その進塁を阻んだ。



 今日は日本に来て初めての公式試合だ。彼の努力と人となりを知る日本代表野球チーム、通称「侍ジャパン」に、彼は日系人として、初めて代表選手に選出されたのだ。


 初めて連絡を受けた時、彼は戸惑いも迷いもなかった。まるでそれが必然であったかのように、運命であったかのように、


「Boss, please use me.」

(監督、僕を使ってください。)


 そう答えられたのだ。初めは、日本では無名のメジャーリーガーが、果たして代表選手としてうまくいくのかと、マスコミは一斉に疑問の声を上げた。しかし、この数試合の練習試合で、彼のひたむきで明るくはつらつなプレーは、日本人野球ファンの心をがっちりとわしづかみにした。


 塁に出たときは、両手のこぶしをこすり合わせ、胡椒を引くようなパフォーマンスが受け入れられ、今ではヒットで出るたびに、チームのみんながこのパフォーマンスをしてくれた。「ペッパーミルパフォーマンス」という、粘り強く、身を粉にして頑張り、つないで次に回して行けという意味だが、これが日本では大流行した。


「Hey boy! Alright, let's roll.」

(よし、行こうぜ!)


 チームメイトがそう言って肩をたたいてくれた。青年はこぶしを突き出して返事をすると、超満員のドーム球場のグラウンドへ駆け出した。大歓声に包まれながら、彼は帽子を取り、両手を挙げて声援に応えた。


 彼は、守備に打撃に走塁に活躍し、何度も日本代表を救うことになる。その勇敢なプレーは、のちに「海を渡ってきた侍」と呼ばれることになるが、彼の物語はまだ始まったばかりだ。


侍ジャパンの皆さま、

第5回WBC優勝おめでとうございます。


2019年 プレミア12 優勝!

2021年 東京五輪 優勝!


そして、

2023年 WBC 優勝!!


あまり話題になっていないですが、

主要三大国際大会制覇、三冠達成です。


野球ファンとしてこれほどうれしいことはないです。


この物語は、

前評判を覆し、私たちに「侍魂」を見せてくれたリードオフマン。

ラーズ・テイラー=タツジ・ヌートバー選手をモデルにした物語です。


本当に素晴らしい活躍をしただけではなく、

こんなに短期間に、

日本野球ファンの心をガッチリわしづかみした彼の活躍は、

私は生涯忘れることはありません。


侍ジャパン選手皆様に、

たくさんの感動と勇気をいただいたことに、

心からの感謝と称賛を送りたいと思います。


世界一おめでとう!!


2023年3月22日 水野忠

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― 新着の感想 ―
[良い点] ∀・)なるほどWBCで大人気だった彼をモデルにした小説ですね。モデル像がしっかりとあるだけにすごくリアルな読了感がありました♪♪♪ [気になる点] ∀・)とにかく明るい安村さんの英国番組出…
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