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開戦直前。

冬の霜が去り、暖かな春風が帝都を吹き抜ける。白作戦の立案は、大詰めに入っていた。


「それでは陛下、白作戦は短期決戦と言うことですか。外務卿としては戦争というのは短期であればあるほど良いものですし、迅速な戦争終結で我が国の軍事力を見せつけられれば、東との交渉でも役に立つでしょう。」

「財務を預かる身としては大変うれしい限りですが、とは言え、現実的にどのような作戦なのか、お聞かせ願いたいです。」


会議室にて、ヴィッテとチャーリーから穏やかながらも鋭い質問が発せられる。


「うん。そう言われると思ってね、アルベルトには西帝国の詳しい情報、それも軍事に関するものを例の山賊連中に頼んで調べてきてもらったんだ。アルベルト、西帝国についておさらいしてくれるかな。」


「はい。人口は概数にして20万。資源については石炭が主力でして、三州鉱脈から盛んに産出されております。主要輸送は、王の河と呼称される我が国との国境から流れ込む河川における、艀輸送が石炭の大動脈となっております。また、貨物のハブはアルンハイムであり、一日に二百隻の艀が通過いたします。財政についてですが、石炭輸出と租税が主柱です。対東、我が国への輸出には前払要求が通例ですが、これは財政の基盤が石炭である証左です。

総兵力は、平時で常備1万、動員で+1~2万となっています。数では圧倒的です。また、装備の質ですが、こちらもかの国が優勢でして、歩兵は後装式小銃(有効200m級)が標準。火力主義で、塹壕と砲兵の組み合わせに自信を持っているようです。」


会議室に淡々と西帝国の情報が読み上げられるうちに、どんどんと空気が重くなり、しまいにはしびれを切らしたヴィッテが発言する。


「陛下。私は我が国への死亡宣告を聞きに来たわけではございません。いかなる手段によって、この苦境を打放さるおつもりですか。」


「ああ。そこで新兵器、ミサイルの出番という訳だ。それと、もちろん山賊連中にも手伝ってもらう。」


私の作戦はこうだ。まず大前提として、軍隊というのは食い物がなくてはただの案山子である。幸い、西帝国の補給ルートは限定されており、大河川による艀輸送に限られている。正面から戦えば射程の差で一方的に叩き潰されるだけであるが、そもそも正面から殴り合う気など全くない。

まず、山賊連中に命じて開戦直前に爆薬を満載した艀をアルンハイムで爆発させ、河川輸送を麻痺させる。もちろん一週間もあれば復旧されるだろうが、その一週間が我らの希望である。川の手前側に集結するであろう西帝国軍を、初動のミサイルで叩き、すかさず戦車部隊でもって蹂躙する。物資輸送の大半を河川に頼るかの国は、増援を河川経由で送り込もうとするであろうが、その河川補給網は根元で破壊されている。となれば、陸上をゆっくりと行軍するほかないが、そのような兵士の群れは戦車部隊にとって格好の的である。悠々と蹴散らして、そのまま西帝国の首都へとなだれ込む。講和交渉では、領土は一切要求しない。そのような強硬姿勢は体力で勝る西帝国に長期戦を挑むも同義である。反対に我々はただ石炭とガスの利権、そして賠償金を要求する。


「なるほど。話は分かりました。とても興味深い作戦と思います。財務大臣としても、資源の利権と賠償金は非常にありがたい。しかし、初動で敵軍を撃破できなかったときは?」


「陛下に代わってお答えするならば。体力で劣る我が国は西帝国にじりじりと押し込まれ、最後には破滅するでしょう。」


アルベルトの返答に、会議室の空気は再び重く沈む。これはまた反対か、と思われた矢先。


「分かりました。短期に終結する見込みがあり、かつ、資源と賠償金の獲得が保障されるなら、私はもう何ら反対することはありません。陛下、どうぞお好きに暴れてください。」


ヴィッテが諦めたように、ため息交じりに同意する。正直、嬉しい誤算である。


練兵場では、百両の戦車が縦横無尽に動き回る。その練度は冬を通しての猛訓練の甲斐あって、今では走行しながら50m先の的に弾を当てることも容易いほどである。意表を突くことさえできれば、数倍の敵兵力であっても歩兵相手ならば豆腐を突き刺すようにやすやすと食い荒らせるであろう。


練兵場の奥、倉庫の中にその秘密兵器はあった。ミサイル。正直、名前負けしているのは否めないが、小銃の射程で負けている以上、唯一アウトレンジから敵に甚大な損害を与えられる見込みのある兵器。その外観は不気味なロケット花火のようで、先端部には多数の釘や鉄球が火薬と共に詰まっている。


開戦まで、あと少し。人口でも軍備でも明らかに劣勢な東帝国は、新兵器と奇襲に一縷の望みをかけて、戦争へと突き進む。


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