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対西戦争計画、始動。

 秋。定例会議のメンツの顔は見慣れたものになり、心なしか皆の顔も最初の頃に比べて緩んでいるように見える。 財務大臣のヴィッテを除いてだが。

 彼は手元の書類に目を落としながら、顔を真っ青にしている。

 「おいおい、どうしたのだ。財務大臣殿。悪いものでも食べたか?」

 と、軍司令官のアルベルトが尋ねると、ヴィッテが顔を今度は真っ赤にして応じる。

 「司令官殿。お言葉ですが、今回の件に関しては司令官殿に苦言を呈さざるを得ません。前に西帝国から盗んできた百五十万ルスト、あれでようやく軍備増強分の赤字が回収できたのです。それが今度は戦車ですと?一両当たりのコストをご存知ですか?一万ルストです。それを百両も揃えるというのはあまりにも無謀かつ身の丈知らずな出費と言わざるを得ません。」

 中々手厳しい指摘だが的を得ている。そしてこの後、更に出費のかかる提案をしようというのだから、狂気と言われても仕方ないだろう。

 「あー。ヴィッテよ、ちょっといいかな。国王として提案があるのだが。」

 ヴィッテはこちらに不機嫌そうに向き直った。

 「どうぞ。」

 「すまないな。で、提案というのは簡単だ。ミサイル部隊を創設したい。」

 これにはヴィッテもアルベルトもきょとんとしている。

 「すみません。ミサイル部隊というのはどういった・・・」

 「私もヴィッテ殿と同じく、陛下の言うそれが何なのか理解ができません・・・」

 この時代にはそもそも空を戦闘に組み込むという思想がそこまで広まっていないのだろう。しかし、だからこそこの時代に航空優勢を確保することで、戦争における優勢を確定させることになる。また、戦争に勝利することで我々の負債も吹き飛ぶ計算だ。若干自転車操業的だが。

 「ミサイル部隊というのは簡単な話、空を飛ぶ兵隊だ。技術的、資源的な制約で無人の部隊となる。具体的には、火薬を用いて高高度に爆弾を打ち上げ、上空で爆発させる代物だ。もちろん爆弾には対人用に小さな鉄片を詰め込み、威力を上げる。今はその程度の事しかできないが、西帝国の石炭鉱に燃える気体が出るという。西帝国との戦争に勝利した暁にはその気体、現地では瓦斯と呼ばれているものを用い、大きな袋にその気体を詰め、人を飛ばすことも想定している。」

 ここまで二人は黙って聞いていたが、まずはヴィッテが機先を制して尋ねる。

 「とても面白く、強力な兵器ですな。しかしながら、いったいその兵器には大体どれくらいの費用が?」

 先ほどまで予算の赤字を嘆いていたヴィッテには申し訳ないが、ここははっきり言わねばならない。

 「はっきり言って、一基あたりで十万ルストかかる。が、もちろん返す当てはある。」

 これを聞いて、またヴィッテは顔を真っ青にして応じる。

 「十万ルストですと?いったい何基揃えるおつもりで?いえ、何台であったとしてもそのような出費、とても賄えません、一体どこにそんな財源があるというのですか?また西帝国の金庫を漁るとでも仰るのですか?」

 中々強烈な反撃だ。

 「まあまあ、そう怒るな。軍司令官としても軍備の増強は必要と思います。ヴィッテ殿もいったん陛下の金策の手腕はご存知のはず。陛下にはきっとちゃんとした当てがあるのでしょう。一回それを聞いてからでも怒るのは遅くないですよ。」

 と、アルベルトが間に入る。

 「ありがとうアルベルト。では申そう。私の金策は簡単だ。まず東主権国に借金をして、少額ずつの返済と並行して軍備を揃え、軍備が整ったら西帝国からその時点での東主権国への借金残額と同額程度の大量の石炭を輸入して、それを借金返済として格安で東主権国に売り飛ばす。」

 と、これを聞いた二人はまたもやきょとんとしている。

 「陛下、安く売るのでは何の意味が?確かに東主権国からの心証は上がりますが、それでは我々の赤字が拡大するだけです。それに大量の貿易とあれば、西帝国の連中は絶対に先払いを要求してきます。財務大臣としては、そのような先払いに使用できる外貨および貴金属は無い、とはっきりお答えできます。以前に西帝国から盗んできた貴金属類もすべて戦車に消えました。本当に財政が破綻しますよ。」

 かなり強硬に反対され、なるほどこれが戦争に突入した過去の指導者の気持ちなのかと考える。

 「なんか戦前のドイツみたいだねえ・・・」 

 思わずぼそっと漏らしてしまう。

 「え?ドイツ?とにかくですね、そのような取引には反対です。」

 まあ当然の結論だろう。普通のやり方では。

 「ヴィッテよ。要は、そのような巨額の支払いは不可能であると?」

 当然だといった顔でヴィッテが深く頷く。

 「では払わなければいい。西帝国への支払いには偽札やがらくたを送り付けろ。石炭でもって東主権国への返済のみ完了させればよい。」

 さしものヴィッテもこれには度肝を抜かれたようで、言葉を失っている。アルベルトもこれには顔を硬直させ、口の中でもぐもぐと言葉を探している。が、なんとか言葉にして両者とも言った。

 「戦争になりますよ?」

 「戦争になります!」

 これに応じて私も即答する。

 「うん。戦争だね。でも、西帝国の賠償金が今までの赤字を帳消しにしてくれるいい機会だよ。」

 これには自分で言いつつ、本当にドイツ第三帝国がやった自転車操業と、賠償金の踏み倒しみたいだな、と思う。だが、現実的に資金を調達するには、ある程度のギャンブルが必要なのだ。が、アルベルトが今日初めて、私に明確に反対した。

 「陛下。いくら何でも、西帝国との戦争には時期尚早であると私は考えます。」

 まあ、それはそうだろう。人口でも軍備でも二倍の差なのだから。

 「一体どれくらいの準備期間があれば良いか?財務大臣よ、我が国が財政破綻するまで、どれくらいの猶予がある?」

 ヴィッテが、戦争を前提とするなと言いたげに渋々答える。

 「その新兵器今年の予算に組み入れるのなら、来年いっぱい、ぎりぎり持ちこたえられるか怪しいです。」

 逆に言えば、あと丸一年は猶予があるということだ。

 「なるほど。では、国王として下令する。アルベルト。西帝国との戦争は一年後として、それまでに新兵器、そうだな、ミサイルと命名しよう。それと、戦車部隊の練度を高めること。」

 アルベルトもここまで断言され、しかも国王命令とあっては従わねばならないことを心得ているようで、一礼して承諾する。

 「了解。最善をつくします。」

 が、ヴィッテはいまだに納得がいかないようだ。

 「陛下。我が国に勝算が確実にあるならば別ですが、短期決戦と即時講和を約束いただけなければ財務大臣としては賛成できません。我が国の貧弱な経済基盤では、長期戦は地獄の入り口になりえます。本当に勝算はあるのですか?」

 当然の疑問だろう。が、座して滅びるよりは一縷の望み、何なら今回は軍事的優位というそれなりに期待できる望みがある。

 「国王として断言する。我が国はこの戦争に勝利し、今までの隣国の顔色を窺い、侮られる国家を卒業するのだ。我々は確かに人口と経済規模では西帝国に劣る。が、我々には優れた司令官、優れた大臣たち、そして何より、優れた兵士がいる。もう、隣国に媚びへつらうのは辞めよう。我々は、西帝国に見せてやるのだ。いかに我々が精強で、そして対等な国家であると。我が国は一年後、西帝国と戦争を行い、必ずや勝利し、我が国の財政的基盤を飛躍させるだろう。」

 少し熱を入れすぎたが、ヴィッテの眼が変わった。

 「私も、かつての西帝国との国境紛争の講和会議、よく覚えております。あの西帝国側の、天然資源で我々の頬を叩くような態度。財政のことはお任せを。その代わり、連中の石炭地帯と賠償金、ちゃんと分捕って下さい。私はこれから東主権国にチャーリー外務卿と行ってきます。」

 戦争は確定的だが、外交交渉の下準備も不可欠だ。チャーリー外務卿にはまた、東主権国に和平の仲介をしてもらうことになる。

 「分かった。では最後にこの対西帝国戦争の準備計画の名称を決定する。」

 これはずっと頭にあったものだ。

 

「白作戦、と。」

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