No.025 ▼再会の窓口
駅から少し離れた喫茶店。
静かな午後、カップの縁に紅茶が揺れた。
寺毛の向かいにはホテル時代の後輩椎名がいた。
久しぶりに会うその目は、何かの決意が伝わってきた。
「弟のことなんです」
椎名は少し照れくさそうに切り出した。
「引きこもって、もう、三年、何を言っても届かなくて・・・ でも、寺毛さんの"道徳学院"の記事を見て、反応したんです、"行ってみたい"って… 通うのはちょっと無理だから寮がるなら、良いなって思ったんですがーっ」
寺毛はゆっくり頷いた。
「その声、最近、他の生徒からも聞くんだ、通えない、けど、その場所で過ごしたい、そんな気持ちが胸を突き刺すよ」
椎名は深く頷き、手提げから封筒を差し出した。
「これは僕の知り合いの投資家からのものです "今の時代に必要な学校"だ、と言ってました 挨拶を兼ねて、まずは運営準備の支援をしたいって、ただし、"理念"は曲げない事、が条件」
封筒には手紙と共に数百万円規模の支援申請書と仮契約書のコピーが同封されていた。
寺毛は封を閉じゆっくり呼吸した。
その日の夕方学院の掲示板に新しい貼り紙が増えた。
《道徳学園寮 準備開始のお知らせ》
・地域内建物候補の調査
・希望者の声募集中
こはるがそのお知らせを見て呟く。
「あのこ、きっと喜ぶわ」
こはるの背中越しに夕陽が長く伸びた。その光は寺毛の顔にも差し込んできた。
「"帰る場所は家じゃなくてもいい、心が喜んで帰れる場所がひとつでもあればーーー、それでいい」
希望の種が根を張り始めていた。




