第1話 ネタ鍛冶師の始まり、あるいは酷い物語
新作です。多分、不定期投稿になると思います
VRMMOイベント、それはお約束のような魔王イベント、このゲームの初のイベントで・・・
『フハハハハハ!我は魔王サタン!我に誘われ、街から出てきた勇者に冒険者よ!我が眷属共が各地で災害をもたらさん!絶望せよ、人類共ぉ!』
こー、アレである、お約束のように、ここでプレイヤーは大パニックになる、そう、それは・・・自分が居なければの話である。
『ま、魔王様!各地に派遣した眷属共の反応が全て消えました!』
『は?ゆ、勇者を街に残していたのか?』
『いえ、勇者称号を持つ者はここに居るので全員の筈なのですが・・・』
『じ、状況映します!』
アレが移るだろうから、全員が準備する。映し出されるのはいかにも眷属的な奴、筋骨隆々で人間なら簡単に潰されるだろう大きなモンスター、そんなモンスターに対峙するのは・・・
『行くぞぉ!配信組ぃ!』 『ヒャッハー!今日が配信時だぁ!』『行くぜぇ!』
装備をすべて排除した、パンツ一丁の男達。その手に握るのはスイッチらしきもの。
【3】
『え?え?』
画面に映る眷属とやらも魔王も、その下僕も困惑する。そりゃ、そうだ。そのスイッチを押したと思ったら、その頭部に数字が出てきて、眷属に突貫。
【2】
『は?は?』
『筋力、体力極振り配信組ぃ!』『魂!』『輝きをご照覧あれぇい!』
【1】
いやあ、うん、まあ、配信組、良い笑顔だ。うん。魔王も口をパクパク開けている。なんとなく察したに違いない。
【0】
そして、0を境目に映像が切れた。
『き、貴様ら!人の心が無いのか?!』
いや、うん、まあ、アレである。お前が言うなと言いたいが・・・
「次はお前の出番だ、魔王ォ!」
『ヒャッハー!』
そうして、パンイチ配信者やファンタジーにそぐわない武器を持ったプレイヤーによる魔王『討伐』の筈のイベントが始まった。これは、自分が無双する話ではなく、自分のとあるスキルが無双する話である。ひとまず、この状況の結果は後で話すとして、まずは始まりから語ろうと思う。
「ようやく買えたか」
自分、各務 大樹は20歳のアルバイト社員。そして、ようやくアルバイト代で買えたVRヘッドギアとゲームソフトを手に、感動している。と言うのも、まあ、大人気ゲームにはよくある転売のせいである。
初版はあっという間にそういう手合いにより買いつくされ、2次、3次と待ってようやく4次生産で買えたというわけである。ちなみに転売目的で買った奴はこのゲーム最大の特徴である、購入シリアルコード制度で個人を特定され、転売した先から通報されて次々逮捕されたそうである、ザマァ!
「ファンタジーゲートオンライン。ようやく出来るなあ」
まずはヘッドギアをコネクターでパソコンに繋げ、ゲームソフトをインストールする。待ってる間にゲームの特徴を思い出す。
このゲームは王道の中世世界をリアルに表現したのが売りになっている。何より、ゲームでありゲームではないと言われる特徴、それは・・・
<<リアルの追求>>
まさしく、この一言に尽きた。例えば、通常のゲームなら剣を振っていけば、スキルを得、バッサバッサと敵を斬れるだろう。しかし、このゲームの場合は違う。例えば、ロングソードを例にしよう。
まずはロングソードを【振る】為に筋力の鍛錬と打ち込みの訓練、加えて型の訓練も行う。そこから、更に唐竹割り、薙ぎ払い、突きの訓練を行い、ようやく【習熟:ロングソード】を得る。ちなみに、お気づきかと思うが、これでようやくロングソードという武器のスキルを得ただけ・・・である。
「発売から少し経って、誰がやるんだ、こんなマゾゲー!って評判だったな・・・」
勿論だが、振る体力に走る事に関してもスタミナ付けたければ走り続けろ!であるし、防具を付けたければ体力を付けろ!である。そのあまりのリアルさにゲームなのか、訓練所なのかすでに区別がつかない者多数で、一時期、プレイヤーは半数以下に減った。普通ならサービス終了である。ところが、そこに笑いの神様というか、助けの神様が舞い降りる。
「リアルすぎて、スポーツ界からまずイメージトレーニング訓練として最適!からの各界でも、トレーニングとして最適!の声多数、あれは笑った」
そう、リアルすぎた、いや、リアルとしか思えない世界で鍛錬を行えばどう筋肉がつくか、体力の上下は?等も分かる。つまり、最っ高のイメージトレーニングゲームと化し、その価値は高騰、一気に人気ゲームに上り詰めたのだ。更に・・・
「脳内データとは言え、様々な訓練が可能である事」
例に挙げると、軍隊の部隊の隊長が居たとする。部下にこれこれこういう訓練をしたいが、まず効果がある?がわかるのは未来を知る者だけだ、普通ならばがつくが。効果あるか試すには自身が体験するしかない。しかし、隊長という地位があり、自分が健康その他の管理を損なっては意味が無い、そこでこのゲームである。
脳内とはいえ、データ、つまりは記憶に残る。これはでかい。しかも、ログや映像も残せるのでプレゼン資料作成にも使える。これでさらに購買層が増え、一時超マゾゲーと呼ばれたこのゲームはオンラインゲームの金字塔になる。まあ、有名になりすぎた故に転売の餌食にもなってしまった訳だが。
「まあ、自分もやりたい事あるしね」
そう考えてる間にインストールが終わったようなのでヘッドギアをかぶり起動させる。
<<ようこそ、リアルなファンタジー世界へ!>>
そういう文字を見た後で、世界は暗転した。
『ようこそ、ファンタジーゲートオンラインへ。まずはアバターの調整とお名前をどうぞ』
まあ、お約束だわな。取り敢えず、アバターは髪の色を黄色に、目も少し調整し、自分と分かり難くする。まあ、流石にまんま、自分の姿でやる奴おらんやろ。と言いたいとこだが、知り合いの話で結構居て、ストーカー被害にあった奴がいると聞いたのでこうしている。ゲーム開始が遅れたのは痛いが、こういう恩恵もあるので悪くないな。
名前はウッド。知り合いにはなんとなく分かり易く、他人には分かり難い名前でなおかつ厨二病っぽく無い名前で選んでみた。
『続いて職業、スキルを選んでください』
ここだ。これがまた凄いのであると聞いてはいたが、凄い。職業だけでもスクロールを何回しても底に中々行き着かない。いや、待て、無職って職業なのか?!更に待て!大統領は職業、職業なの?!
「まあ、決めてあるからいいけどね、鍛冶師と・・・」
知り合いから聞いた話、不遇職らしい。そら、リアル鍛冶のための作業はどんだけなのか本と動画の知識があれば誰でも分かるだろう。むしろ、これを選ぶのは本職のみらしいからね。
「そして、スキルはまあ、決まってるんだよねえ」
初期スキルは3つ自由に取れる。スキルポイント消費なしでである。が、ここで鍛冶スキルと言うか、就いた職業に関連するスキルを!と取った奴は地獄を見る。
「ええと、体力小アップ、スタミナ小アップ、器用さ小アップと」
パッシブスキルのみの取得である。先達は職業関連スキルを!という取り方をしていたが、そこで問題が起こった。思い出してほしいのだが、リアルさが売りのコレで、パッシブスキル取得のための訓練がきつくない訳が無いというのもお分かり頂けると思う。パッシブスキルを取得するために町を疾走し、フィールドを疾走し、時にダンベルなどによる有酸素運動を行い、更にストレッチなども行いようやくゲットという地獄。更にこのスキルは成長させる必要がある為、更に運動を倍にドン!であったらしい。先達よ、君達の犠牲は無駄にしないぞ!
よって、職業専用スキルというのは後に取れ!後に!となっているため、よく言われる不遇職というものはない。そりゃそうだ。あえて言うなら、自分がやると決めている鍛冶師がリアルの自分がリアル鍛冶師で無い場合だろうか?そら、ただでさえ、スタートダッシュ遅れてるのに、ここから更に勉強や行動しなきゃいけないならある意味不遇職だわな。まあ、ロマンは大事ってことで。
『続いて、ユニークスキルの抽選を行います、どうぞ』
ポンと出てきたのは所謂ガチャマシーンという奴だ。このゲーム、流石にすべて苦労しろと言う訳ではない。最初にその職業に合っているユニークスキルを一つだけ渡される。まあ、つまるところ、これで何とかしてね!という裏返しでもあるのだが・・・なお、振り直しはこれだけは出来ない。いや、まあ、うん、とりあえずガチャろう。
<<ネタ武器・防具・アクセサリー作成:冗談だろ?と思うモノを作成する。その真価はこのスキルを所有する鍛冶師自らが作成したモノしか発揮しない>>
えぇ・・・・・・なにこれ?いや、まあ、普通の武器以外も作りたいと思ってたけどさあ。うん、まあ、気を取り直して先を進める。ステータスはぶっちゃけ、あまり参考にしないので適当に、鍛冶師についてのチュートリアルを終え、いよいよ、世界に降り立つ時が来た。
『それでは、ウッド様、この世界のすべてをお楽しみください、グッドラック!』
世界が暗転し、光ったかと思うと、次の瞬間。町の広場らしき場所に立っていた。
「うわ、凄いな。ここが最初の町か」
確か、町の名前は一番目がファーストだからファスと言ったっけ?まあ、荘厳な名前付けられても困るし、分かり易いのは重要だな。さて、町の観光も重要だが、まずするべきはステータスとスキルの確認である。以下が、自分のステータスである。
名前:ウッド
性別:男
種族:人間
HP:22
MP:8
スタミナ:33
筋力:5
体力:5+1
知力:2
魔力:2
運:2
スキル:体力小アップ、スタミナ小アップ、器用さ小アップ
ユニークスキル:ネタ武器・防具・アクセサリー作成
初期パラメーターは2である。開発ブログによると1からが良い!と言う意見もあったらしいが、流石に無いわとされたらしい。まあ、大人の体格でNPCの子供クラスの弱さですよ!は無いよなってなるわな。
で、ボーナスポイントが6ポイントなので、鍛冶に重要そうな筋力と体力に3ポイントづつ振った。HPは筋力と体力のボーナス含んだ合計の2倍。MPは魔力と知力の同じくボーナス含んだ合計の2倍。スタミナは筋力と体力のボーナス含んだ2倍だが、スタミナ小アップのおかげで倍率は3倍になる。
「ホント、レベルは無いんだな」
レベルが無いのは結構ビックリされるだろう。この世界ではレベルではなく、成果でステータスを上げていく形式である。例えば、戦士ならモンスターを討伐し、素材を得て、装備を更新や依頼による功績で名を上げるなどすればいい。
但し、その道のりも半端なものではない。ゲームの特性を思い出してほしい、厳しい修練をしてようやくレベルという名のステを伸ばせるようになるのだ。高レベルと言うか、有名プレイヤーがまさにこれに該当するわけだ。うん、そら尊敬の念を持たれるわな。
「そういや、ユニークスキル・・・」
知り合いに聞いたスキル説明と鍛冶関係のスキルで作れる物の見方を思い出しつつステ画面を操作する。
「おおう」
今、素材もあり作れる物は白、素材があれば作れる物は灰、今の腕前では作れない物は黒なのであるが、結構な数のリストが出てきた。まあ、全部ネタなんですけどね!いや、待てよ?
「むしろ、通常の鍛冶スキル取らないで、こっちを伸ばすのもありなのでは?」
いや、もちろん鍛冶をするために必要なスキルは揃えるつもりではあるが、どうも調べたら、このスキル持ってるの自分だけっぽいし、あえて極めてみるのも手なのでは?よし、そうしよう。
うん、まあ、これから初期所持金を溶かす勢いで鍛冶-ズブートキャンプしないとそもそもまず鍛冶やれないから、頑張ろう・・・・・・
ネタが弱いなんて誰が決めた!なお話になると思います。ウッド君の明日と相手になってしまう者達の未来はどっちだ!