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シェイプシフターの子 Ⅱ〜僕は魔物だけど人間が好きかも知れない〜  作者: さつき けい


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53・恐怖

誤字報告、ありがとうございます!


 四日目の午後に捕縛隊が帰って来た。


ずらずらと縄に繋がれた人間を連れている。


町の大通りを領主館までやって来て止まった。


ソルキート隊長はすぐに反抗的な奴らを地下牢へ連行して行く。


うんうん、分かってるなあ。


 僕は領主館前で彼らを出迎えた。


「皆、ご苦労だった。 部屋を用意しているので各自休んでくれ」


抵抗する気のない難民の内、男はそのまま兵舎に入れ、女と子供は使用人寮で預かってもらう。


開拓民は南の町で代表に引き渡したと報告された。


あれ?、騎士と猟師さんたちの人数が減ってないか。




 タモンさんが報告に来た。


「実は開拓村の近くで魔獣を発見しまして、猟師の一部が山に入っております」


ギクッとした。


実は今、ローズと子狼たちが国境辺りにいる。


隣国から侵入して来た魔獣を発見したのだ。


しかも、ダイヤーウルフらしい。


「おお、そうだ。 うちの隊からも若い者が何人か行ったぞ」


白髭の団長までやって来て、そう言った。


は?、それって公爵家騎士団精鋭が向かったってことか。


不味い!。




「スミス!」


僕は山に向かって歩きながら大声で呼んだ。


「後を頼む」


「イーブリス様、お待ちください」


僕はスミスさんの声に振り返らず、自分の服に手を掛けていた。


「今、変身なさるのはお身体に負担が大きいです」


周りに人がいなくなるとスミスさんが声を掛けて来た。


真昼間の屋外で、快晴で、季節は真夏だ。


僕の苦手な要素が揃っている。


「黙って見てろっていうのか、ローズや子狼たちの危機だぞ」


いくら公爵家のメダルを身に付けていても、ダイヤーウルフの群れの中にいたら、どんな被害に遭うか分からない。


走りながら、もどかしくなって服のボタンを引き千切る。


「闇の精霊よ、来い!」


僕は滅多に精霊と声で会話することはないが、今回は思わず声が出た。


 足元の影が広がる。


僕は全て脱ぎ捨てて、闇の穴に飛び込んだ。


「イーブリス様!」


スミスさんが追い付く前に闇の穴が閉じる。




 何も考えずに僕はフェンリルに変身し、穴から飛び出す。


見回すとダイヤーウルフの群れの中だった。


クオンッ


ローズと子狼たちが寄って来る。


良かった、まだ猟師たちは来ていないようだ。


 ダイヤーウルフの群れから、ひと際身体の大きな個体が前に出て来て、僕の前で伏せた。


格の違いは分かるようで何よりだ。


すると、周りの他の狼たちも同じように伏せの姿勢になる。


【主に従うと言っている】


ローズが彼らの気持ちを伝えて来た。


「そうか、分かった。 お前たちは私が守る」


自然と口から出たのは、王宮の湖で聞いたフェンリルの声だった。




 ふわりと身体を浮かせ、山裾から近寄って来る人間たちに近付き、見下ろす。


『人間たちよ、ここは我らの地。 これより先に勝手に入ることを禁ずる』


まだ魔道具の結界の手前だった。


猟師たちは結界を出入り出来る魔道具を持っている。


まだ結界に入っていなかったので助かった。


ダイヤーウルフの群れを追いかけて来た猟師や騎士たちが足を止めて見上げている。


「へっ、あ、あれ、フェンリルじゃないっすか!」


魔獣好きの猟師の青年アーキスが叫んだ。


「何だって?、まさか。 聖獣様は王都の王宮にしかおられないはず」


騎士たちは我が目を疑う。


しかし、目の前には確かに白い毛並みの大きな狼が宙に浮いている。


そして彼らを睨み付けているのだ。


「わはーーーっ、すみませんでしたーーー」


ヒィーと悲鳴を上げて、アーキスが真っ先に逃げ出す。


騎士団の精鋭たちは聖獣に恭しく礼を取ってから、ゆっくりと山を下りて行った。


人間たちの姿が見えなくなってから、僕はローズたちの元に戻る。




 以前、大きな魔鳥の巣があった洞窟に群れを誘導した。


入り口は倒木で閉じてはいるが、ダイヤーウルフたちは軽々と飛び越え、中に入って行く。


群れの数はおおよそで十体ほど。 今までは隣国の森に棲んでいたそうだ。


ふう、そろそろ限界か。


「ローズ、あとは任せる」


【うん、分かった】


僕は闇の穴を開けて、子狼たちと共に領主館の自室へ戻った。


「お帰りなさいませ、イーブリス様」


「すまん、スミス」


「いえ」


スミスさんは首を横に振る。


「こちらは何も問題ございません。 さあ、お風呂に入って下さい」


かなり精神的な疲労というか、緊張で身体がガチガチになっていた。


僕は風呂に入り、その後はグルカとリルーと一緒にベッドに潜り込んで寝てしまった。




 気付くと、翌日の朝になっていた。


ああ、フェンリルになるとどうしても瘴気が霧散されてしまう。


今回は地下牢からの瘴気が大量に上がって来たから何とかなったけど、本当に危なかった。


自分でもよく分からない。


何故、あんなに感情的になってしまったんだろう。


「それだけローズと子狼たちが大切だったのでしょう?」


スミスさんは微笑んで、ベッドの袖机に薔薇を挿す。


「良い香り」


気持ちが落ち着く。


「ジーンさんと子供たちがお見舞いに来たがっていますが、今日は一日面会出来ないことにしておきました」


そう、ありがとう。


ウォン


クゥーン


グルカとリルーが僕の顔を舐め回す。


「ふふっ、大丈夫だよ」


ローズは一度戻って来た。


【あそこの鳥、少しもらってもいい?】


腹を空かせていたらしいダイヤーウルフたちに少し分けてあげたいと言う。


「雄なら少し減らして良いよ」


【うん、分かった】


そう言うとまた出て行った。


ローズ、出来る女だ。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 猟師の青年アーキスは開拓民捕縛作戦に参加していた。


「えー、何で全員捕まえるんですかー?。 反抗的な奴だけでいいでしょ」


猟師頭のタモンに抗議する。


(ほら、女の子が泣いてるじゃん)


アーキスはその子の傍に行って慰める。


「大丈夫だよ、ね」


「うぇーんっ」


余計大声をだして泣き出した。


今まで子供に嫌われたことがなかったアーキスは、衝撃を受け、最後尾まで下がった。




 人数が多いため、最後尾が開拓村から出るまでには時間が掛かる。


(イーブリス様のダイヤーウルフ、かっこいいよな。 俺も魔獣を飼ってみたい)


アーキスはぼんやり考えながら森を見回す。


 開拓村は領都から南の町に一度入り、そこから西に行くと森の中にぽつんとある。


北の森は国境沿いに、南の町の近くを通る街道にまで続いていた。


(確か、この森で見つかったんだよな、あの狼)


ボツボツと獣は獲れるが、危険な魔獣はイーブリスが倒した魔鳥ぐらいだ。


アーキスは、まだいるかも知れないと、じっと森から山へと視線を向ける。


(あれ?)


猟師は目が良い。




 先頭のタモンのところまで走った。


「すみません!、魔獣いるかも知れないんで見て来ていいですか?」


「あ、ああ。 気を付けてな」


アーキスは嬉しそうに頷き、山に向かって駆け出して行く。


それを見ていた騎士団の若者二人も『魔獣』と聞いて目を輝かせる。


「団長!、魔獣がいたそうです。 我々も護衛のため一緒に行ってきます」


彼らは魔獣より戦功が欲しい者たちだ。


「仕方がない、許可しよう」


団長は白い髭を撫でて頷いた。




 アーキスには、何も無いはずの岩山に複数の影が見えた。


魔獣に違いない。 もしダイヤーウルフだったら嬉しいと捕縛用魔道具を握り締める。


前に張った結界の辺りまで来た時、明るい空に影が射した。


『人間たちよ、ここは我らの地。 これより先に勝手入ることを禁ずる』


白い巨大な狼だった。


「フェンリルじゃないっすか!」


初めて実物を見たアーキスは恐怖に震え上がる。


そして、誰よりも先に逃げ出した。




 領主館まで走り、アーキスはスミスを見つけて抱き付いた。


「フェンリルが出たーーーー!」


スミスはため息を吐き「何かの見間違いでしょう」と相手にしなかった。


他の者たちも「聖獣がいるはずない」と笑う。


スミスは団長とタモンのところへ行き、フェンリルのことは口外しないように頼んだ。



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