44・魔鳥
今、魔鳥はどこにあるかというと。
「血抜きと解体を終えて、領主館の食糧庫に保管されております」
猟師さんたちが一晩掛けて作業してくれたそうだ。
「肉は熟成に必要な日数が三日以上と言われておりますので、明日ならちょうど食べ頃になっていると思いますよ」
スミスさんってそんなことまで知ってるんだ。
そうか、明日か。
「素材として住民が欲しがっているものって何なの?」
「主に肉ですね。 かなり美味しいらしいです。
あとは尾羽、嘴は細工師が、柔らかい羽毛は縫製師が枕や布団に使うと聞いていますが。
他には足の爪と嘴は武器屋も欲しがります」
ふうん。
「とりあえず、肉は住民全員に配布出来るくらいの量はあるの?」
「全員には無理かも知れませんね」
スミスさんが答える。
「じゃあ、串焼きにして皆に食べてもらうっていうのは可能かな」
広場で祭りのような屋台にして、欲しい人たちに食べてもらえばいいんじゃないの。
「それなら何とかなりそうですね」
僕は頷き、すぐに告知して準備にかかるようにお願いした。
「猟師たちに頼んでみます」
スミスさんがタモンさんに話しに行った。
他の部位についても考えてみよう。
一旦、全てを僕が買い取って町の予算に入れてからになる。
「この町に細工師や武器職人っているの?」
「いませんね」
行商人が来るそうだ。
でも、欲しい人はいるんだろう。
「材料だけで良ければ適正価格で売ろう」
売り上げは町の予算に入れる。
製品にしたい場合にはデラートス雑貨店が請け負って、別料金で王都の職人に依頼することになる。
「縫製職人さんには、どれだけ欲しいのか確認してくれ」
この町にも住民の服や狩りの装備なんかを作ってくれる職人さんがいたと思う。
「もし羽毛が欲しいなら、領主館に上等な枕を人数分納めてくれたら、残りは格安で売るって言ってみて」
勿論、手間賃は払うよ。
枕が欲しいんだよ。 今のやつが王都の枕と違って何だか硬くてさ。
あの魔鳥一体だけでも、かなりの量の羽毛が採れるはずだ。
「売れ残ったらどうします?」
デラートスさんの問いに、僕はニヤリと唇を歪める。
「そりゃあ、この店なら何とでもなるでしょ」
デラートスさんもニヤリと笑みを浮かべた。
肉以外は腐るものでもないので、保管しておいても構わないしね。
スミスさんが戻って来た。
「タモンさんが請け負ってくれましたよ。 祭りの要領でいいだろうと」
うん、それでいい。
ただ量が多いから助っ人は必要かも知れないけど。
そういうわけで、翌日はお祭り騒ぎだった。
広場のあちこちに樽や木箱が台や椅子代わりに置かれている。
魔鳥の肉だけじゃなく、色々と便乗した屋台が出ていた。
えーっと、何故か僕は一番大きなテーブルの前に座らされていて、目の前にいっぱいご馳走が並んでいる。
「坊ちゃん、食べて食べて」
いや、おばちゃん、そんなに食べられないよ。
「八歳だっけ、ようがんばったなあ」
爺さん、何故泣く。
入れ替りで町の人たちがやって来ては声を掛けていくのだ。
酒も振る舞われていて、昼間っから飲んで騒いでいる者もいる。
おや、私兵たちと猟師さんたちが一緒に飲んでるな。
お互いに労をねぎらっているようだ。
えー、いがみ合ったりしないの?、あれだけお膳立てしてやったのに。
昨日のうちにスミスさんからタモンさんと隊長には同額の金を渡している。
今回は作業料金として予め決まっている額があって、それに魔獣が出た場合の危険手当みたいなのが本邸の予算から出ていた。
一人いくらというのが邪魔臭かったので、まとめて渡して後は自分たちで分けてもらう。
タモンさんの話では、元々の作業のための給金は各自同額を渡し、追加分はこうして飲み会用になるという話だった。
私兵さんたちもだいたい似たようなものらしい。
ていうか、ソルキート隊長がさっきからずっと僕の傍にいるんだけど、なんでかな。
「イーブリス様にお話ししなければならないことがありまして」
「なに?」
さっきから見てると兵士たちはお酒を飲んでるけど、隊長さんは飲んでないのかな。
それとも顔に出ないけど酔っぱらい?。
「魔鳥の魔石の件ですが、本邸に送ってよろしいのでしょうか」
あー、そういえば預かってくれてるんだったな。
「そうだね。 お祖父様に贈り物ということで、次の報告書と一緒に送ってもらえばいいよ」
そう言ったら、何故か顔を顰められた。
「実はそれなんですけど」
ん?、何がそれなのかな。
「あの大きさの魔石を送ったら、おそらく王都でも騒ぎになるのではないかと思われます」
隊長の話では赤子の頭くらいの大きさはかなり珍しく、あれを献上すれば国からの褒賞もあり得るという。
「ふうん。 だから何?」
「そうなると、誰が倒したかという話になるのではないかと思います」
へえ。
「じゃ、隊長が倒したことにすればいいよ」
「は?」
「僕だと困るんでしょ?」
病弱設定で転地療養に来たのに魔獣退治してるなんて可笑しいもんな。
「隊長一人だとアレか。 公爵私兵団と地元の猟師たちで協力して倒したことにしよう」
お祖父様宛の報告書にそう書こう、そうしよう。
「よろしいのですか?。 王城の『出入り禁止』も解かれると思いますが」
あー、それはどうでもいいわ。
「隊長、ここだけの話だけど。 僕は王族とはなるべく関わりを持ちたくないんだ」
声を落として囁くように話す。
ソルキート隊長さんは目を丸くして驚き、しばらく考え込んでいた。
でも僕が褒賞を望まないと分かると、町ぐるみで隠す方向に話してくれるそうだ。
じゃ、あとは頼むよ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
広場の騒ぎがひと段落した頃、中央に作られた台の上にラヴィーズン公爵家騎士団、領地分隊長であるソルキートが上がる。
「皆の者、少しだけ聞いてくれ」
強面の兵士の姿に住民たちが興味深そうに注目する。
「今回、魔獣の被害を抑えるため、北の森に結界の魔道具を設置した。
これからはしっかりと注意を払いながらであれば、薪や薬草を取りに行くことが出来るだろう。
その作業に協力してくれたタモン殿を始めとする猟師の皆にも礼を言う。
ありがとう」
うおおお、と声が上がる。
今まで町にいた領兵が住民に感謝したことなどなかったからだ。
そこへタモンが現れて台に上がり、隊長の横に並ぶ。
「こっちこそ、 町の安全のために動いてもらってありがたい。
領主代理のイーブリス様とラヴィーズン公爵領分隊に乾杯だあ!」
おおー!。
タモンはかなり酔っぱらっていた。
ソルキートはここで少し声を落とす。
「タモン殿、そして住民の皆にお願いがある」
「ん?、なんだあ」
少し広場がザワザワする。
「これはイーブリス様からのお願いだ。
今回の魔獣討伐に関しては作業中の出来事であり、倒したのは我らと猟師たちの協力によるものだと仰っている」
「はあ?、なに寝ぼけたこと言ってやがる。
俺はこの目でイーブリス坊ちゃんが魔法でこう、バーンッと魔獣を倒すところを見たんだぞ。
坊ちゃんがやったってことなら公爵様が喜ばれるだろうが」
タモンの言葉に「そうだそうだ」と声が上がる。
「そこが問題なのだ。 お前たち、イーブリス様が王都に戻ってしまわれてもいいのか」
広場がシンと静まりかえる。
隊長は広場を見回す。
町の住民全員ではないだろうが、そこそこの数は集まっているはずだ。
「皆、此度のことは我ら兵士と猟師たちとで倒したことにしてもらいたい。
イーブリス様には、この土地で静かに療養してもらいたいと思わないか?」
タモンが頷いた。
「そうだな。 俺たちが黙っていれば済むことだ。
分かったかー、みんなー、イーブリス坊ちゃんが魔獣を倒したのは内緒だぞー」
そんな大声で言ったら意味ない、とイーブリスは頭を抱えた。
広場の喧騒は夜明け近くまで続いたのである。




