表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シェイプシフターの子 Ⅱ〜僕は魔物だけど人間が好きかも知れない〜  作者: さつき けい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/34

43・感謝


 気が付いたら朝だった。


ふぅ、身体が重い。


また瘴気を霧散させてしまったな。


「おはようございます、イーブリス様」


「おはよう、スミス」


ベッドの脇に見事な一凛の薔薇が挿してある。


「良い香りだ」


スミスさんが穏やかに微笑んでいるから、昨日の僕は間違っていなかったんだろう。


「新聞は本日は来ませんので、ごゆっくりお休みください」


ああ、そうなのね。


「何か飲み物をお持ちしましょう」


僕は「うん」と答えたが、だるくて、また目を閉じた。




 さっきの会話が本当に朝だったのかも分からないまま、再び目を覚ます。


クゥーン


また犬みたいな声を出して、ローズが毛布の上に頭を乗せている。


頭を撫でていると、扉が開く音がしてスミスさんが入って来た。


「白湯でございますが」


そう言って身体を起こして飲ませてくれる。


はあ、と息を吐く。


「ありがとう」


上半身を起こしてもらい、ローズを撫でまくる。


地下の紋章から瘴気が身体に流れ込む。


これ、あの魔鳥の瘴気だな。


「ローズ、ご苦労さま」


たぶんローズが魔鳥の瘴気を地下祭壇に納めたのだろう。


【主もすごかったの】


はは、ありがとう。




 今は魔鳥を倒した翌日の夕方らしい。


スミスさんが僕の好きなコーンスープを持って来て、また「アーン」をしようとするので、それは拒否した。


ものすごい勢いで瘴気を吸収しているので、すぐに身体は動くようになるだろう。


ゆっくりとスープを啜っているとコンコンと扉を叩く音がした。


スミスさんが見に行って、ジーンさんを連れて来た。


「イーブリス様、お加減はいかがでしょうか」


「ええ、もう大丈夫ですよ」


ニコリと微笑むと、ジーンさんもホッとしたように笑った。


「子供たちがお顔を一目見たいと言って」


と、言いかけた辺りで、扉が全開になって子供たちがなだれ込んで来た。


「ま、まあ、ダメじゃないの」


そう言いながらジーンさんはチラチラとこっちを見る。


スミスさんも仕方なさそうに肩を竦めた。


「あはは、良いですよ。 皆、心配してくれてありがとう」


わあっと子供たちがベッドに寄って来る。




 そして、小さい子らはベッドによじ登って僕に抱き付いて来た。


「すごいよ、おにいちゃん、魔獣やっつけたんでしょ」


「えらいえらい」


「町の誇りだって、皆言ってるよ」


代わる代わる僕に声を掛けて、身体に触っていく。


ギュッと抱き締めてくれる。


あっ、気持ち良い。


顔がふにゃふにゃにならないように気を付けていたら、顔が引きつってたみたいだ。


「さあさあ、イーブリス様はもうお休みにならないといけません」


また明日にしなさいと、スミスさんが子供たちを追い出す。


「また明日ねー」


口々にそう言いながら笑って出て行く子供たちを見送る。


最後にジーンさんが深く礼を取って扉を閉めて行った。


「何なの、あれ」


僕の顔も綻んでいるんだろうな。


スミスさんも笑っている。


何度かに分けて少しずつ食事をして、その日は大人しく眠った。




 翌日、僕は子供たちの生気と祭壇から流れてきた瘴気のお蔭で絶好調である。


新聞を読んでもらい、ローズと庭へ散歩に出る。


温室の外観がほぼ出来上がっていた。


 やっぱり大きい。


建物は二階建ての高さがあり、吹き抜けだ。


半分がガラス張り、後の半分はおそらく温度調節の設備なのだろう。 レンガ積みになっていた。


「イーブリス様、もうよろしいんですか?」


心配そうに話し掛けて来たのは庭師の青年だ。


「うん、ありがとう。 もう大丈夫だよ」


元々怪我はしていないからね。


「立派な薔薇をありがとう。 すごく良い香りだった」


そう言ったら青年が顔をくしゃくしゃにして笑う。


「あ、あれは王都から持って来たんです。 こっちで絶対増やそうと思って。 気に入ってもらえて良かった、ううっ」


おいおい、泣くなよ。


「まあ、がんばって」と僕は彼の背中を叩いて、その場を離れた。




 部屋に戻るとデラートスさんから、体調が良ければ店に来て欲しいとの連絡が来ているという。


「分かった。 今から行こうか」


「はい」


スミスさんに着替えさせられ、ローズも連れて町への坂を下る。


領主館は丘の上にあるからね。


 町の中を歩いていると、何故かしょっちゅう声を掛けられる。


「坊ちゃん、もう大丈夫なのかい?」


「この間は大変だったね」


は、いいとして、


「領主代理様、先日はありがとうございました」


と、何のことか分からない挨拶まである。


「ああ、それはきっと猟師の家族かも知れませんね。


イーブリス様が魔獣を倒した話は広まっておりますから」


はあ、なるほど?。


「僕が倒して、猟師さんたちが無事だったから、ということ?」


「そうではないでしょうか」


僕は首を傾げる。


領民を守るのは領主代理として当たり前のことなんだが。




 デラートス雑貨店に着くと、店は大盛況だった。


「ああ、イーブリス様。 どうぞ、奥へ」


デラートスさんが顔を見るなり、僕たちを奥へ引っ張って行く。


「繁盛しているようで良かったな」


「いえいえ、今回のは先日の魔獣の件ですよ」


は?、何なの、それ。


「あの魔鳥、隣国では結構有名なんですよ。 それで希望者が殺到してるんです」


魔獣は、身体の一部が魔道具の素材になったり、肉は普通の獣より美味しいのだとか。


その一部だけでも売って欲しいという客が殺到しているそうだ。


「へえ」


知らなかった。


「魔石は私兵の隊長さんが保管していらっしゃるはずです。 本邸に送ると言ってましたよ」


僕はチラリとスミスさんを見る。


そんな話は聞いてないんだけど。




「でも、それは魔鳥の所有権が誰にあるかで変わるだろう?」


普通は討伐した者が優先されるが、今回は領民代表としての仕事をしている間の出来事だ。


僕は領民全体に権利があると思っている。


「本気ですか?」


何故か、デラートスさんが目を剥いて驚いている。


「今、店に集まっている住民たちはおそらく領主代理が魔獣の素材を全てこの店に卸すと思っているから来ているんですよ。


もし、イーブリス様があの魔鳥を領民全体の物だとしたら混乱が起きます」


もう少し考えてからにしろと言われてしまった。


えー、でも別に欲しいとは思わないんだけどな。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 鳥型魔獣が倒される。


その一部始終を私兵たちと猟師たちは見ているしかなかった。


結界に阻まれて傍へ行くことが出来なかったのである。


魔鳥を倒した後、イーブリスの身体が崩れ落ちた。


「イーブリス様ああ!」


その時、ようやく兵士たちが騒ぎ出す。


結界の中に一人だけ残っていたスミスが、イーブリスを抱き上げる。


「ローズ、皆が見ていない間に魔獣を一旦収納してください」


ウオンッ


スミスが結界から出る。


魔獣の結界は外からは入れないが、中からは出られるのだ。


そうでなければ追われた時に逃げられない。


イーブリスに注目が集まっている間に、ローズの影で闇の精霊が魔鳥の身体全部を取り込む。




 スミスたちはゆっくりと町へ向かって歩き始める。


「どこで解体しますか?」


スミスが振り返ってタモンに訊ねた。


「あ、ああ。 あの大きさだと置き場所がないな」


「では広場で解体したら、一旦、領主館で預かりましょう」


「そうしてもらえると助かる」


一行は町の中心にある広場に向かう。




 ザワザワと人が集まって来た。


兵士たちが住民を寄せ付けないようにする。


「ここで良いか?」


「ああ」


スミスはタモンに確認してから、広場の隅にローズを呼ぶ。


ローズの影から魔鳥がズルリと引き出された。


突然、死骸が現れたという不思議な光景だが、皆、大きな魔鳥に目を奪われていて気付かない。


「うわあ」


広場に悲鳴が起きた。


「これを兵士たちが?」


「いやいや、魔獣狩りといえばタモンさんだろう」


タモンは首を横に振る。


「これを倒したのは、イーブリス様だ」


広場の騒めきはしばらくの間、鎮まることはなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ