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不遇にも若くして病死した少年、転生先で英雄に  作者: 根本 良
第一章 旅立ち編
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第七話 転移の先で

転移地点の座標を確認する前に、認識阻害魔法を発動する。


と、同時にフェリルも防音魔法と感知魔法を発動する。


「転移先に問題なし…っと。フェリルの方は?」


「こ…、ここから十キロ程先にかなりの数の魔物がいます」


余りの敵の多さに頭がその処理に悲鳴を上げているのか、フェリルが顔を顰めて汗を滲ませながら答えた。


「魔法を解除していいよ。それと、冒険者らしき反応は?」


「すみません…。冒険者らしき反応は無かったと思います。まだ着いていないのか、街道側に集中しているのかまでは確認出来ませんでした…」


「そう?じゃぁ、俺も他に人がいないか確認してみようか」


魔法で確認してみると、十キロ先には数え切れない程の赤いマーカーが表示される。


その中に冒険者らしき反応は無かったが、街道沿いにそれらしい反応があるのを確認して、魔法を解除した。


「街道にそれらしい反応があったから、街道に沿って来てるのかも。まだかなり離れてるし、今の内に魔物の数を減らそう」


「大丈夫ですか?ザエルカまで被害が出てしまうのでは?」


魔物の大群の更に向こうに、ザエルカの街の防壁らしき壁がぼんやりと見えていた。


「大丈夫だよ。ザエルカは魔物の大群の先にあるんだし」


俺は身体強化魔法を使ってフェリルを抱え、魔物の群れに向かって走る。


「悪いけど詠唱に入るから、襲ってくる魔物が来たら防いでくれる?」


残り1キロ位の所でフェリルを降ろして、詠唱中の防衛をお願いした。


「はい」という、フェリルの返事を聞いて、直ぐ様詠唱に入った。


「…この世を纏う大いなる風よ、その身にイカヅチを纏いて、地を震わせ、地を鳴らし、神の怒りに触れし者を包み込まん…」


詠唱の開始に合わせて吹き始めた風が、視界を埋め尽くす程の魔物達がいるであろう場所の上空で徐々に周囲の雲を取り込んで渦を巻いていく…


「… 世に罪を振り撒きし彼者共を穿つ裁きの鉄槌で御身の下に還したまえ!雷を纏う神嵐(トゥルエノテンペスト)!」


詠唱が終わると、魔法によって上空から振り下ろされた荒れ狂う暴風が地面を激しく叩き、同時に無数の雷が飛来する。


飛び火を心配して、急いで俺の側に駆け寄って来たフェリルが防御魔法を発動する。


荒れ狂う風の刃が地上の魔物達を引きずり込んでズタズタに切り裂き、暴風によって吹き飛ばし、雷で黒焦げにし…次々と葬って行く。


その有り様に、フェリルが俺の方を見て


「凄まじい威力です。魔物が可愛そうなくらいに…」


と、一言呟いた。


「ちょっとやりすぎたかも…」


予定以上の拡がりを見せる魔法をみて、俺は大急ぎで上級防御魔法のティアードを発動する。


「あ…あれ?こ、こっちに来るんじゃ無いですか?」


向かって来る魔法に対する恐怖なのか防御の為か分からないが、フェリルが俺に抱きついてきた。


「多分?フェリルと俺の防御魔法の重ねがけで防げると思うけど、もう一つ重ねておこうか…。ルナフォース!」


魔法を発動した直後に、俺たちとその周囲も暴風と無数の雷に襲われる。


しばらく経って魔法が消え去ると、何事も無かったかの様に天気が元に戻った。


「初めて見る魔法でしたが、こんなのを使える相手と敵対したくないです…。した時は、私…潔く諦めます」


魔法が消え去り、晴れ渡る空の下で荒野と化した辺り一面を愕然とした表情でフェリルが見ている。


「日に何度も使える魔法じゃ無いよ。それに、今回は自然現象に見せ掛けるのに、わざと詠唱して魔力をゆっくり練り込んだから、知ってる人じゃなければ、天気が悪くなったと勘違いしてくれる…はず?」


「でも、この地点でもうこんなにいたなんて、ザエルカは大丈夫なんでしょうか…」


「かなり危ないかもね…。さっきのも街に被害が出ない様にと範囲を絞ったけど、もう少し拡げた方が良かったかも」


「まだ魔物が相当な数がいそうです…。私ではこの位置からそこまでは確認出来ませんけど…」


「どうしようかな…。とりあえず、真っ直ぐ突っ切ろうか…。左右から押し寄せて来るのはこちらで抑えるから、フェリルに正面は任せても良い?」


「良いですよ?ただ…、しっかり守って下さいね」


フェリルが戯けて見せるのを心強いと感じながら、俺が守らないとと思って魔法を発動する。


「グラビトロンフォール」


俺とフェリルの周りに6つの小さな黒い球が現れた。


「とりあえず、フェリルの護身用に4つ、残り2つは俺に。フェリルに危険が及びそうになると自動で発動するから急いでその場を離れてね。後、感知魔法は俺に任せて」


「分かりました。では、参りましょうか」


2人はさっきまで暴風が吹き荒れていた場所の更に奥を目指して進んでいく。


「恐ろしい程に跡形もありませんね…」


大量の魔物いたはずの場所を、2人ともマナポーションを飲みながら歩いていく。


「もう少し進んだ先にかなりの数…正直、数えてられない位いるね。バカ正直に倒してると体力が持たないから、グラビトロンフォールを使おうか…」


「私に預けて下さったのを使いますか?」


「いや、もう一度魔法を発動させるよ。それは、あくまでフェリルの護身用だから」


再び魔法を発動すると、更に6つの黒い球がふわふわと俺の周りを漂う。


先ほどまで魔物で埋め尽くされていた場所を超えた所で、数キロ先に大量の何かが蠢いているのが見える。


更にその向こうにはさっきよりも大きく、はっきりと街の防壁が見えた。


「ちょっとうんざりする数だね」


「あれ、全部魔物…ですよね…?…このまま二人で突っ込むのは自殺行為では?」


目線の先に物凄い量の魔物が動いているのを見て、二人揃ってうんざりする。


「とりあえず左右等間隔に展開しようか」


俺の周りを漂っていた8つの内、6つの黒い球が飛んでいく。


しばらくして黒い球が着弾すると、渦を巻きながら一瞬にして拡がっていく。


「筆舌に尽くし難い光景ですね…」


遠くで魔物達が蹂躙されているようにしか見えない光景を見て、フェリルが呟いた。


「重力を超圧縮した魔法だからね。あの黒い渦に触れれば押し潰されるし、その周囲にいるだけで開放された重力の渦に引き摺り込まれるからね」


「レイと敵対する者が可哀想になります…。…まさかっ!この周りに飛んでいる球も?!」


向こうに広がる光景を作り出した魔法が、自分の周りに浮かんでいる事を心配する。


「あそこまでの威力はないよ。込めた魔力量が段違いだし。せいぜい直撃した数匹を倒して、その周囲を少し足止めする程度だよ」


と、俺が戯けて言うとフェリルが少し安堵する。


「これから突っ込むけど、大丈夫?それと、フェリルに魔力同調してるから、フェリルの周りの球はフェリルの思うように使えるからね」


「分かりました。でも、かなりの魔力を使ったはずですが、大丈夫なんですか?」


「空気中の魔素を取り込んでるし、マナポーションも飲んだからせいぜい2割くらいしか減ってないよ?ところで、身体強化魔法は使えるよね?」


「使えます。ただ、長時間は厳しいです。精々3時間が限度かと」


「全身に掛け続けるとかなり魔力を使うから、要所要所で使うと良いよ。それにしても、全身に3時間掛け続けられるなんてフェリルもかなり魔力量が多いけどね。さて、お喋りもここまでにして…」


グラビトロンフォールの黒い渦が完全に消えたのを見て、突撃する事を告げる。


フェリルが頷いて身体強化魔法を発動したのを見て、俺も身体強化魔法を発動する。


「行くよ!」


「はい!」


と、声を掛け合うと魔物の群れに向かって走りながら、一閃を抜刀し、刀身に雷の魔力を流す。


その隣では、フェリルがダガーを両手に持って走っている。


「空にいるヒポグリフはこちらで対処する!陸にいる魔物を!」


声をかけると、眼前のランドグリズリーの首を跳ね、その死体を踏み台にして飛び上がる。


死体の背後から、フェリルに向かって突進する複数のアングリーボアとランドグリズリー達に向かって、俺に付いていた黒い球を飛ばした。


黒い球が着弾すると、膨張してその場にいたアングリーボアとランドグリズリーを纏めて数十匹を押し潰す。


「十分過ぎる威力ですね。では、こちらも使わせて貰いましょう」


フェリルが6つの内、2つを自分に向かって来る魔物達の奥に飛ばす。


先ほどと同じ様に、黒い球が急速に膨張して魔物を戦闘不能にする。


「なるほど。何匹かは動けないだけで生きているんですね。そうなると、レイが投げた方もまだ生きているのがいるという事に…。とりあえず、そちらは後回しにしましょう」


そう呟きながら、飛び掛かって来るワイルドウルフを避けると、すれ違い様にダガーで真っ二つに切り裂いた。


その先に見えるゴブリンアーチャーが放った弓を、アイシクルランスで応戦する。


更に、後方からはワイルドウルフがグレイウルフと共に突っ込んで来ていた。


「アクアスプラッシュ!」


フェリルが咄嗟にウルフ達に向けて水魔法を放つと、避け損ねた魔物が下から突き上げる水に打ち上げられ、弾けた水の礫に撃ち抜かれて絶命した。


避けたウルフ達は、そのままフェリルに向かって飛びかかる。


「遅いですよ」と言うと、フェリルは飛びかかって来たウルフ達とすれ違った。


絶滅したウルフ達がボトボトっと着地する事無く、地面に落下した。


その向こうにもまだ大量のウルフやゴブリン等の魔物たちがいる。


一方、俺はエアロバレットを緩急を付けて飛ばしてヒポグリフを牽制しながら、自身の後方でエアロバレットを破裂させてヒポグリフに向けて飛び掛かって斬り伏せていた。


着地のタイミングに合わせて再びエアロバレットを破裂させて衝撃を吸収しては、また地上の魔物を踏み台にして飛ぶを繰り返す。


何匹もヒポグリフを倒していると、フッと少し離れた場所にいるフェリルが見えた。


フェリルから離れた位置に何十匹といる魔物がフェリルを囲む様にいるのが見えて一閃を空に翳す。


「いけっ!」


広範囲にフェリルの周りにいた魔物たち目掛けて雷が降り注ぐ。


周囲の魔物に命中したのを見て、今度は空を飛ぶヒポグリフ目掛けて放つ。


空を舞うヒポグリフと地上にいた魔物にも命中した。


俺は着地すると、フェリルの傍まで魔物達を斬りながら駆け寄った。


「大丈夫?」


かなり消耗しているのか、フェリルが肩で息をしながらダガーを構えたまま答える。


「大丈夫です。と、言いたいところですが、厳しいですね。正直、体力的には限界です」


「そうか。俺も魔力が3割を切ったね。このままだと数に押されそうだから、一旦逃げよう。ちょっとの間で良いから、俺を守って欲しい」


戦闘開始から二時間以上経ち、フェリルだけでなく俺も体力的に厳しくなっていた。


「分かりました。ですが、そう長くは持ちませんよ?」


そういうと、ロッククレイドルを発動して俺たちを囲う様な形で広範囲を覆う。


クレイドルの中にいた数匹の魔物は、フェリルがダガーで斬り伏せていく。


その間に、周囲の魔素を取り込んで魔力変換し、ギリギリ必要な所まで魔力を回復する。


「フェリル!ロッククレイドルを解除してこっちへ!」


俺が叫ぶと、フェリルが急いで俺のところに来る。


クレイドルがゆっくり崩れると、落ちて来た岩が直撃して何匹かが死んだが、その更に向こうにまだかなりの数の魔物がひしめいていた。


俺は両手を広げると、


「フルクトゥムト!」


水魔法を2方向に発動し、クレイドルに押し寄せていた魔物に向かって5メートルはあろうかという大津波が押し返した。


その隙をついて、俺はフェリルの肩を掴むともう一手打つ。


魔素変換回路全解放(フルブースト)!)


俺の髪が白銀に変わり、俺とフェリルが同色の魔力に覆われる。


「フェリル、ダガーをしまって。急いで逃げるよ」


「これは…何ですか!?」


「話は後!急いで!」


「わっ、分かりました」と言い、ダガーをしまったのを確認して、フェリルをお姫様抱っこで抱き抱えると、ザエルカの防壁に向かって駆け出した。


身体強化魔法を行使しているのも相まって、物凄い勢いで防壁に近づく。


(壊すと後が面倒だな…)


フェリルにしがみ付いておく様にもう一度言うと、壁に向かって跳躍する。


50メートルはあろう壁を一足飛びという訳には行かなかったので、土魔法で足場にして飛び上がって防壁の上に飛び乗った。


防壁の上に着く瞬間、何かに当たる様な感覚があったが、魔素操作で部分変換してすり抜けた。


作った足場を崩壊させて眼下にまだ残っていた大量の魔物の群れをチラッと一瞥すると、防壁から飛び降りた。


自由落下に身を任せて防壁の内側に落ちていく。


着地の瞬間、エアロバレットを炸裂させて衝撃を吸収させ、街に入る事に成功した。


その間、フェリルが俺に目一杯しがみ付いていたので良い香りがしたが、必死だったので残念な事にその愉悦に浸る事は出来なかった。


「そこの貴様ら!何者だ!」


着地した先で、十人くらいの衛兵に囲まれた。


「ミリーナ様からお願いされて、ザエルカに救援に来た冒険者ですよ」


「話は詰所で聞く!抵抗するなよ!連れていけ!」


衛兵のリーダーらしき男が警戒しつつ周りに指示をする。


(まずい…。魔力を使いすぎたか…)


周りに指示を飛ばす衛兵を見ながら、俺は徐々に意識が遠のいていった。


…また、夢を見ていた。


辺りは緑豊かな木々が立ち並び、綺麗な花が無数に咲き誇っている。


天国というとこう言う所なんだろうかと思うほど、綺麗な場所だった。


一際大きな木に向かって歩いてみると、そこには見知らぬ女性が木にもたれかかる様に座っていた。


「誰?」


俺が女の子を見下ろしながら尋ねた。


「あらっ?誰とは随分な言い草ね。寧ろこの場合、あなたがお客さんなのだけれど?」


確かに…と思い、俺を見上げる女の子に名乗る事にした。


「レイ=イスラ=エルディア」


「そう…。それ、本名?」


「そうだけど?」


「…は?」


「それ、前世…」


「私は…」


「何て?」


「そう…。貴方はまだ私を呼べないのね…」


そう言って立ち上がると、女の子はどこかへ歩いていく。


それを引き止めようと手を伸ばそうとするが、肝心の身体は全く動かなかった。

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