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不遇にも若くして病死した少年、転生先で英雄に  作者: 根本 良
第一章 旅立ち編
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第五話 討伐完了

村の入り口が見えて来ると、チラホラとゴブリンの死体が転がっている。


それらを無視して歩き続けていると、こちらに気付いたフェリルが手を振っているのが見えた。


「お疲れ様。思ったより、こっちに流れて来てたね」


フェリルの傍まで来ると、辺りのゴブリンの死体を見ながら声を掛けた。


「こちらには三十体程。何体かこの場所以外から攻めて来たようですが、村の方が倒したようです。被害も軽傷者が数人なので上々かと」


「ゴブリンが多少流れて来ても大丈夫だとは思っていたけど、思った以上に被害が少なくて済んだね」


「私たちの作った柵がかなり役立ったようです。そちらは?」


「それは良かった。こっちは洞窟とその周辺を含めて百体強だったかな?ボスがゴブリンリーダーだったし、大したこと無かったね」


「そうですか。心配していましたが、杞憂でしたね。ですが、こうして無事に帰って来られるのを見るとホッとします」


そう言うと、フェリルは胸に両手を当てる。


「心配してくれてありがとう。さて、予定通り討伐に三時間程度だったし、ちゃちゃっと報告しようか」


「はい」と返事をした後、フェリルは嬉しそうに俺の横に付いて一緒に村長の家に向かった。


「洞窟及びその周辺のゴブリン達は全て討伐しました。一応、討伐証明の為に五体分のゴブリンの耳を貰いました」


前回と同じ流れで家に通され、村長に討伐成功の報告をする。


「ありがとうございます。これで村も安心です」


「ついでに、森の周辺にいたゴブリン達から金になりそうな物は取っておきました」


俺は魔物から奪っておいた金になりそうな物を取り出して広げる。


「これは洞窟の周辺2キロ以内にいたのを討伐した際に回収した物です。後は、ご存知の洞窟の中を確認して下さい」


「分かりました。明朝、回収隊を作って行くようにします。何から何まで…感謝しかありません」


そう言うと、渡してあった依頼書に依頼達成のサインを記入して俺に手渡した。


「あくまで依頼を達成しただけですから。それはそうと、追加報酬をお願いできますか?」


「はい。他の街の事を知っている者達を連れて参りますので、話はその者達から」


そう言い残して出て行った村長が戻ってくるのをしばらく待っていると、若い男女4人を引き連れて村長が戻ってきた。


4人を連れて来ると、俺達に一礼して村長はまた家を出て行った。


「立ったままでは話し難いので、座って下さい」


四人に座るように促すと、全員がその場に腰を下ろした。


「俺たちが欲しいのは、この村の周辺にある街の情報です。特に、次に向かうリダールの情報があれば、どんな些細な事でも教えて下さい」


「ご存知と思いますが、リダールは城塞都市です。元々は前線基地でしたので城がそのまま残っていますが、その城を領主がそのまま使っているようです。内情が余り伝わって来ないのは、閉鎖的な土地柄なのか…」


俺が話終えると、直ぐに四人の内の一人が話し始める。


「何か隠したい事があるか…」


俺が予想していた事を、村の人に続く様に言葉にする。


「その可能性はあると思います。何年か前ですが、私は村で取れた作物を売りに出ていました。税金でかなり取られるので、ベレルでの売価の2倍の値を付けても余りお金になりませんでしたが」


「そんな高くても買いに来られる方はいるのですか?」


疑問に思ったのか、フェリルが訊ねた。


「リダールでは安いくらいでした。街の出入りが厳しく管理されている関係もあって、むしろ住民の方は行商人が来るのを待って纏めて購入するのが一般的の様でした」


「そんな状態では街の中のお店が成り立たないのでは?」


「そうだと思います。我々は売り終われば街を出てしまうので、側から見た程度ですが…。路地裏なんかに入れば、お金に困った人たちがいっぱいいると思います」


「そうですか…。あまり良い街では無さそうですね。それに、出入りが厳しいとなると」


「お二人が入るのも難しいと思います」


フェリルの言葉に続く様に村人が首肯する。


「ですが、放っておく訳には参りません。どうにかして、中に入れませんか?」


「我々では何とも…」


少しの間、沈黙が流れる…


そんな中、別の女性が口を開いた。


「私達が行商時にお世話になっていた近隣の村に行ってみてはどうでしょうか。力になってくれるかも知れません。場所はこの地図に書いておきます」


俺は女性から差し出された地図を、お礼を言って受け取る。


「ところで、リダールは昔からそんな状態なんですか?」


「いえ、5年前くらいからですかね。急に人が変わった様に税金を取る様になり、出入りを厳しく制限するようになりました」


「そうですか…」


リダールについて教えてくれていた男性が答えてくれる。


「あの…、リダールの向こうの街なんですけど…」


と、別の男女の内の女性の方が恐る恐る話しかけて来た。


村人にしてはかなり綺麗な身なりをしているので、違和感があった。


「リダールより更に王都側というとザエルカですか?」


「はい、私たちはザエルカの出身なんです。訳あって、アルバレードに向かう途中にこの村に立ち寄りまして…」


「そうですか。ザエルカは昔行った事がありますけど、割と平和な所ですよね?」


「普段はそうなんですが…。ザエルカの別名はご存じですか?」


俺が首を振ると、女性が続ける。


「ザエルカは別名『ダンジョン都市』と呼ばれています。ダンジョンはあらゆる資源が採掘出来るので管理されていますが、未知な部分もありまして」


「管理に失敗するとどうなるんですか?」


興味があるのか口を挟んできたフェリルを見ながら、女性が質問に答えた。


「氾濫して周辺が魔物だらけになってしまいます」


「で?まさか、氾濫したんですか?」


「その通りです。我々は氾濫直後に街を出たので、被害の程度は分かっていませんが、恐らく街に戻るのも難しいかと…」


「ギルドを頼れば良いのでは?」


「もちろん既に依頼しています。ですが、高ランクパーティが出払っているタイミングでの氾濫でして、ギルドへの依頼と同時に救援要請に我々が駆り出される事になりました」


「分かりました。ギルドに戻ってから状況を確認しましょう。父上には私の方から連絡しておきます。それと、氾濫したダンジョンの数は?」


「ありがとうございます!氾濫したダンジョンは三つ…、一つはAランク冒険者だけが入るのを許可されています。残りもCランク以上で無いと入れないダンジョンです。街の周囲には後二つのダンジョンが有りますが、状況は分かっていません。ただ…」


「ただ?」


「ザエルカと北東にあるナレイアとの間にあるダンジョンですので、被害がそちらにも飛び火する可能性があります。また、この二つは双方が所有権を主張してる関係で、全容が把握出来ていません。幸い、氾濫したダンジョンからは離れていますが…」


「その二つは今も大丈夫なのでしょうか…?」


フェリルが心配を含んだ声で尋ねる。


「私達が出てから二週間程経ってますので、なんとも…」


悔しそうな表情で女性がうな垂れる。


俺は額に手を当てると、大きくため息を付いた。


「どうする?今の話だと、かなりの規模の魔物がいる。正直、街自体もかなり危ないと思う。ザエルカとリダールのどちらに向かう?」


状況の悪さを理解した俺は、敢えてフェリルに聞いてみることにした。


「…、ザエルカに行きましょう。放っておけば、ベレルにも被害が出る危険もありますし」


少し逡巡した後、フェリルが俺に向き直って答えた。


「やっぱりそうなるよな…。分かりました。では、助力しましょう。領主様からの手紙は持ってますか」


「はい。エルアドルフ侯爵より預かっています」


「エルアドルフ侯爵の…」


「はい。ダンジョンが集中するあの街は、王国にとっても重要資源が豊富に取れる土地ですので」


「少し手紙を貸してもらえますか?それと、適当な部屋を借りたいので、村長を呼んで来て貰えませんか」


女性が手紙を俺に渡して、傍にいた男性に村長を連れて来る様に指示する。


「ところで、貴方は高い身分の方ですよね?名前を伺っても?」


男が村長を呼びに行くのを見届けた後、気になった事を尋ねてみた。


「私は、ミリーナ=フォン=エルアドルフと言います。先程の者は、私の従者でディルと言います」


「先程の方が従者になって長いのですか?」


「古くから父に仕えていた者です。私が成人した際に、父の命で私の従者になりました」


「そうですか」と返事をした所で、ディルさんが村長を連れてきたので、事情を話して部屋を借りた。


着いて来ようとするミリーナ様を何とか説得し、フェリルと部屋に入る。


「どうするのですか?」


フェリルが手紙を読んでいる俺に声を掛けてきた。


「ちょっと、手紙の内容をこの紙に転写しようかと思ってね」


手紙の横に持っていた紙を置き、手紙に手を翳して魔力でコピーして転写する。


更に、村に支援が必要な旨と手紙に記載されていない聞いた内容、騎士2大隊を送る準備をお願いする文章を直筆で追加して送った。


作業が終わって部屋を出ると、待っていたミリーナ様に手紙を返した。


「それでどうされるおつもりですか?」


俺の手が離れるのを待たずに、手紙を握ったままのミリーナ様が訊ねてきた。


「一度ベレルに戻りますよ。もう夜ですし、今から向かうのも明朝向かうのもさほど変わりません。2人は、そのままアルバレードで父上に会えば良いと思います」


「手紙を書いて下さったのですよね?それは、どちらに」


「もう出しましたよ?どうやって届けるのかは言えませんけどね。ただ、それはそれ。これはこれです。父上からすれば領外の事。使者からの救援要請が無ければ、動かないと思いますよ?」


「ですがっ!」


一刻も早く街に引き返したいのだろうミリーナ様が、なおも食い下がろうとする。


(気持ちは分かるんだけどなぁ。そう言う訳にも行かないんだよな…)


俺は手紙から手を離すと、ミリーナ様に悟らせるように話をする。


「アルバレードは山脈で隔てられているとはいえ、帝国への最前線。おいそれと兵を動かしていては、弱味に漬け込まれかねません。ご理解下さい」


苦々しそうな顔をしながらも、ミリーナ様は「分かりました…」と引き下がった。


「確認ですが、街道などへの被害は良いですよね?数が数の様なので、多少乱暴な手を使わざるを得ませんので」


「状況が状況です。復興を考えれば被害が少ないに越した事はありませんが、街が壊滅するよりマシですので、それは大丈夫かと」


「分かりました。では、また後日」


そう言い残して、俺たちはその場を後にした。


翌朝、俺たちがギルドに顔を出してみると、前に来た時よりも更に閑散としていた。


カウンターに前回対応してくれた職員がいたので、その職員の所に行く。


「おはようございます。依頼完了報告に来ました」


「あら?おはようございます。全ての依頼が終わったのですか?」


「全てではないですが、ゴブリン討伐が終わりましたからね。後、確認したいこともありましたので」


「そうですか。では、こちらへ」


奥の部屋に通された俺は、討伐証明としてゴブリンが持っていた装備五体分とサインが入った依頼書を広げた。


「少々お待ち下さい」


そう言い残して、職員が部屋を出て行く。


「どうぞ。ゴブリン討伐の報酬とウルフ討伐の報酬合わせて、3500ディアルです。それで、聞きたい事とは?」


「あれ?報酬多くないですか?」


「ワイルドウルフとグレイウルフの両方を討伐した事が確認出来ましたので。現地調査をした者からは、とてもEランクの冒険者が戦った跡とは思えないと報告がありましたが」


と言いながら、横目で俺を訝しむように見てくる。


「そうですか。では、有り難くいただいておきます。それと、聞きたい事というのはザエルカの事です」


俺の言葉を聞いた瞬間、職員の顔つきが変わったのを俺は見逃さなかった。


「どこでそれを…?ギルドでもまだ対応を決定したばかりの案件です。ザエルカ周辺ならまだしも、まだこの辺りには話が広まっていないはずですよ?」


「いえ、討伐依頼を出されていた村でたまたまザエルカから来た方がいましてね」


「首を突っ込む気ですか?」


「おかしいなとは思っていたんです。ゴブリン討伐依頼も処理されていない。朝とはいえ、冒険者の数が少な過ぎますし」


「鋭いですね…。忠告しておきますが、余計な詮索ばかりしていると身を滅ぼしますよ?」


「ご忠告ありがとうございます。それで、どうなんですか?」


困った顔をしている職員が諦めた様に口を開いた。


「行くなと言っても、行くのでしょうね…。分かりました。こちらで掴んでいる範囲で話をしましょう」


「勿論です。他言した所で余計な不安を煽るだけですし」


俺が首肯すると、職員が話を続ける。


「一部の高ランク冒険者を除いて、ザエルカに向かっています。氾濫の規模は不明ですが、あちらのギルドからの情報では、街はまだ大きな被害は受けていません」


「そうですか。あまりグズグズしてられ無さそうですね」


「依頼はどうします?キャンセルしますか?」


「受けますよ?ペナルティーは困りますし」


「ちなみに、ザエルカの件はギルドの依頼では有りませんから、報酬は出ませんよ?」


ギルドを出る為に席を立つと、背中越しに職員が声を掛けて来た。


「ザエルカの件は、個人的に対応します。約束してしまいましたのでね」


「そうですか…」


と、残念そうにする職員を尻目に部屋を後にした。

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