第四十話 終結
『レイ様!』
デモンズシューターに串刺しにされた魔物を避けながら、帝国兵を確認した場所に向かってオウカと駆けている中、唐突に念話魔法が飛んできた。
『急にどうしました?』
『どうしました?じゃありません!物凄い魔力と威圧感を感じましたが、ご無事ですか!?』
(あ~、多分アドラメレクの事だな…)
『予定外の事はあったけど大丈夫です』
『本当ですか?レイ様に何かあったのかと思いました…』
『人をトラブルメーカーみたいに言わないで下さい。こうやって話せてるのが、何よりの証拠ですよ』
『自覚無いのですか?!』
『心外です!で、用件はそれだけですか?』
念話魔法越しに本気で驚いているのを感じて、不満を言葉に乗せて返事を返した。
『えっ!?あ、はい。それだけです…』
『なら、ついでに一つ頼まれてくれませんか?』
『は、はい!何でしょうか?』
『アルバレードからベレルに向けて少し進んだ所に、エスティアナが倒れてます。回収して下さい』
『承知しました。直ぐに向かわせます』
『お願いします。それと、ベレルまでの間は戦闘中ですので、迂回して向かう様にして下さい』
『なら、アルバレードから…』
『それは出来ません。結界を解除してしまえば、また帝国が進行してくるかもしれませんから』
『わ、分かりました』
『大丈夫ですよ。エステの周辺はオウカの一撃で魔物一匹いませんから。それに』
『それに?』
『帝国側は魔物を操る術を無くしたみたいです。魔物を相手にしている様ですから。では、お願いしますね』
『ご武運を』
その言葉を合図に、ミリーナとの念話魔法が切れた。
「戦場の真っ只中だというのに、イチャつくとは随分余裕だな」
念話魔法が切れるのを待っていたかの様に、オウカが話しかけて来た。
「イチャついてないよ!」
「どうせミリーナだったのだろう?話の相手は」
「そうだけど。イチャついてない!それに、この状態なら戦闘にならないんじゃ無いか?」
どこもかしこも漆黒の槍に串刺しにされて絶命した魔物と帝国兵の屍で埋め尽くされていた。
「いや。そうもいかぬ様だぞ?」
真っ直ぐ前を見据えて走るオウカが、視線の先に帝国兵の一団を見つけてニヤリと笑みを溢した。
「あれを防いだのか?!」
「私たちでさえあれを防ぐのには中々骨が折れるが、やりよる奴がいる様だ」
「おい!あれを防げるとなると結構強い奴がいるぞ!」
「望むところぉーっ!」
嬉々とした表情をしたオウカが、俺を追い越して帝国兵に向かって突撃する。
帝国兵が一斉にオウカ目掛けて突撃する。
その後ろには銃を構えている帝国兵たち…
(怖いもの知らずかよあいつ…)
銃を構えている帝国兵目掛けてエアロバレットを発動し、片っ端から撃ち貫く。
「雑魚どもは引っ込んでおれ!」
「「「「な!!!に…」」」」
オウカが立ち止まって正面に放った衝撃波に巻き込まれ、身体がズタズタに切り裂かれた多くの兵士達が断末魔を上げる事も出来ずに絶命する。
「紫電一閃!」
オウカの横に並び立つと、直ぐに一閃に雷の魔力を流し、隙間を高速度で縫う様にすり抜けながら帝国兵の首、腕、脚を片っ端から切り裂いていく。
技の終わりを示すかのように一閃が帯びていた雷が消えると共にオウカの隣に戻ると、正面にかなりの数の帝国兵が武器を構えて俺たちの行く手を阻む。
(まだこんなにいるのか…!)
「オウカっ!!」
「任せておけ!龍爪乱舞!」
オウカが空中を切り裂く様に何度も引っ掻く仕草をすると、瞬く間に敵が切り裂かれていった。
「紫電一閃!」
再び一閃に雷の魔力を纏わせると、高速で相手の隙間を縫いながら身体を片っ端から切り裂いていく。
バンッ!
技の終わりの着地に合わせたかの様に放たれた銃弾が俺を襲う。
(油断した!今からじゃ防御魔法が間に合わない!)
「何を腑抜けておるのだ!」
一足飛びで俺の隣に来たオウカが、俺に襲いかかる銃弾を『ヒュッ!』と言う空を切る音と共に掴んだ。
「助かったよ」
「旦那様はちょっと緊張感が足らんのでは無いか?」
「返す言葉もないな」
もう一度一閃に魔力を込め、右脚をやや後ろに下げると足に力を込める。
地面を蹴って…まさに敵に向かって駆けようとするその時…
「…お前たちは下がっていろ」
帝国兵達を押しのける様に、1人の重騎士然とした馬に乗った兵士が現れた。
一度地面を蹴った力が乗った身体は、猛スピードで現れた相手に向かって突っ込んで行く。
ガキンッ!
刃と刃がぶつかり合う音が鳴った。
(止められた!?こいつがこれまでの攻撃を防いできたのか!)
「なら、こちらは俺に任せて貰おう!」
帝国兵達の更に奥から聞き覚えのある声と馬が駆け抜ける音が聞こえたかと思うと、帝国兵達の頭上を飛び越えて俺たちの隣に降り立った。
「父上!」
俺は馬上にいる見知った顔に思わず叫んでしまった。
「レイ。これまでご苦労だったな。ここからは俺の戦だ。お前達も下がっていろ」
「そうか。俺の相手はお前がしてくれるのか」
どこか懐かしげに…そして、嬉しそうな感じが混じった声で重騎士が馬から降りて兜を脱ぎ捨てた。
「メルデナード…」
何処か寂しそうな顔で、父上が敵の名前を呟く。
「この戦い、既に帝国の敗北は必定。だが!このままでは終われん!せめて、一矢報いねばならん!」
大剣を構えてディール目掛けて駆け出す。
「そう言う奴だったな…」
ディールも切先を右に傾けて水平に剣を構え、身を低くすると相手目掛けて駆け出した。
(2人とも…早い!)
互いに駆け出した二人の速さは凝視してようやく目で追える程だった。
メルデナードが構えた大剣を振り下ろした。
それに合わせる様に、ディールも剣を振り抜く。
キン!キィー!グシャ!
振り下ろされた大剣は、父上の剣撃によって軌道が逸れると剣の刃の上を滑り、最後は側の地面を抉り取った。
「ふん!」
ディールが剣の軌道を切り返して相手の首を狙う。
「させん!」
ディールの剣を防ごうと、メルデナードが大剣を振り上げた。
キィーン!ガキッ!
ディールの剣が大剣の刃の上を滑ると、大剣の柄に当たって止まった。
「はぁっ!」
ディールの剣を受け止めると、右手でディールに殴りかかった。
ディールが後方に飛んで避けると、メルデナードが逃すまいと前方に飛んで追いかける。
「ぐぅっ!」
襲い掛かってきたメルデナードの剣を剣で受け止めるが、勢いが強くて押し返せなかった父上が受け止めた状態のまま押し込まれた。
父上が踏ん張った跡が数メートル続いた所で、漸く剣を振り抜いてメルデナードが押し返された。
「「金剛!!」」
メルデナードが着地すると、2人が同時に同じスキルを使う。
ゆらゆらとした金色の闘気を纏った2人が剣を構えると、全く同じタイミングで互いに向けて飛び込んだ。
そこからは2人の打ち合いが始まった。
辺りには2人の剣がぶつかり合う音だけが辺りに響き渡る。
……………
…………
………
……
…
周囲にいる全員が2人の戦いを見届ける観客と化している中…
「あやつら強いのぅ…」
オウカが混じりたそうにうずうずした様子で言う。
「邪魔するなよ?…けど、2人が強いってのは同意見だな…」
魔法を使えば…いや、使えれば俺も勝てるかも知れないが、純粋な剣の戦いなら2人に負けるだろうなと思った。
「そろそろ明るくなって来たな…」
鍔迫り合いをしていた2人が互いに後方に飛び退くと、不意にメルデナードが空を見上げてディールに言う。
「あぁ。俺たちの戦いもそろそろ終わりにしよう」
「そうだな…。勝っても負けても次が最後だ」
お互いに剣を構えて、身体中に力を行き渡らせる。
その気迫は正に鬼と鬼が対峙しているかのようだった。
次第にお互いの身体から白い闘気が漏れ出始めた。
2人がその姿勢から全く動かなくなってから、しばらく経った頃…
2人の闘気が互いに飲み込もうと激しくぶつかり合い、その衝撃が暴風とも呼ぶべき激しい風を生み出す。
「す、凄い闘気だ…」
俺とオウカは、向かってくる風を腕を盾にして何とか耐えていたが、反対側にいる帝国兵の多くは風の勢いに耐えきれずに飛ばされていく。
「神機!」
「鬼剛羅刹!」
ディールとメルデナードがほぼ同時に、技能を発動する。
だが、その様子は正反対だった。
父上の方はさっきまでの闘気が嘘のように消え去って辺りには静寂さえ漂っているが、メルデナードの方は暴力的なまでに膨れ上がった白い闘気が周囲を覆っている。
「「ふっ」」
対峙している2人が不意に口角を僅かにあげてほくそ笑むと、お互い目掛けて飛び込んだ。
(早すぎる!全く目で追えない…)
もはや早過ぎる動きに目がついて行けなかったが、勝負はすぐに付いたのが分かった。
「ゴフ…」
土煙りを上げて止まったディールの背後でボタボタと口から血を吐き、折れた剣を支えにして膝をつくメルデナートがいた。
「やはり勝てなかったか…」
その一言と共にメルデナートが倒れ込んだ。
その手に握られていたはずの大剣は、主人の最後を表しているかの様に力無くコロコロと転がる。
ディールが剣を鞘に納めてゆっくりメルデナートに近づくと、メルデナートの身体の向きを変え、上半身を少しだけ起こして支える。
「………」
「………」
「馬鹿野郎が…」
何を話していたかは分からなかったが、最後にディールが呟いた言葉だけは何故だかはっきりと聞こえた。
「帝国の者たちよ!雌雄は決した!武器を捨て、投降せよ!これに従わない者は悉く斬り捨てる!」
メルデナートの瞼をそっと閉じて地面に寝かせると、立ち上がったディールが声を張り上げた。
帝国兵が次々と武器を捨てて力無く膝をついていく中、ディールが最後の瞬間を思い返していた。
闘気を纏ったメルデナートの一撃は、ディールの一撃が届くのとほぼ同時にディールの肩を切り裂こうとしていた。
だが、ディールの肩に大剣が触れるか否かのほんの刹那…見る者が見れば全く気付かない程のわずかだが、メルデナードの動きが鈍くなり、剣に纏っていた闘気が小さくなった。
その僅かな変化によって、ディールの剣がメルデナードの剣を砕き、メルデナードを斬り伏せた。
「何故最後に手を抜いた」
メルデナードの身体を支えながら訊ねた。
「ゴフッ…。…さ、さいごに…おまえに…なら…ほん…だ…あ、あとを…たの…む…」
最後の力を振り絞る様に、そう言い残してメルナードは生き絶えた。
「馬鹿野郎が…」
長きに渡って対峙して来た…もはや、旧友とも呼べる敵に向けて、もう一度呟いた。
自らの勝ち鬨と共に部下たちがせっせと敵兵を連行する中、一抹の寂しさが混じったその言葉を顔を出したばかりの朝日が飲み込んでいった。




