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不遇にも若くして病死した少年、転生先で英雄に  作者: 根本 良
第一章 旅立ち編
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第三話 新たな街、初ギルド、初依頼

入場許可やらを済ませ、ベレルに入った頃には日が沈みかけていた。


「時間が掛かりましたね」


「長蛇の列が出来ているとは思わなかったな…。とりあえず宿を探そう。寝床が無いのに、情報取集もへったくれもないからね」


「そうですね。確か中央広場の右手にある道沿いに宿があったと思うので、そちらへ行ってみますか?」


そう言って、フェリルが誘導してくれるかの様に俺の手を引いて歩き始めた。


「詳しいんだね。俺は父上と数える程度しか来た事がないから助かるよ」


「自分が仕える方が治める街くらいはどこに何が有るか覚えておくように、とお母様に言われてましたから。ところで、お金は大丈夫ですか?私も多少の持ち合わせはありますが…」


「心配しなくていいよ。父上に渡されたお金と元から自分が持っていた分を合わせて、60000ディアルあるから」


この世界の通貨であるディアルは円に換算すると、1ディアル=100円だった。


アルバレードにいた時に、訓練がてら倒した魔物の素材を集めては父上の伝手で商人に格安で売るという小銭稼ぎしていた。


ギルドに登録すればギルドを通じて売れるのだが、貴族としての体面を守らないといけないのもあって出来なかった。


「私は2000ディアル持ってます。大事に使いましょう」


「そうだね。ギルド登録を済ませて、早く収入を得ないとすぐ無くなるだろうし」


他愛もない話をしながら歩いていると、宿屋を見つけて戸を開けた。


中には、店番をしている女の子が忙しそうにカウンターの向こうで先客達の相手をしている。


「いらっしゃいませー。何泊されますか?」


後ろに並んでしばらく待っていると、自分たちの順番になって女の子が接客してくれる。


「一泊いくらなの?」


そもそも一泊がいくらなのか分からず、聞いてみた。


「失礼しました。宿泊のみなら50ディアル、朝夕食付きなら、80ディアルです」


「じゃぁ、食事付きで1週間」


2部屋分のお金をカウンターに置くと、横にいたフェリルが一部屋分のお金をスッと引っ込めた。


「すみません。1部屋で、それと毛布をお借りできますか」


俺と店員の女の子が同時に驚いた。


「えっ!?1部屋なの?」


思わず、俺はフェリルに尋ねてしまった。


「…よろしいのですか?毛布はお貸し出来ますが…。後、その場合でしたら一泊110ディアルいただきます」


無言で頷いたフェリルをチラチラ見ながら、恐る恐る店員の女の子が説明してくれる。


「いや、ちょっ…」


流石に同じ部屋は…と、俺が口を挟もうとすると、


「旅を始めたばかりなのに散財するわけにはいきません!長旅になるのなら尚更です!」


フェリルが俺に説教を始めた。


その勢いに押されて俺はなし崩し的に「はい…」と答え、不足分のお金を置く。


お金を受け取った店員さんが慌てた様子で鍵と毛布を取りに行く。


少しして戻ってきて、俺に鍵と毛布を手渡した。


「そちらの階段から3階に上がってください。右手の突き当たりの部屋になります。食事はここの右手にある食堂で、お風呂は左手の廊下の突き当たりにあります。食事は指定の時間に食べに来て下さい」


一通りの説明をしてくれた店員に「ありがとう」とお礼を伝える。


部屋に入るとフェリルと今後の話…というか、めちゃくちゃ目先の話をする。


「俺は毛布でいいから、フェリルがベッドを使ってくれ」


「いいえ、そうは行きません。レイがベッドを使って下さい。私は毛布で十分です」


「それじゃあ、疲れが取れないだろ?俺はどこでも寝れるから」


(フェリルと同じ部屋だからっていう理由だけで寝れないだろうけど…。出会って間も無い女の子といきなり同じ部屋とか。緊張するだろ?普通…)


言いながら、内心でそんな事を思う。


しばらく互いに譲らない状況が続いたが、最終的に「いいからっ!」と俺が押し付ける形で打ち切った。


途中で「じゃぁ、2人ともベッドで…」とか言われた時はどうしようかと思ったが、何とか回避した。


「どっちがベッドを使うかも決まったことだし、ご飯でも食べて明日の話をしようか」


「私が毛布で良かったのに…」とか、ぶつぶつ不満そうな言葉を口にし続けるフェリルの手を取って、食堂に引っ張って行く。


手を取った時にフェリルが小さく「あっ…」と小さく漏らした言葉に、気づかないフリをした。


食堂に行くといい匂いが立ち込めている。


案内された席に付くと、俺もフェリルもオススメを聞いて同じ物を注文する。


2人分の食事が揃った後、「いただきます」と手を合わせるとフェリルが不思議そうな顔をする。


実家にいた時は周りに合わせてしていなかったが、気を抜いて無意識にしていた。


「手を合わせるのに、何か意味があるんですか?」


「えっ?えーと…。癖みたいなもんかな?目の前の食材になった動物とかの命をいただきますみたいな?」


「どこかの風習ですか?そういうのもあるんですね」


「ま…まぁ、そうみたいだよ。本で見たんだけどね。そ、それより!明日はギルドに行こうか!雑用系の依頼をいくつかこなしつつ、次の街のリダールの情報収集をしたいんだ」


ちょっと無理やりではあったが、話の方向を逸らす事にする。


「何か…。まぁいいです。明日の件は私はそれで構わないです。出来れば、リダールだけでなくベレルの情報も集めたいですね。アルバレードにいらっしゃるディールさまがここで何かあった時に、すぐ動けるとは限りませんし」


「そうだね。まぁ、何か有れば代理領主のロキア兄さんが何とかすると思うけど」


明日の方針を決め、食事を終えた俺たちは部屋に戻った。


戻る途中にフェリルが「話はまたの機会に…」とか言っていたが、聞こえないフリをしておいた。


翌朝、俺とフェリルは中央広場の北側に有るギルドへ来ていた。


3人のギルド職員がカウンターの向こうで受け付けをしている。


(何でこんなに少ないんだ…?朝早いからか?)


人がまばらにしか居ない事に疑問を感じつつ、数人の男達がフェリルの方を見てニヤニヤしているのを無視して奥へ進んで行く。


それぞれの応対の様子を見て、1番丁寧に対応してたであろう女性職員の所に並んだ。


「あら、初めての方ですね?今日はどのような御用件で?」


周りの様子を見ながらしばらく待っていると、自分達の順番になった。


「冒険者登録をお願いします。それと、登録後に簡単な依頼を紹介していだけますか?」


「分かりました。それではお二人の登録料として、4000ディアルいただいてよろしいですか?」


「結構良い値ですね」


「誰彼構わず冒険者に成れてしまうと、犯罪者が紛れ込んだりし易くなりますので防止の為です。そうまでして危険な冒険者になりますか?という踏み絵も兼ねてます。どこのギルドも同じという訳ではありませんが、当ギルドは比較的いただいている方ですね」


「それなりのお金を払ってまでなるのかっていう確認ってとこですかね。まぁ、その代わり素性がある程度保証されるから、他所のギルドでも引き継ぎがしやすい…と」


言い終えると、俺はフェリルに目で確認する。


フェリルが小さく頷いたのを確認して、お金をカウンターに置いた。


「そういう事です。では、このカードに名前を書いてください。その後、カードに手を翳して貰えば、淡く緑に発光します」


お金を受け取った職員が、カードを取り出して説明する。


「光ったら、カードの四角の枠に血を垂らして下さい。それで冒険者登録の完了となります」


説明を聞きながら作業を進め、後から置かれたナイフで最後に血を垂らすと、何かの紋様が浮かび上がった。


「ずいぶんと凝ったカードですね。お金も掛かるわけだ。この紋様はどういう意味なんですか?」


「詳しい事は説明出来ません。あくまで偽造、不法所持防止の為と理解していただければ。ギルドカードの裏面を見てください」


そう言われて、カードを裏返した。


「それがお二人の冒険者ランクです。初期ランクのEランクとなります。依頼の件は見繕って来るので、お待ちいただけますか?少し時間がかかりますので、ロビー内の椅子にでも掛けてお待ち下さい」


「分かりました」と答えると、職員は別の女性職員を呼んで交代して奥に消えていった。


俺とフェリルは椅子に腰を下ろして、何を話すわけでも無く辺りの様子を伺っていると、先程の職員が依頼書を持って来た。


「今のランクだと、この中の依頼が良いと思います。他のも見たければ依頼ボードに張り出してるので、そちらも見て貰えれば…。特別に見繕って来たので、こちらの方が身入りは多少いいと思いますけど」


「えーっと、ゴブリン討伐、アルバレードまでの商人の護衛、アイテム収集の代行に、ワイルドウルフの討伐…って、あれ?このワイルドウルフって、アルバレードとの街道に出るっていうやつ?」


渡された依頼書の中に、一つだけ目に付いた依頼があったので確認してみた。


「そうですが。何か?」


そう言われると俺は、ワイルドウルフとグレイウルフの牙三十本を取り出した。


「ワイルドウルフの牙ですね。それに、こっちはグレイウルフの牙じゃ無いですか?!しかもこの数…。どこでこれを?」


ワイルドウルフの牙に対して、グレイウルフの牙は先端がノコギリの様な形状をしている。それを見分けた職員は訝しむような声で確認してくる。


「アルバレードに来る商人のおじさんが最近ウルフが出て困るって言ってたんで、ベレルに来る途中で倒しました」


「にしても、この数…。ざっと15くらいですか?小規模の群れとはいえ、お2人で?」


「まぁ、そうです」と言おうとしたところで、フェリルが割って入る。


「いえ。レイ1人でですよ?」


「えっ?!よく無事でしたね…。なら…、レイ様はCランク相当の実力者という事になりますが…。これは討伐証明に預かってもよろしいですか?時折、討伐を誤魔化して報酬を受け取ろうとする方がいますので。それと、討伐した場所を教えていただけますか?」


疑り深いなとは思いつつも、ギルドも信用商売か…。と納得した。


「それと先ほどお渡しした依頼ですが、どうされますか?ウルフ討伐を除くと3つですが」


「アルバレードまでの護衛以外を受ければ宜しいのでは?」


アルバレードから来たのにまた戻るのも確かに嫌だし、俺もフェリルと同じ考えだったから、了承することにして頷いた。


「では、アルバレードまでの護衛以外を全て受けます。それと、ウルフ達を討伐した場所は、アルバレードからここに来る途中の森の中です。中に入れば、戦闘の跡があると思います。昨日の今日ですから」


「では、討伐場所に早速ギルド調査員を派遣します。依頼には期限がありますので、ご注意下さい。期限内に、完了の証と報告が無ければ、罰金や登録取り消し等のペナルティがあります。取り消しは、余程悪質で無ければ早々ありませんが…」


「分かりました。気をつけておきます」


渡された依頼書を腰に下げたポーチに入れ、職員の女性に一礼してギルドを後にした。


「さて、先ずはゴブリンの討伐から片付けようか。被害を受けているのはこの街の傍の村だから、そっちに行ってみよう。アイテム収集の方は、期限が4日後までだから余裕もありそうだし」


「そうですね。ゴブリンの討伐程度なら1日かからないでしょうし」


村まで歩いて来てみると、武装した住人が入り口に2人、ピリピリした雰囲気で立っているのが見えた。


よく見ると、あちこちの柵がボロボロになっていたり、壊された家が何軒もある。


(それなりに被害が出ているみたいだな…)


依頼書に書いてあるゴブリンの数の割に、被害が大きい気がしたが、後回しにする事にした。


立っていた住人に依頼を引き受けた事を伝え、村長に会わせてくれるように頼んだ。


「わ、分かりました!おい、村長に話をしてきてくれ」


1人が慌てた様子で村の中に戻って行く。


「どうぞこちらへ」


先導して村の中へ入って行く村人の背中に付いて行くように、俺とフェリルは村の中に入って行った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 強い人いっぱいなんだけど
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