第三十四話 アルバレード解放戦—前哨戦—
この小説を読んで下さる皆様、大変ありがとうございます。
続きを書く時間が取れなくて、亀速度で更新していますが、ニ週間に一度を目指して更新していくつもりなので引き続きよろしくお願いします。
「っ!!!」
アルバレードの屋敷の入り口に転移した俺は、街のあちこちに火の手が上がっている光景に思わず舌打ちをした。
後ろを振り返ると、屋敷は所々がボロボロ崩れ落ちていた。
「遅かったか!?母さん達は?!」
みんなの無事を確かめようと、屋敷に向かって駆け出そうとしたその時…
キンッ!キンッ!
と、金属がぶつかり合う音が聞こえた。
そこからは無我夢中で身体強化魔法を発動し、音が鳴る方へと向かった。
ロキア兄さんと鍔迫り合いをしている敵に気付いた時には、敵を斬り伏せていた。
「レ、レイなのか…?」
余りの速さと雰囲気の違いに驚いたのだろう、敵の攻撃を防いでいたロキア兄さんがロングソードを構えたまま恐る恐る話しかけて来た。
「一旦、屋敷に入ろう。状況を教えて欲しい」
切り伏せた敵を一瞥した後、敷地一帯をアルマティアと同等の防御力を誇る結界魔法アルマーダで覆う。
ロキア兄さんに連れられて屋敷に入ると、母上達が怪我をした者達に治療に駆け回っていた。
「見ての通り怪我人だらけだ。ここが落とされるのも時間の問題だよ」
母さん達の必死の治療を受ける怪我人達を見て、ロキア兄さんが悲痛な面持ちで告げる。
「この街は結界が張られていたはずでは?」
「何故か奴等が攻め込んで来るのに合わせたかの様に突然消えたよ。結界が無事だったら、ここ迄の被害を出さずに持ち堪える事も出来たのに…」
「奴らはどこから攻め込んで来ているのです?」
「それが…、どうやら森の方からみたいなんだ」
「森には大量の魔物がいるはずでは?」
「奴らのほとんどは知性が無いはず。にも関わらず、敵を襲わずにこちらに向かってくるとなると…」
「帝国には魔物を従える術がある。と言う事になりますね」
「あぁ。どうすれば、そんな事が出来るのか…」
「兄さんは一度体制を立て直して、皆の指揮とここの防衛を。俺は…」
俺がほくそ笑むのを見て訝しむロキア兄さんを他所に、屋敷に掛けているアルマーダを更に街全体に掛けた。
「何をする気だ?」
「とにかく、先ずは逃げ遅れた人がいないか探します。俺が合図したら、屋敷に掛けた魔法を解除します。それまでに急いで体制を整えて下さい」
「体制を整えるって言っても…」
「父上の書斎の奥に備蓄があります。母上に聞けば教えてくれるはずです。時間がありません」
「っ!!すまない!」
苦虫を噛み潰した様な顔をした後、ロキア兄さんが母上達の元へと向かった。
「…さて、大掃除と行きますか」
残された俺はマナポーションを飲み終えると屋敷を出て、一閃を片手にそこら中で火の手が上がった街中を駆け抜ける。
逃げ遅れた人がいるかも知れないと辺りを見回しながら、魔物や敵兵を倒しながらひたすら走っていたが、探せど探せど逃げ遅れた住民や、衛兵、冒険者達が横たわる姿ばかりが目に入る。
その光景に怒り、虚無感、憎悪が俺の中で渦を巻く。
それらの感情を飲み込み、耐える様に一閃を握る手に力を込めて、ただひたすらに生存者と敵を探しながら広場の方に目を向けた。
「見つけた!」
広場で暴れている三体のアンガーエイプを見つけて一閃に氷雪系の魔力を流し込み、無数のエアロバレットを頭上に浮かべた。
「いけっ!」
走りながら視界に捉えた三体の内、左右の二体に向かって発動したエアロバレットを分散砲火する。
直撃を受けた二体がエアロバレットに撃ち抜かれて崩れていくのを見届けながら、奥にいたエイプ目掛けて飛び掛かった。
「させるかぁっ!」
飛びかかっている際中、身を挺して子供を守るかの様に覆い被さる女性の姿を視界に捉え、飛びかかった勢いのままエイプの頭に一閃を突き刺した。
一閃で頭を突き刺されたアンガーエイプは、振り下ろそうとした拳を突き上げたまま凍りついて動かなくなった。
エイプの頭を蹴り、一閃を引き抜きいて飛び降りると、襲われていた親子に大丈夫かと尋ねようとした。
「大…。?!」
ふと、不意に嫌な感じがして親子も一緒に囲む様にティアードを発動した直後、無数の攻撃が降り注いだ。
攻撃が止んで周りを見回すと、地面にベレルで見たのと同じ何かの粒が大量に転がっていた。
(これで確定だな…。これが奴らの武器なら!)
転がっている粒を見て敵の武器は銃の類だと確信して、対魔法弾も有るだろうと厚さ2mの土魔法で作った壁で自分達の頭上と四方を覆う。
「これで少しは持ち堪えられるはず。大丈夫ですか?」
ティアードを解除すると、凍り付いて絶命したエイプを背に親子に言い損ねた言葉を告げた。
「は、はい…あの、それ…」
母親が恐る恐る返事をしつつも、俺の後ろにいる大型の猿の様な魔物に指を指して怯えた様子を見せる。
「ん?あぁ、これ?もう動かないから大丈夫。ほら」
絶命して動かなくなったエイプを手で押すと、魔物の重心がズレたのか、そのまま倒れて文字通り粉々になった。
信じられないと言わんばかりに、母親が驚いた顔で固まる。
「さて、これからどうするかな。外にはまだ敵がいるし、いつまでもここにいる訳にもいかないし…」
(上から抜けて…いや、用途に合わせて種類があるならスナイパーライフルもあるはず。なら、上から抜けても狙撃される。なら、地下から…ただ、どこまで掘ればいいんだ?どっちにしろ愚策か…)
「あのー」
「何ですか?」
恐る恐る話しかけて来た母親が、思案中の俺から目を向けられてビクッ!と怯えた様子を見せる。
(しまった。考え事してたからか睨んでしまったか…。そういえば…)
「すみません。考え事をしてたので。それより、この辺りに二人以外に無事な方は居ましたか?」
「わ、分かりません…。ただ、皆さん我先にと隣町や屋敷の方へ避難されたらしく、私達は逃げ遅れてしまいまして。私たちがここに来るまでの間に、逃げている方は見かけませんでした」
「そうですか。なら、少しばかり大っぴらにやっても大丈夫ですね。あまり街に被害は出したく無かったのですが、止むを得ません」
「どうするのー?」
「ごめんね。ちょっと悪い人達をやっつけて来るから、少しの間待っててくれるかな?直ぐに終わるからね」
覆い被さる母親の肩の所から顔を出した女の子に、俺はしゃがんで頭をポンポンと撫でてやると、女の子が「わかったー」という言葉と笑顔を返してくる。
「すみませんが、この塹壕の中に入って下さい。念の為防御魔法も掛けておきます。何が有っても決して出ないで下さい」
母親がコクリと頷いたのを確認して魔法で作った穴に親子を誘導した後、アルマティアを掛けた。
(一通り歩いてみたが、四方…、それに上にも何ヶ所か弾が当たった感じがあるな…。予想通りとは言え、面倒だな。ちょっと誘ってみるか…)
壁に手を当てて魔力を流しながら壁の状態を確認していた俺は、特に損傷が激しいと感じた辺りに移動して、再び壁に手を当てて魔力を流し込んだ。
ガラッ…
正面の土の壁の外側が少しだけ崩れると、発砲音と物凄い数の銃弾が壁のあちこちにぶち当たる音が聞こえる。
(上手く誘われてくれたか…。敵は最低でも6人。とりあえず、正面に2人とその奥の建物の屋上に1人。残りは3方に一人ずつ。誘われなかった奴が何人いるか分からないが、先ずは正面の奴等からだな。魔素変…、ん?)
壁に流した魔力を魔素レベルに分解して四方に拡散させる事で、特殊な魔素による探知フィールドを作り出して敵の動きと位置を把握した俺が、今まさに…壁をぶち壊して飛び出そう!とした所で、
『レイ様、今宜しいですか?』
空気を読んでくれなかったミリーナ、様からの念話魔法が入った。
『全然、宜しくないです』
これから敵の包囲を切り崩そうか。と言うところを、早々に出鼻を挫かれて不満げに返事を返した。
『えっ?あっ、す、すみません…。立て込んでおりましたか?』
『今、敵に囲まれてる最中ですけど…』
『それは、失礼しました!!出直します!』
『構わないですよ。直ぐにどうこうされる状態じゃないですし、手短であれば伺います』
出鼻を挫かれた意趣返しも出来たし、こうなったら先に話を聞いておこうかと気持ちを切り替えた。
『では、手短に…子爵は私から連絡を受けたアリアルデ公爵様が王都に連れて行かれました。リダールの方はメイルに後処理を任せています』
『そうですか。それで?俺に連絡した理由はそれだけではないですよね?』
『はい。オウカ様はアルバレードでは無く…』
『ザエルカに向かった』
後に続く言葉を予測して、先に答えた。
『どうして分かったんですか!?』
『リダールにいた兵の数が明らかに少なかったですからね。籠城するにしても、拠点にして何処かに攻めるにしても…ね』
『こちらには来ないのでしょうか…』
『ベレルかザエルカかならば、ザエルカを攻めるでしょうね。ベレルは重要拠点ではないので、アルバレードを落としたその足で落とせば良いだけです。まぁ、ミリーナ様を介して連絡を取り合っている事を奴等が知っていれば、話は変わりますけど』
『分かりました』
『ベレルは大丈夫だと思いますが、用心はして下さい。私はアルバレードを何とかします』
『ありがとうございます。衛兵の方々には、一切人を通さない様にと伝えます。レイ様…御武運を…』
『また、何かあれば連絡を。では』
その言葉を最後に念話魔法を打ち切った。
「…さて、仕切り直して魔素変換回路全開!」
急激な魔力の高まりに反応したらしく銃声と着弾の音が鳴り響いていたが、暫く経つとパタリと音が止んだ。
魔力を集中させた拳で土の壁を素早く2回で殴ると、1回目で土の壁に亀裂が、2回目で土の壁に入った亀裂に合わせて割れた土の塊が前方に吹き飛んだ。
猛スピードで飛翔する土の塊に続いて、正面の敵に向かって突撃する。
敵の元まで辿り着いた時には、高速で飛来する土の塊の直撃を受けた敵がその場で倒れていた。
「ジェイル!」
倒れている二人の手足を拘束魔法で縛り付け、念の為にと催眠魔法を掛けてその辺りに寝転がせて置く。
「次っ!」
土の壁越しに流した魔力による魔素の動きで、予め居場所を掴んでいた残りの三方に分かれた敵目掛けて、建物の間や中を駆け抜けて斬り伏せた。
「スナイパーは1人…か?」
(倒しに行く…のは駄目か。向かう途中に攻撃されるし、観測手がいてツーマンセルだった場合こちらが不利…。なら、狙撃戦と行こうか)
魔素変換回路全開を解除し、敵がいるであろう方向を正面に据える様に近くの壁にもたれかかる。
左膝を立てて座り、右腕を伸ばして膝に肘を置き、左手で右手首を掴む。
相手を指し示す様に、突き出した右手の人差し指に一気に魔力を集中させる。
「グラビタシオンスフェラ!」
詠唱を合図に、俺の指から超圧縮された小さな重力の弾丸を解き放たれた。
一筋の弾丸があらゆる障害物を飲み込みながら、敵がいるであろう場所目掛けて高速で突き進む。
間も無くして弾丸が俺の結界魔法に着弾すると、膨張しながら当たりの建物の屋根とかを飲み込んでいく。
「これで大丈夫かな」
重力魔法に飲み込まれて屋根が無くなった事で見えるようになった結界越しの空を見上げながら呟いた。




