第三十二話 リダール制圧戦ー中ー
「起きろ!時間だぞ」
オウカに叩き起こされる形で目を覚ました俺は、身体を起こして眠い目を擦る。
「…」
ふと、夢の中の女の子に貰ったブレスレットがあるであろう右腕を見た。
あの世界でしか存在しないのだろうとは思っていたが、何となく寂しい気がした。
「どうした?」
俺の様子を不思議そうに見ていたオウカが小首を傾げる。
「いや、何でも無い。それより、今何時だ?」
「夜の二の刻だな」
前の世界で言えば、夜中の二時だった。
(二時で良く無いか?…、何て思うのは、俺が前の記憶があるからか…)
どうでも良い事を考えながら立ち上がって、膝に付いていた埃を払う。
「状況は?」
俺が寝ている間に何かしてたんだろうと思い、俺に合わせる様に立ち上がったオウカに訊ねた。
「お見通し…か。今の所、ベレルも村の方も何も起こって無いらしい。ミリーナの知らせでは、アルバレードでも帝国は動きを見せておらん様だのぅ」
「先手が打てそうだな。ここで動くのも相手の手の内かも知れないけど」
「注意しておくに越した事は無いが、思慮深くなり過ぎると機を逃すぞ?」
「それもそうだな。それじゃぁ、行くか」
その言葉を合図に、俺とオウカが二人同時に身体強化魔法を発動する。
「私の後について来い」
気絶させられていた俺は、この場所の正確な位置が分からないので素直に頷くと、オウカが走り始めた。
「ところで、隠蔽関係の魔法はどうする?」
走りながら、オウカが話しかけてくる。
「帝国と本気で戦争したい訳じゃ無いけど、人知れず落とすよりは大っぴらに落として抑止効果を狙う」
「承知した!それと、これがリダールの地図だ」
走りながら、手渡された地図を確認すると、地図のあちこちにバツが書かれていた。
「このバツ印は?」
「あの村に設置されたのと、恐らく同じ装置がそこにある!」
「なら、先に壊す!」
地図を掴んでいる手に思わず力が入る。
(他人を意のままに操ろうなんて…、徹底的に破壊する!)
「いや!そちらは私に任せろ。お主は真っ直ぐ城に迎え!奇襲は真っ先に本陣を叩かねば意味を為さん!」
「大丈夫か?」
「誰にモノを言うておる!私はこれでも四体しか存在せぬ龍ぞ!」
「そうだったな。なら、俺は城の方に向かう」
「全てを壊したら、私も城に向かう!また後でな」
オウカの言葉に合わせるかの様に現れたリダールの街の防壁が見えた所で、二手に分かれた。
「とは言え、城に向かうまでの間に一つ位は潰せるだろうけど…任せた以上は、手を出さずに城に真っ直ぐ向うべきか…。と、忘れてた」
こっちは城に突入する迄バレる訳には行かないので、認識阻害と遮音魔法を同時発動する。
街を覆う壁沿いを走って適当な浸入場所を探したが、どこも高い壁に囲まれて簡単に入れる場所が見当たらない。
最も防御が薄いであろう城から最も離れた所まで回り込み、土魔法で作った足場を駆け登って行く。
防壁を登り切った所で、遠くから爆発音が聞こえた。
(!。オウカか!)
爆発音が聞こえた方に一瞬顔を向け、陽動を買って出たオウカに感謝しつつ城を目指して防壁の上を走る。
(敵?!)
あちこちで敵襲を知らせる笛の音を聞きながらしばらく走り続けた所で、防壁から外を監視する為の櫓から武装した二人が出てきた。
俺は猛スピードで駆けていた脚を止めて、少し離れた場所から気配を殺しつつ二人の様子を伺う。
(…。おかしい)
様子を見ている限り、二人は全く会話する様子も動く様子も無かった。
(視た方が良いか…)
精霊眼を発動した眼で二人を視て、より違和感が強くなった。
(何で身体の中央にしか魔力反応が無いんだ?)
血が身体中を巡るかの様に見える筈の魔力の流れが、二人からは見えなかった。
(相手にしない方が良さそうだな)
直感でそう判断した俺は、魔法で強化された脚力と飛翔魔法で二人を飛び越えようとする。
「?!」
ちょうど二人の真上に来た辺りで、二人が遥か上空にいる俺を見た気がした。
建物から離れた場所で着地すると、すぐさま振り返って一閃を構えて警戒するが、追いかけて来る気配は無かった。
ここで突っ立っていてもしょうがないと、念の為に鞘から抜いた一閃を持ったまま再び城に向かって駆け出した。
防壁の上を走り続けると、今度は城壁が見えて来る。
(さて、ここまでは来たが…)
防壁よりも更に高い城壁を見上げ、下から攻めるか上から攻めるか悩んでいると、別の場所でまた爆発音が聞こえた。
(街にはオウカもいるし、上から行くか)
再び飛び上がると、城壁を越えて城の屋上に飛び乗った。
「!!?」
城の屋上に着地した瞬間、飛んできた何かを咄嗟に交わした。
「良く交わせたな」
声がした方に顔を向けると、宙に浮いている男がこちらに銃の様な物を向けていた。
「そっちこそ良く気付いたな。で、お前は何者だ?」
「答える気はねぇ!よっ!」
その言葉と共に再び敵の攻撃が飛んできたのを、今度は交わさずに防御魔法で防いだ。
「さすが、はっ!?」
時間の無駄なので防いだのと同時に姿を消して一気に詰め寄り、敵の首元に一閃の峰を打ち込んで叩き落とした。
「悪いけど…。遊んでられる程暇じゃ無いんだ」
城の中に入ろうとした瞬間、再び何かが飛んできた。
「っと…!」
後方に飛んで避けると、叩き落とした筈の男が下から姿を現した。
「危ない危ない。もう少しでやられる所だったぜ?」
「その割には平気そうだな」
「で、どうする?このまま戦るか?」
男が指を鳴らすと、城の中から現れた大量の兵士が剣を構えて俺を取り囲んだ。
「これは分が悪そうだ」
俺は持っていた一閃を鞘に収めてその場に置いて両手を上げた。
「それでいい。お前たち、そいつを捕らえろ!」
その言葉を合図に、取り囲んでいた敵兵が俺を捕らえるべく、少しずつ警戒しながら近づいて来る。
「そういえばさぁ。アレ、何だろうね?」
俺はニヤリとほくそ笑むと、上げていた右手の人差し指だけ突き立てて空を指して戯ける。
「きっ!」
男が何かを言いかけていたが、俺が発動したトルニトースによって撃ち落とされた。
ついでに俺の周りにも落としておいたので、取り囲んでいたほとんどの敵に命中して卒倒していた。
「今度はこっちの番だな」
足元に置いた一閃の鍔元に足を引っ掛けて蹴り上げ、宙に待った一閃を掴むなり抜刀する。
周囲は雷に囲まれ、逃げ道が無いと悟った兵士達が一斉に向かってくる。
敵の攻撃を避けたり、受け止めたりしながら、持っていた一閃とその鞘で次々と倒していく…
全ての兵士を倒し終え、納刀しようとした所で不意に殺気を感じて振り返ると、トルニトースで撃ち落とした筈の男がボロボロになりながらもユラユラと宙に浮いていた。
「随分と頑丈な奴だな。でも…」
俺はチラッと男の防具がボロボロになっているのを見る。
「その様子だと戦える状態じゃなさそうだけど?」
「な、舐めるなよ…。小僧…」
「そろそろ何者なのか教えて欲しいな。想像はついてるけど」
「なめるなぁぁ!!!」
その言葉と共に、男の全身から大小様々な筒が現れ、一斉射撃で無数の攻撃が飛んでくる。
「アルマティア!」
吹き荒れる攻撃の嵐を、長い間防御魔法で耐え続けた。
「万策尽きたかな?」
攻撃が止んだのに合わせて、アルマティアを解除した。
「この化け物め!」
「れっきとした人なんだけど。そろそろ、諦めてくれないかな?」
男が何も言わずにただニヤリと不敵な笑みを返したのに、嫌な予感がして咄嗟に再びアルマティアを発動する。
直後男から発せられた強烈な閃光と共に、爆発と爆風、それに、何かの粒が俺を襲う。
「自爆っ?!」
アルマティアを張る為に、突き出した手に力が入る。
捨て身の攻撃らしくさっきの一斉射撃とは威力が段違いだったが、何とか全てを防ぎきった。
アルマティアを解除すると、城の一部が消し飛び、辺りが真っ黒に焦げ、そこら中トゲの付いた粒が突き刺さってボロボロになっていた。
(手榴弾みたいなものか…)
軽く周りを確認すると、偶然アルマティアの中に入っていた兵士がいたが、他は巻き込まれたのか見るも無残な姿になっていた。
強烈な吐き気に、口元に手を当てて無理矢理抑え込むと、その場を後にして城の中へと入る。
城の中を進んで角を曲がった所で、廊下にびっしりと武器を構えた兵士達がこちらを殺気立ちつつも虚な目で見ていた。
(籠城する気だったのか…?)
武装した兵士の多さに不意にそう感じたが、今までの行動に違和感を感じる。
「貴様何者だ!」
他の兵士達とは違って、前にパレードで見たのと同じ面を付けた奴が剣…いや、銃にも見える武器を俺に向かって突き立てる。
「それはこっちが聞きた…。いや、その面…。パレードを襲撃した奴の仲間か」
「くっ!お前達!奴を殺せ!」
それを合図に廊下にひしめき合っていた兵士達が一斉に向かって来た。
「邪魔だ!」
向かって来る兵士達を片っ端から捩じ伏せていると、兵士達の更に奥から何かが飛んでくるのに気付いて、咄嗟に来た道に向かって飛び込んだ。
「敵味方関係無しか…」
壁越しに覗き込んでみると、廊下にひしめいていた兵士達が一人残らずボロボロになって倒れていた。
「ぁぶなっ!!」
顔を出していた所を狙われ、咄嗟に顔を引っ込めた。
(厄介な武器だな…)
今も壁に攻撃が撃ち込まれているからか、壁がボロボロと崩れ落ちていく。
少しずつ後ろに下がって攻撃を防いでいると、不意に正面の壁に複数の穴が空いた。
(近づいて来てるのか…。なら…)
「逃げるだけかっ!最初の威勢はどうした!」
乱射しながら詰め寄って来る相手との距離を見計らいながら、息を潜める。
「かくれんぼはここまでだっ!なっ!?」
向かって来ていた敵が、俺が逃げ込んだ廊下に躍り出た所で驚きの声を上げる。
それもそうだろう。
そこにいたはずの相手が何処にも見当たらなず、それどころか、持っていた銃さえも奪い取られたのだから。
「キサマッ!!」
「しかし、これ。厄介な武器だな」
奪い取った武器を横目に見た後、ファイアーで消し炭にして刀を構えた。
「これで形成逆転だな」
「舐めるなぁぁ!」
「それはさっきも見たよ」
相手の言葉と共に魔力が膨張していくのを感じながら相手の首を跳ね、膝を突いて崩れて行く敵を眺めながら呟くと、先を急ぐべく走り始めた。
「伯爵はどこだ…」
一閃を片手にしばらく走り続け、途中出会した敵を切り捨てながら部屋の扉を見つけては片っ端から開けて行くが、肝心の伯爵が見つけられずにいた。
気付けば最上階からかなり降りていたらしく、一階なんじゃ無いかという所まで来ていた。
ここにはもう伯爵はいないのかと諦めつつ、側にあった扉を開ける。
「ここにも居ない…か。ひょっとして、もうここを出たのか?」
何となく最後に入った部屋をウロウロしていると、不意にぼんやり魔力を感じる。
「ん?何かあるのか?」
魔力の感じる方へと歩いていると、突然轟音が背後に鳴り響いた。
ガラガラと崩れた壁のカケラを足場にして土煙の中を、何者かが進んで来ているのに気づいて一閃を構えた。
膨大な魔力を発するその存在に警戒しつつ、姿を見せた瞬間を狙って斬り込もうと前傾姿勢で脚に力を込めた。
「!!。…?!」
姿を現わす瞬間に合わせて飛び掛かったが、土煙の中から現れた見知った顔に気付いて、振り下ろしかけた刀を力づくで止める。
「レイもここにおったか…」
土煙の中から姿を現したオウカは、何事も無かった様に俺を見つめていた。
「オ、オウカ?!何でここに?!」
一閃を振り下ろしかけたポーズのまま、驚きの余り俺は素っ頓狂な声を上げた。




