第二十九話 回想—崩れ行く平穏—
アリアルデは未だに意識を手放してトリップしたままのソフィアをそのままにして、窓から盛大な演奏共に城の中庭から外へと出て行くパレードの馬車を見下ろしていた。
(さて、レイ達も出た事だし。準備しましょうか…)
「ソフィアちゃん?そろそろ私も行くけど~、ここにいる~?」
馬車が完全に城を出たのを確認して、ソフィアに話しかけた。
「はっ!私ったら、何ともお見苦しいところを…って。あれ、レイはどこに…」
本当に意識が飛んでいたのだろうソフィア王女を見て、アリアルデが苦笑する。
「とっくに城を出たわよ~。これから私はレイ達を守らないといけないから~、そろそろ部屋に戻って貰えると助かるけど~」
「あっ!そうします!すみません…」
状況を理解したソフィアが、慌てて部屋を出て行こうとする。
「そうそう。これ持っていったら~?」
ソフィアが扉に手を掛けた所で、アリアルデが小さな丸い球を軽く投げて渡す。
「へ?ぁ…わっ!な、何ですか、これ?」
「ヒ•ミ•ツ~。危なくなったら、それを相手に投げると良いわよ~」
「?。ありがとうございます。何か有れば、頼る事にします」
「はいはぁい。それじゃあね~」
手を振りながら呑気な声で返事を返すと、一礼して部屋を出て行くソフィアを見送った。
「パーティが始まるわね…」
誰もいない部屋の中で一人呟くと、アリアルデも部屋を後にした。
パレードが始まって一時間程経った頃…
街中には人が溢れ、あちこちに出店が並び、まさに王都全体がお祭り騒ぎになっていた。
そんな中、俺とフェリルは豪華な装飾が施された馬車の上で、黄色い声を自分達に向けてくれる大勢の人達に向かって、笑顔を振り撒きながら手を振っていた。
「何にも起こりませんね」
笑顔で手を振りながら、俺だけに聴こえる様にフェリルが話しかけて来た。
「そうだね。でも、何も無いなら無いで良いんだけどね。平和な証拠だよ」
正直、笑顔を張り付かせて手を振るのに飽きていたが、フェリルに合わせて手を振りながら、フェリルにしか聞こえない様に返した。
「確かにそうですね。このまま何事も無く、平和に終わってくれれば良いのですが…」
フェリルのその願いは、この後最悪の結果と共に打ち壊される事になった。
馬車が角を曲がった所で嫌な気配を感じて、周りに怪しまれない様に注意しながら周囲を確認する。
人混みの中に怪しい奴が見当たらず、ふと建物の屋根を見上げると、建物の上から何かを構えたお面を付けた奴が此方を見下ろしているのに気付いた。
(人が減ったこのタイミングを狙って来たか!それに、あの形状…この世界で見るのは初めてだけど…)
フェリルに伝えようとしてフェリルの方を見ると、嫌な気配が消えた。
(?!。あれ?居なくなった?まさか、気付いたのがバレた…?)
次に建物の上を見た時には、さっきまでいたお面を付けた奴は居なくなっていた。
「どうかしましたか?」
隣で変わらず笑顔で手を振るフェリルが、俺を見ずにそれとなく話しかけてきた。
「いや、気のせいみたい」
「アリアルデ様が居るのです。大丈夫でしょう」
フェリルもさっきのに気付いていたのか、そうで無いのか分からないが、そう言って何事も無かったかの様に振る舞い続けていた。
(それもそうか…。にしても、思ってたよりフェリルって強いんだな…)
何も起こってないと言わんばかりに、あいも変わらず笑顔を振り撒くフェリルに感心する。
その後も、同じ様に要所要所で感じては消え、感じてはまた消えるを繰り返す気配に気付かないフリをしながら笑顔を振りまいて手を振り続けた。
そして、パレードも残すところ次の角を曲がり、通りを抜けて城に向かって伸びる大通りに合流して城に戻るだけとなった。
「そろそろでしょうか…?」
やっぱりフェリルもここに来るまでの気配に気付いていた。
ここに来るまでとは比べ物にならない程の数の気配が、この馬車を取り囲んでいる。
(だが、どうするつもりだ?大通り程では無いにしても、ここも十分すぎるくらい人がいるんだぞ…)
そんな事を考えていると、少し離れた場所で爆発が起きた。
「「?!」」
俺とフェリルが咄嗟に爆発が起きた方向を見ると、爆発があった場所から煙が立ち上っていた。
お祭り騒ぎだった街の人達が、一瞬にしてパニックを起こして逃げ惑う。
「皆さん!どうか、落ち着いて下さい!」
馬車の上からフェリルが必死に声を張り上げるが、パニックを起こしている人達の耳には届いていなかった。
パニックに陥る群衆から俺たちを守ろうと、騎士達が馬車を囲んで警戒態勢を取るが、逃げ惑う人達がいるせいで抜剣出来ずにいる。
フェリルがなおを声を張り上げ続けているが、その声は悲鳴や足音に掻き消されてしまう。
「皆さん!どうか!」
そうこうしている内に、今度は馬車を孤立させるかの様に前後で爆発が起きた。
爆風で巻き上がった土煙が前後から馬車に襲いかかる。
「うぐぅっ!」
俺は咄嗟にフェリルを引き込んで抱き締めると、身を挺してフェリルを庇いながら腕で自分の顔を守った。
爆風が収まって腕を下ろして辺りを確認しようとするが、辺り一面に砂埃が舞っていて良く見えなかった。
「?!」
5、6人位のあの時見たお面を付けた奴らが、自分達目掛けて砂埃の中から飛び出して来た。
しかし、全員が俺とフェリルに届く事なく、何かが命中して不自然な形で、再び砂埃の中へと消えて行った。
「レイ!どういう状況ですか?!」
俺から離れたフェリルが慌てた様子で尋ねる。
「分からない!辺りが埃だらけで見えないんだ!」
そうこうしている間に、再び砂埃から奴等が飛び出して来たが、先程と同じ様に砂埃の中に消えて行った。
しばらくして周囲が落ち着いて来ると、辺りは負傷者だらけで凄惨な様相を呈していた。
あちこちで悲鳴が聞こえ、逃げ惑う人達が我先にと怒号を飛ばしたり、泣き叫んだりとパニックを起こしている。
少しずつ砂埃が晴れてくると、先程まであんなにお祭り騒ぎだったとは思えない変わり果てた王都の姿がそこにあった。
複数の嫌な気配を建物の中から感じる。
そいつらをどうしようかと考えていると、パニックを起こした群衆の中から一人、俺とフェリル目掛けて飛び出して来たが、また何かが命中した。
手に持った獲物が俺たちに届く事なく、俺たちを襲った奴は馬車から少し離れた所で地面に打ち付けられて気絶していた。
時を同じくして、建物の中から感じる嫌な気配もまた無くなっていた。
遡る事数時間前、部屋を出たアリアルデは真っ直ぐヴィルヘルム国王の部屋へ向かった。
扉の前に来ると、国王の護衛を務める騎士が扉を開けた。
(予期してたようね…)
あまりの手際の良さに、アリアルデが感心しつつ、遠慮なく入室する。
「悠久の魔女よ。いかがなされた」
執務机に向かっていた国王が、顔を上げてアリアルデに問いかけた。
「これからのことを少し…ね」
国王の付き人が引いた椅子に座って、脚を組むと後ろに控えていた使用人に目を向ける。
「そうか…。お前達、部屋を出て周辺を警戒せよ。許可するまで、何人もこの部屋に通すな」
「はっ!!」
と言う返事の後に、数人の使用人が部屋を出て行った。
その様を見届けると、アリアルデは目だけで扉の鍵を閉め、遮音魔法と障壁魔法を発動する。
「これで良いのだろう?」
一通りを見届けた国王が、アリアルデに再び問いかけた。
「ええ。先ずはこの手紙を」
アリアルデがレイから渡された手紙を国王に魔法で渡すと、国王が手紙を読み始める。
「思ったより状況が悪いようだな」
渡された手紙を畳んで机の隅に置いて、アリアルデに告げる。
「ええ。あなたのお嬢さんも狙われるでしょうから、護身用に魔法具を渡しておいたわ」
「助かる。息子達が皆出払っていたのは幸いだったな」
「あら?そうなの?」
「どの様な息子であろうと、無事を願うのが親心というモノだよ」
「本題だけど、お願いがあるの」
「何かね?」
「王城での魔法の使用を許可してちょうだい。但し、この事はあなたの直属部隊のみに伝えてね」
「ああ。伝えておこう。それだけではなかろう?」
「ええ。少しの間、私の屋敷に隠れてなさい。事が終われば、ここに連れてきてあげるから」
「…それは出来ん。国王として、ここを守らねばならん」
「あなたに何か有れば大変なの。分かりなさい」
アリアルデの拒否を許さない口調に、苦虫を噛み潰した様な顔をしながらも渋々了承する。
「しかし、私がここを離れた事を知れれば、大騒ぎになるぞ?」
「あなたの影武者がいるじゃない?そこに」
アリアルデが執務机の側にある本棚の一部を指差した。
自分しか知らない隠し扉を、何故アリアルデが知っているのかと思いつつ、国王が手を叩いた。
本棚に並んだ本の一部が本棚の中に入り込むと、本棚の一部がゆっくりとスライドする。
「流石は悠久の魔女…ですね」
国王瓜二つの男が、隠し扉から出て来た。
「初めまして~。で、良いわね?ヴィルちゃん」
「構わぬ。やる事があるのだろう?さっさと連れて行くが良い」
「話が早くて助かるわ~。じゃぁ、こっちへおいでなさいな」
この国で陛下にこんな口を聞けるのは、この人だけだろう思いながら、アリアルデが国王を転移させる様子を影武者のウォーレンが見ていた。
「さて、私はそろそろ行くから、貴方は城の直属部隊に指示なさい」
用事は終わったと言わんばかりに、部屋を後にするアリアルデを見届けると、ウォーレンは影武者としての活動を始める。
国王と共に執務室から出たアリアルデが指を鳴らして転移魔法を発動すると、王を自身の屋敷に転移させた。
後に残ったアリアルデは、この階層にある城の屋上に繋がる階段を上がって屋上へ出ると、飛翔魔法で空へと飛び上がった。
お気に入りのモノクルを掛けて、エルーシアナをスナイパーライフルの様な形状に変化させる。
(これ、レイに見られちゃ不味いのよね~っと、レイ達はどこかな~)
久しぶりに使う愛用してい?武器を片手に、レイ達の姿を探し始めた。
レイ達を乗せたパレードの馬車を見つけて、しばらく様子を観察する。
馬車が角を曲がって路地に入ろうとしている所で、建物の屋根の上に銃の様な獲物を構えた怪しい奴を見つけた。
明らかにレイ達を狙っている様子を敵と見做し、スナイパーライフルと化したエルーシアナを構えた。
「ぱあん」
呑気なアリアルデの声とは裏腹に、凶悪な速度でエルーシアナから放たれた魔力弾がレイ達を狙っていた者を襲う。
相手に着弾した直後、対魔法装備など物ともしない強烈な雷魔法《スタン》が駆け巡る。
レイ達を狙っていた者は、指一つ動かせないどころか、着弾と同時にその意識を手放した。
「良いタイミングだったみたいね」
レイも気付いていたのだろう、困惑した様子を見せていた。
それを遥か上空で見下ろしながら、レイを出し抜いたみたいで気持ち良くて、アリアルデがクスクス笑う。
それからも、レイ達を狙う者が現れてはスナイプするのを繰り返した。
パレードも残すはあと少しというところで、予定外のことが起こった。
パレードの馬車がある場所から離れた所で、爆発が起こったのだ。
仮にも王都だ。
やるなら静かに、そして、バレないように…やるだろうと思っていた。
(余程のバカなのか、もうこの国に目を付けられてもどっちでもいいのか…)
今すべき事はレイの護衛だと、アリアルデが首を振る。
(レイに魔法を使うなと言った以上は、私がどうにかしないと…)
恐らく次にやるなら、馬車を狙うだろうと精霊眼を発動して、馬車の周辺を確認する。
馬車の周辺を視ていると、馬車を孤立させるかの様に爆発が起きた。
と、同時に先程まで無かった複数の魔力反応を視認して、即座に敵と判断した。
(建物の中となると、空から直接は狙えない…。誘導式に切り替える必要があるわね)
スナイパーライフルと化したエルーシアナの銃口の先に複数の小さな魔法陣が浮かび上がる。
(マルチロック、誘導式魔力弾…行きなさい!)
心の声を合図に魔法陣が発光すると、複数の魔力弾が相手目掛けて飛んでいく。
時を待たずして、複数の魔力反応が同時に消失した。
(これで全部かしら…?)
などと考えていると、馬車の周りに十程の魔力反応が同時にレイ達目掛けて飛び掛かるのが視えた。
(砂埃が目隠しのつもりでしょうけど、私を欺くのなら魔力まで気にかけることね!)
エルーシアナに魔力を込めると、再び銃口に複数の魔法陣が現れて魔力弾が解き放たれた。
レイに飛びかかろうとしていた相手のほぼ全員が、飛び掛かれることなく撃ち抜かれたが、1人だけレイに辿り着く手前で撃ち抜かれた。
(次は城か…)
魔力弾の起動が一瞬、王城に向こうとして歪んだ事に気付いて城の方を見た。
予想通り、王族が狙われたかと思いながら、地上に向けてエルーシアナを構えた。
(魔力の特徴は掴んだわよ?念には念を…)
そう言うと、数十と浮かび上がる魔法陣から一斉に魔力弾が解き放たれたが、空中で留まった。
そうして、さっきまで視ていた魔力反応に反応して撃ち抜く魔力弾を放つと、アリアルデは王城に向けて飛び去った。




