第二十六話 後始末
地下室の入り口の前で一度結界を解除して、連れてきた黒ローブを押し込んで再び結界を張った。
「自害しておらなんだか…」
ミリーナが発動した結界の前に戻ってくると、結界に閉じ込められた二人に話しかけた。
「お、お前たちは何者だ!」
黒ローブの一人がそう言い放った。
「お主たちはそれ以外に言う事が無いのかのぅ…。それはこっちのセリフなんだが?」
「ここから出せ!お前達を殺してやる!」
「会話になりませんね。ちょっと痛い目を見て貰いましょうか?」
頭に血が昇っているのか、殺してやると吐き捨てたもう一人の黒ローブのセリフに嫌悪感満載の顔でミリーナが私に尋ねた。
「それも、そうだな。好きにしろ…。但し、殺さぬようにな?この結界はそなたにとっては、エンハンス効果をもたらすから、気をつけてな」
「分かっております。アイスニードル!!」
ミリーナが下級水魔法…それこそ、初心者が1番初めに覚えるような魔法を発動すると、二人の頭上に大量の氷の棘が現れた。
それに指示するかの様に、人差し指を上から下にゆっくり動かすと、四本の氷の棘が落ちてきた。
二人の足元に一本ずつ、間髪入れずに残りの二本が二人の右足に刺さった。
「ッツ!!」
二人が苦悶の表情を浮かべ、必死に痛みに耐えていた。
「さぁ、答えて下さい。あなた方は何者ですか?それと、あの装置は何ですか?」
「断る!我らは決して口を割らん!」
二人のうちの一人が吐いたそのセリフを聞いて、ミリーナが再びアイスニードルを落とした。
今度は二人のローブを掠め、今度は両足に刺さった。
「これでも…ですか?」
「っく!…む、無駄だ…」
「埒があかんな…」
そのセリフと共に相手を射殺さんばかりの殺気を飛ばすと、結界の中にいた二人がガタガタと震え始めた。
「「…さらばだ」」
その言葉と共に、二人がニヤッと不敵な笑みを浮かべる。
「オレイカルコスの結界!」
咄嗟にミリーナの貼った結界の更に外側に結界を貼った。
鳴り響く爆発音と共に、ミリーナの結界の中で土煙が舞い上がり、中の様子が全く見えなくなった。
幸い、結界を重ねたおかげで爆風が伝わってくる事は無かった。
しばらくして、舞い上がった土煙も落ち着いた。
「自爆しおったか…」
跡形も無い様子の結界の中を見て、私とミリーナが結界を解除する。
「申し訳ありません」
ミリーナが何故か謝罪の言葉を口にする。
「構わぬ。そなたのせいではない。…これで、いよいよ帝国が怪しくなって来たな」
「そうですね。ここまで徹底しているとなると、そう思わざるを得ません」
「今頃、地下の方も自爆しておるだろうな」
メイルの隠れ家の方を一瞥すると、装置の方へ歩いて行く。
「しかし、でかいですね…。これ、どうやって止めましょうか…」
改めて見ると、思っていた以上に大きな装置が明らかに異質な存在感を放っていた。
それを見上げるミリーナが、どうしたものかと尋ねてきた。
「ふむ。大っぴらに破壊してしまっては、この村で何かがあったとバレるしのぅ。いずれ知れるにしても、今この村を制圧事を知られるのもな…」
「この装置の動力源って、魔力なんでしょうか…」
「見る限りでは、恐らく…そうだのぅ。この裏に普通では考えられん量の魔力が集まっておるわ」
「オウカ様なら黒ローブの方々にやった様に、奪い取れるのでは?」
「それは無理だな。私はあくまでも生きている者からしか奪い取れぬ」
(食事みたいなもんだからのぅ)
という言葉はグッと飲み込んだ。
「…試しに殴ってみるか」
右手に魔力を集めながら裏に回ると、魔力が集中している筒に向かって、思いっきり殴りかかってみた。
バリっ!
腕が痺れた様な感覚と共に、バリアの様な物に思いっきり弾き返された。
「うそ…。オウカ様でも壊せないなんて…」
様子を見ていたミリーナが、私の攻撃を受けてキズ一つどころか寄せ付けすらさせなかったのを見て驚愕した。
「ふむ…。こうなるともっと大技を出すしか無いが…」
言いながら、僅かに周囲の魔力に揺らぎを感じる。
「その必要も無さそうだのぅ」
誰かは概ね予想出来ているが、言い終えたのと同時に誰かが背後に姿を現した。
「あれ?完全に姿を消してたつもりなんだけど…」
「えっ!?どこから?!」
隣のミリーナが、さっきとは違った様子で驚愕の声を上げた。
「いや、完璧だったぞ?私で無いと気付ける奴などそうそうおらん程度にな」
言いながら振り返ると、やはりそこにはレイがいた。
「何で分かるんだよ…。周囲とほぼ完全に同化してたのに…」
「強いて言うなら、こいつのおかげだな」
怖そうとしていた装置に指を指しながら答えた。
「まぁいいや…」
「お久しぶりです。レイ様」
ミリーナが会話が終わったのを見計らって、レイに話しかけた。
「ご無沙汰しておりました、ミリーナ様」
「ミリーナで構わないですよ?」
「そうですか…っと、ミリーナ様。すみませんが、手を貸して貰えませんか?」
「ミリーナと呼んでいただいて構わないのに…。どうしてですか?」
不満そうな顔で言った後、レイの質問に質問で返していた。
「上手く説明できませんが…、ミリーナ、…様の様子に何か違和感を感じるので…」
「そうですか?でしたら…」
ミリーナがスッと手を出すと、レイがその手を掴んだ。
レイの手がぼんやり光ると、その光がミリーナを包み込んだ。
「ありがとうございます。これで、大丈夫だと思います」
「少し頭がスッキリしたような気がしますね。ひょっとして、知らない内に洗脳の影響を受けてたのでしょうか?ありがとうございます!」
レイが手を離すと、晴れやかな顔をしたミリーナがお礼を言う。
「で、これはどうする?」
この件が終わったと判断した私は、装置を見ながらレイに尋ねた。
「動力は魔力だろうし、視る限り、直ぐに何とか出来るだろうね」
レイが装置に近づいて、装置に張られたバリアに手を当てる。
程なくして、レイが触れた所から消失していく…。
(相変わらず、規格外の力だな…)
その様子を見てそんな事を思っていると、装置全体に張られていたバリアが霧散した。
「ほぅ、さすがだのぅ…」
その様子に思わずオウカが称賛の言葉を口にする。
「そんなに難しく無いと思うけど?それより、お腹空いてない?」
「ん?どう言う意味だ?」
「オウカ様は生き物からしか、魔力を奪い取れないのでは?」
私の疑問に、私との会話を思い出したミリーナが後に続いた。
「この装置から俺が魔力を奪うから、それに合わせてオウカが取り込めば良いかな?って。要らないなら、全部、霧散…」
「いる!」
「させるけど?」と言おうとした所で、食い気味にオウカが答えた。
俺とオウカが手を繋ぎ、俺が装置から魔力を奪った端からオウカが取り込んでいく。
十分もするとオウカが満足そうな顔をして手を離したので、残った僅かな魔力は魔素に変換して霧散させた。
(こいつ、とんでもない量の魔力を食べたな…。プレアデスメテオール四発くらい取り込んでたぞ…)
食事を終えたオウカが満足気な顔をしているのを見て、そんな事を思いながら俺は呆れた顔を隠せずにいた。
「どうやら、停まったみたいですね…」
「動力源が無くなったからね。オウカ、悪いけどこの貯蔵庫みたいなの壊してくれない?」
「よかろう!」
「頼むからやり過ぎるなよ?こいつが崩れて来たら、洒落にならないからな?」
腕をブンブン振り回して張り切る様子を見て心配になったのか、釘を刺された。
「分かっておる。ミリーナ、すまんがそこの物陰にでも隠れていてくれ」
ミリーナとレイが装置から離れたのを確認して、右手に魔力を集めると、思いっきり跳躍して上から魔力が集まっていた筒を殴り潰した。
「始龍の砲架!」
念の為に、跡形も無く消し去っておこうと追撃すると、魔力を貯めていた筒が消失するどころか、地面に大穴が空いた。
「やり過ぎるなって言っただろ!」
慌てて出てきたレイが、私が開けた大穴を土魔法で即座に埋めて怒鳴り声を上げた。
「良いでは無いか。中途半端にやって、またこいつが動き出したら面倒だろ?ここまでやっておけば、こいつはもう動かん」
「オウカのおかげで潰したやつに繋がってたケーブルも消えて無くなったから、これでもうこいつはただのハリボテだろうし…。まぁ、いいか」
私の言う事も一理あると思ったのだろう、それ以上レイも文句を言わなかった。
「それはそうと、どうしてレイ様がこちらに…?」
事が終わったのを見計らって出てきたミリーナが、レイに尋ねた。
「話は後にしない?とりあえず、この村の後始末もあるし…」
レイの言葉を合図に、三人とも村の後始末に取り掛かり始めた。
装置を完全停止させて、村中に広がる異様な魔法を解除すると、オウカ達が捕まえたという黒いローブを着た者達の様子を見に行った。
「地下はやっぱり跡形もありませんね…」
予想はしていたのだろう。地下室が見るも無惨な状態になっているのを見て、ミリーナが心痛な面持ちで呟いた。
「何か聞き出せるかと思ったが、やはり自害しおったか…」
「このままにしとくのも何だし。地下は完全に埋めるとして…、この村はどうしようか」
「その事なら念話魔法で呼んでおいたから、メイルが集めた仲間が来るぞ?」
「メイル…?誰それ?」
オウカの口から身に覚えのない名前が出て来て、ハテナを浮かべる。
「手紙に書いたであろう?男を救出したと」
「あ〜、その人の事か。で、その人の仲間が来るまでここで待つのか?オウカは念話で連絡取れるんだよな?」
「出来るが、どうするのだ?」
「待つのも何だし、迎えに行けばいいだろ?」
「迎えに…って、四十人位いますよ?」
「その程度の数なら難しくないけど…?」
「そなたの感覚でレイを推し量らない方が良いぞ?連絡を取ってみるから、少し待っておれ」
サラッと言ってのける俺に驚いていたミリーナに、オウカが注告する。
「…………」
「………」
「どうやらまだ村を出たばかりらしい。留まる様に伝えたぞ?」
念話で連絡を取るオウカを見守っていたが、話がついたらしく教えてくれた。
「ありがとう。チャチャっと行ってくるよ」
ちょっと散歩してくる位の軽いノリで二人に声を掛けると、転移魔法を発動する。
いつぞやのゴブリン討伐依頼を受けた村の入り口に転移すると、目の前に驚いてざわつく集団がいた。
「あの〜、皆さんのリーダーはいますか?」
「私がリーダーを任されたジルアートです。こちらが補佐のリグルスです」
少し経って、何人かを伴った二人の男が現れた。
「では、ジルアートさん達は私の服を掴んで下さい。リグルスさんは他の方に私と繋がっている方の服を掴む様に伝えて貰えますか?」
「はっ!承知しました!」
返事と共に、リグルスさんが集団の中に消えて行った。
それからしばらくして、リグルスさんが服を掴み合って全員が数珠繋ぎになっている事を報告に来ると、そのままリグルスさんに俺の服を掴ませた。
「えっ!」
「どこ、ここ?!」
オウカ達の所に転移すると、隠れ家の外に出ていたらしく家の外に転移した。
連れて来た集団は、何が起きたのかと口々に驚きの声を上げて騒ついた。
「な?」
「?!。本当に全員転移で連れて来ましたね…」
オウカが誇らしげにミリーナに声を掛けると、ミリーナが静かに驚いた。
「何が、な?なんだよ…」
「そんな事より、これからどうするのだ?」
「ジルアートさんとリグルスさんは、この村の人と話を付けて貰えますか?皆さんは、村の中を警備して下さい」
「それで、私達はどうしますか?」
「折角だし、このメイルさんの隠れ家に泊まって、今後について話そう。リダールの動きも直ぐに分かるし」
ジルアートさん達が村中に散らばった後、ミリーナの問いにそう答えて家の中に戻った。
「で、レイが何故ここにおるのだ?」
中に入ってみると何も無かったので、仕方なく適当な場所に皆が座ると、単刀直入にオウカが尋ねて来た。
「実は…」
そう切り出して、俺はここに来るまでの経緯を話始めた。




