第二十五話 制圧
ミリーナを残し、櫓から見えていた周辺とは明らかに異質な建物を目指して歩いていた。
(あそこにいても大丈夫だろう…。他の敵はあの建物の周りにいるようだしのぅ)
ふと、歩きながらそんな事を考えていると、後ろから誰か…いや、ミリーナが近づいて来たのを感じて足を止めた。
(この状況下で追いかけて来たか…)
「何だ?あそこで、ジッとしておっても良かったのだぞ?今のそなたでは足手纏いだしな」
「…申し訳ありません。何が正しいかは分かりません。…ですが、今すべきはこの国を守る事かと。だから、今は私が出来る事をします」
「…なら、さっさとあの怪しげな奴を潰すか」
「はい!」
ニヤッと笑みを浮かべて再び歩き始ると、私の隣に駆け寄って来たミリーナが何かを決意した表情をしていた。
「あの黒いローブの人達って、後何人いるんでしょうか…」
虚な目をした村人を避けながらしばらく歩いていると、黙って付いて来ていたミリーナが話しかけて来た。
「さぁな。私が確認した限りだと、居ったとしても四人のはずだが」
「その方達が今どの辺りにいるかは、分かっているんですか?」
「感知魔法の反応だとあの胡散臭い建物の周りにいるようだが」
「これまでの方達は、どうやって捕まえたんですか?」
「あやつらは黒いローブの中に防具を着ておるが、首元は空いておるんでな。そこを狙った」
「事も無げに仰いますが、そんな簡単に狙えるものなんですか?」
「さほど、難しいことでも無い。そなたでも出来るだろう。慣れれば…だがな。そんな事より、そなたまだ大丈夫なのか?前回は今くらいから洗脳の影響を受けておったが?」
「…。そう言えば、全然平気ですね。耐性が出来たんでしょうか?」
「そんな一朝一夕で身につくものではないはずだが…、平気なら良い。どうせ、直ぐにはこの村を離れられんしな」
「不思議ですね…」
「気にしても仕方のないことだ。何かおかしいと思えば直ぐに言え。村の事は後にして離脱する」
「良いのですか?」
「この村を救えん事より、そなたが敵の手に落ちる方が余程面倒だからのぅ」
「そうですか…。って、あれ…」
ミリーナが徐ろに家と家の間の脇道を指差した。
かなり目的の場所に近づいて来た所で、ミリーナが指差した方向に、黒ローブの一人が歩いているのが見えた
「いたか…、ちょうど良い。そこで見ておれ。実演してやろう」
感知魔法で、他の三人があの建物を中心に据える様に、別の方角に居て周りに誰もいない事を確認する。
少しだけ身を屈めて脚に力を込め、そのまま一直線に黒ローブ目掛けて駆けた。
黒ローブの脇下辺りに潜り込むと、下から突き出す様に腕を伸ばしてローブ越しに首を掴み、そのまま地面に叩きつけて魔力を奪う。
「ざっとこんなもんだ」
死にかけ寸前まで魔力を奪い終え、黒ローブを担いでミリーナの所まで戻ると、ミリーナに話し掛けた。
「早すぎて、ほとんど動きが見えませんでした…」
「そうか。まぁ、そなたの身体能力なら、これくらい出来るようになるだろう。それより、先を急ぐぞ?」
「その人はどうするつもりですか?」
私が担いでいる黒ローブを指差してミリーナが尋ねた。
「指一つ動かせんだろうし、適当な所に置いて行く。後で処理すれば良かろう」
「ですが、この方を見られれば、向こうも警戒すると思いますが…」
「それもそうだが。そなたのこともある。ちまちまやっていたのでは、時間がかかるしのぅ」
「でしたら、この方を先程の場所に放り込んできましょうか?」
ミリーナが倒した黒ローブを受け取ろうとする。
「待て。離れておる間に、洗脳の影響を受けられては敵わん」
「それではどうします?」
「仕方ない。こいつらに一役買って貰うとしよう。私がこいつらの1人を装置の所に置いて来る。奴らが気付いたら、私が囮になるとしよう」
「それで、私はどうすれば…?」
「私が三人を一箇所に誘導するから、良きタイミングでオレイカルコスの結界で閉じ込めよ」
「分かりました!」
ミリーナの返事を合図に、瀕死の黒ローブを担いだまま装置へ向かって歩いて行く。
ミリーナは私から少し離れて物陰に身を隠しながら、一定の距離を保って後をついてくる。
村の路地を右へ左へと突き進んで行くと、櫓から見たあの建物が現れた。
(こんな物は初めて見たが、随分物々しいのぅ。建物というよりは装置だな)
全体的に黒色をしているが、中央部がやや透けているらしくはっきりとは見えないが、緑っぽい液体がグルグル回っていた。
見上げると、頂上からは緑色の煙みたいな物が絶えずモクモクと出ている。
建物の陰から、捕まえた黒ローブを置くタイミングを見計らう為に様子を伺う。
周辺には黒ローブがいない事を確認し、感知魔法の反応を確認すると、三つの赤いマーカーが少し離れた所から、徐々にこちらに向かって近づいて来ていた。
(置いて来るなら、今か…)
赤いマーカーがまだ離れた位置にある隙に、担いでいた瀕死の黒ローブを装置の所に置いて、離れた位置で身を隠して再び様子を伺う。
しばらくして、黒ローブの一人が気づいて駆け寄り、耳に手を当てて何かで仲間と連絡を取っている様子が見えた。
少し経って、残りのニ人が合流して何やら話をし始めたかと思うと、剣の様な見た事のない武器を手に取った。
散開すると、一人は魔力を練り、残り二人が武器を構えて辺りを警戒する。
「おい。おぬしらは何者だ。この辺りの者ではないな?」
魔力を練っていた黒ローブの前に躍り出ると、自分に掛けていた一通りの魔法を解除して話しかけた。
「貴様ッ!何者だ!」
「それをお主に答えてやる義理は無いな。で?お主達は何者だ?」
わざと悠長に返事をしてやると、後方から二人の黒ローブが斬りかかって来る。
正面に小さなファイアボールを放つと、背後からの斬撃を身を翻して避けた。
「くっ!こいつ、かなり強いぞ!」
「狼狽えるな!こっちは三人がかりだぞ!」
「ぅぐ!ただのファイアボールでこの威力か!」
背後から襲って来た二人が、次いでファイアボールを受けた奴が、着弾時の爆風の中から剣の様な武器を構えて飛び出して来た。
「アイシクルランス!」
「お主らは弱いのぅ…」
飛んで来たアイシクルランスを最低限の動きで躱しながらわざと煽ると、激昂した三人がそれぞれに攻撃を仕掛けて来る。
それらを全て交わして、切りかかってきた二人の内の左側にいた奴に詰め寄った。
「嘗めるなっ!!」
懐に潜り込もうとした所で、振り下ろして来た武器を魔力を纏った手刀で受け、空いていた左手で殴り飛ばした。
「ガハッ!!」
殴られた黒ローブの一人が、肺の中の空気を強制的に吐き出させられながら吹っ飛んでいく。
あと少しで壁に激突すると言う所で、もう一人が受け止めた。
「今だっ!!!」
三人まとめて…と考えていたが、二人を閉じ込められれば十分と急遽判断を変え、ミリーナに結界の合図を送る。
「オレイカルコスの結界!!!」
建物の陰から様子を見ていたミリーナが飛び出して結界を発動すると、武器を持っていた二人がオレイカルコスの結界に閉じ込められた。
ミリーナの前に躍り出ると、すかさず右手を振り下ろして、閉じ込められる寸前に放ったのだろう火属性魔法を切り裂いた。
切り裂かれた火属性魔法は消える事なく、背後の民家の壁を破壊した。
「くそっ!このままではっ!」
大量のアイシクルランスが宙に現れたかと思うと、一斉に襲いかかって来る。
身を翻して避けるのを延々繰り返していると、しばらくして急にパタっと襲い掛かってくるのが止まって、霧散する。
「な、ど、どこか、ガッ!!」
最後の一人の方を見ると、さっきまで側に居たはずのミリーナが、不意をついて思いっきり首元に回し蹴りをお見舞いしていた。
ミリーナの回し蹴りをモロに受けた最後の黒ローブが、そのまま地面に叩きつけられて意識を失う。
「オウカ様みたいに吹き飛ばすまではいきませんね…」
ミリーナに掛けた魔法を解除すると、こちらを見ながらミリーナが苦笑する。
二人に近づいた後、その場にしゃがんで意識を失っている黒ローブから魔力を奪い取った。
「いや、十分だと思うぞ?」
立ち上がって、力不足を感じているミリーナにそんな物を感じる必要はないと伝える。
「そうですか…?でも、オウカ様ならそこの壁くらいまで、一撃で簡単に吹き飛ばせるのでしょう?」
「それはそうだが…」
(そもそも龍なのだから、比較すべき相手が違うのだが…)
と言う訳にもいかないので、思うだけにしてお茶を濁す事にする。
「…にしても、いつの間にあの場から移動した。敵の魔法が飛んで来た時には、まだいたはずだったが?」
「それなら敵の魔法はオウカ様にしか向いてませんでしたから。巻き込まれないように移動しました。それはそうと、この人どうします?」
私の疑問に答えると、足元の黒ローブを指差しながら尋ねて来る。
「ヒュー、ヒュー…」
足元では、喉が潰され、魔力をギリギリまで奪い取られたせいで、口からヒューヒューと消え入る様な音を鳴らしながら黒ローブが苦しんでいた。
「虫の息だが、何らかの方法で後から動けるようになられても面倒だ。あの地下にでも閉じ込めておくか…」
「あの方達はどうします?」
ミリーナが足元に向けていた指先を、結界に閉じ込められて、何とか破ろうと中で暴れている二人へと向ける。
「そのまま閉じ込めておけ。その内、バテて諦めるだろう。勝手に自爆するならすれば良いし、生きておれば聞きたいことを聞くだけだ」
ミリーナの「分かりました」という返事と共に、メイルの隠れ家の地下へと戻るべく、ミリーナが仕留めた黒ローブを担いで来た道を引き返した。




