第二十二話 再び村へ
魔法訓練を終えて屋敷に戻ってきた私とミリーナは、エルディア家の使用人に案内された部屋で一晩過ごした。
「教えた魔法の使い所はよく考えろよ?街中で使おうものなら、コントロールが未熟なそなたでは、街ごと吹き飛ばしかねんぞ?」
朝食を取り終えて部屋に戻った所で、ミリーナに釘を刺しておくことにした。
「分かってますよ…。昨日のあの状態を見れば、おいそれと使う気になれませんよ…」
「なら、良い。私の教えた魔法は、しばらくオレイカルコスの結界のみにしておけ。使い方次第で、そなたの切り札になるはずだ」
「分かりました。そう言えば…、レイ様達から連絡はありましたか?」
「特には…。まぁ、向こうもバタバタしておるのか、それとも尻尾をまだ出さんのかのどちらかだろう」
レイからの返事が無かった事に軽く傷付いたが、何とか表情に出さない様にする。
「今日はどうしますか?」
「特に今はこれといってする事もないしのぅ。そなたの魔法訓練に付き合ってやっても良いが…」
「申し訳ありませんが、昨日の今日で急には上手くやれる自信がありませんので、遠慮しておきます…。また、リダールの側の村にでも行きますか?」
「だろうな…。そなたの言う通りもう一度あの村にでも行ってみるか…。ところで、そなたも来るのか?」
レイに言われた調査は済ませていたし、洗脳魔法はどうとでもなるだろうから、行かないでおこうかと考えていた。
しかし…、余りにもする事が無いのとメイルの話に有った地図を回収するのもアリかと思い、ミリーナの提案に乗ることにした。
「もちろんです!」
やけに力の篭った口調で、ミリーナが言い切った。
「構わんが、そなたの従者は良いのか?」
訓練から帰ってきた時は、血相を変えて探し回っていたらしい…。
額に大量の汗を浮かべて駆け寄ってきた四十代くらいの男が、ミリーナの従者だとその時に説明されたのを思い出した。
「私たちがいない間にベレルが襲われては困るでしょうから、ディルには街の警備をお願いすることにします」
「良いのか?そなたを守るのが、あの者の役目なのだろう?」
「大丈夫です。オウカ様もいますし。…それとも連れて行きますか?」
「いや?ぞろぞろ連れ立っては動きにくい。それに、そなたの従者の実力も知らんしな。構わんのなら、連れて行かぬ」
「良くなければ?」
「そなたも置いて行くだけだ」
「ダメです!それは困ります!私は早速ディルに話をつけて来ますので、屋敷を出た所で待ち合わせましょう!」
そう言い残して、ミリーナがバタバタと部屋を出て行った。
「忙しい奴だのぅ…」
ミリーナが開け放った扉に向かって呟くと、私も部屋を出て行った。
門を抜けた所でミリーナを待っていると、何やらそれなりの規模の集団がこちらに向かって来るのが見えた。
(…敵か?だが、ここはレイの父親の領地だしのぅ。攻めてきたにしては、静かすぎ…。ん?あの男…。どこかで…)
目を細めて見ると、集団の先頭にいた男に何となく見覚えがあった。
念のために…と、拳に魔力を溜めて待っていると、先頭にいた男が私のそばまで来ると、馬から降りて一礼する。
「オウカ殿のご指示通り、近隣に潜ませていた仲間を集めて参りました」
「そう言えば、そうだったのぅ。で、これで全員か?」
「はっ!…して、どこかへ行かれるのですか?」
「あぁ。だが、その前に…」
感知魔法で集団の中に敵意が無いかを確認する。
(ちょうど集団の中央辺りだな)
集団の真ん中…、中央付近にいくつかの赤いマーカーが出ているのに気付いて、どうしたものかと考えた。
「この集団をこのまま街にいさせる訳にも行かんのでな。部隊を2つに分けたらどうだ?」
(このままでは邪魔な壁が多すぎる…)
真意を悟られぬ様に、メイルに提案する。
「確かにそうですね。おい!こちらからこちらの者たちは右に!反対側の者たちは左に移動してくれ!」
メイルの指示で、丁度真ん中辺りで集団が2つに分かれた。
「これで良いですか?」
「あぁ。これで…」
言い終えること無く、集団が二つに割れた事によって出来た道の中を突っ切って、赤いマーカーを示す者たち目掛けて突っ走る。
「なっ!」
私を目で追いきれなかったメイルが、驚きの声をあげる。
その声を無視して突っ走ると、一人…二人…と、魔力を帯びた右手の手刀で赤いマーカーを示した者の首を刎ねていく。
ガキンっ!
四人目を始末して五人目に手を掛けようとした所で、手刀を剣で防がれた。
「ほぅ…。雑魚ばかりかと思うたが、これを防ぐやつが混ざっておったか…」
「な…何をする!!」
その声に反応して、周囲にいた者達がパニックを起こしながらも一斉に剣を構えた。
「白々しいやつだ…。お前からは、嫌な匂いがプンプンしておるぞ…?」
「なっ!?何を根拠に…?!み、みんなかかれぇ!」
鍔迫り合いをしていた男の声に反応して、周囲の者たちが私目掛けて襲いかかって来る。
(どうする…。今離れると、この者達はすぐさま逃げだすだろうし…)
襲いかかる男達が向かって来る僅かな時間で思案した結果、レイとの戦いで使った魔力放出を使う事にして準備に入る。
「何をしているのですか!」
屋敷を出た直後にこの状況を目の当たりにしたミリーナが、私と男を周囲の者達から分断する様にオレイカルコスの結界を張った。
(良いタイミングだな。結界はまだまだ完璧では無いが、思っていたより慣れたようだ…)
男と鍔迫り合いをしながら、ミリーナが作り出した結界を見て、評価を上方修正する。
「な、何だ!これは?!」
私とは打って変わって、見た事のない結界に閉じ込められた男の方が驚きの声を上げた。
「これで邪魔はなくなったな」
私がニヤリと不敵な笑みを浮かべると、男が冷や汗を垂らしてほんの僅かだがたじろいだ。
私が剣で押し返してくる力を利用して、後退した所で、男が一足飛びで斬りかかってくる。
「どうした?そんなものか?それとも…」
男が繰り出す斬撃を避けながら、視界の端で集団の中からこちらの力量を見極めようと戦いを観ている者を捉えつつ、振り下ろされた剣を手刀で受け止めた。
「貴様!気付いているのか?!」
男が僅かに私の目線が動いた事に気付く。
「だとしたら?どうせ、お主らはここから生きて帰れんよ…。ほれっ!」
受け止めた剣を振り払うと、男が体勢を崩す。
続け様に男に回し蹴りをお見舞いすると、結界に背中を打ちつけて
「ガハッ!!」
と言う言葉と共に、肺の空気を強制的に吐き出されたらしく呻き声をあげる。
間髪入れずに男の側まで駆けると、手刀を振り下ろした。
ガキンッ!!
男が振り下ろされた手刀を、再び剣で受け止めた。
「ほ〜。よくその状態で受け止めたな」
「ここで終わる訳にはいかないんで…な!」
受け止めた私の手刀を男が払うと、今度は私が体勢を崩す。
「おらぁぁ!」
振り払われた勢いを利用してバック転で距離を取って着地すると、男目掛けて飛び込んだ。
好機と踏んだ男が、飛び込んで来る私に向かって剣を振るう。
男を目前に捉えた所で、横から襲って来る剣を左手で発動したエアロバレットで弾くと、そのまま男の首を手刀で貫いた。
「解除しろ!!!」
手刀を引き抜くと、男から吹き出てきた血飛沫が頬に飛んで来たのを無視して、ミリーナに結界を解く様に命令した。
「は、はいっ!!」
結界の中から脳に直接響く様に聞こえた私の声に反応して、ミリーナが慌てて結界を解除する。
「逃げられると思うなよ…」
身を屈めて思いっきり地面を蹴ると、戦いをつぶさに観察していた男の頭上に跳んだ。
「なっ!?」
男の両肩を足場に着地すると、足元に向かって手刀を向けた。
「さらばだ。…恨むなら、恨めば良い」
男が上を見上げる時間すら与えず、手刀に纏わせていた魔力を伸ばして脳天を貫くと、男の両肩を蹴って集団の後方へと着地する。
「お主らの中に裏切り者がいた!よって、この場にて粛清した!異議ある者は掛かって来るが良い!」
舌舐めずりして身を低くし、手刀を構えて殺気を飛ばすと、呆気に取られていた集団が一斉に跪いた。
その向こうには、呆気に取られていたメイルが慌てて頭を下げる。
「これで、何故あの村が襲われたのか分かったのぅ」
集団の最後端からまるで道を作るかの様に、左右に避けて行く集団の中を歩いて元の場所に戻ると、メイルに話しかけた。
「はっ!!」
メイルが再び頭を下げる。
「お主はもう少し仲間を募るにしても選んだ方が良いぞ?どうせ、来るもの拒まずで引き入れていたのであろう」
「面目ありません。やはり…」
「うむ。私が切り捨てた者達は、恐らく王国の者では無いだろう」
「何故、そう思うのです?」
メイルと共に私を待っていたミリーナが、私が断言した事に疑問を抱く。
「感知魔法の事もそうだが…。雰囲気だな。この国で、あれだけ殺気を振り撒く輩は見た事がないからな」
「しかし、今の一件で、我等の中でもオウカ殿が一方的に、仲間を殺したと取る者が出ると思われます」
「それならそれで構わん。身内を売る奴がいては、おちおち動けん」
「で?何か用事があったのでは無いのか?」
「そうでした!リダールが何か動きを見せているとの情報があり、どうしたものかとご相談に…」
「それはどこからの情報だ?」
「それが…、オウカ殿が先程倒した者の中にその情報を掴んだ者がいまして…」
言いにくそうに、メイルが私に告げる。
「オウカ様…?」
何か言いたそうな顔のミリーナが、私の顔を覗き込んだ。
恐らく、今ので二人とも罠では無いかと察したのだろう。
「十中八九、罠だのぅ。わざわざ飛び込んでやる義理もない。捨ておけ」
「やはりそう思われますか…。それで、これからどう致しましょうか…?」
メイルが不安げな顔で指示を待っていた。
「お主が連れて来た者達が、信用に足るかを確認するのが先だな。先程の事もあるしな」
「当然の判断かと…。どうやって確認されますか?」
そうなる事は予期していたのか、特に反論も反発も無く、メイルは私の言った事に従う。
「一人ずつ確認していては日が暮れる。お主が確実に信用出来ると思える者を、選んで連れて来い。それと、さっきの事もある。離脱したい奴は好きにさせろ」
私がそう言うと、メイルがそそくさと集団の中に入っていった。
「どうするのです?」
どうやって判断するのだろうかと、ミリーナが尋ねて来た。
「そなた、感知魔法は使えるな?」
先程敵を見つけた時に、予め全員を感知魔法で確認しておいたのでその心配はほぼ無かったが、念には念を押す事にする。
(敵が紛れているなら、私達に近づけるこの機会を利用するだろうしな…)
「一応…。余り得意では無いのですが…」
「構わん。メイルが連れて来た者達を、私達で確認するから準備しておけ」
「オウカ様だけで十分では…?」
「勘違いしておるようだな。感知魔法は、あくまで自分に敵意を示す者を識別して知覚する魔法だ。故に、魔法を使った者によってその識別は変わる。私はあくまでレイの仲間であって、この国に愛着がある訳でも無ければ、守りたい訳でも無い」
敢えて自分達が撒き餌になる事で、敵を炙り出そうと言う意図もあった。
「だから、私自身で…いえ、この国の貴族として、国に仇為す者達かを見定めろという事ですか?」
「そう言うことだ。メイルと同じ目的でここにいるのなら、赤にはならんだろう」
そうこうしている内に、メイルが四十人程引き連れて戻って来る。
離反者も居たらしく、総勢で七十名程度に数も減っていた。
「連れて参りました」
「私とミリーナで見定めてやろう」
「すまないが、一列に並んでくれ!」
メイルの呼びかけで、選ばれた四十人が整列する。
中には悪態をつく者も居たが、それとなく殺気を飛ばすと、怯えて大人しくなった。
………
……
…。
淡々と識別作業を進めること小一時間程経った頃、漸く最後の一人の識別が終わった。
敵対を示す赤いマーカーを示した者も、この機会を利用して襲いかかって来る者も一人もいなかった。
「お主が選ばなかった者達は、そこの死体を誰にも見つからぬ場所に埋めて、私が帰るまでベレルの外を警備せよ。後、お主は外でそこの者に鍛えて貰うが良い」
ミリーナの後ろに控えていた従者を指差しながら、メイルに話しかけた。
「分かりました!が、オウカ殿。残りの者達は…?」
「お前が選んだ者達は、これから私に付いて来て貰う」
「ハッ!!お前たち、今のを聞いていたな!オウカ殿に付いていけ」
先程の戦いを見ていた皆が、一言も反論する事なく指示に従う。
集団を引き連れて、メイルを拾ったあの村に向けて歩き始めた。




