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不遇にも若くして病死した少年、転生先で英雄に  作者: 根本 良
第三章 帝国戦争編
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第十八話 これから

王都での式典前日の朝、俺は部屋で愚図るオウカを宥めつつ説得していた…。


「頼むって!!ベレルで待機しててくれよ!!」


「断る!私も王都へ行くぞ!」


「侯爵に頼まれてるんだって!オウカにベレル待機して貰ってくれって!」


「知らん!侯爵が私の目に敵うのなら聞いてやっても良いが、戦ってみるか???」


「そういう訳にいかないだろ…」


「なら、諦めろ!私も行く!」


どうしたものかと悩んでいると、隣でずっと見ていたフェリルが口を挟む。


「レイを困らせないでください」


「調子乗るなよ、小娘…。今のお主なら、私がその気になれば…」


フェリルを睨みながら魔力を膨らませて戦闘態勢に入るオウカに、その続きは言わせないとばかりに俺が魔力を放出する。


「その続きを言えば……、俺達とは旅が出来なくなるぞ」


静かに、そして、ゆっくりと俺が放出した魔力が部屋を侵食していく。


「す、すまない…。言い過ぎた…」


反省した様子を見て、放出した魔力を霧散・分解して魔素化すると身体に取り込んだ。


「じゃぁ、ベレルに向かってくれるね?」


「嫌だ」


「「は?」」


この期に及んで、オウカがまだ拒絶すると予想していなかった俺とフェリルは、 2人揃って間の抜けた声を出す。


「イ・ヤ・だ!!!」


腕を組んでそっぽ向くオウカを見て、フェリルと向かい合うとお互いに苦笑する。


「オウカ」


フェリルが名前を呼ぶと、オウカが一瞬鋭い視線を向けたが、さっきの事を思い出して直ぐにそっぽを向く。


「あなたがレイの事を好きなのは分かりました。わ、私が1番なのは譲りませんが、2番なら許します」


言い終えたフェリルが、両手を当てて赤くなった頬を隠す。


「何でも一つ聞いてやるから、今回は言う事を聞いてくれ。言っておくが、出来る範囲で…だぞ。」


フェリルに当てられて、顔が赤くなりそうなのを我慢しつつ、頬を掻きながら提案する。


「本当か?!なら、今回は我慢してやる!」


さっきまでの不機嫌がどこに消し飛んだのか分からない位、笑顔になったオウカを見て


(現金な奴…)


と思いながら、話を続ける。


「じゃぁ、こちらが連絡する迄ベレルで待機な」


「うむ!何をして貰うか考えながら、待つとしよう!」


「お前…。さっきまでの不機嫌、どこに行ったんだよ…」


あまりのテンションの差に思わず口を吐いて出た。


「喜ぶなというのが無理な話だ!」


「まぁ、いいじゃないですか。予定通り動けるのですし」


(それもそうか…)


と、思いつつ今後について話し始める。


「俺達は王都の式典参加だけど、問題はリダールや帝国が動きを見せるかだな…」


「本当に動くのでしょうか?」


「あの二人の話だと、可能性は高いんだろうね。本当は、オウカにリダールの傍の村を色々調べて欲しいけど…」


「ん?引き受けてもいいぞ?レイに何をして貰うか考えるだけでも充分だが、それしかやる事が無いというのものぅ。で?ベレルだが、リダールだかはどこだ?」


「そうだった…」


余りにも普通に一緒にいるから、ザエルカに来てから行動を共にする様になったのをすっかり忘れていた。


「ここがベレル、そしてここがリダール。馬車で移動すれば、3日くらいは掛かる距離だな。まぁ、オウカなら一瞬だろうけど」


ベレルの近くの村で渡された地図を拡げて、ベレルとリダールを順番に指差してオウカに説明する。


「魔法を使わずとなれば龍に戻らねば無理だぞ?人化している間は、人間と変わらんからのぅ」


「…となると、ご飯って必要なんですか?」


フェリルが何となしに質問する。


「飯か…。基本は魔物とかから魔力を奪えば良いだけだが、一応食べてるな」


「それって、食べ物とかからも魔力が得られるのですか?」


「そうか…。お主らは生きる為に食事をするから、それが普通なのか。私の場合は生きるのに必要なのは魔力だからのぅ」


「ベレルにいる間はどうするんですか?」


「レイが寝ておる間に、かなりの魔物を狩ったから、当面は収納魔法に入れている此奴らから魔力を搾り取れば良いが…」


「お腹は空くのですよね?人並みに食べれれば、大丈夫なんですか?」


「あぁ。魔力を全て補う訳ではないしな」


「なら、屋敷で俺が暮らしていた部屋を使ってくれ。食事もそれなりのものが出る。後は、お金だけど…」


「ここの所、結構な出費してましたからね…。私たちも王都へ行くのに必要ですし…」


フェリルが俺があげた黄色透明な石が付いた指輪を見つめながら続く。


「ん?何だそれ?」


オウカがフェリルの右手の薬指に嵌められた指輪を指差す。


「あぁ、昨日俺が上げた指輪だよ」


「なんだと?!私が頑張って魔物を狩っている間に、お主らはイチャイチャしておったのか!」


イチャイチャの所で、2人揃って赤面する。


「ずるい!私にも買え!」


「お前、意外に俗っぽいな?!」


「何を言う!私もメスだぞ!恋もするし、そういうのに憧れもする!」


「メスって言うな!それと、龍にそんな習慣あるのか?」


「ある訳無かろう。本で読んだのだ。人間にはそういう習慣があるらしいというのを」


「何の本読んでんだよ…」


「永い時を過ごしていると、暇になってそういう本を読むこともあっただけだぞ?」


「二人とも?話が脱線していますよ?」


赤面状態から帰ってきたフェリルが咳払いをして、脱線し続ける俺達を引き戻した。


「そうだった…。今手元に約十六万ディアルある。念の為、オウカに五万ディアル渡して、後は俺たちが持っておこう」


そう言って、俺は五万ディアルを別の袋に移してオウカに渡す。


「いくらでも構わないが、そもそも金の使い方なんて知らんぞ?」


お金を受け取りながら、オウカが呆れる事を言い出した。


「何で、しょうもない本は読んでるのに、人間社会の基礎中の基礎を知らないんだよ…。どうせなら、そういう本を読めよ」


「面白くない」


「まだいらっしゃる間に、ディール様にオウカの身の回りのお世話をして下さる方を、お願いしておいた方が良いのでは?」


呆れ顔を隠せずにいる俺に、フェリルが救いの手を差し伸べるが如く助言する。


「そうだね。父上に頼んでおこう。それと、明日の式典の流れも分かってないから、侯爵にもその辺りを聞くとしよう」


「それが良いと思います。私とオウカは外の様子を見て来ますので、その間にゆっくりと話を」


「えっ?一緒に来ないの?」


一緒に行くものとばかり思っていた為、少し驚いてしまった。


「オウカのおかげでかなり落ち着いたみたいですが、まだ氾濫は収まっていませんし。それに、オウカに常識を教えておきませんと」


「そんなの知らなくてもどうにかなろう?」


オウカが悪びれるでもなく、あっけらかんとした様子で言う。


「なりませんよ?身の回りを世話して貰えるとしても、絶えず一緒にいてくれる訳ではないのですよ?街で一人になったら、どうやって買い物をするつもりですか?お金の使い方すら知らないのに?」


「クッ!」


完全に論破されて、返す言葉も無かったオウカが走って部屋を出て行くと、慌ててフェリルが追いかけていく。


「あいつ出会った時、あんなキャラだったか…?」


誰もいない部屋で、独りごちると部屋を後にし、ディールと侯爵を探して屋敷をうろうろしていた。


二人を見つけられず、仕方なくその辺りにいた侯爵の使用人に聞いてみると、離れの建物に行ったと言うのでそちらに向かった。


「どうした?俺らに何かようか?」


二人がお茶を飲みながら会話していたので、少し聞き耳を立てようかと思ったが、早々にディールに気付かれた。


「お二人に用事がありまして」


「何だ?」


「オウカが少し世間知らずな所があるので、出来ればベレルにいる間は屋敷に住まわして欲しいのと、身の回りの世話をしてくれる者を付けていただきたいのです」


「あぁ、良いだろう。ベレルにいる間は、面倒を見させよう」


ディールは少し怪訝そうな顔をしつつ承諾する。


「三万ディアルで」


条件付きだった…。


「まぁ、仕方ありませんね。先に一万五千ディアルは渡しておきます。残りはベレルに着いた時にオウカから渡させます」


「悪いな。戦争に備えてこっちも入り用でな」


「そちらの話は着いたようだな。それで、私には何の用かな?」


俺がディールにお金を渡し終えたのを見て、侯爵が話しかけてくる。


「式典はどの様な段取りで執り行われるのでしょうか?」


「そう言えば渡していなかったな。これを」


侯爵が胸元のポケットから紙を出して俺に手渡した。


【正午より式典を執り行う】


しか書いてなかった。


正直、内容より紙の外周に描かれた装飾模様の方が幅を取っていた。


「これだけですか?」


「あぁ。陛下は細かいのを嫌うからね。行けば分かるよ」


「えっ?あ、はい…」


「用件はそれだけかね?」


「えぇ。そうなんですけど、いつまで王都に居れば良いのでしょうか?」


「その点は、陛下次第だね」


「?」


「お前は久しく陛下に謁見してなかったからな…。端的に言えば、あの方は人を見る目がある」


ディールのセリフは、俺の疑問に答えているようで答えていなかった。


「どういう意味ですか?」


「要は、お前が陛下の目に適うかどうか次第だ。陛下は興味の無い者には徹底的に時間を使わない」


「では、お目に適う事もないでしょうから、直ぐに終わりますね」


「「甘いな」」


俺の答えに2人が口を揃えて否定した。


そして、侯爵が口を開く。


「君に渡した手紙を覚えているね?」


「勿論です。それがどうかしましたか?」


俺は侯爵から受け取った手紙を空間収納魔法から取り出した。


「その手紙に描かれた紋様…」


「あっ!」


俺は話の意図に気付いた。


「そう言う事だ。王家の紋様の入った書類は、この国では勅命に等しい。例え、私であっても陛下の許可無くその紋様の入った書類を作れば死罪になる」


「陛下がそれを書かれた時点で、お前に興味があると言っているようなものだ」


「そのようですね…。父上はこの手紙の事を知らなかったみたいですけど、他に理由が?」


「勘だ。こういう時のは今まで外れた事はないがな」


「嫌な勘ですね…。俺は悠悠自適に旅したいんですが…」


「お前…、今回の件でどれだけ注目されてるのか分かってないのか?」


「君はもうちょっと世間に耳を傾けた方がいいと思うよ?」


最初はディールが、追い討ちをかけるように侯爵が指摘する。


「どう言う事ですか?」


「今回の氾濫は君がほぼ鎮圧したと噂になってる。英雄と言う者までいるよ?」


「何故、そんな事に!?」


「たった三人で街を出たかと思えば、前日までの勢いが嘘だった様な状態になり、君の供が次の日から片っ端から魔物の群れを倒していく。…、私が口を出すまでも無く、勝手に話が広がっていったよ」


「お前大活躍だったそうだな」


笑いながら、ディールも乗っかる。


「おかげで…」


「ディール殿」


侯爵がディールを制止するが、俺は何を言おうとしたか分かったので、わざとその続きを言う。


「おかげで、私達の計画も進め易くなった。と?」


「ディール殿…」


侯爵は額に手を当てて俯き、大きくため息を吐いた。


「も、申し訳ありません。口が滑りました」


ディールが頬を掻きながら、バツが悪そうに侯爵に謝罪する。


「で?いい加減その計画って教えて貰えないんでしょうか…?」


正直、人に踊らされてる感が嫌なので、こっちから問いただす事にした。


「もう良くないですか?寧ろ、レイに話して協力して貰った方が、事がスムーズに進むと思いますが…」


ディールが加勢してくれたおかげで、漸く侯爵が計画の内容を教えてくれる気になったらしい。


「仕方ない。この事は仲間以外に話さないように」


「分かりました」


俺が頷くと、公爵が計画の内容を話し始めた。


「まず君には予定通り王都で式典に出てもらう。勿論、私もその式典に同席する。ディール殿にはダンジョン鎮圧という名目で、リダールとザエルカの間にあるフィルダの周辺で騎士達と別命あるまで待機。ダンジョン自体はギルドに依頼して、鎮圧間近まできている」


「父上達は、ザエルカが襲われた場合の戦力とそうならなかった場合のベレルへの強襲部隊ですか?」


「そうだ。そして、お前は王都に侯爵と共にいるという形を作ることで、陽動になってもらう。奴らが動くのに絶好の機会と思わせる必要があるからな」


「俺の役目はそれだけではないのでしょう?」


「単刀直入に言う。君は空間転移魔法を使えるね?」


「えぇ。ですが、どうして分かったんです?」


「いつの間にかここに張られた魔法もそうだが、最大の理由はこの街に着くまでの速さだよ。あの大量にいた魔物達がいなかったとしても、ここまで来るには数週間掛かる。にも関わらず、君達は僅か2日で現れた」


「何故2日だと分かるのですか?」


そう質問した所で、ディールがチラッとこちらを見た。


「なるほど…、父上ですか。恐らく、ミリーナ様と話をしたあの日、父上宛に出した手紙を受けて、侯爵に連絡したんですね」


「正解だ。そうなると、君の役割は全戦闘区域での遊撃だ」


「俺だけ荷が重過ぎませんか?しかも、陛下のお目に適った場合、動けないのでは?」


「そこはもう話が付いている。国の大事が優先だからね」


「となると、私が最初に向かうべきは、帝国が大規模な戦力を投入してくる可能性があるアルバレードですか?父上も居られませんし」


「やはりそう判断するか…。俺が直接治めているアルバレードが、そんなヤワな訳が無いだろ?お前にはリダールを潰してもらう。アルバレードの加勢はその後だ」


ディールが反論を許さないと言う明確な意思を持って、強い口調で言う。


「分かりました。リダールを早々に制圧して、アルパレードへ向かいます」


「それでいい。相手は魔物では無く人間だが、下手な情けは自分の命を縮めるぞ?お前が死ねば泣く者がいる…。忘れるなよ」


ディールがそう言った時、俺の頭にはフェリルが浮かんだ。


俺は決意を表すかの様に、グッと手を握り締めた。


「さて、明日からは大変なのだ。ゆっくり羽を伸ばすなり休むなりするといい」


侯爵がこれで話は終わりだと締め括ったので、魔法を解除して屋敷の方へと戻った。

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