第十七話 援軍の到着
フェリルとデート(?)をした日から既に5日程経っていた。
この数日間、俺とフェリルは街の散策や魔物討伐をして過ごしていたが、たまたま侯爵の部屋で王都での式典について説明を受けていた。
その途中でディールが数人の騎士を伴って侯爵の部屋に入ってくるなり、片膝をついた。
「救援要請を受けて、ディール=イスラ=エルディアこの通り馳せ参じました」
「ゔむ。堅苦しい挨拶は無しにして、こちらに座ってくれ。それと、申し訳ないが、騎士達にはこの屋敷の警備を頼みたい」
侯爵が空いていた隣の席を引いて、座るようにと指示した。
ディールが騎士たちに目配せをして、騎士達が部屋を出て行くと、ディールが侯爵に促されて侯爵の隣の席に座った。
「大変ご無沙汰しておりました」
「あぁ。ディール殿も息災の様で何よりだ」
「あれ?ロキア兄さんは一緒じゃないんです?」
ふと一緒に来ると思っていたロキア兄さんがいなかった事が気になった。
「リダールがおかしな動きを見せているんでな。念の為に置いてきた。向こうで何かあった時に指揮を取るものがいなくなっては困るからな」
「父上の耳にも(リダールの)話が入っているのですか?」
「あぁ、数年前からな。それこそ…」
ディールが続けて言おうとした所で、侯爵が割って入った。
「私が情報を渡したのだよ。有事の際は挟撃する事も想定してね。まぁ、このダンジョン氾濫騒動で、そちらへの動きはしばらく取れそうにないがね」
「そういう事だ。今、指揮を取れる者がいなくなってしまっては、一方的に攻め込まれる可能性もある。なんせ帝国と共謀して事を起こすなら、今が好機だからな」
「まさかっ!?帝国と裏で通じてるとでも言うんですか!?」
「あくまでも可能性の話だ…が、俺は当たってるんじゃ無いかと思っている」
「私も同じ考えだ」
侯爵も同意する言葉を口にすると、わずかに首肯した。
「何故ですか?」
「単独で王国と事を構える程の力が、リダールにあるとは思えん。仮にリダールのギルドがグルになっていたとしても…だ」
アルパレード近郊の村で、街の人達が疲弊している事を聞かされていた俺とフェリルには、腑に落ち無い部分があった。
「単に私腹を肥しているだけでは?」
「それならば、もっと姑息なやり方をするだろう。単に私腹を肥やしたいだけにしては、あからさま過ぎるのだよ」
俺の質問に侯爵が答えた。
「なら、何故自領の人達を疲弊させる必要があるのです?王国に仕掛けるつもりなら、自領の人間は兵士とするのでは?弱体化させては戦力不足を自ら招いている様に思うのですが…」
「リダールの住民はあくまで王国の人間だ。王国との戦争ともなれば兵士としては扱いにくい。そういった事を考えると、搾取すべき対象と考えているのか…、はたまたそんなことは関係ない何かがあるのだろう。全ては推測の域を出ないが…」
「だとしても、帝国に何の得が有るのです?」
「帝国にとって、最初に大きな障壁となる最大の強敵は誰だと思う?」
「父上でしょうね」
「その通りだ。そして、そのディール殿は今こちらにいる…」
「そして…俺の領地はリダールのカザハルと帝国に挟み込まれる形になる。つまり…」
侯爵の話にディールが続くように言う。
そして、俺はディールが何を言おうとしているのかを理解して続く様に口を開いた。
「帝国はこの作戦が成功すれば、王都を目前にしたこのザエルカに迫れると…?」
「その通りだ。対帝国という意味では、このザエルカは王国にとって最終防衛ラインだからな。仮に俺の領地が落とされたとしても、守らねばならない街なのだ」
「侯爵と父上の話の通りであれば、帝国は相応の戦力を投入してくるのでは?」
「だろうな…。恐らく、リダールにも既に帝国の者が入り込んでいると見たほうが良い…」
「ならば、アルバレードはかなり危険な状況にあるのでは?」
「あぁ…。帝国にとって、最大の敵である俺が離れていると分かれば、一気に叩きにくるだろうな」
「それが、分かっていて…。どうしてこちらへ来たんですか、父上!」
冷静な様子のディールに対して、声を荒げて問いただした。
「確かにアルバレードにとって大きな危機ではある…が、俺とお前がここにいて、ロキアが向こうにいる…。背後の憂いを絶つなら、これは絶好の機会でもある」
「母さん達はどうするのです!ベレルの高ランク冒険者もほとんどがこちらにいます。向こうが攻められたら、いつまで耐えれるんですか?!帝国が本気で攻めてくる中で背後まで!!」
「お前は強い…、強いが故に見えていないようだな…。1人では相手にならなくとも、集団の強さは1+1ではない。それに…、俺が何の準備もしていないはずがないだろ?」
「何か策があるのですか?」
「当たり前だ。…と、それでもお前は当てにしてるけどな」
そういうと、ニヤッと不敵な笑みを浮かべて俺を一瞥する。
「我々の推測通りであれば、恐らく君の式典の時に動きを見せるだろう。それはそれとして…だ。ディール殿にはレイ君が制圧したダンジョンから東にあるフィルダというダンジョンを鎮圧して貰いたい。当初はこの街周辺に押し寄せる魔物達を抑えて貰うつもりだったが、必要無くなったのでな」
そう言って、侯爵もディールと同じ様に俺を見る。
「つまり…、その策に俺も織り込み済み…ということですか…」
2人の様子から何となくそうなんだろうと感じて、思わず言葉にする。
「ところで…、私達はこの後予定通り王都に向かう。で、よろしいのですか?」
フェリルも会話を聞いていて疑問に思ったのか、口を挟んだ。
「あぁ。但し、オウカという娘は出来れば待機して貰いたい。正確にはベレルでだが…」
フェリルの疑問に侯爵が答えた。
「何故、ベレルなんです?兵はアルバレードかザエルカに集中させているのでは?」
「アルバレードは、最前線にして、此方としては死守すべき街だからこそだよ。そこに前後の敵を集中させては、潰して下さいと言ってるようなものだ。出来る限り、帝国側からの敵に専念させておきたい。あの街は籠城には向かんからな」
今度は俺の疑問にディールが答えた。
「そういう事だよ。帝国からすれば、アルバレードさえ抑えてしまえば、ベレルは落としたも同然と言えるからね。それに…」
「多少の兵力は備えてあるし、オウカの強さなら足止めも陽動も出来る…と?」
俺は大凡だが、2人が立てた策の一部を理解して口を挟んだ。
「そういう事だね。今や彼女のおかげで氾濫は我々と冒険者だけでどうにか出来る程に落ち着いた。つまり、彼女の実力はSランク冒険者をも凌駕し得るという事になる」
「…そうなのですか?Sランク冒険者の方々の中には、同じ様に出来る方もいらっしゃるのでは?」
オウカに目をつけられると後々が面倒だと思い、何とか話を逸らす為に質問をぶつけてみる。
「いないわけでは無い…が、たった1人で、しかもこの短期間でとなるとな…。Sランクの者たちでも一部しかいない。それだけでは無く…」
「持久力ですね?俺は戻って来てから、しばらく眠っていたので、詳しくは存じ上げませんが。恐らく連日かなりの数を1人で倒してたのでしょう?」
オウカと戦った俺とフェリルは分かっていたが、オウカの魔力保有量、体力共にそこらの冒険者と比較にならないくらい多い。
「その通りだ。1日で数千匹は彼女1人が討伐している。しかも、彼女に倒された魔物は影も形も残っていなかった。一体、どうやったらそんな芸当を成せるのか…」
言い終えると同時に、侯爵が扉の方を見ると扉が開く。
「むっ?私に何かようか?」
(何というタイミングの悪さ…)
額に手を当てて深く溜息を吐きながらも、口に出すのは思い止まる。
「あぁ…、ちょうどオウカの話をしていたよ。俺が眠ってる間に、随分活躍していたらしいな」
俺は頭を抱えつつも、皮肉たっぷりに答えてやった。
「何か含みを感じるな…。まぁ、良い。我が夫の事だから許してやろう。私は心が広いからな」
俺は盛大に吹き出した後、立ち上がって狼狽る。
「おいっ!お前一体何言い出すんだよ!そもそも…」
「お前人間じゃ無いだろ?!」
と言いかけたところで、不意に分かりやす過ぎるくらいに怒りを浮かべて口元をひくつかせるフェリルが視界に入った。
そして、その顔を見た俺は、言いかけた言葉を飲み込んで、黙るの一択を取るしか無くなった…。
「どういう事ですか?レ・イ?説明して下さるのですよね…?」
そんな俺の様子を座った目をして見ていたフェリルが、追撃するように俺への口撃の手を緩めない。
何とか身の潔白を証明しようと、必死に言葉を捻り出す。
「せ…説明って言われても、何にも…無いよ!何にも!!ダンジョンの時はフェリルも一緒だったよね?!大体、オウカが外で好き勝手やってる間、ずっと寝てたんだよ?!」
「ふむ…。あれは寝ておったのか…。てっきり起きておるのかと思ってたが…?」
少しうっとりした様な顔で、オウカが余計な事を口にする。
(寝てる間に何をしたんだ俺ぇぇぇー!!)
寝てたから覚えているわけも無かったが、オウカの様子を見て出鱈目を言っているわけじゃなさそうだと焦る。
ビキッ!と音がせんばかりに、怒りを浮かべるフェリルが口を開いた。
「へぇ〜、私が必死に看病している隙を盗んで…さぞ、お楽しみだったようで?」
「だから、知らないって!!寝てたんだから!!!」
俺は身振り手振りで必死に弁明する。
「あんなに熱いキスを交わしたというのにのぅ…」
うっとりした顔で赤みがかった頬に手を当てて言うオウカの横で、更に怒りを浮かべるフェリルを横目に冷や汗を浮かべる。
(この状況で追い討ちかけてくんなぁぁ!!)
内心でそんな事を思ったが、当然口にする事ができる訳もなく…、何とか吐いて出た言葉が
「もぅ、黙ってろ!!話がややこしくなる!知らないからな!俺は!」
だった。
「さて。面白いので、もう少し黙って見ていても良いのだが、私もやる事があるのでな。そろそろ仕事に戻るとしよう」
このやり取りを仕切りに笑って見ていた侯爵が、そう言って立ち上がると、側に控えさせていた使用人に部屋の扉を開けさせた。
侯爵が俺たちに退室を促すと、侯爵がディールに目配せをする。
それに気付いたディールは席を立つ事もなく、俺たちを見送る。
部屋を出て行く瞬間、侯爵が背中越しに
「ミリーナもいるし、君は人気者だな」
と要らない一言を投げてくると、フェリルとオウカで揉めていたはずが、二人の矛先がこちらに向く。
その後が大変だった…。
何時間も3人戻った部屋で必死にフェリルに弁解し、オウカを宥めて漸く収まったかと思った所で
「そもそも、オウカが人間と…なんて出来ないだろ?」
と言った俺の言葉に、納得しかけたフェリルを余所目に
「何を言う!!出来るぞ?何のために人化があると思うておる」
とか、オウカが火に油を注ぐ様な反論をしたおかげで、この状況が2、3日続く羽目になった…。




