第十一話 思わぬエンカウント
スカルウォーリアーもどきとの戦いが終わり、辺りを確認していると背後に気配を感じて振り返った。
「あらあら、終わったのね〜」
「レイ!大丈夫ですか!?」
ゆっくりと歩いてくる師が声を掛けて来た思ったら、フェリルが走ってきて心配そうな声で無事を確認する。
「大丈夫だよ。こいつ、他のに比べて大分強かったんだけど、侯爵の資料には無かったよね?」
「え、えぇ…。資料には無かった魔物ですね。貰った資料が古いのでしょうか…」
すると、師が口を挟んで来た。
「この子がこんな所にいるのがおかしいと思うわよ〜?」
「こいつが何か知ってるんですか?」
「知ってるわよ〜。これ、ヘルジェネラルウォーリアーでしょ〜?魔族の支配領域でもそこそこ奥に入らないといないはずなんだけど〜?」
俺はヘルジェネラルの大剣を回収しながら、師に物は試しと思って聞いてみることにした。
「まさか…、魔族?」
「かもね〜」
俺の問いに相変わらず緊張感の無い返事で返して来た。
「そうなるとこの氾濫…魔族が起こしたのでしょうか…?」
「まだ分からないけど、可能性はありそうだね…。それはそうと…師!さっき、俺がいるの分かってて風魔法撃ったでしょう!本当に危なかったんですから!」
大事な話の最中だったが、どうしても抗議しておきたくて話題を変える。
「だって、きったない息が来たから〜。何も無かったんだし良いじゃない?」
「全く良くありません!間一髪だったんですから!」
「分かりました〜」
「まっ、まぁまぁ…。こんな所で突っ立ってても仕方ありませんし、先を急ぎませんか?」
ブスッとした顔で大人気なく返事をされた事にイラッとしてまだ何か言おうとした所で、フェリルが俺と師の間に割って入った。
「はぁ…。先に進もう…」
俺が呆れ混じりにそう言うと、フェリルがホッとした様子を見せた。
しばらく歩いていると、大量の石化した魔物の群れがあった。
「ひょっとして、さっき師が風魔法で押し返したブレスですかね?」
「そうじゃな〜い?グランドリザードまで石化してるのは面白いけど〜」
「グランドリザードって石化耐性持ってますよね?同じグランドリザードのブレスで石化するんですか?」
不思議そうな顔をしてフェリルが訊ねて来たので答える事にした。
「ひょっとして、フェリルは師がただ跳ね返したと思ってる?」
「違うのですか?」
さっきから師が説明したそうにそわそわしているので、説明して貰うことにして黙る事にした。
「私〜、面倒くさいの嫌いなの〜。だから、押し返すついでにブレスを強くしちゃえば、奥にいる魔物も一緒に片付けられるかな〜って」
「そんな事出来るんですか?」
フェリルが半信半疑に訊ねた。
「相手は悠久の魔女だよ?僕らには簡単じゃない事でも、この人は簡単にやってのけるんだよ…」
暗に自分も出来ない事を伝えつつ合いの手を入れる事にした。
「あら〜?難しく無いわよ?」
「本当ですか!?お…」
「教えて貰うつもり…?」
俺がフェリルに恐る恐る尋ねてみると、本人は目をキラキラさせて前のめり気味に「はいっ!」と返事をした。
「いいわよ〜?フェリルちゃん適正有りそうだし〜」
ダンジョンの最下層エリアにいるとは思えないような緩い会話をしながら、石化した魔物達でひしめき合う中を進んでいく。
時々、石化を免れた魔物が石化した魔物の間から襲ってきた。
石化を免れた魔物だけあって、グレイトウルフだったり、ソードキャットという鋭い爪と牙を持つチーターみたいな素早い奴と魔法に長けた魔物ばかりだった。
俺はフェリルと相手を見て前衛と後衛を入れ替わりながら倒して行く。
「この階段を降りると最下層に繋がる扉がある階層だったよね?」
俺は倒したばかりのグレイトウルフから剥ぎ取れるものを取りながらフェリルに訊ねた。
師に頼り過ぎるのもよく無いかと思ったからだったが、どうやら自分を頼らなかったのが不満らしくむくれていた。
「え、えぇ。侯爵様から貰った資料だと、次の階層にあったはずです。開かずの扉…どうすればいいんでしょうか」
フェリルが困った顔をしながら、師を宥めつつ答えてくれる。
「あら?レイなら、精霊眼が使えるでしょ?仮の…だけど。それで、扉と仕掛けの魔力の繋がりを見ればいいじゃな〜い?」
わざとフェリルの師に訊ねる様な言い方に食いついて、説明してくれる。
「侯爵の屋敷で俺なら出来るって言ったのは、そう言うことだったんですね」
「そうよ〜。こういう扉は来るたびに仕掛けが変わってたりするから、魔力の繋がりを視える者が居なければ、解除方法なんて永遠に気付けないもの〜」
そんな話をしながら降りて行くと、真っ暗な空間が広がっていた。
今までずっと灯りが有ったのに、何故か灯りが無かった。
俺は灯りをつける前に感知魔法で周辺の魔物の状況を調べる事にしたが、どうやら魔法発動が阻害されているらしく上手く発動しなかった。
「何となく魔物がいるみたいだけど、よく分からないね…」
「感知魔法を使ったのではありませんか?」
俺の発言にフェリルが疑問形で返してくる。
「どうも上手く発動しなくて、ぼんやりとしか分からないんだよね…。こうなってくると、マッピングもダメかも…」
「フロア全体に知覚系魔法を阻害する仕掛けが施されてるのでしょうか…?」
「そうかもしれない。ひょっとすると、全ての魔法がうまく発動しない可能性も…」
「それは無いと思うわよ〜?魔法の基本構築式は属性によって違うもの〜。そんな高度な阻害結界を若いダンジョンが出来る訳ないわ〜。という事で、灯りつけたら〜?」
「そういう物ですか?まぁ、見えないとどうにもなりませんし、やってみましょうか…」
師の指示に従ってトーチの魔法を使ってみた。
俺らの周りを複数のトーチが浮かび上がって、辺りを明るくする。
「?!」
急に違和感を感じて、辺りをキョロキョロした。
「どうかしましたか?」
フェリルが俺の挙動を不審に思って、心配そうに訊ねて来た。
「多分だけど〜、私がトーチの制御権を奪ったからじゃな〜い?」
師があっけらかんとした様子で答えた。
「紛らわしいことしないで下さい…。魔物の仕業かと思いましたよ…」
「だって、このエリアから物凄い気配するから〜。トーチに気なんて配ってられないでしょ〜」
「いや、まぁそうなんですけど…。とりあえず、進みましょうか。フェリルは師の側を離れないでね?多分、これまでのやつらとは桁違いのが居るから」
「分かりました」と、フェリルの返事を聞いてダンジョンを進んで行く。
幸いなことに一本道で、これまではトラップがあったりしたが、何故かトラップも無さそうだった。
というか有ったら、これまでみたいに師が面倒くさい物には蓋と言わんばかりに力技でトラップを潰していくのに、何にも動きを見せないので無いのだろうと判断していた。
しばらく歩いていると、大きな部屋に出てきた。
(…どうも灯りが少ないせいで、部屋が良く分からないな…。それに…、何か大きなのがいるような…)
気配に警戒していると、急に何かがを振り下ろされた。
俺は右に飛んで避けたが、師はフェリルを抱えて左に避けた。
直後、俺たちがいた辺りを、何かが地面に叩きつけられたのか轟音が鳴り響いた。
師は俺から奪ったトーチに更に倍以上のトーチを加えて、部屋の至る所に配置した。
(ようやく部屋全体が明るくなった)
と思った所で、ようやく俺は目の前にいるモノを見て驚いた。
「何で…、こんな所にドラゴンが…?!」
(いや、ドラゴンにしては蛇っぽい様な…)
たしか、侯爵の資料にはドラゴンの事は載っていなかった。
つまり、後から住み着いたのか、ここから誰一人として出られなかったのかのどちらかになるが…。
(後から住み着いたのか…)
侯爵の資料にあった扉の事はあったが、その先の事が書かれていなかった事を思い出して、そう結論付けた。
「あら〜、珍しい子がいるわね〜」
師が、全く緊張感の無いセリフを吐いている側でフェリルは言葉を失っていた。
【お主ら…。こんな所まで何をしに来た…】
(話せるのか…!?)
俺は魔物が喋った事に驚きつつ、闘わなくても済むんじゃ無いかと淡い期待を寄せた。
「俺たちはダンジョンの氾濫を止めに来ただけだ!どうか先に行かせてくれ!」
俺は戦闘の意志が無いことをアピールしながら説得を試みる。
【そうか…。だが、出来ぬ相談だ。我はこのダンジョンが気に入っておる。氾濫が収まれば、この心地よい魔力も霧散する。故に、おぬしの言い分は聞けぬ!】
「どうしてもですか?」
【どうしてもだ。通りたいのであれば、我を退けてみせよ!】
「なら、力づくで退いてもらう!」
俺は一閃を抜刀し、ドラゴンに向かって駆ける。
突如、ドラゴンの身体から吹き出した煙がドラゴン全体を覆う。
攻撃が来るのか、それとも目眩しかと、立ち止まって防御姿勢を取る。
しばらくして煙が収まると、長身で長い緑の髪をした絶世の美女と言っても差し支え無い女性が現れた。
「我の名は、オウカ。せいぜい楽しませてくれよ?」
俺がその場で呆気にとられていると、オウカと名乗った女性が構えたまま口を開いた。
「何だ?来ぬのか?それとも、人化を見たのは初めてか?」
「ええ。まさか、人になるとは思いも寄らなかったもので」
「そうか!素直な奴よの!」
ケラケラ笑う女性を見て、その綺麗な姿に似合わず豪快な笑いがミスマッチに見えた。
「レイちゃん、代わってあげようか〜?その子、強いわよ〜?」
目の前の女性から発せられる強烈な威圧をモノともせず、相変わらずのんびりした声で師が話しかけてくる。
「ん?そなたが相手をしてくれるのか?」
「いえ!ここは俺とフェリルでやります!!万が一の時は、フェリルを頼みます!」
「は〜い」という師の声が返ってくると、師の側に居たフェリルが持っていた杖を構えた。
「あの者と共に闘った方が、おぬしには有利だと思うが?我を侮っているのか、はたまた無謀な勇気か…」
「フェリル!」
俺がフェリルに向かって叫ぶと、フェリルはすかさず水属性魔法の詠唱に入った。
俺は出来るだけ魔力を込めて、身体強化魔法を発動する。
「ほぉ〜?ただの小僧かと思うたが面白い!」
言い終わるか否かのタイミングで、フェリルがアイシクルランスをオウカに向かって放つ。
「避けるまでもない!!」
オウカが右手をかざすと何かに当たって弾けた。
一方で、俺もアイシクルランスの発動に合わせて一閃で斬りかかった。
…が、俺の一閃はオウカが左手で軽々と受け止められてしまう。
「レイっ!!」
フェリルが叫んだ時には、オウカが受け止めた左手で一閃を掴み、壁に向かって俺ごと投げ飛ばす。
俺は壁に激突する寸前で、防御魔法ティアードを発動した。
(危なかった…。軽く投げられただけなのに、間に合わなかったら、一発で戦闘不能だったな…)
崩れた壁の瓦礫を退けながら出てくると、オウカがこちらを見ながら不敵な笑みを浮かべる。
「面白いな!そこいらの者どもはさっきのだけで死んでいきおったぞ!」
今まで気付かなかったが、このドラゴンに倒された者たちと思しき人骨があちこちに散乱していた。
「今度はこちらから…行くぞ?」
そう言って両手を広げると、オウカがとんでも無い量の魔力を全身から放出する。
俺と師はアルマティアで、フェリルはティアードで防御する。
放出された魔力にアルマティアが消し飛ばされそうになるのを堪えていると、魔力放出を止めた直後に突っ込んで来ていたオウカが、防御結界ごと俺を殴り飛ばした。
一方のフェリルは、ティアードがオウカの魔力放出で消し飛ばされる寸前に、師が掴まえて自分の防御魔法の内側に引き摺り込んでいた。
「フェリルちゃん?出し惜しみしてると死んじゃうわよ?ルミニスちゃん呼んだ方が良いわよ〜?」
フェリルが悔しそうな顔を隠すことも出来ずに、アリアルデを見返した。
今の自分ではレイの邪魔になる…それは分かっていた。
だが、フェリルはルミニスを呼ぶ事にあまり前向きにはなれ無かった…。
昔は良く呼び出していたが、ある事をきっかけにトラウマになって呼ぶ事に躊躇してしまう。
「ここで意地を見せれ無かったら、一生レイの足手纏いになるわよ!」
いつもの間延びした調子では無く、真面目な口調で怒鳴るアリアルデにフェリルが思わず肩をビクッと震わした。
「いいの?あなたが臆病だったせいで、レイが負けちゃっても」
アリアルデは焚き付ける様にわざと煽る。
「いいの?あなたのせいでレイが死んでも」
アリアルデの言葉を聞き、泣いて肩を震わせながらジッとその場で立ち尽くすフェリルが漸く言葉発する。
「ア、アリアルデ様が助力して下されば…」
弱々しい目をして、涙を流すフェリルが縋るようにアリアルデを見る。
「バカは休み休み言いなさい?これは、あなた達が引き受けた仕事なのよ?厳しい事を言うけど、あなたが今のままでいたいなら、レイはこの戦いで死ぬかも知れないし、勝てたとしても…あなたは邪魔なの」
アリアルデが冷たい目でフェリルをしばらく見つめていたが、いっこうに動きだす気配がなかった。
(ここまでかしらね…)
アリアルデは動こうとしないフェリルに見切りをつけて、レイに加勢しようと考え始めていた。
「良いわ。あの子に今死なれるのは困るから、私が助けてあげる。その代わりあなたが二度とレイの側にいることを許しません」
最後通告としてそう言って、レイの加勢に向かおうとすると、フェリルが左手で遮った。
「い、いやです。レイの側にいたいです…」
「今のあなたは邪魔なのよ。そして、これからも…。黙って、そこで見てなさい?」
「嫌です!!私はレイの側にい続けます!!」
目に溜まっていた涙を右手で拭うと、フェリルがさっき迄とは違って力強い目でアリアルデを見返す。
「そう?なら、呼びなさい?あなたの精霊を…」
「おいで、ルミニス!!」
ルミニスを呼び出すと、フェリルは身体強化魔法を掛けて勢いよく飛び出していった。
「やれやれ…手のかかる子ね〜。頑張ってね…」
飛び出していったフェリルの背中を見ながら、アリアルデが誰に聞こえるでもない声援を送る。




