第十話 いざ、ダンジョンへ
「よし!師の所にいこうか」
「ええ。グズグズしていられません」
用意されたマナポーションを2人がかりで空間収納魔法に放り込んだ俺たちは、街の南側の門へ向かった。
「2人とも心の準備はできた〜?」
先に門にいた師が、俺たちを見つけるなりのんびりした様子で声を掛けてきた。
「いいですよ。そこの方、門を開けてもらえませんか?」
開門レバーの側に立っていた衛兵に開けるようにお願いする。
「い…いや、ですが…外には大量の魔物が…」
困惑した表情を浮かべて、開門を躊躇う衛兵に更に畳み掛けた。
「早く!魔物はこの街に一歩たりとも入れませんから、開けて下さい!」
俺の気迫に気圧された衛兵が開門レバーを下げたのを見て、フェリルの手を握ると、開門と同時に外に出た。
「すぐに門を閉めてください!」
俺たちに向かって一斉に突っ込んでくる無数の魔物達を見据えたまま、衛兵に向けて叫ぶと一閃を構えた。
その時には既に、師が手を前に翳して何かを詠唱していた。
その様子を見て、フェリルも入るように防御魔法で防御態勢をとる。
「あら、大勢いるわね〜。でも〜、畜生ども如きが私に向かってくるなんて…百年早いわよ?」
師の話し方が、いつもの様にのんびりした声から次第にゾッとするような暗く、重く、妖艶な声に変わる。
直後、師の正面に現れた5本の風の刃が、猛スピードで地面を抉り取りながら無数の魔物達に襲いかかる。
それと同時に、抉り取られた地面に沿って無数の大きな氷柱が現れる。
『グアアア…』
正面にいた大量の魔物達が断末魔を挙げ、荒れ狂う風の刃に切り刻まれ、氷柱に貫かれていく。
「さようなら…」
師が次々と死んでいく大量の魔物達に向かって突き出した手をグッと握ると、風の刃はドーム状に拡がり、氷柱は敵に向かって襲いかかる氷の礫と化した。
「容赦無いな…」
「こ、これは…とんでもない威力ですね」
風の刃と氷の礫が魔物達を蹂躙している目の前の光景に防御魔法の中で二人揃って青い顔をする。
「ざっとこんなもの〜?」
魔物達を喰らい尽くした魔法が霧散すると、スッキリした顔の師が振り返って、こちらを見るなりのんびりした声で尋ねてくる。
「こんなもの〜?じゃ、ありませんよ…。どう見てもやり過ぎですよ」
ボロボロになった防壁やら原形を留めていない大量の魔物の死体を見て、防御魔法を解除する。
「これでも、ずいぶん手加減したのよ〜?」
「手加減したのよ〜。じゃないですよ…」
「…。これが、レイのお師匠様の力ですか。レイも大概ですが…」
「ありがとう〜。でも、これくらいならフェリルちゃんも出来る様になるわよ〜?」
「今度、教えて下さい!」
「良いわよ〜?」
師が嬉しそうな顔をして了承する。
「そんな事より、早く行きましょうよ」
嬉しそうな師に呆れ混じりに話かけると、三人で魔物の大群がいた場所を歩き始めた。
「今のでどれくらいの魔物が減ったのでしょうか?」
フェリルが辺りの魔物の死体を見ながら、師に話しかけた。
「さぁ?ダンジョンまでの道を作っただけだからなんとも言えないけど、2万位は減ったんじゃな〜い?」
「何か…もう、アリアルデ様とレイでこの氾濫どうにか出来るような気がして来ました…」
「出来るけど〜、私の役目はここまで〜。あなたたちが引き受けたんだから、自分達の力で何とかしないと〜。それに、この程度で駄目ならこの先困るわよ〜?」
「?」
俺は最後の部分を不審に思ったが、どうせ聞いても教えてくれないので聞かない事にした。
(これから何かあるのか?まぁ、昔から変な事を言う人だったけど…)
「何か失礼な事思ってない?」
フェリルと話をしていた師が、急にこちらを振り返って言ったのでドキッとした。
「お…思ってませんよ…」
疑いの目でジッと見てくる師の様子を見て、無理矢理話題を変える事にした。
「と、ところで、これ以上力を貸してくれないのなら、師は何をするんです?」
「とりあえず、付いて行くわ〜。フェリルちゃんが危なくなったら、助けてあげる〜。レイは自分で何とかしてね」
「構いませんよ。フェリルを守ってくれるだけで十分です」
「わ、私は、大丈夫です!自分で何とか出来ます!」
自分だけ守って貰うことに抵抗があるのか、フェリルが反発する。
「無理は駄目よ〜?それに、本当に危ないと思った時しか手を出さないし〜」
フッと足を止め、間延びする様な声のトーンではあったが、異論を認めないという目をした師がフェリルを見つめる。
「分かりました…」
根負けしたフェリルが力無く頷いたのを確認して、再び歩き始めた。
魔物の死骸の向こうから時折り襲いかかってくる魔物を討伐しつつ、師 の道案内の下でニ時間ほど歩いた頃、ダンジョンの入り口に辿り着いた。
「ここが入り口よ〜?」
「何で疑問形なんですか…と言うか、これ…やばいですよね」
「私…これ程の魔力感じた事がありません…」
ダンジョンの入り口から漏れ出てくる異常な濃さの魔力を感じ、思わず二人とも言葉を漏らす。
「大丈夫じゃない?早く入りましょう〜」
一人スタスタと中に入って行く師を、慌てて追いかけた。
………
師を先頭にダンジョンをしばらく歩いていたが、氾濫しているダンジョンとは思えないくらい魔物がいなかった。
「五階層まで来ましたけど、魔物が全然居ませんね…」
「ダンジョンも魔物だし〜。私の魔法を魔物を使って防いだんじゃ無い?」
「えっ?ダンジョンってモンスター何ですか?!」
フェリルが驚いて訊ねた。
「知らなかったの〜?」
「初耳ですよ。師はいつここに来たんです?」
「前来た時とさほど変わってないから、五年前位じゃない?」
「ダンジョンって変化するんですか?!」
フェリルがまたも驚いた様子を見せる。
「するわよ〜?成長するもの〜」
少し考え事をする様な素振りをしつつ、フェリルが続けて訊ねる。
「ダンジョンはどうやって成長に必要な栄養を吸収するんですか?」
「侵入者から魔力を吸うのよ〜」
「あれ?そうなると、俺たちが入って来たのって良くないんじゃ…」
「気にするほどじゃ無いわよ〜?あからさまな量を取ってたら、魔物ですよ〜って言ってる様なものだし〜」
「アリアルデ様がここを訪れたのが五年前…。ここのダンジョンが見つかったのも五年前…」
何やらぼそぼそ呟くフェリルを他所に、俺は俺で聞いてみることにする。
「まさか、師が作ったんじゃないでしょうね…」
「魔女って呼ばれてるからって、そんな事まで出来るわけないじゃな〜い。たまたま見つけたから、散歩しただけよ〜?」
「本当ですか?」
俺は隠す様子も無く、師に疑いの目を向ける。
「教え子に疑われるなんて悲しい〜」
「ですが、何故周りのダンジョンに比べてこのダンジョンが高ランクになったのか分かりましたね」
フェリルが答えに行き着いたのか、考える仕草を止めた。
「どういう事?」
「私の魔力で成長したかもね〜。その後は、冒険者の魔力でも吸って維持してたんじゃな〜い?」
フェリルが答える前に、師が答えた。
「恐らくそうだと思います」
「じゃぁ、今回俺たちが入って来た事で、また成長するんじゃ…」
「そんな急に成長しないわよ〜?でも、まぁこんな所で油売ってたら、せっかく減った魔物が元に戻っちゃうし〜。少し急ぎましょうか」
「レイ、フェリルちゃん、おいで〜」
とか言いながら、師が俺達に向かって手招きする。
俺とフェリルが言われた通りに師の服を掴むと、目の前の景色が変化する。
「やっぱり〜。ほとんど中が変わってないから、ここもそうかなと思ったのよね〜」
「えっ?ここ何階層ですか?!っていうか、あちこちに魔物の反応が凄い数いるんですけど?!」
二人して驚いていたが、フェリルより先に俺が声を上げた。
「ここ〜?多分、65階層目じゃ無い?2つ下が最下層だと思うけど〜」
「と、大量の魔物がこっちに向かって来てますね…」
「レインフォース!」
俺は身体強化魔法を発動して、腰に下げていた一閃を抜く。
グレイトウルフ、グランドリザード、ゴブリンマージといった高ランクモンスターがわらわら向かって来るのが見えた。
俺はその群れに向かって一足飛びで突っ込んだ。
「わっ、私も!」と言って、身体強化魔法を発動しようとしたフェリルに師が肩を叩いて止める。
「あんな燃費の悪い魔法使わない方が良いわよ〜?それより、後ろに向かってガイアストームを撃ってくれない?」
「えっ?あっ、はい!」
大小様々な石と岩が渦を作り、物凄い勢いで後方にいるであろう魔物に向かって飛んでいく。
「ガイアストームってこんな威力出ましたっけ?」
言いながらアリアルデの方を見ると、肩に何かがいるのに気づいた。
「あれ?アリアルデ様、その肩にいるの…」
「分かる〜?私の契約精霊のノームちゃん。でも〜、あなたも契約精霊いるわよね〜?」
驚いたフェリルが、思わずアリアルデを見る。
「ど…どうして分かったんですか?」
「あら〜?精霊使いにして、魔女と呼ばれる私が気付かない訳ないじゃない?どの子〜?」
「ルミニスです」
「ずいぶん珍しい子と契約したわね〜。面白いわ〜。王都に来たら、他の子達に会わせてあげる〜」
「お願いします!って、こんな話してて良いんですか?後ろの魔物達は…?」
「大丈夫よ〜。ノームちゃんに力を借りたガイアストームならその辺の雑魚じゃぁ耐えられないから〜」
「と、何か来たから風で押し返しましょう〜。サイクロ〜ン」
相変わらずのんびりした調子で前方に暴風を放ち、何かを吹き飛ばす。
一方俺はと言うと…
グランドリザードとグレイウルフの上位種のグレイトウルフ、ゴブリンメイジの上位種のゴブリンマージ…。それと、よく分からない鎧を着た大きなスカルウォーリアーみたいなのと相対していた。
(グランドリザードは、石化効果のあるブレスに気を付ければ大した事無いし、グレイトウルフとゴブリンマージもまぁどうとでもなる…。問題はこいつか…)
俺はスカルウォーリアーみたいなのを一瞥する。
「さて、こんな狭い所で襲ってくる方が悪いんだし…」
そしてエアロブレードを発動して前方に6本の風の刃を放った。
グレイトウルフはその身軽さを活かす事なく、風の刃に切り裂かれて絶命したが、グランドリザードとゴブリンマージは耐えていた。
チラッとスカルウォーリアーみたいなのを見てみると、持っていた大剣で受け切ったらしく無傷だった。
「面倒だなぁ…、こいつ一体何なんだろう…。とりあえず、グランドリザードからだな」
俺は一閃に氷の魔力を走らせると、そのままグランドリザード目掛けて駆け抜けた。
途中、振り下ろされた大剣を避け、グランドリザードに迫ると、グランドリザードが対抗する様に石化のブレスを吐き出して来た。
(あぶなっ!)
俺は防御魔法でグランドリザードのブレスを防ぐと、頭上から氷の魔力を纏った一閃を突き刺した。
脳天に一閃が突き刺さると、グランドリザードが突き刺さった部分から凍り付いた。
「ッ!」
グランドリザードを倒して少し気を抜いていると、急にエアロブレードが飛んで来た。
一閃の柄に付いていた紐を引いて一閃を引き抜いて柄を掴むと、バク転してグランドリザードから離れる形で回避した。
(奥にも結構な数がいるな…。とにかく目の前の奴を何とかしないと!)
背後に更に多くの魔物の気配を感じていたが、目の前のスカルウォーリアーもどき目掛けて地面を蹴って飛んだ。
と、同時に暴風が後方から物凄い勢いで襲ってきた。
「ちょっ!やばっ!」
俺は振り返って大急ぎでティアードを発動し、刀の峰に腕を当てて支える様に防御態勢を取る。
暴風は俺ごと吹き飛ばそうとしながら駆け抜けて行く。
(この魔法…絶対、師だな…)
俺は後で恨み言を言う決意をして周りを見ると、何故か動かない魔物達の中にスカルウォーリアーもどきがいた。
(こいつ…さっきのを耐えたのか…。あれ?ゴブリンマージはどこにいった…?)
ゴブリンマージの行方を探して視線を彷徨わせていると、スカルウォーリアーもどきがこちらに気付いて真っ直ぐ向かってくる。
振り下ろされた大剣を一足跳びで後退して躱し、間合いを取ってエアロバレットを発動する。
「さて…どう攻めようかな…」
空中に十発の空気の弾を浮かべた後、剣を構えて相対していると向こうが先に間合いを詰めて来た。
「おいおいっ!ずいぶんせっかちな奴だ!な!」
俺は相手が振り下ろした大剣を一閃で受け流すと、浮かせていたエアロバレットを3発飛ばして牽制し、逆袈裟に一閃を振り上げた。
向こうは俺に受け流されて地面に突き刺さった大剣を引き抜くと、すぐさま横薙ぎに振ってエアロバレット2つを切り裂いた。
が、飛ばした内の一つが命中して怯んだ所を一閃で相手の右肩に付いていた鎧をかち割った。
(浅かったか…)
俺は再度間合いを取るために後ろに飛び、着地と同時に残り7発を全て相手目掛けて飛ばす。
『オオオオー!』
相手が雄叫びを上げたのに合わせて、最後の一つを飛ばした。
「おいおいっ!俺の魔法に少しは怯んでくれよ…っと!」
エアロバレットを全て剣で切り裂いて防ぎながら突っ込んでくるスカルウォーリアーもどきに、氷の魔力を纏っていた一閃の剣撃を飛ばす。
『オオ…』
さすがに最後の氷の剣撃は防げなかったのか直撃し、左半身が氷漬けになった。
この隙を逃すまいと、身体強化魔法を強めにかけ直し、聖属性の魔力を一閃に流しながら一気に距離を詰めるように飛び込んだ。
まだ動く右半身で振り下ろした大剣を間一髪の所で右に飛んで避け、右から左へと壁を蹴って移動する。
「ホーリースラッシュ!」
聖属性の魔力で神々しく光る一閃で凍ってる左半身から横一線に切り裂く。
呻き声を上げて消えていく魔物を一瞥すると、俺は刀を一回転させて納刀した。




