俺の妹にとんでもない誤解をされてるのかもしれない
「おいミーリ、それってどういうことだ?」
この世界全てに影響を及ぼす? 生まれてきてからずっと妹でずっと俺にくっついてきていた氷華が? 一体どういうことだ。
「まぁそんなに難しく考えないでもいいんだけどね」
「今日まで妹だった氷華がそんなふうに言われていたら気にもなるだろ、詳しく教えてくれ」
「この世界には魔法を使える人間がいるの、もちろん人間以外にも魔法を使えるやつらはいるけどね」
魔法だと? ここにはそんな非現実的なものが存在するのか。
やはり異世界に転移できるという話は本当だったらしい、あまり状況は飲み込めていないが成功していることには安心しよう。
「それであの子は恐らく氷や温度を全部操れる、制御できるかは知らないけどね」
「氷や温度を操れるだけだろ? 一体どうなるっていうんだ」
氷や温度を操れるだけなら世界全てに影響を及ぼすなんてことはないはずだ。
それにこの世界に氷華以外に魔法を使える人間などがいる世界だとしたらこのぐらいのことは当たり前じゃないのか?
「問題は氷華が全くその能力の調節ができないってこと」
「調整できないとどうなるんだ?」
「具体的になにが起こるのかは分からないけど、氷華をあそこに寝かせてからはすごく暑くなってるよ」
話や考えることに集中していたせいで気づいてはいなかったが額をぬぐってみるとものすごい汗に気がついた。
「つまりはこういうこと、あの子の能力がなんかをきっかけに暴走しはじめたら世界全てが凍っちゃうかもね」
そこで世界全てに影響を及ぼすという言葉の理由に気がついた。
もし氷華の能力が暴走したとしたら温度の調整が一気に下がる、それにミーリが言うなら力が強すぎて想像もつかないレベルになっているらしい。
俺らが住んでいた国ですら少し雪が降るだけで大参事になる場所だってある、それを考えるとこの事実がそれだけ危険なものなのか想像は容易いものだった。
「一体どうすればいいんだ・・・」
「その点トーヤはウチに出会えてラッキーだったね」
そういいながら氷華に近づくミーリの背中を追いかけた。
そしてひとしきり寝顔を見た後ミーリはおもむろに顔を近づけて氷華を唇を重ねはじめた。
「なっ・・・」
気づいたころにはもう遅い、そこにはなんとも言えないような重い空気が流れていた。
(俺ですらキスなんてしたことないのに・・・)
「なになに、キスしてるウチらを見て羨ましく思っちゃった?」
「ぜ、全然羨ましくなんてねーよ」
「それにこのキスはすごく意味のあることなんだよ」
そう言ってからミーリはこのキスについての説明を始めた。
「ウチらの能力はエナジードレイン、正確にはそれだけじゃないけどね」
「えなじーどれいん? 一体それといまのキスになんの関係があるって言うんだ?」
「まぁまぁそう急がないで、落ち着いて話を聞いてね」
「ウチらの種族はいわゆるエルフみたいなもので封印とか化け物たちを収めることを生業にしていたの」
「それに必要だったのがエナジードレイン、子供のころにみんな教わる基礎的な技だよ」
要するにエナジードレインというのは相手の力を奪うようなことができるようだった。
「それに子供のころに教わるって、そんな簡単にできるもんなのか?」
「できる子はやり方を本で見るだけでできるし、できない子はできるまでずっとやらされ続けるよ」
この世界には本も存在するらしい。
入ってきたときに見えていた棚のような場所に目をやると話しの通り何冊かの本が埃をかぶっていた。
魔導書のようなものなのだろうか、読めばできるようになるやつがいたことを考えると俺にもできるのかもしれないな。
「なぁ、俺らみたいな人間でも読めば理解できたりするものなのか?」
「ウチは人間と触れ合ったりしたことがないから分からないけど、人間が読める言語ではあるはずだから一度読んでみたらいいんじゃない?」
そういったミーリは一冊の本を埃を落としてから俺に差し出した。
「ありがとう」とお礼を言ってからその本のページをパラパラと読み始めた。
エナジードレインについて。
エナジードレインとは相手の魔力の吸収、生命活動の低下、魔法の奪取などを目的に利用するものである。
自分の力を超える魔力の吸収などは絶対にできない。
この力を使うには対象となる相手の粘膜を狙って行わなければならない。
人間、エルフ、神なら口内、竜なら爪、ネクロマンスなら腕に自分の唇を触れさせて意識を全てそこに集中させる。
「こんなことで本当にできるようになるのか?」
重要項目を読み終えると本を閉じてミーリに声をかけた。
「できると思うよ、なんならウチで確かめてみる?」
そういってミーリは唇を俺の顔の近くまで寄せてきた。
「確かめてみてもいいかもしれないな」
一言つぶやくと俺は近づいてきていた顔を強引に自分と向き合わせた。
「えっと、ちょっと待って? いまのはただの挑発で本気で言ったつもりじゃ・・・」
ミーリがなにか言っているが気にしなくていいだろう、俺を挑発させて怒らせるからいけないんだからな。
えっと、エルフなら口内だから唇を重ね合わせてっと。
「んっ...はぅ...」
そうして本に書いてあることを意識していた俺は全く気が付くことができなかった、ミーリの背後からくる大きな怒りのオーラを放つ存在に。
小さな身体、可愛らしい目、透き通った髪、見間違うはずのない見知った影がキスをしている俺ら二人に迫ってくる。
「兄様っ! なにをしているのですか!」
「ひょ、氷華!? いつのまに目を覚めしてたんだ」
「ついさっきです、それよりも兄様はいま一体なにをしていたんですか」
「魔法を使う練習をしてたんだぞ、なぁミーリ?」
「トーヤ、はじめてなのにすごい上手かったんだよ!」
「おいミーリ、誤解を招くような発言をやめろ」
なんだよはじめてなのにすごい上手かったって、俺たちがなんかエロいことでもしていたみたいじゃないか。
「兄様がこんなに可愛い女の子と接吻を・・・」
「だから違うんだってば氷華、信じてくれよっ!!」
「だけど兄様はそういうことするにはまだ早い年齢ですよね?」
だめだこれは、ここでなにを言ってもきっと氷華の怒りを買ってしまう。
でもここで言い訳を続けないときっと長い長いお説教タイムが始まってしまうのでどうにかしなければ。
「ホントに違うんだって!!」
「二人ともそこに正座してください!!!!」
これはきっと大好きな妹に今日殺されてしまうかもしれない、せっかく異世界にきて仲良く裕福な暮らしができるかもしれないって信じてたのにな。
まぁ俺は氷華の怒りに任せた攻撃で殺されるのなら本望だよ。