カレーなアタシ
アタシ、彼が大好き。
だから、アタシと彼はいつもひとつでいたいの。
でも、「これがそう!」って思ったこと、一度もない。彼には何度も抱かれたけど……そういうこと、小説じゃ「一つになる」って表現するけど……
何だか違う。
彼の大好物はカレー。
カレーライスにカレーうどん、カレー味のジャンクフード……何でもカレー味がお気に入りなんだ。
昨日も彼と、カレー味のカップヌードルを食べた。
だって、二人ともバイトとレポートでクタクタ。料理する気にならなかったんだもん。
今朝、バイトに行く途中、「朝っぱらから、どこの家がカレー作ってんだろう」と思っていたら、バイト先の友達に「あんたからカレーの匂いがするよ」と言われた。
ホントだ――
アタシの胸元から、ほんのりたちのぼって鼻をくすぐる、スパイシーなあの香り。
バイトが終わって家に帰る頃には、もう消えてると思っていたのに……何だかどんどん強くなる。
ワンルームマンションの鍵を開け、玄関を上がったとたん、何だか体を動かすのがもどかしくなって、座り込んでしまった。
アタシ、このままカレーになっちゃうのかな。
きっと、昨日食べたカレーヌードルになるんだ。
彼がアタシの中にお湯を注ぐ。アタシ、彼の好きなちょっぴり辛口スープで、麺は固め。具も多目。食べ頃のアタシを、彼はズズッとすするのね。
アタシは彼に噛み砕かれて、彼の中に吸収されるの。
彼の血管を、溶けたアタシはひたすら駆け巡る。細菌、ウイルス……侵略者を発見したら、ミクロなアタシに実体化して、白血球と一緒に戦うの。
アタシ、彼を守る愛の戦士――これ、一つになってるって感じじゃん。
アタシは、幸せの瞬間を夢見てここで待ってる。
ずっと待ってる――
ガチャッと鍵の開く音がした。アタシ、どのくらいここにいたんだろう。
やっぱり彼だ――彼はいつも、合鍵で入ってくるの。
「ユキ!ユキ……あれ、いないのかぁ」
ちょっと間延びした優しい声が、くすぐったい。
「バイトないっつってたのに――おっと!」
彼の手が、アタシを掴み上げる。
「何でこんな所にカップ麺があんだよ」
彼の目が、じっとアタシをみてる。恥ずかしい。
「お、新発売かな。カレーヌードルじゃん!これ食って待つか」
彼の大きな手に抱かれて、アタシは部屋に連れていかれる。
彼がアタシをテーブルに置き、ポットの再沸騰ボタンをポチッと押した。
あぁ、早くアタシをた・べ・て!
<了>
うちの職場の、受付嬢に捧げます。